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ピクサー  1/3 [映画会社]

Pixar Animation Studios

今回は、映画スタジオ・シリーズ第2弾。CGアニメで有名な「ピクサー」です。
このピクサースタジオを3回に分けてリポートします。

まず、第一回は、ピクサー苦難の歴史についてです。既に書いてきましたが、このスタジオは、かつて「スターウォーズ」のジョージ・ルーカスが所有していました。エドウィン・キャトウィルというニューヨーク工科大の学生が研究していたコンピュータを使った映像制作技術に目をつけたルーカスが1979年にキャトウィルを招きルーカスフィルム内にこの工房を作りました。

当時はPCで線を書くのすら大変だったのですが、キャトウィル達は地道にハードとソフトを開発し、80年代に入ると遂に実用化できるまでCGIを完成させます。今では個人レベルでCG制作ソフトを買えるようになりましたが、当時は数十億円という投資をしてやっと数秒のCGを作るのがやっとでした。ルーカスフィルムは、このCG技術を「ヤング・インディ・ジョーンズ」で利用し成功を収めていきます。しかし、映画をCGで作るにはまだ技術力がありませんでした。スターウォーズの「ジェダイの帰還」の制作が終わる頃には、ルーカスは次回作でCGを使う事を宣言していました。しかしその頃、この言葉を信じる人は誰もいませんでした。CG技術は未来の夢だったのです。

丁度、その頃、ルーカスは離婚を経験します。アメリカでは、離婚の際、相手側にそれなりの慰謝料を支払います。「スターウォーズ」で成功したルーカスには莫大な財産が入ってきており、今まで築いてきたルーカスフィルムのいくつかの部門を売って妻に慰謝料を支払うしか方法がありませんでした。そこで、ルーカスは泣く泣く、このCGアニメ部門を手放す事にします。この選択は、仕方がないことでした。「ジェダイの帰還」の制作が終わり、ルーカスフィルムの各部門は成功していました。ILMは、世界最大のSFX会社として成長を続けていました。スカイウォーカーサウンドは、素晴らしい音源を持ち、世界の映画音響を変えました。THXは、世界中の映画館をリノベーションしました。これらの部門は映画界と切り離す事のできない重要な使命を持っていたのです。

赤字経営で、いつ黒字になるのかわからない部門は、CG部門しかなく、ルーカスから売りに出されます。これを買ったのが、アップル・コンピュータを追い出されたスティーブ・ジョブスです。彼は、自分で雇い入れたジョン・スカリーから仕事をおわれ、退職金を受け取り、次の夢を探していた時でした。ジョブスは、ちゃんと根切り、ルーカスが提示した額よりかなり安いUS$5 millionで買い取りました。

このCG部門を、ジョブスはピクサーと名付けます。この頃は、ディズニーから優秀なアニメーター、ジョン・ラセターが加わり、CGアニメの未来が実現化しつつあったのです。しかし、ジョブスはピクサーをアップルに変わる新しいPC会社にするつもりでした。というのも、ピクサーはCGアニメを作るためにパワーのあるコンピューターと、CGアニメを作るためのソフトを開発していたからです。アニメに興味のないジョブスには、この会社は、ただのPC会社にしか見えなかったのです。

ジョブスは、すぐに営業部門を作り、積極的にこの「アニメを作る事しかできない」PCとソフトを売り歩きました。それもかなり高価なPCです。営業マンの優秀なくどき文句で、いくつかの国家機関がこのPCを購入してくれましたが、当然、世界規模で売れる訳はありません。この事業はすぐに立ち行かなくなってしまいます。

営業成績が芳しくなく、開発費は膨大で、ピクサーは明らかに赤字企業でした。せっかく沢山貰ったアップルからの退職金は、どんどん減っていき、生涯贅沢な暮らしができると思っていたジョブスは焦り始めます。そこで、ジョブスは、ピクサーのリストラをはじめます。まずは、意味のないCGアニメを作っているスタッフの解雇を提案します。スタッフは慌てます。この会社はCGアニメを作る事を夢見て集まった人たちが支えていました。解雇者リストには、後に「トイストーリー」を監督するラセターも含まれていました。キャトウィルは、必死でジョブスをなだめる毎日が続きました。

丁度時を同じくして、長い長い研究開発が実り、遂にピクサーは、アニメを完成させます。それはライトが動く短いCGアニメでした。ラセターが中心となって開発してきた機材が完成し、同時に短編アニメを作れるようになったのです。その短編がいきなりアカデミー賞などで短編賞を受賞し始めます。そして、あのディズニーから長編アニメの制作依頼が来るのです。

ディズニーからアニメ制作のオファーが来るなんて思っても見なかったジョブスは、180度考えを変え、すぐに契約を結び映画の製作に入ります。この後、映画なんて作った事のないジョブスは、相変わらず妨害をしていくのですが、キャトウィル達の懸命な説得工作により、ジョン・ラセターが中心となり素晴らしい長編CGアニメが完成します。

この「トイストーリー」、CGは勿論素晴らしいのですが、それよりもストーリーがしっかりしていて、アニメだろうが実写だろうが十分ヒットする要素を盛り込んでいました。そして素晴らしい声優陣、素晴らしい音楽と相まり、世界中で大ヒットしました。

「トイストーリー」のヒットパーティに登壇したのは、スティーブ・ジョブスだったというのは、後の笑い話になっています。

次回は、関係者以外入れないピクサースタジオの内部を紹介します。

<ピクサーのDVDを購入>
トイ・ストーリー

ファインディング・ニモ

トイ・ストーリー2

モンスターズ・インク

Mr.インクレディブル

バグズ・ライフ

ディズニー・ピクサー DVDコレクション


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コメント 18

堀越ヨッシー

興味深い話で勉強になります。次回も楽しみにしてます!。
by 堀越ヨッシー (2006-06-16 12:20) 

CGが世の中に登場する以前は経営が大変だことがよくわかります。
今ではCGの出来がいいのは記事のような背景があるからでしょう。
裏側の歴史がわかると、CGを見る眼が変わります。
by (2006-06-16 20:41) 

coco030705

こんばんは。
CGの開発というのも、大変な努力の歴史があるのですね。
去年は「Mr.インクレディブル」を見ました。よくできてました。
お話の続き、楽しみにしています。
by coco030705 (2006-06-16 22:01) 

DSilberling

ヨッシーさん、nekoさん、cocoさん、こんにちは。CGは、長い年月をかけて開発されたものなんですね。我々は簡単にCGっぽいとか言っていますが、裏では大変な努力があるのです。

ピクサーの新作は、久々ラセターが監督した「カーズ」です。今年の夏は「ゲド戦記」「ブレイブストーリー」と並び大作アニメラッシュです。楽しみですね。
by DSilberling (2006-06-16 22:26) 

クロロ

…そういえば、ルーカスの支払った慰謝料は、当時のハリウッド界でも飛びぬけて高額だったと、聞いております
(その後“記録”は更新されているのでしょうか?(^^;)…ついでながらスピルバーグがK・キャプショーと結婚するときに、『離婚するときは○ドル←ケタは想像がつきません-払う』という契約をしたような気もしますが…)
慰謝料で映画を作れなくなる危機を抱えていたルーカス…売れなくて優秀な社員をリストラしようとしていたジョブス…二人とも、乗り越えられてよかったです!
by クロロ (2006-06-17 20:07) 

サダー

電気スタンドのアニメ。
白いバックの絵のシンプルさがなにやらアップルっぽい感じしますね。
しかも自然な動きでちゃんと演技しているのでびっくりした覚えがあります。

いきなりアレはすごい!!
by サダー (2006-06-18 00:50) 

DSilberling

クロロさん、こんにちは。偉人は、陰ながら苦労しているもんですね。二人共に、苦難を乗り越えカリスマ性を身につけていきましたね。
by DSilberling (2006-06-18 01:05) 

DSilberling

サダーさん、こんにちは。
ピクサーの短編アニメは必ず実験を行っています。「ルクソーJr.」は光の映り込みの実験ですね。長編アニメの前についている短編も、後の長編のための実験です。
by DSilberling (2006-06-18 01:07) 

TaekoLovesParis

Silberlingさん、PIXARの話、待ってましたぁ。
トイ・ストーリーを見たとき、最初に、PIXARの字が、さいころのように
一文字、一文字が回転する、かわいくてセンスいい!と感心して、
PIXARという会社名を覚えました。
こういう経緯があったんですね。
トイ・ストーリーはキャラがかわいいので、フィギュアを集めたりしました。
ウッディよりもポテトヘッドがお気に入りでした。
by TaekoLovesParis (2006-06-18 08:32) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。
私もピクサーのキャラ大好きです。現在「トイストーリー3」の製作中です。「トイストーリー」の続編を作る権利はディズニーにあったため、ピクサーと揉めた際、ディズニーは、ピクサー抜きで制作を進めました。しかし、今回の合併劇で、監督はラせターとなりました。ファンにとってつまらない続編ができなくてほっとしています。
by DSilberling (2006-06-18 08:55) 

今回も楽しみです。
成功は一筋では行かない努力のたまもの、報われなかった努力もたくさんあるはず。
離婚で売却とはなんとも悲しい話ですね。。
by (2006-06-19 22:38) 

DSilberling

Ikesanさん、こんにちは。そうですね。お金持ちは離婚するにも大変ですね。でも風邪が吹くと桶屋が儲かるみたいで、ルーカスの離婚がディズニーの復興に繋がるなんて誰も思ってはいませんでしたね。
by DSilberling (2006-06-21 22:33) 

KANAchanMaMa

こちらは 「宝箱」のようですね♪ ひとまず 「PIXAR」ネタを 読ませていただき
ます~☆
今夏は「カーズ」を 劇場で観ましたが、短編『OneManBand』も 上等な
仕上がりで とても楽しめました~!(*^^)v
私は、初期の短編『Red'sDream』(一輪車が妄想する話♪)が 大好きデス!
(↑「iTunes」で オンライン購入しました♪)
ジョン・ラセターが リストラ・リストに挙がっていた!…というエピソードも、
“成功は 一筋縄では いかない”を 如実に物語る逸話で、とても興味深く 拝読
しました。
面白過ぎて(!!)、私は一体、いつ こちらから退散できるでしょ~!?(ーー;)
by KANAchanMaMa (2006-08-12 12:47) 

DSilberling

KANAchanさん、こんにちは。喜んでいただきうれしいです。
これからもよろしくお願いします。
by DSilberling (2006-08-12 23:51) 

TaekoLovesParis

DSilberlingさん、こんばんは。
「ピクサー展」と映画「カーズ」を見たので、簡単ですが、ブログにしました。
ピクサーの説明は、私が書くより、ここを読んでいただくのが一番と思い、
リンクをつけさせていただきました。事後承諾ですみません。
by TaekoLovesParis (2006-08-20 19:16) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。了解です。今後も宜しくお願いします。
by DSilberling (2006-08-21 00:28) 

nyanco

初めまして。nyancoと申します。
ピクサーの前身団体がルーカスフィルムであったことは知っていたのですが、ルーカスの離婚問題が原因でこのCG部門を売りに出していたとは知らなかったです。。^^;
今ではすっかり有名なピクサーですが、初期の立ち上げの頃は大変な苦労があったのですね。。
ピクサーのリポートとても面白かったです!
私も最近の「レミーのおいしいレストラン」に触発されて、ピクサーの初期の頃の作品、短編映画についてのレビューを書きました。
もし、お時間があったらぜひ遊びにきてください。
(TBさせて頂いたのですが、反映されなかったようなので、また折を見てTBさせてください。)
by nyanco (2007-08-28 14:49) 

메이저토토사이트

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