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第82回アカデミー賞ノミネート発表 [映画賞・映画祭]

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◆◆作品賞・Best motion picture of the year◆◆
『アバター』
『しあわせの隠れ場所』
『第9地区』
『17歳の肖像』
『ハート・ロッカー』
『イングロリアス・バスターズ』
『プレシャス』
『A Serious Man(原題)』
『カールじいさんの空飛ぶ家』
『マイレージ、マイライフ』
今年はノミネートが10作品です。普通なら入らないであろう作品がノミネートされているのが面白いです。毎年10作品ノミネートされると、結構予想外の結果となりますね。予想は「アバター」か「ハート・ロッカー」です。かつて夫婦だったキャメロンとビグローが争うのは面白いですね。

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◆◆監督賞・Achievement in directing◆◆
ジェームズ・キャメロン『アバター』
キャスリン・ビグロー『ハート・ロッカー』
クエンティン・タランティーノ『イングロリアス・バスターズ』
リー・ダニエルズ『プレシャス』
ジェイソン・ライトマン『マイレージ、マイライフ』
監督賞は、誰がとってもおかしくないです。それぞれが非常にレベルの高い演出をしました。ここでもキャメロン vs ビグローの対決が気になります。二人は仲がよいそうなので、どちらかが取ると、何かハプニングがありそうですね。

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◆◆主演男優賞・Performance by an actor in a leading role◆◆
ジェフ・ブリッジス『Crazy Heart(原題)』
ジョージ・クルーニー『マイレージ、マイライフ』
コリン・ファース『A Single Man』
モーガン・フリーマン『インビクタス/負けざる者たち』
ジェレミー・レナー『ハート・ロッカー』
マンデラ役を見事に演じたフリーマンに取って欲しいですが、ジェレミー・レナーあたりが有力なのではないでしょうか。世の女性はクルーニーを応援しているようです。

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◆◆主演女優賞・Performance by an actress in a leading role◆◆
サンドラ・ブロック『しあわせの隠れ場所』
ヘレン・ミレン『The Last Station(原題)』
キャリー・マリガン『17歳の肖像』
ガボリー・シディベ『プレシャス』
メリル・ストリープ『ジュリー&ジュリア』
ゴールデン・グローブ賞を受賞したサンドラ・ブロックが取るか、メリル・ストリープがまたまた受賞となるのか?とても興味がある賞です。

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◆◆助演男優賞・Performance by an actor in a supporting role◆◆
マット・デイモン『インビクタス/負けざる者たち』
ウディ・ハレルソン『The Messenger(原題)』
クリストファー・プラマー『The Last Station(原題)』
スタンリー・トゥッチ『ラブリーボーン』
クリストフ・ヴァルツ『イングロリアス・バスターズ』
マット・デイモンも良かったですが、やはりクリストフ・ヴァルツでしょう。詳しくは私のブログで!

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◆◆助演女優賞・Performance by an actress in a supporting role◆◆
ペネロペ・クルス『ナイン』
ベラ・ファーミガ『マイレージ、マイライフ』
マギー・ギレンホール『Crazy Heart(原題)』
アナ・ケンドリック『マイレージ、マイライフ』
モニーク『プレシャス』
誰がとってもいいですね。個人的にはマギー・ギレンホールに取って欲しいです。

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◆◆優秀アニメ作品・Best animated feature film of the year◆◆
『コララインとボタンの魔女 3D』
『Fantastic Mr. Fox(原題)』
『プリンセスと魔法のキス』
『ブレンダンとケルズの秘密』(フランス)
『カールじいさんの空飛ぶ家』
今回はどれも微妙です。日本人にはどの作品もしっくりきませんが、「Up」が最有力でしょう。

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◆◆最優秀外国語映画賞・Best foreign language film of the year◆◆
『Ajami(原題)』(イスラエル)
『The Milk of Sorrow(原題)』(ペルー)
『Un Prophete(原題)』(フランス)
『瞳の奥の秘密』(アルゼンチン)
『白いリボン』(ドイツ)
ゴールデン・グローブ賞は、「白いリボン」でした。昨年のように日本では盛り上がらない作品群です。

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◆◆長編ドキュメンタリー賞◆◆
『ビルマVJ 消された革命
『 The Cove (原題)』
『 Food, Inc. (原題)』
『 The Most Dangerous Man in America: Daniel Ellsberg and the Pentagon Papers (原題)』
『 Which Way Home (原題)』

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◆◆オリジナル脚本賞・Original screenplay◆◆
『ハート・ロッカー』
『イングロリアス・バスターズ』
『 The Messenger(原題)』
『 A Serious Man(原題)』
『カールじいさんの空飛ぶ家』
最有力は「ハート・ロッカー」ですが、タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」が素晴らしかったです。さて、オスカーは誰の手に?

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◆◆脚本賞(原作あり)・Adapted screenplay◆◆
『第9地区』
『 17歳の肖像』
『 In the Loop(原題)』
『プレシャス』
『マイレージ、マイライフ』
「District 9」は、かなり面白くアメリカでは大ヒットでした。私は「Up in the Air」の脚本が好きです。こういう大人の脚本は日本ではなかなか見かけませんね。

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◆◆美術賞◆◆
『アバター』
『 Dr.パルナサスの鏡』
『 NINE 』
『シャーロック・ホームズ』
『ヴィクトリア女王 世紀の愛』
私は「NINE」に1票!ただ「アバター」は、生物のDNAレベルまで考えた設定でした。客が目にする美術表現を超えたレベルでの美術設定が受賞するべきなのでしょう。

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◆◆撮影賞◆◆
『アバター』
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』
『ハート・ロッカー』
『イングロリアス・バスターズ』
『白いリボン』
「アバター」は、シネスコサイズとIMAXサイズの2バージョンで見ましたが、両方共に素晴らしい撮影でした。撮影と言っても2/3はアニメですね(笑)。個人的にはアモレンズで撮影された「スタートレック」に受賞して欲しかったです。

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◆◆衣装デザイン賞◆◆
『 Bright Star(原題)』
『ココ・アヴァン・シャネル』
『 Dr.パルナサスの鏡』
『NINE』
『ヴィクトリア女王 世紀の愛』
衣裳は、現代劇でもかなり頑張っているのですが、ちょっとわかりやすい作品が並んでしまいました。「アバター」の衣裳など素晴らしかったのですが残念ながらノミネートされませんでしたね。

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◆◆編集賞◆◆
『アバター』
『第9地区』
『ハート・ロッカー』
『イングロリアス・バスターズ』
『プレシャス』
「アバター」の細かな編集は、見事でした。長尺の中でも短いシークエンスの丁寧な編集が観客の心を掴んだのだと思います。「イングロリアス・バスターズ」は、逆にダイナミックな編集で気持ちが良かったです。タランティーノらしい構成で見せる映画でした。

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◆◆メイクアップ賞◆◆
『イル・ディーヴォ』
『スター・トレック』
『ヴィクトリア女王 世紀の愛』

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◆◆音楽賞◆◆
『アバター』
『 Fantastic Mr. Fox(原題)』
『ハート・ロッカー』
『シャーロック・ホームズ』
『カールじいさんの空飛ぶ家』
ジェームス・ホーナーのおさえた音楽が素晴らしかったです。是非「アバター」に!

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◆◆歌曲賞◆◆
「Almost There」(『プリンセスと魔法のキス』)
「Down in New Orleans」(『プリンセスと魔法のキス』)
「Loin de Paname」(『幸せはシャンソニア劇場から』)
「Take It All」(『NINE』)
「The Weary Kind」(『 Crazy Heart(原題)』)

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◆◆視覚効果賞◆◆
『アバター』
『第9地区』
『スター・トレック』
どれも素晴らしかったですが、やはり「アバター」でしょう。新しい3D撮影方式とIMAX映像、圧倒的なコンポジットは他作品をおおきく引き離しています。

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◆◆音響効果賞◆◆
『アバター』
『ハート・ロッカー』
『イングロリアス・バスターズ』
『スター・トレック』
『カールじいさんの空飛ぶ家』
この賞でオスカーがどの作品に渡るのかは、誰もわかりません。それほどレベルは同じです。日本映画もこれら作品を勉強して音響のクオリティを上げて欲しいですね。個人的には友人のトム(「Up」)に受賞してもらいたいです。

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◆◆録音賞◆◆
『アバター』
『ハート・ロッカー』
『イングロリアス・バスターズ』
『スター・トレック』
『トランスフォーマー リベンジ』
厳しいスケジュールの中、がんばった「イングロリアス・バスターズ」のスタッフが現場で一番苦労したんだと思います。受賞は「アバター」か「ハート・ロッカー」でしょう。

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◆◆短編実写賞◆◆
『 The Door(原題)』
『 Instead of Abracadabra(原題)』
『 Kavi(原題)』
『 Miracle Fish(原題)』
『 The New Tenants(原題)』

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◆◆短編ドキュメンタリー賞◆◆
『 China's Unnatural Disaster: The Tears of Sichuan Province(原題)』
『 The Last Campaign of Governor Booth Gardner(原題)』
『 The Last Truck: Closing of a GM Plant(原題)』
『 Music by Prudence(原題)』
『 Rabbit à la Berlin(原題)』

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◆◆短編アニメーション賞◆◆
『 French Roast(原題)』
『 Granny O'Grimm's Sleeping Beauty(原題)』
『 The Lady and the Reaper (La Dama y la Muerte)(原題)』
『 Logorama(原題)』
『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』

今年の注目は、やはり「アバター」が何部門受賞するかでしょう。しかしジェームス・キャメロンの元妻であるキャサリン・ビグローの「ハート・ロッカー」のほうが下馬評は高いです。さて結果はどうなるのか?
私はビグローに会ったことがあるのですが、背が高く美しい女性でした。この人が素晴らしい作品を次々に生み出しているというのがどうしてもイメージできませんでした。キャメロンは彼女の外観だけではなくきっと彼女のクリエイティブと仕事に対する真摯な姿に惚れたのではないでしょうか。現在もキャメロンとビグローは仲が良いそうです。そういう友人とアカデミー賞を闘うなんて、不思議な運命ですね。

アカデミー賞は、2010年3月7日(日)8時からロサンゼルスのコダックシアターで開催されます。アメリカではabcが中継し、日本ではWOWOWが、中継します。

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第67回 ゴールデン・グローブ賞 発表 [映画賞・映画祭]

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The 67th Annual Golden Globe Awards

ゴールデン・グローブ賞が発表になりました。
結果をお伝えします。
★が受賞です。

◆最優秀映画作品賞(ドラマ)
★『アバター』

 『ハート・ロッカー』
 『イングロリアス・バスターズ』

 『プレシャス』

 『マイレージ、マイライフ』
 予想通りの受賞でしょう。

◆最優秀主演女優賞(ドラマ)

 エミリー・ブラント 『ヴィクトリア女王 世紀の愛』

★サンドラ・ブロック 『ザ・ブラインド・サイド』(原題)
 ヘレン・ミレン 『ザ・ラスト・ステイション』(原題)

 キャリー・マリガン 『17歳の肖像』(原題)

 ガボレイ・シディビー  『プレシャス』
 接戦でしたがサンドラ・ブロックの受賞です。復活なるか?

◆最優秀主演男優賞(ドラマ)
★ジェフ・ブリッジス 『クレイジー・ハート』(原題)

 ジョージ・クルーニー 『マイレージ、マイライフ』

 コリン・ファース 『ア・シングル・マン』(原題)

 モーガン・フリーマン 『インビクタス/負けざる者たち』

 トビー・マグワイア『マイ・ブラザー』
 個人的にはモーガン・フリーマンに取って欲しかったです。

◆最優秀映画作品賞(ミュージカル・コメディー部門)
 『(500)日のサマー』

★『ハングオーバー』

 『恋するベーカリー』

 『ジュリー&ジュリア』

 『NINE』
 「ナイン」かと思っていましたが...

◆最優秀主演女優賞(ミュージカル・コメディー部門)
 サンドラ・ブロック 『あなたは私の婿になる』
 マリオン・コティヤール 『NINE』

 ジュリア・ロバーツ 『デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~』

 メリル・ストリープ 『恋するベーカリー』

★メリル・ストリープ 『ジュリー&ジュリア』
 2つノミネートしていたメリル・ストリープが受賞しました。納得です。

◆最優秀主演男優賞(ミュージカル・コメディー部門)
 マット・デイモン 『インフォーマント!』

 ダニエル・デイ=ルイス 『NINE』

★ロバート・ダウニー・Jr 『シャーロック・ホームズ』

 ジョセフ・ゴードン=レヴィット 『(500)日のサマー』

 マイケル・スタールバーグ 『ア・シリアス・マン』(原題)
 今までのイメージと全く違うホームズを作り出したダウニー、驚きの受賞です。

◆最優秀アニメーション賞
 『くもりときどきミートボール』

 『コララインとボタンの魔女 3D』

 『ファンタスティック・ミスター・フォックス』(原題)

 『プリンセスと魔法のキス』

★『カールじいさんの空飛ぶ家』
 予想通りでした。

◆最優秀外国語作品賞
 『BAARIA』(原題)イタリア

 『抱擁のかけら』スペイン

 『THE MAID』(原題)チリ
『ア・プロフェット』(原題)フランス

★『ザ・ホワイト・リボン』(原題)ドイツ

◆最優秀助演女優賞
 ペネロペ・クルス 『NINE』

 ヴェラ・ファーミガ 『マイレージ、マイライフ』

 アナ・ケンドリック 『マイレージ、マイライフ』

★モニーク 『プレシャス』

 ジュリアン・ムーア 『ア・シングル・マン』(原題)

◆最優秀助演男優賞

 マット・デイモン 『インビクタス/負けざる者たち』

 ウディ・ハレルソン 『ザ・メッセンジャー』(原題)

 クリストファー・プラマー 『ザ・ラスト・ステイション』(原題)

 スタンリー・トゥッチ 『ラブリーボーン』

★クリストフ・ヴァルツ 『イングロリアス・バスターズ』
 ブログでも書いたとおり、当然の受賞ですね。個人的には今回一番嬉しかったです。

◆最優秀監督賞
 キャスリン・ビグロー 『ハート・ロッカー』

★ジェームズ・キャメロン 『アバター』

 クリント・イーストウッド 『インビクタス/負けざる者たち』

 ジェイソン・ライトマン 『マイレージ、マイライフ』

 クエンティン・タランティーノ 『イングロリアス・バスターズ』
 激戦でしたがキャメロンに落ち着きました。さて、オスカーは?

◆最優秀脚本賞
 ニール・ブロンカンプ 『第9地区』

 マーク・ボール 『ハート・ロッカー』

 ナンシー・マイヤーズ 『恋するベーカリー』

★ジェイソン・ライトマン、シェルダン・ターナー 『マイレージ、マイライフ』

 クエンティン・タランティーノ 『イングロリアス・バスターズ』
 タランティーノかと思っていたらライトマン&ターナーでした。確かに素晴らしい本でした。

◆最優秀作曲賞

★マイケル・ジアッキノ 『カールじいさんの空飛ぶ家』

 マーヴィン・ハムリッシュ 『インフォーマント!』

 ジェームズ・ホーナー 『アバター』

 アベエル・コジェニオウスキ 『ア・シングル・マン』(原題)

 カレン・O、カーター・バーウェル 『かいじゅうたちのいるところ』

◆最優秀歌曲賞
 「シネマ・イタリアーノ」 『NINE』

 「アイ・ウォント・トウ・カム・ホーム」 『エブリボディズ・ファイン』(原題)

 「アイ・シー・ユー」 『アバター』

★「ザ・ウェアリー・カインド」 『クレイジー・ハート』(原題)

 「ウィンター」 『マイ・ブラザー』

日本ではあまり話題にならないですが、ゴールデン・グローブ賞は、アメリカの映画・テレビ業界では大変重要な賞です。最優秀賞を受賞していなくても、ここにノミネートされている作品は、劇場で見て
損しない名作ばかりです。殆どの作品が日本ではこれから上映されますので、是非劇場に足を運んでみてください。

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アバター [アメリカ映画(00s)]

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AVATAR (2009)

当初の予想を超え、大ヒットしたSF大作「アバター」について記そうと思います。
監督は、ご存じジェームス・キャメロンです。VFXスタッフは、彼が作ったデジタル・ドメインではなく、ニュージーランドのWETAが中心となりました。

この映画が完成するまでに何故10年以上の時間がかかってしまったのかについて記したいと思います。実は、キャメロンは「タイタニック」制作前にこの作品を作りたいと考えていました。ストーリー自体はキャメロンが子供のころから何度も頭に描いていたのでした。しかし当時、この映画を実現する技術がなかったのです。その技術とは話題の「3D表現」ではなく、単に「映像化する技術」です。当時はまだコンピュータを使って映像を作り出す技術の黎明期だったため彼の頭の中にある映像を実際にビジュアル化するのには、沢山の問題がありました。

キャメロンは、映画のために技術を開発するちょっと変わった監督です。彼のように自分の作りたい映画のために新しい技術を開発する監督の先駆者は「スターウォーズ」のジョージ・ルーカスです。彼は「スターウォーズ」を映像化したくて自分でルーカスフィルム、そしてVFX専門会社ILMを立ち上げました。そこで、様々なカメラやレンズ、映像の合成装置を開発し、映画を完成させたのです。その後に続いたのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で有名なロバート・ゼメキスです。彼はモーション・キャプチャーという技術とCGに固執しました。役者さんが体中にポイントのついたスーツを着て何もないスタジオで演技をします。それをコンピュータで読み取って、CGアニメのキャラクターを動かす技術です。ゼメキスは「ポーラ・エキスプレス」でこの技術を高め、次の作品「ベオウルフ」で完成させました。現在ではゼメキスの功績によりゲームやアニメなどで幅広くこのモーション・キャプチャーという技術が使われるようになりました。

タイタニック」が大成功し、一生贅沢をして過ごせるほどの財産を手にしたキャメロンは、引退することなく次回作「アバター」の技術開発に集中していきます。ストーリー自体は、彼が子供の頃から考えていたアイデアが元になっています。そのストーリーにリアリティを持たせるため、科学者にコンタクトを取り実際の惑星の成り立ち、生命体の構造などの知識を取り入れ、映像的に破綻しないようブラッシュアップしていきました。この時点で、これから描き出そうとする新しい惑星を映像として完成させるのがとても大変なことがわかってきました。キャメロンは、リアリティのある「嘘」の世界を成立させるための技術を探していったのです。

一番難しい問題は、映画のほぼ全編に登場する惑星パンドラに住む住人達でした。青くて特徴のある顔を持つこの住人達、はじめは人間の役者に特殊メイクアップを施し、森の中で撮影するという方法も模索しましたが、キャメロン監督の望むレベルまで達することができないことがわかります。森自体も地球のそれとは異なった動植物が登場するのです。よって、キャラクターだけでなく背景も地球上で撮影するのはできないのでした。

そんな中、もうひとりの開発系監督ピーター・ジャクソンが、「ロード・オブ・ザ・リング」を発表しました。この映画に登場するゴラムというキャラクターは、映画史上初めて成功したCGキャラです。100%コンピュータで作られたゴラムは俳優アンディ・サーキスがモーション・キャプチャー・スーツを着て演じたデジタルデータを変換しています。なので動き自体と声はサーキスのものですが、それがCGのゴラムに置き換わっているのです。

ジャクソン監督はニュージーランド人です。彼は自国に新しい産業を興そうという気持ちもあり「ロード・オブ・ザ・リング」のためにWETAというVFX会社を作り、そこで映画に関わる全ての技術を作り出したのです。「ロード・オブ・ザ・リング」の世界的大成功の結果、ニュージーランドのGDPが上昇するという数字までたたき出し、映画産業はニュージーランドの新たな産業として成立しました。WETAは、その後ジャクソン監督の「キングコング」で、驚くほどリアルな巨大コングのCG化に成功しています(コングのベースもアンディ・サーキスが演じています)。

「ロード・オブ・ザ・リング」の映像を見たキャメロン監督は、遂にアバターを100%コンピュータ空間で作りだ出せることを確信しました。早速キャメロンはニュージーランドにいるピーター・ジャクソンに連絡を取ります。そしてWETAと共に「アバター」を作ることを決意しました。

キャメロンは「ターミネーター2」を作るためにVFX会社デジタル・ドメインをサンタモニカに作りました。しかし、この会社は経営のために普通のハリウッド映画の制作を手がけるようになり、キャメロンの思いとは違う方向で成功を収めていました。キャメロンは、「トランスフォーマー」でVFX会社を探していたマイケル・ベイ監督にデジタル・ドメインを売却し、WETAと共に「アバター」制作に賭けるという驚くべき手段を取りました。

そして、WETAのチームは、早速パンドラの設定をコンピュータ上に3Dで作りだし、キャラクターのモデリングも始めました。そこには、キャメロンが子供の頃から思い描いていた地球上にはない惑星ができあがっていたのです。

実際に「アバター」の制作が動き出したのは4年ほど前からです。それまでは、このように映像を作り出す技術の模索に時間がかかっていたのでした。さらに、キャメロンには、もうひとつ探し出さなければならない技術がありました ----- それが3Dの撮影システムです。

映画の3D上映技術は、かなり古くから存在していました。
一番古いのは、赤と青のフィルムがついたメガネで見ると立体的になるアナグリフという方式で1850年代には、映画館で飛び出す映画が上映されていました。しかし、この技術は定着しませんでした。
次に登場したのは偏光レンズを使う立体映画です。これは、レンズの傾きによって左右の目に錯覚を起こさせる技術です。メガネは透明なプラスティック製です。ディズニーランドの「キャプテンEO」や「ミクロキッズ・アドベンチャー」などがこの技術で上映されています。
もうひとつの方式は液晶シャッターの着いたメガネを通して立体映像を脳内に作り出すシステムです。この技術、1980年代にビクターによって生産されていました。実は私は当時この液晶シャッターシステムを購入し、今でも自宅に持っています。当時は映画はVHDという規格で販売されており「13日の金曜日3D」「ジョーズ3D」幻の「ダイヤルMを廻せ!3D」などが商品化されていたのです。80年代当時、私は自宅でこれら3D映画を見て熱狂していたのですが、何故か一般には普及しませんでした。理由は液晶メガネにあったのだと思います。液晶で左右の目を交互に隠すという構造はかなり複雑で、当時のメガネはかけられる物ではなく、頭にヘアバンドのような物を装着し、そこにメガネをつるすような重い帽子のようなものでした。当時、立体映画にはとても興奮したのですが、映画一本を見終わると首がとても疲れました。しかも映像とメガネのシャッターが同期する必要があり、プレイヤーからメガネにケーブルが繋がっていたのです。

さて、キャメロン監督は、3D撮影システムをどう解決したのでしょうか。
キャメロン監督は「ターミネーター2」撮影後に、「ターミネーター2 3D」を監督しています。これはユニバーサルスタジオ用のアトラクションです。USJにもあるので見た方もいると思います。この制作で監督は3Dの基礎を勉強しました。そして上映は偏光レンズで行われました。
監督は「タイタニック」後に1本のドキュメンタリーの監督をしました。それは、実際に海に沈んだタイタニック号を立体撮影するという作品です。日本でもこの作品はアイマックスで偏光レンズ方式により上映されました。このようにキャメロン監督は、「アバター」前に2本の3D映画を制作し、様々なテストを行っていたのです。
「ターミネーター2 3D」の時は2台の35mmカメラを使って左右の映像を撮影しました。これはかなり巨大で重く、撮影に様々な制約が生じました。ドキュメンタリーでは、潜水艦に乗る小さなカメラが必要になりました。そこでキャメロンは来日しSONYと一緒に新しい3Dデジタルカメラを開発していたのです。
このSony製カメラをベースに「アバター」用に新しく3D撮影カメラを開発しました。

上映はReal D社、XpanD社、ドルビー社などによる最新のデジタル3D方式で上映することにしたのです。

液晶シャッター式に関しては、既に「アバター」3D版(Xpan版)を見た方はわかると思いますが、80年代の帽子のような有線メガネではなく、現代の液晶シャッター式メガネは普通のメガネとあまり変わりがありません。ちょっとだけ大きいだけです。メガネの真ん中には赤外線受信装置がついていて、劇場では、上映される映像に同期させるための赤外線電波が飛んでいます。この電波をメガネで受け、左右の目を高速シャッターで塞いだり解放したりしています。メガネの中には電池が内蔵されているので、ちょっとだけ重いですが2時間30分の映画を見ても首が痛くなるようなことはありません。

映画「アバター」を完成させるためにキャメロン監督は10年に及ぶ長い技術開発をしていたっと言っても過言ではありません。監督は、遂に今までにない映像を3Dで客さんに届けることに成功しました。その影には沢山の別の作品で培われた技術がベースとなっていることがわかっていただけたでしょう。もし「アバター」を見て映像に驚かれた方は、ここで紹介したルーカス、ゼメキス、ジャクソンら開発系監督の作品をDVDで見返してください。それら作品のDNAが「アバター」に結びついていることがわかるはずです。

さて、今後の3D映画ですが、3Dだから全てが綺麗な立体に見えるわけではないのでご注意ください。撮影技術と上映技術は「アバター」によって完成しました。しかし映像表現は監督やカメラマンによって異なります。キャメロン監督のように立体映像技術を10年もかけて勉強した人ならば、疲れないでストーリーテリングな映画の制作ができるでしょう。しかし、立体映像の特性や制作技術に精通していない監督が3D映画を作ると、見せ物小屋的な駄作になってしまう可能性がとても高いのです。私が危惧しているのは邦画です。きっと技術に踊らされて安易な3D映画が量産されるはずです。残念ながらきちんと3D技術を理解して映画の脚本を作り、知識のある技術陣がそれをサポートするという体勢が日本で作れることはしばらくないでしょう。

「立体映画なんてあたるわけない」、「アバターはアメリカでヒットするが世界的には大失敗だ」とおおくの日本にいる映画関係者は発言していました。しかし、日本マーケットでは80億円規模のヒットになるそうです。これは大ヒットです。

マーケティング至上主義の日本映画界、いつもチャレンジして新しい驚きを提供してくれるキャメロン監督、私は後者に映画の未来があるのだと思います。

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イングロリアス・バスターズ [アメリカ映画(00s)]

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Inglourious Basterds (2009)

今回は、「イングロリアス・バスターズ=名誉なき野郎ども」のお話です。

<第1章:監督>
クインティン・タランティーノ、おおくの映画ファンになじみのある映画監督です。彼は脚本家、プロデューサー、撮影監督、俳優としても知られています。日本ではCMにも出演しているので知名度はかなりあるのではないでしょうか。彼の生い立ちも広く知られています。22際のとき、ロサンゼルス・マンハッタンビーチにあった個人経営のビデオ・レンタル店でバイトをしながら、そこにおいてある映画を見まくり、仲間と映画談義で盛り上がったこと。そのとき見たカンフー映画や日本の任侠映画に傾倒したとことなども有名なエピソードです。そんな彼は映画のプロットライターとしてプロデューサーのローレンス・べンダーに認められるようになり、そのうちのひとつ「トゥルー・ロマンス」がトニー・スコット監督により映画化されることが決まり、自分でも「レザボア・ドッグス」(1992)で映画監督デビューを果たすことになりました。

タランティーノ監督の特徴として、主人公たちが話す会話の中に過去の映画の雑談がおおく使われること、ストーリー全体が、かつてのグラインドハウスと呼ばれるB級映画に強く影響を受けていることがあげられます。本人もこれを意識しており、毎回悪ふざけ映画をギリギリの線でメジャー作品に仕上げる天才です。

2本目の監督作品である「パルプ・フィクション」(1994)で、カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞し大ヒット監督の仲間入りをします。その後は「ジャッキー・ブラウン」(1997)、「キル・ビル」(2004,2004)、「グラインド・ハウス:デス・プルーフ」(2007)と自分が見てきた映画の焼き直しとも言えるタランティーノしか作れない作品をリリース、ヒットしてきました。ただあまりに映画オタクの傾向が強く一般のお客さん、特に女性からの支持は得られませんでした。

<第2章:企画から脚本まで>
タランティーノは、同時にいくつもの企画を頭に描き、それが合体したり分離したりしてひとつの作品が完成していきます。この企画は今から10年ほど前、1976年にイタリアで製作された「地獄のバスターズ」という映画をもとに話が始まりました。最終的にはタイトルと戦争映画という要素しか残りませんでしたが、始まりはこのB級映画だったのです。「キル・ビル」の撮影中もスタッフやキャストにこの戦争映画の企画についてタランティーノはよく話していたそうです。しかしその他の企画もベラベラと喋るので、聞いている方はどの企画が実現するかは全くわかなかったそうです。タランティーノは、いろいろな人に自分の企画を話しながらストーリーを整理し、ひとりの時は歴史を勉強し、過去に見た1940年代の映画を反芻し、だんだんと「イングロリアス・バスターズ」のストーリーが生まれていったのです。そして2008年7月2日、急に脚本が完成しました。
完成した脚本は、今までのタランティーノ映画よりも洗練されていました。ただの映画オタクが喜ぶ映画ではなく、一般の映画ファンでも受け入れられるメジャーなストーリーラインでした。勿論タランティーノ節は随所に埋め込まれていますが、第二次世界大戦のパリを舞台に見事な戦争映画として描かれていたのです。

<第3章:制作>
タランティーノから連絡を受けたプロデューサーのローレンス・ベンダーは、脚本完成から4日後、この作品をどうしていくか本人と話し合いました。タランティーノは、なんとかして2009年5月のカンヌ映画祭に間に合わせたいと切望します。1年に満たない時間でこの脚本を映画として完成させるのがいかに困難かは、素人でもわかります。しかし、タランティーノは引きません。そこで、急遽準備を始め14週間後には撮影を開始するというとんでもないスケジュールが組まれました。緊急で集められたメインスタッフは、まさに地獄の苦しみを味わうことになります。キャスティング、スタッフ集め、ロケハン....山のような仕事をこなしていきました。幸いにしてタランティーノは、どんな映画にするのか明確なビジョンがあったので、ロケ場所やキャスティングで悩むことはほとんどなかったようです。決めることはどんどん決めてくれたので、作業が停滞することはなかったのです。ローレンス・ベンダーは、契約と出資金集めに奔走しました。ラッキーなことにタランティーノ監督を長年応援しているワインスタイン兄弟が今回も支援してくれることになりました。しかし資金の確保と同様、予算の遂行、法的手続きは多忙を極めました。こうやって地獄の野郎どもは、タランティーノの為に文句も言わず撮影のセットアップを行っていったのです。

<第4章:キャスティング>
キャスティングは、タランティーノとしては既にイメージキャストが出来上がっていましたが、急な撮影だったため望んだ俳優が捕まらないこともありました。しかし、結果タランティーノらしい俳優が集結しました。
ブラッド・ピットは、実はスティーブン・スピルバーグ監督の新作「Money Ball」の撮影に入るはずでしたが、撮影が延期され「イングロリアス・バスターズ」の撮影に参加できました。この映画の場合主人公ではありませんが、彼は出演を快諾し南部なまりのバスターズを演じています。オーディションでなかなか決まらなかったのがナチの大佐ハンス・ランダ役でした。しかし、最終的にはドイツの俳優クリストフ・ヴァルツが決まります。今回の映画で一番の演技をしたのは彼です。とても素晴らしく今後映画祭ではほとんどの助演男優賞を受賞するのではないでしょうか。バスターズのひとりドニード役には、タランティーノとは何度も一緒に仕事をしているイーライ・ロスがキャスティングされました。ロスは「「キャビン・フィーバー」「ホステル」シリーズで有名ですね。さらにバスターズのヒューゴ役にはドイツ映画界の大御所ティル・シュヴァイガーがキャスティングされています。シュヴァイガーは97年のドイツ映画「ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア」で人気となりました。この映画の日本版リメイクの際、日本に来れなかったのはこの映画が撮影中だったからです。あまり気づかないかもしれませんが、コメディアンのマイク・マイヤーズが将軍役で出演しているのも映画ファンを驚かせました。あの「オースティン・パワーズ」のマイク・マイヤーズ、地味すぎて驚きます。さらに日本人として嬉しいのがジュリー・ドレフュスの出演です。ナチ付フランス語通訳という地味な役ですが、90年代の日本で活躍していた女優さんだけに親近感がありますね。彼女は「キル・ビル Vol.1」にも出演していました。

<第5章:マニア向けな仕掛け>
メジャーなキャスティング、メジャーなストーリー、そして戦争映画という派手な仕掛けが合わさり、今までのタランティーノ映画とは一線を画した作品に仕上がった本作。でもタランティーノ節は生きています。映画を見てみると、山のように映画オタクねたがちりばめられていました。全てをここに記すことができないほど膨大な量ですが、その知識がなくても映画を楽しめるようになっています。ではいくつかトリビアを紹介します。
☆毎作品音楽に凝っていますが、「イングロリアス・バスターズ」もかなりがんばっています。印象に残るのはエンリオ・モリコーネの音楽です。実はモリコーネにサントラの依頼をしたそうですが、スケジュールがあわなかったそうです。そこでモリコーネが過去に作った音楽を多用しています。これによりなんともノスタルジックなヨーロッパ映画のような味わいが加味されています。
☆シュヴァイガー演じるバスターズのヒューゴ。名前をヒューゴ・スティグリッツといいます。この名前は実在するメキシコのB級映画俳優からとっています。
☆ナレーションは、タランティーノの親友であるサミュエル・L・ジャクソンです。
☆ストーリーの肝となる映画館のフィルム。昔のフィルムはとても燃えやすかったのです。なので、映写技師は免許制です。燃える原因はニトロセルロースという原料です。ちなみに現在の映画フィルムは合成樹脂なので燃えにくいです。フィルムが燃えるシーンは、「追想」のマネですね。

<第6章:完成、そして公開>
映画は、2009年のカンヌ映画祭に間に合うよう完成し、観客から賞賛されました。そしてアメリカでは8月21日に公開され、タランティーノ作品の中では過去最高の興行成績を樹立しました。日本では、ブラピ押しの宣伝でヒットしました。
タランティーノは、この作品でただの映画オタク向け作品ではなく、堂々としたメジャー作品を作ることのできる映画監督というレベルに引き上がったようです。でも、メジャースタジオの言うことを聞いて何でも撮る職業監督という意味では彼は不適合者でしょう。タランティーノ印をきちんと押した他の監督では作ることのできないメジャー作品を今後も作っていくのだと思います。そうなると、やはりプロデューサーは彼のことを熟知しているローレンス・ベンダー、そして出資と配給はワインスタイン兄弟ということになります。いつまでたってもタランティーノは、タランティーノなんです。


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沈まぬ太陽 [日本映画]

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沈まぬ太陽 (2009)

山崎豊子による5冊に及ぶ大作を映像化した映画史に残る作品を紹介します。

この原作本は、1999年に出版され当時ベストセラーになりました。勿論現在でも売れています。原作者の山崎豊子は、「白い巨塔」「二つの祖国」「大地の子」など、実際に起こった歴史的事件と、そこにいあわせ人生を翻弄された人物を綿密にリサーチして、それを再構築するというスタイルで人気の作家です。

「沈まぬ太陽」は、1985年に起きた日航機墜落事故をリサーチする内に見えてきた事故の真相を描いています。といってもこの原作小説はフィクションということになっています。この小説に登場する企業や人物は全て想像によるもので、実際の企業や人物に似ていてもそれはたんなる偶然によるものだそうです。何故こんな変な記述がついているのか?それは、実際に事件に関係のあった人たちが、原作者を訴える可能性があるからなのです。あくまでフィクションといいきることによって、かなり際どいですが強引に事実を含んだ小説を出版していると考えてもおかしくないでしょう。

これだけ、ギリギリの内容の小説を刊行したのには理由があります。「沈まぬ太陽」には、JAL、いや国民航空は、事故当時、社内がおかしなことになっていて、事故は偶発的に起きたわけではなく実は起こるべくして起きていたという真相が克明に書かれているのでした。山崎豊子は、自身が知ってしまった事故の真相をどうしても世の中に公表したかったのだと思います。単なる圧力隔壁の破壊によって事故は起きたのではなく、会社自体に事故を起こす根源があったということを公にしないといけないという使命感があったはずです。勿論、山崎豊子は、小説家としてもちゃんと仕事をしています。ある国民航空社員・恩地元を軸に、会社の暗部、そして政治家の暗部を見事に暴露しつつ、小説としてとても面白い「読み物」に仕上げているのです。

小説が発売されてから、沢山の人がこの本を読み、事件の裏側を知り憤りを覚えました。そして、おおくの映像製作者が、この小説の映像化を試みました。しかし、20年もの間、映像化はされなかったのでした。

1999年の発売直後から、複数の映像関係の会社から出版社へ映像化の申し出がありました。まずは、当時映画界の暴れ者、徳間康快(大映社長)が東映との共同制作を発表します。しかし徳間氏が死去してしまい映画化は流れてしまいました。
その後、数社が映像化をオファーしました。結果、山崎豊子が納得できる会社が選ばれ、プロットを作り始めるのですが、そこでつまずいてしまいました。山崎豊子という原作者は自分の作品の映像化に大変厳しい方です。いい加減な映像化は許さないそうです。特に自分が大切に思う3作品に関してはとても厳しいチェックを行うのだそうです。この3作がどれなのかについては言及しませんが、そのうちの1本は「沈まぬ太陽」だったのです。いくつかの会社がアプローチをし、作家のNGを受けたそうです。映像化に時間がかかってしまったひとつの理由は、原作者の作品に対する強い思いだったのかもしれません。

映像化できなかった別の理由。それはやはり扱っている事件でした。フィクションと言いながら読んでいる人のおおくは、国民航空がどの企業なのか、首相が誰なのか、社長が誰なのか、扱われている事件がなんなのか、全て頭に浮かんでしまうのです。その頭に浮かんだ企業や個人が様々な妨害工作を繰り広げたのです。確かに、事故の真相が実は企業体質にあったといわれたら、現存する企業への打撃は大きいでしょう。引退していても政治家にとって過去の汚職について書かれるのは気持ちが良いものではありません。彼らは抵抗勢力となり、ありとあらゆる妨害を行いました。
映像化をしそうな企業への圧力はかなりの頻度で行われました。
事実として公になっている事例を紹介しましょう。「沈まぬ太陽」が週刊新潮に連載中、日本航空は雑誌販売のサービスと機内搭載をやめています。今回の映画化に際し、日本航空は角川書店に対し2度警告文を送っています。他にも、表沙汰になってはいませんが、沢山の抵抗をし続けました。結果、これが功を奏し、映像化は20年も阻まれてきたのでした。

そして、もうひとつの理由。それは、映像化の予算繰りに高いハードルがあったのだと思います。山崎豊子は、1本の映画に5冊に及ぶ小説の内容を盛り込むのが映像化の条件だと指示したのでした。かなり分厚い5冊には恩地元という主人公が国民航空に入社してから何十年にも及ぶ人生が描かれています。そこには労働組合の問題、僻地への左遷、航空機事故、事故処理、会社の再建という大きな柱がありました。さらに会社幹部の不正などおおくのサブストーリーが含まれ、2時間という枠に全てを収めようとすると、ダイジェスト版のようなストーリーとなり映画としての魅力が完全になくなってしまいます。
さらにアフリカ、イラン、パキスタン、ニューヨークでの大規模撮影には費用と時間を要すことがわかっていました。事故の再現はさらに大変です。飛行機の残骸を山に置きあの事故を忠実に再現しなければならないのです。
脚本の制作が困難であり、しかも全てを描くとなると予算も莫大な金額になることは明らかでした。

この時点でおおくの企業は撤退を始めます。気持ち的には作りたいのですが、1企業がヒットするかどうかわからない映画に数十億という規模の予算を投下することは難しいです。さらにテレビ局や出版社は、抵抗勢力からの出稿停止という恐ろしいいじめにあう可能性があるのです。

さらにマスコミ各社は、事故で犠牲になられた方の遺族への配慮もすべきでした。こうなると、殆どの企画者の腰が砕けていくのでした。

そんな中、角川書店に吸収合併された大映のスタッフは、なんとか映画化ができないものか模索を続けていました。最終的には出稿停止のリスクを抱えながら角川書店のマネージメントがGOサインを出します。今の日本において数少ないトップの力が強い会社ならではの決断です。残念ながらテレビ局各局は、日本航空及び政治家からの抵抗を恐れ、遺族の気持ちも配慮するという理由で制作出資を断念しました。

脚本は、原作者の意向通りすべての要素を盛り込む形で作られました。脚本段階で上映時間は4時間近くに及ぶことがわかっていました。これは何を意味するのでしょう。映画館では1回に1800円の入場料を受け取ります。普通の映画であれば1日4回程度上映が行われます。これが2回程度になってしまうのです。単純に入場料収入は半分近くに減ってしまうという問題が起こります。さらに、映画館ではフィルムでの上映が行われているのですが、通常は6巻程度のフィルムにわけて劇場に送られます。これはマザーフィルムからフィルムをコピーして1劇場1梱包発送されます。しかし4時間という長い映画の場合、12巻となり、コピー代金は倍、発送料も増えることになります。要はビジネス的に考えると、長い映画は儲からないということになるのです。
それでもこの企画をGOした角川会長は、凄い人だなあと思います。

映画は、経験値のある監督ということで共同テレビに所属する若松節朗にオファーが行きました。若松氏は、この仕事を受け長い作業に入ります。当初制作はフジテレビの関連企業である共同テレビが行う予定でしたが、共同テレビは制作を降りてしまい、最終的には角川映画が制作をすることになりました。現場スタッフはベテラン揃いです。なんとかこの企画を成立させるべく準備が始まりました。

撮影隊は、ケニア、タイ、イランへ飛び撮影を行うための準備を開始しました。そんな中キャストが発表になりました。主役の恩地元には渡辺謙、恩地と対立する行天四郎には三浦友和、その他オールスターキャストという布陣です。この時点で制作費は10億を軽く越え、日本映画としては破格の制作費になることは間違いありませんでした。
それでもプロデューサー・チームは予算の削減を図り、海外はビデオ撮影(国内はフィルム撮影)、ニューヨークへのロケは行わないことなど努力をしました。

結果、制作費は15億を超え、上映時間は3時間30分、フィルム・プリント費や宣伝費を含めた投資額は20億円を越えてしまいました。ここまで予算を投下した邦画は近年ありません。
角川書店は大ばくちに打って出たのでした。

公開予定日は、2009年10月24日。配給は東宝です。東宝は宣伝が上手く、他社に比べヒット作がおおいことで知られています。しかしこの作品はテレビでの宣伝がほとんどできませんでした。報復を恐れたテレビ局は、「沈まぬ太陽」のパブリシティ宣伝を控えてしまったのです。できることといったら地味な文字による宣伝活動です。これには宣伝チームも相当苦労したようです。
そんな中、追い風も吹きました。日本航空の経営が傾き、このままだと年内に倒産の危機を迎えるというのです。このニュースは世界中で報道され、国交省は外資の資本注入で幕引きをしようと企みました。そんな中、選挙で自民党が大敗し民主党が与党になり、前原国交大臣は、航空行政に切り込んでいったのです。これは、JAL123便事故以来やっと日本航空に本格的に切り込んだメスとなりました。日本航空の社内で行われていた闇の部分が露わになり、航空行政の闇まで暴かれることになりそうな気配です。
日航の問題の根本は20年前に山崎豊子が「沈まぬ太陽」で書いてきたことでした。このニュースにより小説版「沈まぬ太陽」は書店に平積みされ販売数を伸ばしました。

公開日。劇場には沢山のお客さんが詰めかけました。おおくが年配のお客さんでした。実際に日航機事故の時どこかで事件を体験した人々です。そしておおくの航空関係者も劇場を訪れました。しかし、上映時間が長いという問題から興行収入は30億円前後だと予想されました。30億というと普通は大ヒットなのですが、この映画は投資額が大きすぎたためビジネス的な結果は赤字です。

映画はスタッフ、キャストが苦労しただけあり見事な映画として仕上がっています。昭和史に残る事件を見事に描きだし、ストーリーも興味深いものになっています。今後は、小説版と同様息の長い商品として地味にお金を稼ぎ、いずれは、投資資金も回収できるかもしれません。

「沈まぬ太陽」に登場する架空の会社や人物。私には勝手ながら明確にイメージできることができます。その殆どが既に亡くなられています。会社も存続が危うくなってきました。この映画が世の中に出ることが出来たのは、スタッフの努力の他に、時間というものがおおきく作用しているのかもしれません。

この映画を見て思うのは、このような事故が起きないよう関係者はシステムを改めて欲しいということです。そして国民航空と同じような企業体質の会社は日本に沢山あります。少しでもこういう企業が減って欲しいということです。そして何の罪もないのに命を落とした被害者、そして遺族の方に黙祷したい気持ちです。

「沈まぬ太陽」は、事故を知らない世代の方や、映画化に抵抗していた方々にも見ていただきたい作品です。そんな歴史の1ページのお話でした。

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家にレンタルビデオ店がやってきた! - Apple TV [映画技術]

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Apple TV

いつも思うこと。家で映画を見たいけどレンタルビデオ店に行くのが面倒。レンタルビデオ店に行ったけど見たい映画がレンタル中。見たい映画が置いていない。返却が面倒。延滞金がかさむ。せっかくデジタルテレビを購入したのに、レンタルはDVD(画質が悪い)。BDレンタルが少ない。映画を見たいけど、内容がわからない。DVDがたまりすぎて家に置き場がない。・・・・・・

こんなフラストレーションを解決してくれるのがApple TVです。えっネットで予約、自宅に届く、ポストで返却できるレンタルDVDがあるじゃないか、と思う方、あれよりもっともっと便利なんです。Apple TV。

では、具体的にApple TVの仕組みを簡単に説明しましょう。
この機械はiPodやiPhoneでおなじみのアップルが作った製品です。製品自体は2年ほど前から売られていました。しかし他のアップル製品のように注目を浴びずひっそりと売られていました。先月ソフトウェアが3.1にバージョンアップされ、いよいよ注目の機械となったのです。

<セッティング>
○Apple TVは、家にあるテレビにHDMI接続します。
○ネットとは無線LANで自動接続します。無線がない場合はLANケーブルで繋ぎます。
以上でセッティングは終了です。

<特徴>
○沢山の映画のレンタルと購入が可能
実際に電源を入れると、映画という項目にたくさんの映画のポスターアートが表示されます。現在人気の作品群です。勿論、ジャンルや検索で数万タイトルにアクセスできます。
気になった作品のポスターをクリックすると、作品概要と予告編、購入、レンタルのボタンが現れます。まず予告編を見て気に入ったらレンタルか購入してみましょう。このときかかる費用は事前に登録してあるクレジットカードから引き落とすか、電気店やコンビニで売っているiTUNESカードで購入します。
レンタルでも購入でも、映画はネットを通じてApple TVのHDDにコピーされます。レンタルの場合は1ヶ月でデータが自動消去されるので、それまでに見る必要があります。購入した作品はHDDに永久保存されます。
○ドラマも豊富
アメリカで放送されたほぼ全てのドラマを見ることができます。今放送中のドラマはアメリカで放送直後から視聴が可能になります。テレビ局やタイトルから検索できます。映画と同様、レンタルと購入があります。
○なんとHD!
ほとんどのタイトルにHD画像が用意されています。現在HDを見るためにはブルーレイディスクが必要ですが、Apple TVでは、映画やテレビドラマをHDで視聴できるのです。
○ネットラジオが豊富
Apple TVの隠れた機能です。世界中のネットラジオが高音質で聞けます。勿論CMやDJのダラダラトークはありません。専門の音楽が24時間流れてきます。部屋でなんとなく音楽を流したい時はアンビエント、スムース・ジャズなどがおすすめです。チャンネルは100以上。とても嬉しい機能です。
○音楽が聞ける
これはiPodを使っている人ならわかりやすいです。自分のiTUNESのライブラリの音をApple TVから聞くことができます。PCに入っている音楽データをApple TVにコピーするか、PCの電源を入れておけば無線で音楽データを中継します。
○最新映画の予告編が見られる
現在、アメリカで公開中の最新映画の予告編をHDクオリティで見ることができます。

Apple TVの詳しい説明はこちら:
http://www.apple.com/jp/appletv/

私は、いつもApple TVを使って主に映画を楽しんでいます。家の大型デジタルテレビは、HDを見るのに適しています。残念ながらDVDでは、画質が悪く映画が楽しめません。BDは高価であまり購入していません。Apple TVのスイッチをONにして人気作品を眺めます。気になった作品は、まず予告編を見ていきます。そして、見たい映画を発見したらレンタルします。1作品のレンタル料はHD版で500円程度です。購入する場合は、HD版で1500円程度です。作品によって価格は異なります。古い作品は安いです。
使ってみると、とても便利であることがわかります。レンタルという面倒なシステムから解放され、映画を見る回数が飛躍的に増えました。

現段階で、Apple TVの便利さに気づいている人はまだ少ないです。アップルもiPodやiPhoneの宣伝に必死でApple TVを売ろうという意気込みもありません。何故でしょうか?
アメリカでは、無線LANとブロードバンドの環境が十分に整っていないので、Apple TVの機能を押し出しても、物理的に動かない可能性があるのだと思います。日本では、アメリカより遥かに進歩したインフラのお陰でApple TVはストレスなく動作します。では、日本で普及しないのは何故でしょう?2009年末で、日本での動画配信サービスが始まっていません。Apple TVで見られる映画やドラマは全てアメリカからやってきます。当然決済もドルです。これがネックとなっています。画面の文字は全て日本語かされているのですが、肝心の映画に日本語字幕が入っていないのです。おそらくおおくの日本人は、Apple TVを購入して映画の予告編を見たり、You Tubeを見たりしているのでしょう。中にはネットラジオを楽しんだり、自分のiTUNESに入っている音楽をテレビに転送して聞いているのではないでしょうか。実際に映画やドラマをレンタルしたり購入している人は少数だと思います。
日本のコンテンツホルダーは、iTUNESに映画や番組を供給しません。各社独自のサイトで番組を配信しています。これらはPCでしかみることができない場合がおおくとても不便です。一刻も早くiTUNESに番組を配信して、1クリックで全ての番組を購入できる環境を整えるべきです。そのとき日本ではやっとApple TVの素晴らしさに皆が気づくのではないでしょうか。

私は、閉鎖的な日本のコンテンツを見捨て、アメリカから1クリックで映画やドラマを一足お先に楽しんでいます。皆さんも、Apple TVを試してみてください。きっと新しいエンターテイメントの世界を感じることができるでしょう。

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13日の金曜日 (2009) [アメリカ映画(00s)]

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Friday the 13th (2009)

このタイトルで読むのをやめようと思った方、特に怖くもないですし、見ていなくてもこのシーリーズの概要が分かるので是非おつきあいください。

ちゃんと見たことはないのにタイトルだけは知っている映画シリーズ、それが皆さんにとっての「13日の金曜日」のイメージではないでしょうか。確かに11作品も作られたシリーズの後半はとてもひどい作品ばかりで、駄作という印象はこれら駄作からきています。しかし、本当に駄作だらけなら、これほどまで知名度があがることはなかったでしょう。今回は、このシリーズの概要と新しく生まれ変わった新作についてお話します。

オリジナル版「13日の金曜日」は1980年に製作され世界中で大成功しました。この経緯については過去の記事をご覧ください。

実はオリジナル版にはジェイソンは登場しません。メインキャラクターは子供(ジェイソン)を水難事故でなくした母親なのです。とてもよくできたサスペンス映画で、ホラーというよりはよくできた謎解き映画となっています。しかし、それだけでは地味だと考えたオリジナルの監督であるショーン・カニングハムは、ラストシーンで驚くべき1カットを追加しました。オリジナルで唯一ジェイソンが登場するシーンです。

映画はヒットしました。しかし続編を作る権利はワーナーブラザースからパラマウント・ピクチャーズに移行します。
そして、オリジナルのラストシーンをきっかけに実はジェイソンは生きていたという新しい設定が作られます。パート2以降では、そのジェイソンが大人になって母親の復讐を始めます。2では、ジェイソンは布の袋を被っていて、パート3でやっとホッケーマスクを手に入れます。そしてパート4(邦題:完結編)で遂に命をおとすのです。ここまでの4作品はストーリーも整っていて、オリジナルに比べるとホラー色が強くなっていますが、なかなかの出来映えです。

ジェイソンが死んでしまった後に製作されたのがパート5(邦題:新13日の金曜日)です。この作品は、番外編といった作りとなっていて、クリスタルレイクにジェイソンが復活したように見せかけた第3者による殺人事件を描いています。

映画として成立しているのは、ここまでです。それ以降の作品は、ジェイソンがお化けとなり、何度も生き返り意味もなく人を殺していくのです。こうして「13日の金曜日」は人々から駄作扱いされるようになっていったのです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オリジナルから25年。時代は変わり、「13日の金曜日」シリーズも製作されなくなりました。そんな時、「13日の金曜日」の続編の制作権を持つニューライン・シネマのトビー・エマリッチが「テキサス・チェーンソー」シリーズのリメイクを手がけたプラチナム・デューンズ・プロダクションに企画を持ち込んだのが本作の始まりです。その後、数年をかけて過去のシリーズの著作権を保有するパラマウント・ピクチャーズとクリスタルレイク・エンターテイメント(ショーン・カニングハムの経営する会社)との権利をクリアにしました。パラマウント社は、権利を渡す代わりに配給を申し出てきました。そしてニューライン、プラチナム、パラマウントでストーリーが練られていきました。この時点で映画はオリジナル(ワーナーブラザース)をリメイクするのではなく、オリジナルの後に続くストーリーを作ることになりました。

そんな時、このチームに新たな登場人物が出現します。マイケル・ベイです。マイケル・ベイは監督として「アルマゲドン」や「トランスフォーマー」シリーズでビッグネームとなりました。彼は自身の会社でホラーレーベルを立ち上げていました。今まで「悪魔のいけにえ」シリーズ、「悪魔の住む家」、「ヒッチャー」のリメイクを手がけており、すばらしいリメイクで映画ファンに評価されてきました。
そんな彼をこの企画に入れることが映画のヒットに繋がるとベイと一緒に仕事をしてきたプラチナムのプロデューサーは考えたのでした。

結果、完成したのはなかなかユニークなストーリーでした。2009年版はオリジナルのリメイクではなくパート2〜5のリメイクとなったのでした。厳密に言うとパート2と3からおおくの要素を取り入れているのです。ですから、時系列的にはオリジナルの次にくるストーリーとなります。オープニングでオリジナル(ジェイソンの母親の話)が語られます。この映像は過去の映像を使い回さず、新たに撮影されています。そして20年後のクリスタルレイクに舞台は移行します。そこで、大人になったジェイソンが、クリスタルレイクにやってくる若者を襲うのです。

監督は、ミュージックビデオ出身のマーカス・ニスペルを起用します。非常に美しい映像にイメージのついていない若手俳優が登場し、オープニングはまるでミュージックビデオかCMのようです。これは、「テキサス・チャーンソー」シリーズと共通したイメージです。よくある粗悪品の続編ではないことがわかります。そして、そこから始まるストーリーは、オリジナル版「13日の金曜日」の正統な続編としての作品です。

この映画の見所は2つあります。ひとつは美しい撮影と照明です。オリジナル版もそうでしたがアモレンズを使った美しい絵作りを堪能できます。アモレンズでしか撮影できない光のフレアが効果的に使われています。もうひとつは、オープニング・シークエンスです。オリジナル版をリメイクしています。このシーンだけでも見る価値があると思います(勿論オリジナル版を見ている人に限ります)。

映画は、アメリカ公開直後に2つの記録を樹立しました。シリーズを通して、初日の興行収入がNo.1であったこと、そして週末の収入としては過去の全てのホラー映画の中で一番おおきかったのです。リメイク版「13日の金曜日」は、このように大ヒットし、世界的に大当たりしました。ご存知の通り、日本では全くやる気のない配給会社のおかげで公開されたことすら知らない方がおおいのではないでしょうか。

ホラー映画の続編=粗悪品というイメージは私も含め長年の定説になりつつありました。しかし、ベイを含むプラチナム・デューンズのプロデューサー陣は、見事にこの問題を払拭し、過去の財産に新たな息吹を吹きこむことに成功しています。このチームは、シリーズの記念すべき13作目となる続編の準備をすすめています。

そして嬉しいことに、新たな有名ホラー映画シリーズのリメイクに着手しています。それは傑作「エルム街の悪夢」です。

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告発のとき [アメリカ映画(00s)]

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In the Valley of Elah (2007)

ポール・ハギス。彼は、脚本家としてテレビ業界に入りいくつかのテレビドラマや映画のプロットライターとして活躍していました。彼の企画は一貫したテーマ性の強いもので、興行的な大ヒットや高視聴率を獲得するといった派手な結果は残しませんでしたが、各作品ともにとても力強く見た人からは肯定的な意見がおおい作家でもありました。

ハギスが世界に注目されるようになったのは、2004年に公開された「ミリオンダラー・ベイビー」からです。ハギス脚本、クリント・イーストウッド監督の重いテーマの映画は最優秀作品賞を含む4つのアカデミー賞を受賞します。2005年には、ハギス自身が監督、脚本も担当した「クラッシュ」がアカデミー最優秀作品賞を受賞します。彼は2年連続でテーマ性の強い映画でオスカーを手にすることになりました。

その後も、イーストウッド作品「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」の脚本を担当したり、007シリーズのリニューアル版「カジノ・ロワイヤル」「慰めの報酬」の脚本に参加しました。

地味な作品ですが確実にテーマのある作品を自分なりに作り続けてきたハギスは、このように注目され次回作が待たれる人物になったのです。
そのハギスが次に考えた監督作が「告発のとき」です。

この映画は実際に起こった事件をもとに脚色しています。
2003年、イラク戦争から帰還したある若い軍人リチャード・デイビスが失踪します。そして帰国したジョージア州で彼の遺体が発見されました。元軍警察に勤務していた父親ラニー・デイビスは、自らジョージア州に赴き息子の死の真相をつきとめていきます。この事件を追った書籍は「Murder in Baker Company: How Four American Soldiers Killed One Of Their Own」というタイトルでアメリカで発売されています。CBSテレビの「48 hours」でも取り上げられました。
ハギスは2004年にこの事件に迫ったプレイボーイの記事で初めて事件をしりました。そして、丁寧に事件を検証し、映画のストーリーを構築していきました。

企画当初、主役のハンク・デアフィールド(ラニー・デイビスがモデル)には、クリント・イーストウッドがキャスティングされていました。クリント・イーストウッドが主役をやるということでこの企画にグリーンライトが灯り、サミットやワーナー・インディペンデントが出資を決めます。しかし、イーストウッドは役者としてキャリアを築くつもりがないという理由で降板してしまいます。そこで新たに主役探しが始まり最終的にトミー・リー・ジョーンズがキャスティングされました。一緒に事件を追う刑事役エミリーにはシャーリーズ・セロンが決まりました。彼女がこの映画を支えていると言っていいくらい素晴らしい演技を見せています。セロンのキャリアの中でも一番彼女が光っている作品です。妻役には、スーザン・サランドンがいい味で出演しています。

この映画、面白いのは、同時期に同じ撮影場所(アルバカーキ)で撮影された「ノーカントリー」とキャストやスタッフが被っているということです。撮影はロジャー・ディーケンズ、出演者ではトミー・リー・ジョーンズ、ジョッシュ・ブローリン、バリー・コルビン、キャシー・ラムキンが両作に出演しています。

映画は、ハギスらしい強いテーマ性を持ったすばらしい作品に仕上がっています。子供を亡くした父親の苦悩、元軍人らしいもの静かでしっかりした行動など細かな描写が見事で、地味なストーリーにも関わらず見始めるとグイグイとスクリーンに引き込まれてしまいます。

この作品、アカデミー賞主演男優賞を含む数々の映画賞にノミネートされましたが、ベニス映画祭以外は受賞を逃してしまいました。

ハギスの次回監督作は2011年公開予定の「The Next Three Days」です。主役はラッセル・クロウ。殺人事件の容疑者になってしまった新婚の妻を巡るサスペンスだそうです。

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告発のとき

オリジナル・サウンドトラック「告発のとき」

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日本映画の音はなぜ聞き取りにくいのか? [映画技術]

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日本映画の映像はなぜ汚いのか?」の回は、非常におおくのアクセスをいただきました。邦画の画質の悪さを気になっている方が結構いるんだなあと改めて思い私の訴えが伝わったようで嬉しくなりました。皆さんの不満をできるだけ劇場の方や制作者に伝えてください。こういう小さな声がいつか邦画界を変える力になっていくのです。

さて、今回はご依頼のあった映画の「音」についてお話しましょう。映像ほど難しくないのでおつきあいください。

皆さんは、映画の音響についてどのくらいご存知でしょうか?たぶん聞こえているからそれでいいと思っていると思います。しかし、映画の音響は奥深いのです。
そもそも昔の映画には音がありませんでした。サイレント映画と呼ばれていた時代のことです。その頃は映画館では映像にあわせて音楽を流すか、弁士と呼ばれる人がマイクでストーリーを説明していたのです。
その後、録音技術が発達し、ついに映像と音が一緒に上映される時代が来ました。これはトーキーと呼ばれ、たくさんのお客さんが劇場に集まり音の出る映画を楽しんだのです。それから100年近くが経ち、現在では立体音響が主流となっています。

映画館には、スピーカーが10個以上設置されています。映画館に入り上映が始まる前に四方の壁を見てください。スクリーン以外の3つの壁には沢山のスピーカーが並んでいるのを見ることができます。見えませんが、スクリーンの裏には複数の巨大なスピーカーが設置されています。このように観客を囲むようにスピーカーが並んでいるのには、実はちゃんと意味があるのです。

<現代の音響システム>
「5.1チャンネル」という単語を見たことはありますか?現在、世界中の映画のほとんどは「5.1チャンネル」で音声が作られています。
5.1とはいったいなんでしょう?これは音声トラックの数なのです。わかりやすくいうと右/中央/左/右後/左後の5チャンネルと低音の6種類のトラックのことです。各チャンネルには台詞や音響、音楽などが収録されるのですが、低音はただ「ズー」という低音ノイズだけが収録されています。「ズー」という音がある/ない、そして音量が大きいか小さいかという信号のみあればいいので1チャンネル分の帯域を使う必要がなく0.1チャンネル分の容量に低音情報を入れています。なので5.1チャンネルと呼ばれています。要は映画の音声は、6個の別々の音声チャンネルが映像と同時に再生されているのです。

ここまでは理解できましたか?そうなると映画館には6個のスピーカーがあればいいということになります。実際に確認していきましょう。スクリーンの裏には大きなスピーカーが3個あります。左のスピーカーからは左の音声、中央のスピーカーからは中央の音声、右のスピーカーからは右の音声が出ます。大きな音が出るとスクリーンが揺れてしまうのでスクリーンには小さな穴が沢山あいています。
これで3チャンネルですね。車が画面右から左に走ると音も映像に会わせて右から左に移動します。皆さんお気付きの通り3つの音声チャンネルを駆使して車の移動を表現しているのです。
そして、劇場内の左側にある沢山のスピーカーと後ろの左半分のスピーカーからは左後のチャンネルに入っている音が再生されます。そして同様に劇場右側にあるすべてのスピーカーと後ろの壁にある右半分のスピーカーからは右後のチャンネルに入っている音が再生されるのです。
これにより、画面の奥から手前に飛んできた飛行機は、画面から見えなくなった後、音だけが後ろに飛んでいくという臨場感ある音響設計が可能です。スピーカーとスピーカーの間があくと音の空白地帯が生まれます。なので、スピーカーはなるべくおおく劇場に設置してどの席に座ったお客さんでも同じ音響体験ができるようにスクリーン以外の壁にはスピーカーを並べています。
このように映画の音は左右前後に移動するように作られています。
では低音スピーカーはどこにあるのでしょう。実は低音には音の指向性がないのです。なので映画館のどこかに低音を発生させるスピーカーを置いておけば良いのです。おおくの映画館はスクリーンの裏に設置されていますが、時にはスクリーンの手前にバズーカ砲のようなスピーカーを置いてお客さんに見えるようにしている映画館もあります。映画内で大爆発のときなどは、この低音スピーカーから「ズーン」という低音が発せられお腹の奥まで響き映画を盛り上げます。

では、皆さんのご自宅のテレビには何個スピーカーがついていますか?家のテレビは何チャンネル音声ですか?90%以上の方のテレビは2チャンネルのステレオ音声です。テレビからは右と左の2つの音声しか出ていないのです。映画の場合、劇場用に5.1チャンネル音声を作り、テレビ用に2チャンネル音声を作り直しています。なので、映画館でお金を払うのはもったいないからテレビ放送でいいや、とかDVDで見ればいいやと思っている方は、実は大きな勘違いをしていることになります。せっかくお金と時間をかけて作った5.1チャンネル音声を聞かずに映画を評価しているのです。

実はブルーレイやDVDには劇場用の5.1チャンネル音声が収録されています。そしてWOWOWなどのデジタル放送でも5.1チャンネル音声を放送しています。これらの5.1チャンネル音声は、テレビとは別にデコーダーと最低6個のスピーカーを家のテレビの周りに設置しないと再生できません。なので、日本の住環境を考えると家庭で5.1チャンネル再生を楽しんでいる方はとても少ないのです。

さて、音響の制作はどうなっているのでしょう?

<アメリカの場合>
映画の撮影現場にマイクを複数置いて音の移動を収録するのは不可能です。画面にマイクが写ってしまいますし、いろいろな音が撮影中にでてしまい後で使い物になりません。なので、現場では現場音を収録しています。わかりやすくいうと台詞のみ収録しています。

台詞は、ブームマイクかワイヤレスマイクで収録します。それでもうまく行かない場合はアフレコになります。インディ・ジョーンズなどは、ほとんどのセリフがアフレコです。映画を見ているとハリソン・フォードは、きちんと撮影現場でセリフを言っているように見えますが実は撮影後にスタジオでマイクの前でアフレコしています。フォードは、素晴らしい俳優というだけでなく素晴らしい声優でもあるのです。
セリフはリレコという作業で、きれいにクリーニングされ聞き取りやすい音域に調整されます。これでセリフの音声素材は完成です。

サウンドデザイナーとは、すべての音を統括するスタッフです。アメリカのアカデミー賞では音響賞を受賞する立場にある人です。サウンドデザイナーは、撮影前に映画監督やプロデューサーと映画で何を伝えたいのかについて何度も打ち合わせを行います。これが後で非常に重要になります。
そして、映画に必要な音を作って音響制作の準備をします。例えば「スターウォーズ」のレーザーガンの音は、長い電線を棒で叩いた音を録音し、それをコンピュータで加工しています。「カーズ」の車の音は、ナスカーレースに出向いて実際の車の走る音を録音しておきます。このように沢山の音のライブラリーを準備しておくのです。世界中で一番進んでいる音響制作会社はルーカスフィルムの1部門であるスカイウォーカーランチです。ここには30年以上もためてきた膨大な音声ライブラリーがあります。コンピュータ上で「Benz E 550 door」と入力すると、ベンツEシリーズのドアを閉める音がリストアップされます。そこには各年式がでてきますので、映画の中で使われている車が1996年式Eクラスの場合は、その音を選択するのです。こうやってかなり細かく音を再現します。もし、必要な音がライブラリーにない場合は、ライトセイバーの音のように新たに収録します。

サウンドデザイナーは、映画の映像にあわせひとつひとつ音をつけていくのです。これは膨大な時間が必要です。そして音楽家は、映像に会わせ音楽を作曲し、5.1チャンネルで収録します。ほとんどがオーケストラなので、大きなスタジオを借りオーケストラを入れてレコーディングを行います。

これら「セリフ」「効果音」「音楽」をひとつにまとめるのがミックス作業です。まずは、小さな部屋で音をひとつにまとめていきます。すると、セリフと音楽がぶつかってセリフが聞こえない箇所がみつかります。その場合、監督の意図に沿ってセリフを立たせたり音楽を変えたりします。このように映画全体を通して観客がストーリーを追えるように調整します。これをプリ・ミックスといい約1
ヶ月作業を行います。
次に、データを大きなスタジオに移してファイナル・ミックスを行います。このスタジオは、映画館と同じ大きさで、スクリーンも映画館と同じです。その真ん中に大きな調整卓が置いてあり、監督やプロデューサー立ち会いのもと、プリ・ミックスで作った音声を聞きながらさらに直していくのです。大きな劇場で5.1チャンネルを再生すると、小さな部屋では気づかなかった問題点が見えてきます。そして監督やプロデューサーの考えがうまく反映されていない箇所もここで直されていきます。ファイナル・ミックスにはだいたい10日ほど費やします。アメリカでは9時から5時まで働き、週末はオフです。なので、常にスタッフはリラックスして作業を行います。

完成したら、日を変えてメインスタッフで試写します。ここで問題なければ音は完成します。もしここで問題があれば、ファイナル・ミックスに戻って再調整します。

プリ・ミックスの小さな部屋、ファイナル・ミックスを行うスタジオ、最後に試写をする映画館は、どこもTHXという基準に則った仕様になっています。どこの部屋も使われている機材やスクリーン、壁の反響版、映写機などすべて企画統一されています。なので、基本的に大きさこそ違いますが同じ再生環境で行われています。

最近日本の映画館にもTHXマークがつき始めました。これは、映画制作者が制作を行った環境と同じ状態で映画を見ることができる映画館だということです。なので、同じお金を払うなら是非THXマークのついている映画館で映画を見るべきです。アメリカでは、同じ映画でもTHX映画館とそうでない映画館ではお客さんの数がかなり違います。それは、アメリカの映画ファンは音響のことを知っていてきちんと映画館を選んでいるということなのです。

<日本の場合>
さて、日本の現状です。ここ数年で日本の録音に関しては飛躍的な進歩がありました。それは長年使ってきた6mmからDAT、そしてデータ録音にメディアがアップグレードされたのです。今から10年ほど前は、皆が6mmのオープンリールテープを使ったアナログ録音を行っていました。それが、現在ではアメリカと同じデータ録音に進化したのです。この機材の急速な進歩はあたりまえなのですが、保守的な邦画制作現場ではある意味画期的な出来事です。
しかし、収録方法は相変わらずブームマイクが主流です。アメリカでもブームマイクは使いますが、現場によって臨機応変に対応しています。日本でも進歩的な録音チームは、ワイヤレスを使ったシステムを導入していますが、徒弟制度でのし上がった古いスタッフはマイク一本での集音という伝統芸に酔っています。
そして、できるだけ現場の音を収録することに命をかけています。よって、セリフと現場の音が同時に録音されてしまうため後で音の調整ができません。
これら現場で録音した音を、整音し、音声トラックにしていきます。最近ではこのプロセスもコンピュータで行われるようになってきました。しかし、音を調整する部屋はスタジオと呼べるものではなく、昔の駅前映画館といった感じです。音はこもり、スピーカーは何十年も使い続けノイズがでたりするしろものです。
さらに驚くのは、録音技師が整音を行っているのです。日本の音響を司っているのは録音技師なのでした。録音技師は、録音に長けているはずです。しかしサウンドデザインや音の演出にも秀でているのでしょうか?勿論、2つの才能を持つ人もいるでしょう。
残念ながら、日本の映画ではサウンドデザインという職種がないのです。録音さんが、録音した音のなかからOKテイクを揃えて、映像にあわせるのが主な仕事です。そこには映像をさらに魅力的にする魔術師がいないのです。テレビ局主導の映画などは、ここに効果さんを呼んで派手な効果音を足したりします。そして音楽は音楽で独自に作られはめられていきます。
ダビングと呼ばれる作業で、これら音の素材が一緒になります。ただ、数日という短時間の中で監督は、音の調整に試行錯誤することになり、当然満足のいく音作業は望めないのです。

そして映画は完成します。なぜか完成した映画はTHXシアターで全スタッフにお披露目されますが、完成までには、統一した基準となるスタジオを介さないのです。だから、日本映画の音はバラバラですし、クオリティはハリウッドに比べ劣ると言わざるを得ません。でも、この映画業界の古いシステムの中では、スタッフはがんばっています。あり得ないほど少ない予算と時間、そして劣悪な労働環境、古いスタジオの中で、よくも今のレベルまで音を作っているなあと感心します。きっとアメリカ人のスタッフが見たら作業をする前に帰ってしまうでしょう。

そんな悲しい現実が続いていますが、最近邦画の音響制作に光がさし始めてきました。ある音響制作会社が渋谷にTHX基準と同等のスタジオをオープンしました。そしてスタッフもアメリカで勉強してきた若者が集まっています。そしてサウンドデザイナーがいるのです。現在では主にアニメで使われていますが、このスタジオを利用したアニメはどの作品も素晴らしい音に仕上がっています。東宝も重い腰をあげて現在ポストプロダクション・スタジオを建設中です。果たしてアメリカ基準の音響スタジオが完成するのでしょうか?楽しみです。

長くなりましたが、映画の音について皆さんも少しは興味がわいたのではないでしょうか。
映画を音響で見るのも楽しいと思います。今度、映画館に行ったらスピーカーの位置や、そこから出てくる音のエレメントに気をつけてみてください。きっと、録音スタッフやサウンドデザイナーの心が伝わってきます。
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ホッタラケの島 遥と魔法の鏡 [アニメ]

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Oblivion Island Haruka and the Magic Mirror

今回は、日本で初めての本格的なCGアニメ「ホッタラケの島」の裏側に迫ります。
皆さんは、アニメを見ますか?子供の頃みたけど最近は見ない方、オタクっぽいアニメばかりでジブリ映画以外は見ない方がおおいのではないでしょうか。
私もそのひとりです。子供の頃はたくさんのアニメがテレビで放送され映画館でもオリジナルのアニメが公開されていました。そういうアニメを楽しみに見ていた記憶があります。しかし、最近はそういう誰もが楽しめるアニメーションが激減してしまいました。ターゲットが設定され、ほとんどが子供向けの「ポケモン」「プリキュア」みたいな作品か、オタク向けの「エヴァ」などかなりマーケットは小さくなってしまいました。そんななか唯一全ターゲットに向け受けているのがジブリアニメでしょう。

何故オールターゲット向けアニメが制作されなくなったのでしょうか。まずは、その問題から探っていきましょう。
答えは簡単です。四半期ごとの利益を出さねばならない会社の論理が横行しているからです。目の前に数万人の子供ターゲットがある場合、おもちゃメーカーはその子供たち向けにアニメを制作すれば言い訳です。どれだけヒットするかわからない制作費のかかるアニメを作るくらいだったら、確実におもちゃを買ってくれるターゲットに向け安価なアニメを作ればそれで利益が出ます。オタク向けアニメも一緒です。現在オタク向けアニメ市場は数億円と決まっています。そこに向けて低予算でアニメを作れば、確実に売れる本数が算出できるので、利益確保ができるのです。こうなると、ある一定のマーケットに向け、彼らが喜ぶ作品を作っていれば一定の利益が上がり、株主への報告が楽になるのです。こうして、アニメはどんどんニッチ化していったのです。もちろん、こういうニッチ化していったアニメ作品の中にはすばらしい作品がたくさんあります。埋もれているといっても過言ではありません。すばらしい作品でありながら、おおくの視聴者はそれに見向きもしなくなってしまいました。典型的な負のスパイラル現象です。

ちょっと暗い話になってしまいました。ではなぜジブリだけがオールターゲットのアニメを作れるのでしょう。そこにはわかりやすい理由があったのです。皆さんもよくご存知のプロデューサー鈴木氏は、ジブリを率い自分たちの作りたいアニメを作り続けているだけなのです。そう、そこにはマーケティングという言葉は存在せず、四半期毎の売り上げ目標も存在しないのです。ジブリにあるのは、自分たちの作りたい映画を作るというシンプルな考え方なのです。
そうはいっても、会社は維持しなければなりません。鈴木氏の苦労はそこにあるのです。宮崎氏をはじめ優秀なクリエイターが仕事をしやすい環境を作りながらきちんと利益を上げ、クリエイターに還元しなければなりません。鈴木氏は、出資各社の無理難題を抑えながら映画をヒットさせるという非常に難しいミッションを毎作品成功させているのです。ジブリ映画はなんでも当たると思っている方もおおいですが、裏側はそうではなく1作品毎が背水の陣なのです。

こう考えると、一般向けの映画をヒットさせることはとても難しいことだというのがわかってきます。これは実写も同じことです。特にオリジナルの作品をヒットに導くのはとても大変なことなのです。だから映画会社やテレビ局は、テレビドラマや有名原作の映画化という方向にシフトしてしまいました。
ここまでくると、いかにオリジナルのアニメ作品を作るのがビジネス的にリスキーなのかは理解していただけると思います。

さて、「ホッタラケの島 遥と魔法の鏡」です。
フジテレビとプロダクションI.Gは、このリスクの高いアニメ制作に乗り出しました。それは今から5年も前のお話です。フジテレビ上層部は、ジブリ映画のような安定したヒットアニメを作りたいという野望がありました。プロダクションI.Gは、オタクにしか受けないハイクオリティなアニメだけではなく、ファミリー層にも訴えかける作品作りを模索していました。そこでこの2社が共同でアニメ制作会社を設立し新しいアニメ制作に乗り出したのです。

この企画のはじめはひとりの監督とひとりのプロデューサーです。たった二人で始めたのは、まず面白いストーリーを作ることでした。自分たちが見て楽しめるアニメ映画を作ろうということで試行錯誤が続きます。そこに合流したのが有名作家、乙一氏でした。この3人が意見を交換して出来上がったのが「千の扉」というオリジナルストーリーです。このストーリーはダークファンタジーでどちらかというとティム・バートン作品のようでした。このプロジェクトにI.Gサイドから投入されたのがJINCO氏です。彼女は作品を一気に明るくしタイトルを「ホッタラケの島」にしたほうが良いと提案しました。こうして4人の共同作業で完成した脚本は、誰が見ても楽しめるエンターテイメント作品に仕上がったのです。

そして、いよいよ映像制作です。はじめはピクサーのようなルックにしようと動いたのですが、いくらがんばってもピクサーを超えることはできません。さらにプロデューサーは、日本アニメっぽさを残したいと譲りませんでした。そこでI.Gは、全く新しいCGアニメの質感を開発するはめになります。何度トライしても納得いく映像が完成しません。途中で何度も頓挫しかけ、おおくのスタッフが現場を去っていきました。最後までこの難関を諦めずがんばったのは監督とアニメーション監督の二人でした。彼らは何度も失敗し、経験し、最終的なルックを勝ち取ります。そしていよいよアニメーションの制作が始まりました。この頃になると、映像のすばらしさを誰もが認識するようになり、フジテレビ上層部は08年06月に驚くべき提案をすることになります。それは、フジテレビ50周年作品に格上げするということでした。スタッフは自分たちの仕事が評価されたと思う反面複雑な心境でした。それは、完成時期を約半年前倒す必要に迫られたのです。アニメというものは、ほど手作業で作り上げられます。よって、予定通りのスケジュールだと09年08月公開に間に合いません。

ここで投入されたのが、スケジュール進行の鬼、アニメーションプロデューサーです。彼はスタッフ全員を敵に回し、まずストーリーを90分に削る作業を行いました。ここで、実は映画の伏線がそぎ落とされてしまいました。キャラクター設定も変更が行われました。そうしないと映画の完成が遅れてしまうのは明白でした。これはスタッフ誰もが同じ思いで行った辛い決断でした。

そして約1年。ほぼ徹夜状態が続いて映画は7月31日に完成します。アニメーション監督の体重は13Kgも落ちてしまいました。その間には実は身内の不幸などもあったのですが、それを乗り越えての完成です。

映画の出来映えですが、こんな裏話があったのは嘘のように楽しいエンターテイメント作品に仕上がっています。ついに日本オリジナルのCGアニメが完成したことは誰が見てもわかります。今後の日本アニメーションの方向性を大きく変える作品となることは間違いありません。

さて、今後です。この映画はオリジナルのアニメーションです。大ヒットするかどうかは微妙です。そうなると、企業は利益にならないと思いアニメ事業から撤退するでしょう。せっかく5年の歳月をかけ、沢山のスタッフの汗と涙を吸い込んだ名作があるのに、このようなファミリーエンターテイメント作品は今後作られない可能性が高いのが現状です。

「ホッタラケの島」のような高い志をもった作品をこれからも作り続ける環境を維持するために、ひとりでもおおくの人が劇場でお金を払うことが将来の日本のアニメ産業、子供たちへのGIFTになることを忘れないでください。

<リンク>
http://www.hottarake.jp/index.html
http://www.apple.com/jp/trailers/toho/hottarake/

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