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カンヌ映画祭 [映画賞・映画祭]

  今回は、カンヌ映画祭です。
  名前だけはご存知の方でも、いったいカンヌ映画祭とは何なのか、はっきりと認識している人はあまりいないのではないでしょうか。今回は「いまさら聞けないカンヌ」についてです。

  カンヌ映画祭は、1946年から続く歴史のある映画祭のひとつで、世界3大映画祭にあげられます(他の2つは説により異なりますが、カンヌは必ず含まれます)。おそらく世界で一番注目される映画祭です。

  開催場所は、フランス、コート・ダ・ジュールのほぼ中央に位置するカンヌ。よく熱海に例える人がいますが、街の大きさや地理は結構似ています。勿論雰囲気はまるで違います。
  カンヌは、昔から夏の観光地として栄えた街ですが、今ではすっかり映画の街というイメージが定着しています。しかし、映画祭のシーズンでも映画に関係なく観光客は押し寄せ、ホテルはどこも満杯です。映画祭シーズンのホテルレートは高騰し、しかも数日間のパックでしか部屋を予約できなくなるのです。それほど大量の人が街の外から押し寄せますし、この時期に1年分の商売をしてしまおうと思うホテルやレストランがかなりあります。

  映画祭は、街の南部、海岸とヨットハーバーに挟まれた"パレ"という建物で行われます。ここでは、毎年映画祭に選考された映画が数十本上映され、審査員がこの中から優秀作品を決めるのです。このコンペで、最も優秀な作品に送られるのが「パルム・ドール」です。これが「コンペ」と呼ばれるもので、選考された作品は毎晩7時頃に上映会が行われます。この上映会には映画に関わったキャストやスタッフが登場し、赤絨毯を歩くのです。そして、このレッドカーペットを歩く有名人を一目見ようとおおくの映画ファンが世界中から押し寄せます。皆さんがテレビなどで見るカンヌ映画祭は、この夜の上映会直前のレッドカーペットですね。
  誰もがレッドカーペットを歩けるわけではなく、映画祭に選考された作品お関係者という非常に限られた人のみが、世界が注目する赤い絨毯を踏む事が出来るのです。これは、とても華やかで、ヨーロッパ文化の香りがします。
  このレッド・カーペットのセレモニーは、登場回数を重ねると、ステータスが上がっていくのがわかります。何度も官映画祭に招聘される有名人は、特別扱いされ、複数人で歩く場合は、まるでサミットのように、自分がどこのポジションをとるのか、さりげない駆け引きが行われたりします。昨年、木村拓哉は、「2046」でこのレッドカーペットを歩きましたが、初めてだったので、センターのポジションは確保できず、終始端に追いやられていたのは印象的でした。
    ちなみに今年の審査員は、審査委員長にウォン・カーワィ、審査員は、ヘレナ・ボナム=カーター、チャン・ツィイー、モニカ・ベルッチ、サミュエル・L・ジャクソン、ティム・ロスなどです。

  映画祭は、この華やかなコンペとは別にいくつか部門が設定されています。例えば「Out of Competition」と呼ばれる部門では、コンペには入らなかったのですが、様々な理由で上映される作品群です。今年でいうとオープニング作品の「ダ・ヴィンチ・コード」はこれにあたります。話題作がおおいようです。

  その他、審査員特別賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、カメラドール(新人監督賞)、審査員賞、国際批評家賞などが、それぞれの作品の中から決定されます。

  毎年、カンヌ映画祭で上映される作品は30本程度です。この狭き門を目指し、世界中から沢山の映画がエントリーします。これを選考するのが映画祭ディレクターです。ディレクターは地域毎にいて、それぞれが毎年1月頃に地域をまわり映画を選考します。日本では、毎年2月頃にフランスから選考委員が訪れ、沢山の日本映画を見て、カンヌ映画祭にふさわしい作品を探すのです。よって、このディレクターの性格や嗜好が選考におおきく影響します。しかし、基本的には商業性の強い作品は排除される傾向にあります。逆にいうと「カンヌ映画祭」でパルム・ドールを受賞したからといって商業的にヒットする訳ではありません。このあたりは「アカデミー賞」とおおきく異なる点です。

  

  カンヌ映画祭と併設される形で実は、映画のマーケットも開かれています。こちら「カンヌ映画マーケット」も世界3大マーケットのひとつと呼ばれています。

  マーケットは、まさに市場で、世界中の映画製作者が、自分たちの作った映画を持ち寄り(セラー)、それを世界中の配給会社が買いにくる(バイヤー)のです。パレの1階には広大なスペースがあり、そこに数百のセラーがブースを構えます。これが市場です。そこにバイヤーが押し寄せ商談するのです。
  今年は、セラーとして日本からポニーキャニオン(最大)、TBS 、角川映画、日活、松竹、東映、東宝がブースを設けていました。ポニーキャニオンはフジテレビ作品を中心にかなりの作品数を扱っていました。TBSは、「日本沈没」を中心にいくつかの作品をがんばって売っていました。バイヤーとしては、相変わらず底引き網漁を行うGAGA、ポニーキャニオン、松竹。などかなりの日本人が押し寄せていました。

  ここで商いされているのは、完成された映画と映画の企画です。
  完成作品は、パレの中にある映画館やカンヌの街にある映画館で上映されます。その数は1日で50本程度、期間にすると数百作品が上映されている事になります。バイヤーは。上映リストを事前に入手し、お目当ての映画を探します。そして上映される日と映画館を見つけ、身に行くのです。見て面白いと思ったら、すぐにマーケット内のセラーブースに足を運び、料金交渉をはじめます。
  未完成作品は、ブースで企画書を見せてもらうか、ちょっとしたプロモーション映像をDVDで入手したりします。撮影中の作品は、未編集フィルムを10分程度、映画館で上映したりします。それを見て、購入するか見極めるのです。

  未完成作品は、映画の完成版を見る事が出来ないので、リスクがあります。しかし、良い作品は早く売れるので、最近は企画段階で売り買いされる作品が増えてきています。「ロード・オブ・ザ・リング」は、企画段階でセラーのニューラインから、バイヤーの松竹/日本へラルドが日本での権利を取得し、大成功しました。逆に、ここでの失敗例は沢山あり、映画興行がいかにリスキービジネスか毎年思い知らされます。

  ここ数年で、映画マーケットはおおきく様変わりしています。まず、マーケットに集まるセラーには、メジャースタジオが含まれません。要はユニバーサルやワーナーブラザースのように、世界中に自社の配給網を持つ会社は、マーケットを必要としないのです。ここ数年で、マーケットにブースを出すミニメジャー(ミラマックスやニューラインなど)が次々とメジャースタジオに買収されてしまい、面白い映画がマーケットに入ってこなくなってしまいました。これにより、折角カンヌまで来て、面白い企画を探しても、それほど良い作品は見当たらないのです。さらに、日本国内の事情でいうと、あまりにも沢山のバイヤーが参加しているので、日本人同士で作品の値段をつり上げてしまい、やっと権利を購入しても、購入価格が高すぎて、日本で大ヒットさせないと利益が上がらないという悪循環を作ってしまいました。これにより、最近ではおおくのバイヤーが倒産したり撤退を余儀なくされています。

  カンヌには、映画祭関係者、そしてそれより遥かにおおいマーケット関係者、そして映画祭には直接関係のない映画ファン(彼らは映画を見る事はできません)、そしてさらに映画には全く興味のない観光客が混ざり合い、さらにお祭りムードがヒートアップします。
  華やかな映画祭、そこに集まる華やかな人々。しかし、そこには激しい競争が見え隠れします。そしてメジャースタジオが参加せず盛り上がりに欠けるマーケット。今回はそんな、お祭の光と影をお伝えしました。


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coco030705

こんにちは。
まさに、カンヌ映画祭に行っているような錯覚におちいるほど、カンヌの様子が
生き生きと詳細におもしろく語られていましたね。楽しかったです。
>「カンヌ映画祭」でパルム・ドールを受賞したからといって商業的にヒットする訳ではありません。
なるほどと思います。映画はこの兼ね合いがむずかしいところですよね。
それから、映画ファンは映画を見ることができないというのも、初めて知りました。DSilberling さんならではの記事を堪能させていただきました。(^^)
by coco030705 (2006-05-24 18:10) 

カンヌ映画祭のことが細かく書かれているので良い勉強になりました。
レッドカーペット、完成された映画などの商い・・・テレビで見る限りは分からないことばかりです。
毎日、相当数の映画上映されますが、審査員は、連日作品を見ているということなのでしょうか?
見るだけで疲れそうですね・・・
by (2006-05-24 19:18) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。
そうなんですよね。カンヌでグランプリとっても映画自体が赤字になるのは良くある事です。
でも、カンヌはきちんとした基準で映画を評価しているので、それ事態は素晴らしいです。
日本では、マスコミが外電からの中途半端な情報を報道する事と、日本が絡むと感情的になるので、カンヌが理由もなく「なんとなく凄い」と思われているようです。
by DSilberling (2006-05-24 19:40) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。審査員は、選考された作品(コンペ)は全作品見ますが、そんなに沢山はありません。全部で10本程度でしょうか。その他のいくつかの部門と併せその他の賞を決めますが、全作品あわせても見られる範囲です。
それより、大変なのはバイヤーです。私もかつて経験がありますが、朝の8時頃から深夜まで、スケジュールを見ながら映画を見続けるんです。おそらく平均的なバイヤーは期間中20本くらい映画を見るのではないでしょうか。
by DSilberling (2006-05-24 19:43) 

Naka

華やかな面しか見ていませんでしたが、
裏にはシビアな世界があるのですね。
映画マーケットでの上映作品数にもびっくりです。
バイヤーさんのご苦労を考えると、
「映画館に行こう!」と思いました(^^。
by Naka (2006-05-24 22:45) 

DSilberling

Nakaさん、こんにちは。そうなんですね。日本で公開される映画(メジャースタジオ以外)は、このようなマーケットで売り買いされているんです。だから実は日本に入ってこない映画は沢山あります。その中には面白い作品が隠されてあったりもするんです。私は、こういう日本に入ってこない作品はDVDを輸入して楽しんでいます。
by DSilberling (2006-05-24 23:04) 

KITAMOTO

こんにちは。
カンヌ映画祭って、やっぱり華やかなんですね〜。
皆さん仕事ですけど羨ましいです。

広告の世界では『カンヌ広告祭』があります。
世界中の広告が集まります。広告媒体でジャンル分けされ、
その中で金賞・銀賞・銅賞が決められるのです。
来年、カンヌのヤングクリエイティブコンペに出場するため
日本代表を決める選考会に、会社代表で参加する予定です。
コンペとは、世界各国の28歳以下の広告制作者が2人1組で、
提示されたテーマに対し24時間以内に広告を作るというものです。

来年、がんばってカンヌに行きたいと思います。
by KITAMOTO (2006-05-25 13:22) 

サダー

こういう仕組みで配給とかが決まっていくのですね。

ニホンのマンガの実写版にアジアからオファー殺到という記事が出てました。
当たっても外れても大きい世界だということが良くわかりました。
それだけに小さいスタジオでもやりがいはあるんでしょうね。
by サダー (2006-05-25 23:06) 

DSilberling

KITAMOTOさん、こんにちは。カンヌに行った人たちは「大変だった」と口を揃えて言いますが、実は、カンヌの楽しみを人に教えたがらないから、という説があります。来年、時間があれば、是非仕事の後、数日間カンヌとその近郊に行ってみてください。素晴らしい場所ですよ。
by DSilberling (2006-05-25 23:24) 

DSilberling

サダーさん、こんにちは。日本の漫画は、既に翻訳されて海外で読まれているので、映画版も安心して購入されているのではないでしょうか。
かつて、小さなホラー映画製作会社だったニューラインは、できたばかりのGAGAと包括契約を結んで、日本に映画を供給していました。そんなニューラインは、「マスク」「セブン」とヒット作を連発し、同時にGAGAも大きくなったという歴史があります。しかし、ニューラインは現在ディズニーの傘下に入り、GAGAは、独自に作品を探す事になり、苦しんでいます。
華やかな映画業界の裏には、こんなできごとが起こっているんですね。
by DSilberling (2006-05-25 23:27) 

hanae

もうすぐ今年のカンヌの発表ですね。
そちこちで、授賞式までの記事を載せていますが、
ここのサイトは、映画館ではみられない角度の写真があるんです。もうすこし、コメントと言うか、ブログとかが充実していれば言うことないんですが・・・
http://www.afpbb.com/index.php?module=Feature&action=Index&feature_id=1
by hanae (2006-05-28 15:18) 

とても楽しく記事を拝見しました。こだわりと文化的先進を自認するのフランスならでは、賞のような感じがします。
by (2006-06-04 13:48) 

TaekoLovesParis

Silberlingさん、こんにちは。
カンヌ映画祭のことは、外務省関係で作品を見てまわった友達からきいていましたが、お金に関係ない立場の彼女と、映画関係者のSilberling さんとは視点が違っておもしろかったです。実に熾烈な買い付けの場なんですね。各人が会社の命運を背負ってるだけに、きっと胃の痛くなる思いでしょう。
by TaekoLovesParis (2006-06-04 15:10) 

DSilberling

hanaeさん、こんにちは。今回の受賞作、渋かったですねえ。はたして日本で公開されるのでしょうか?今年は「ダヴィンチ」の宣伝で終わってしまいましたね。

lkesanさん、こんにちは。そうですねえ。フランスらしい映画祭です。とても派手で、階級意識が強くて。こういうローカル色の強い映画祭は、これからも良い意味で強いですね。
by DSilberling (2006-06-04 19:59) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。最近、国や地方自治体の方々が映画に興味を持ち、いろいろと業界と関係を築きたがりますが、実際は全く意味がないです。カンヌでも税金の無駄としか言いようのないイベントをしていました。民間で十分儲かっている職業に税金を投入するのはどうなんでしょう。韓国政府のように長期的ビジョンで産業を支援している訳でもないですしね。
by DSilberling (2006-06-04 20:48) 

TaekoLovesParis

Silberlingさん、たしかにそのとおりですね。
by TaekoLovesParis (2006-06-04 21:52) 

クロロ

「映画祭」と聞くと楽しいばかりのようですが、商品売買の場となると厳しい世界ですね…最近GAGAに元気が無い理由が、思わぬところで分かってしまって少々さびしい気分です
「日本沈没」はどこの国に売れたのでしょうか?
「日本が(というよりは秋葉原が)沈没する前に、行っておこう!!」と、観光客が増えてくれるといいかも…(笑)
by クロロ (2006-06-10 12:18) 

DSilberling

クロロさん、こんにちは。
  映画マーケットに来る人たちは、自国で利益をあげられないと思うと完全に無視します。残念ながら「日本沈没」は、日本では当たるでしょうが、外国では厳しいので、あまり売れなかったようです。
  確かに主役達は日本でしか知名度ないですし、演技が素晴らしいわけでもありません。ストーリーもなんだかよくわからないですし、日本が沈没しようが外国の人にとっては、どうでもいいことですから。
  それよりも、出演者や宣伝抜きに面白い映画が評価され売れているんです。例えば、塚本晋也監督作品などは、とても人気があります。彼はベネチア映画祭の審査員にもなっている程ですが、日本では逆に全くしられていないんです。
by DSilberling (2006-06-10 16:00) 

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