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第83回アカデミー賞ノミネート発表 [映画賞・映画祭]

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◆◆作品賞・Best motion picture of the year◆◆
『ブラック・スワン』
『ザ・ファイター』
『インセプション』
『キッズ・オールライト』
『英国王のスピーチ』
『127時間』
『ソーシャル・ネットワーク』
『トイ・ストーリー3』
『トゥルー・グリット』
『Winter's Bone』(原題)
今年もノミネートが10作品です。今年はどれがとってもおかしくないです。

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◆◆監督賞・Achievement in directing◆◆
ダーレン・アロノフスキー(『ブラック・スワン』)
デヴィッド・O・ラッセル(『ザ・ファイター』)
トム・フーパー(『英国王のスピーチ』)
デヴィッド・フィンチャー(『ソーシャル・ネットワーク』)
ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン(『トゥルー・グリット』)
監督賞は、誰がとってもおかしくないです。それぞれが非常にレベルの高い演出をしました。個人的にはコーエン兄弟に取ってほしいですが、トム・フーパーあたりが有力なのではないでしょうか。

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◆◆主演男優賞・Performance by an actor in a leading role◆◆
ハビエル・バルデム(『Biutiful ビューティフル』)
ジェフ・ブリッジス(『トゥルー・グリット』)
ジェシー・アイゼンバーグ(『ソーシャル・ネットワーク』)
コリン・ファース(『英国王のスピーチ』)
ジェームズ・フランコ(『127時間』)
コリン・ファースが有力です。

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◆◆主演女優賞・Performance by an actress in a leading role◆◆
アネット・ベニング(『キッズ・オールライト』)
ニコール・キッドマン(『Rabbit Hole』(原題))
ジェニファー・ローレンス(『Winter's Bone』(原題))
ナタリー・ポートマン(『ブラック・スワン』)
ミシェル・ウィリアムズ(『ブルーバレンタイン』)
妊娠中のナタリー・ポートマン、受賞なるか?

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◆◆助演男優賞・Performance by an actor in a supporting role◆◆
クリスチャン・ベイル(『ザ・ファイター』)
ジョン・ホークス(『Winter's Bone』(原題))
ジェレミー・レナー(『ザ・タウン』)
マーク・ラファロ(『キッズ・オールライト』)
ジェフリー・ラッシュ(『英国王のスピーチ』)
今年、一番気になる賞です。助演がいて映画が引き立つ作品ばかりノミネートされています。

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◆◆助演女優賞・Performance by an actress in a supporting role◆◆
エイミー・アダムス(『ザ・ファイター』)
ヘレナ・ボナム=カーター(『英国王のスピーチ』)
メリッサ・レオ(『ザ・ファイター』)
ヘイリー・スタインフェルド(『トゥルー・グリット』)
ジャッキー・ウィーヴァー(『Animal Kingdom』(原題))
誰がとってもいいですね。個人的にはヘイリー・スタインフェルドに取って欲しいです。

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◆◆優秀アニメ作品・Best animated feature film of the year◆◆
『ヒックとドラゴン』
『イリュージョニスト』
『トイ・ストーリー3』
大ヒットした「トイ・ストーリー3」でしょう。

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◆◆最優秀外国語映画賞・Best foreign language film of the year◆◆
『Biutiful ビューティフル』(メキシコ)
『Dogtooth』(原題)(ギリシャ)
『In a Better World』(原題)(デンマーク)
『Incendies』(原題)(カナダ)
『Hors La Loi』(原題)(アルジェリア)

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◆◆長編ドキュメンタリー賞◆◆
『Exit Through the Gift Shop』(原題)
『ガスランド 〜アメリカ 水汚染の実態〜』
『Inside Job』(原題)
『レストレポ アフガニスタンで戦う兵士たちの記録』
『ヴィック・ムニーズ ごみアートの奇跡』

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◆◆オリジナル脚本賞・Original screenplay◆◆
『Another Year』(原題)
『ザ・ファイター』
『インセプション』
『キッズ・オールライト』
『英国王のスピーチ』
最有力は「英国王のスピーチ」ですが、「インセプション」の脚本が素晴らしかったです。さて、オスカーは誰の手に?

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◆◆脚本賞(原作あり)・Adapted screenplay◆◆
『127時間』
『ソーシャル・ネットワーク』
『トイ・ストーリー3」
『トゥルー・グリット』
『Winter's Bone』(原題)
渋い「トゥルー・グリッド」が個人的には好きですが、「問い・ストーリー3」が有力です。

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◆◆美術賞◆◆
『アリス・イン・ワンダーランド』
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』
『インセプション』
『英国王のスピーチ』
『トゥルー・グリット』
どの作品も素晴らしかったですね。オスカーは誰の手に?

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◆◆撮影賞◆◆
『ブラック・スワン』
『インセプション』
『英国王のスピーチ』
『ソーシャル・ネットワーク』
『トゥルー・グリット』
「インセプション」の撮影は本当に素晴らしかったです。しかもIMAX撮影もあり、撮影チームはとても大変でした。「ソーシャル・ネットワーク」は、ポストプロダクションで素晴らしい映像になっているので、撮影賞ではないような気がします。

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◆◆衣装デザイン賞◆◆
『アリス・イン・ワンダーランド』
『I Am Love』(原題)
『英国王のスピーチ』
『テンペスト』
『トゥルー・グリット』
衣裳は、現代劇でもかなり頑張っているのですが、ちょっとわかりやすい作品が並んでしまいました。

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◆◆編集賞◆◆
『ブラック・スワン』
『ザ・ファイター』
『英国王のスピーチ』
『127時間』
『ソーシャル・ネットワーク』

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◆◆メイクアップ賞◆◆
『Barney's Version』(原題)
『The Way Back』(原題)
『ウルフマン』

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◆◆音楽賞◆◆
『ヒックとドラゴン』
『インセプション』
『英国王のスピーチ』
『127時間』
『ソーシャル・ネットワーク』
「インセプション」良かったです。

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◆◆歌曲賞◆◆
「Coming Home」(『Country Strong』(原題))
「I See the Light」(『塔の上のラプンツェル』)
「If I Rise」(『127時間』)
「We Belong Together」(『トイ・ストーリー3』)

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◆◆視覚効果賞◆◆
『アリス・イン・ワンダーランド』
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』
『ヒア アフター』
『インセプション』
『アイアンマン2』

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◆◆音響効果賞◆◆
『インセプション』
『トイ・ストーリー3』
『トロン:レガシー』
『トゥルー・グリット』
『アンストッパブル』

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◆◆録音賞◆◆
『インセプション』
『英国王のスピーチ』
『ソルト』
『ソーシャル・ネットワーク』
『トゥルー・グリット』
音が重要な「英国王のスピーチ」。やはりこの作品が取るのではないでしょうか。

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◆◆短編実写賞◆◆
『The Confession』(原題)
『The Crush』(原題)
『God of Love』(原題)
『Na Wewe』(原題)
『Wish 143』(原題)

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◆◆短編ドキュメンタリー賞◆◆
『Killing in the Name』(原題)
『Poster Girl』(原題)
『Strangers No More』(原題)
『Sun Come Up』(原題)
『The Warriors of Qiugang』(原題)

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◆◆短編アニメーション賞◆◆
『デイ&ナイト』
『The Gruffalo』(原題)
『Let's Pollute』(原題)
『The Lost Thing』(原題)
『Madagascar, carnet de voyage』(原題)

アカデミー賞は、2011年2月27日(日)8時からロサンゼルスのコダックシアターで開催されます。アメリカではabcが中継し、日本ではWOWOWが、中継します。

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第68回 ゴールデン・グローブ賞 発表 [映画賞・映画祭]

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The 68th Annual Golden Globe Awards

ゴールデン・グローブ賞が発表になりました。
結果をお伝えします。
★が受賞です。

◆最優秀映画作品賞(ドラマ)

・ブラック・スワン
・ザ・ファイター
・インセプション
・英国王のスピーチ
★ソーシャル・ネットワーク
今回は名作が揃いました。どの作品が受賞してもおかしくないですね。「ソーシャル・ネットワーク」はタイムリーだったからの受賞でしょうか。

◆最優秀主演女優賞(ドラマ)
・ジェシー・アイゼンバーグ「ソーシャル・ネットワーク」
★コリン・ファース「英国王のスピーチ」
・ジェームズ・フランコ「127 HOURS」
・ライアン・ゴスリング「BLUE VALENTINE」
・マーク・ウォールバーグ「ザ・ファイター」
コリン・ファースの演技は素晴らしかったです。納得のいく受賞です。

◆最優秀主演男優賞(ドラマ)
・ハル・ベリー「FRANKIE AND ALICE」
・ニコール・キッドマン「ラビット・ホール(原題)」
・ジェニファー・ローレンス「WINTER’S BONE」
★ナタリー・ポートマン「ブラック・スワン」
・ミシェル・ウィリアムズ「BLUE VALENTINE」
「レオン」の子役から素晴らしかった彼女が堂々の受賞です。作品自体が傑作なので当然の受賞ですね。

◆最優秀映画作品賞(ミュージカル・コメディー部門)
・アリス・イン・ワンダーランド
・バーレスク
★キッズ・オールライト
・RED/レッド
・ツーリスト

下馬評通りの結果でした。

◆最優秀主演女優賞(ミュージカル・コメディー部門)
★アネット・ベニング「キッズ・オールライト」
・アン・ハサウェイ「LOVE AND OTHER DRUGS」
・アンジェリーナ・ジョリー「ツーリスト」
・ジュリアン・ムーア「キッズ・オールライト」
・エマ・ストーン「EASY A」

◆最優秀主演男優賞(ミュージカル・コメディー部門)
・ジョニー・デップ「アリス・イン・ワンダーランド」
・ジョニー・デップ「ツーリスト」
★ポール・ジアマッティ「BARNEY’S VERSION」
・ジェイク・ギレンホール「LOVE AND OTHER DRUGS」
・ケヴィン・スペイシー「CASINO JACK」

◆最優秀アニメーション賞

・怪盗グルーの月泥棒 3D
・ヒックとドラゴン
・イリュージョニスト
・塔の上のラプンツェル
トイストーリー3
今年のアニメは、誰もがこの作品をおすでしょう。

◆最優秀外国語作品賞
・BIUTIFUL(メキシコ/スペイン)
・THE CONCERT(フランス)
・THE EDGE(ロシア)
・I AM LOVE(イタリア)
★イン・ア・ベター・ワールド(原題)(デンマーク)

◆最優秀助演女優賞
・エイミー・アダムス「ザ・ファイター」
・ヘレナ・ボナム=カーター「英国王のスピーチ」
・ミラ・クニス「ブラック・スワン」
★メリッサ・レオ「ザ・ファイター」
・ジャッキー・ウィーヴァー「ANIMAL KINGDOM」

◆最優秀助演男優賞
★クリスチャン・ベイル「ザ・ファイター」
・マイケル・ダグラス「ウォール・ストリート」
・アンドリュー・ガーフィールド「ソーシャル・ネットワーク」
・ジェレミー・レナー「ザ・タウン」
・ジェフリー・ラッシュ「英国王のスピーチ 」

◆最優秀監督賞
・ダーレン・アロノフスキー「ブラック・スワン」
★デヴィッド・フィンチャー「ソーシャル・ネットワーク」
・トム・フーパー「英国王のスピーチ 」
・クリストファー・ノーラン「インセプション」
・デヴィッド・O・ラッセル「ザ・ファイター」
今までの作品で一番力を抜いた映画なのに監督賞受賞です。力まないほうが良い結果になる良い例ですね。

◆最優秀脚本賞
・ダニー・ボイル、サイモン・ボーフォイ「127 HOURS」
・リサ・チョロデンコ、スチュアート・ブルムバーグ「キッズ・オールライト」
・クリストファー・ノーラン「インセプション」
・デヴィッド・サイドラー「英国王のスピーチ 」
★アーロン・ソーキン「ソーシャル・ネットワーク」
個人的には「インセプション」に受賞して欲しかったです。

◆最優秀作曲賞
・アレクサンドル・デスプラ「英国王のスピーチ 」
・ダニー・エルフマン「アリス・イン・ワンダーランド」
・A・R・ラフマーン「127 HOURS」
★トレント・レズナー、アッティカス・ロス「ソーシャル・ネットワーク」
・ハンス・ジマー「インセプション」

◆最優秀歌曲賞
・“BOUND TO YOU”「バーレスク」
作曲:サミュエル・ディクソン 作詞:クリスティーナ・アギレラ、シア・ファーラー
・“COMING HOME”「COUNTRY STRONG」
作詞・作曲:ボブ・ディピエロ、トム・ダグラス、ヒラリー・リンジー、トロイ・フェルゲス
・“I SEE THE LIGHT”「塔の上のラプンツェル」
作曲:アラン・メンケン 作詞:グレン・スレイター
・“THERE’S A PLACE FOR US”「ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島」
作詞・作曲:キャリー・アンダーウッド、デヴィッド・ホッジス、ヒラリー・リンジー
★“YOU HAVEN’T SEEN THE LAST OF ME”「バーレスク」
作詞・作曲:ダイアン・ウォーレン
納得です。素晴らしい曲でした。

最近、日本でも報道されるようになってきたゴールデングローブ賞。当日私はたまたま授賞式会場付近にいました。華やかなショーは、町中を熱気に包んでいるようでした。
淡々と進みましたがスピーチの内容はアカデミー賞よりも面白いように感じました。
さて、アカデミー賞は、どうなるのか?楽しみです。

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3D映画がやってきた [映画技術]

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3D映画がやってきた!

2010年は3Dの年でした。「アバター」の登場で世の中は見事に3D映画へと流れました。たった1本の映画が世界の映画産業を一変させてしまったのです。そして数多くの3D映画が制作され、ある作品は成功し、ある作品は失敗しました。

今回は、この3D映画、そしてIMAXについて記していこうと思います。

3D技術は映画が発明されて直ぐに基本原理が開発されています。当時は右目と左目の視差原理を利用するという根本的な概念は理解できていたのですが、立体映像をフィルムで撮影してそれを観客に見せるには、技術的な部分で問題点がおおかったようです。それでも祭りやイベントなどでは、立体映像を見せる興業などが流行っていたそうです。

ヒッチコックの目指した3D
時代は移り、1950年代に3D映画ブームが起こりました。当時は大きな35mmカメラを2台同時に動かし、右目用映像と左目用映像を撮影、そして2台の映写機で上映するという大変面倒なものでした。この頃は3Dにおおくの映画会社が飛びつき劣悪なホラー映画やイベント色の強い映画が乱造されました。
そんな中、この3D技術に興味を持ったのがアルフレッド・ヒッチコックです。当時ハリウッドで急成長株だったヒッチコックは、潤沢な資金を元にクオリティの高い3Dサスペンス映画を企画します。そして3D技術を確固たるものにして、映画産業に新たなマーケットを築くべく努力します。その映画のタイトルは「ダイヤルMを廻せ!」。ヒッチコックは丁寧に全編3D撮影を行いました。カメラ2台を常に使い、フィルムも当然2倍必要となりました。そして、この困難な撮影を終え編集も行い、テスト上映に辿りつきました。
その3D映像を見たヒッチコックは、驚くべき決断を下します。「ダイヤルMを廻せ!」は、3D映画としてではなく2D映画として公開する、と。
結局、3D効果というのは、この作品には向かず、2Dで見て貰ったほうがヒッチコックの演出が伝わるということでした。おそらく「ダイヤルMを廻せ!」の技術スタッフや興業チームはとても落胆したでしょう。内容に関わらず3D映画というのは宣伝になりますし、それまでの粗悪3D映画に亜妃ってしまった観客はヒッチコック印の3D映画に飛びついたはずです。

結果、「ダイヤルMを廻せ!」は、2D公開されヒッチコックの予想通り内容が評価されヒットしました。その後、時々ニューヨークやロンドンのアートシアターで「ダイヤルMを廻せ!」3D版の上映が行われました。私は1991年にNYの小さな映画館の深夜上映会で3D版を見ましたが、確かにヒッチコックの意図は理解できました。3Dでなくても十分なのです。
50年代の3Dブームは、終わっていきます。そして暫くは3D映画があったことすら忘れ去られてしまったのです。

1980年代のブーム
その後、新たな3D映画ブームが到来します。偏光レンズというメガネをかけることで、過去の3D映画よりも迫力のある映像を見られる技術が開発されたのです。このとき、新しい技術に飛びついたのはやはりホラー色の強い映画でした。「ジョーズ3D」「13日の金曜日3-D」です。私は劇場に市を運びましたが、これはなかなか迫力があり満足度が高かったです。このブームの最大の成功作は「キャプテンEO」です。映画館での上映ではありませんでしたがジョージ・ルーカスがプロデューサーを務め、当時生活に困っていたかつての師コッポラを監督として迎え入れ、マイケル・ジャクソンを主演に迎えた短編は、大きな話題となりました。

このとき。史上初めて一般家庭用の3D再生機が発売されたのも話題となりました。テレビは普通のアナログブラウン管テレビです。再生にはVHDを使いました(VHDとは、VHSテープに変わる新しいメディアとして登場したディスク型の再生デバイスです。レーザーディスクとの競争に敗れ発売間もなく消えていきました)。私は、当時この3D再生対応VHDを購入して3D映画を家庭で楽しんでいましたが、3Dソフトがほとんど発売されず当時は困ったものでした。そのうちVHD自体が消えてしまいました。

80年代の3Dブームは、圧倒的なソフト不足のうちに終焉を迎えていったのです。

そして2010年代
世の中はデジタル時代に移行していました。
新たな3Dブームは、ジェームス・キャメロンがきっかけです。彼は新作をデジタル3Dで撮影し、デジタル3D装置で上映するという大胆な考えを発表します。撮影機材を全て新しく開発し、上映方式も全て新しくすると言うのです。この投資額は莫大ですし、劇場側がどこまで着いてくるのかわかりませんでしたが、彼の野望はどんどん広がり、誰も彼を引き留める人はいなかったのです。

キャメロンは、SONYを訪ね全く新しいデジタル3Dカメラの制作を依頼します。それは、より人間の目の構造に近いカメラです。人間は物を見るとき面白い目の動きをします。遠くのものを見るときは2つの黒目の幅は約4.5cmです。しかしものを近づけると寄り目になるのです。ものをどんなに遠ざけても黒目は4.5cm以上にはなりません。
この原理をカメラに応用したのです。カットによって2つのレンズの幅が変化するのです。これを視差と呼びます。カメラレンズの前に広がる空間に視差ポイントを決めるという新しい仕事が生まれました。ポイントより手前にある物は飛び出して見え、後ろにある物は奥行きとして見えるのです。
この技術を利用し非常に広大な奥行き感を表現することが出来るようになりました。
同時にキャメロンは健康被害についても研究します。3D映像は目から入る情報に嘘をついて脳内で立体映像を作らせます。この過程で船酔いのような副作用を生んでしまうのです。これは人によって差がありますが、飛び出す効果がおおいほど健康被害も増えることがわかりました。そこで、飛び出し効果は抑えて奥行き感を利用した立体映像を制作することを思いつきました。

約10年を費やして3Dを原理から見つめ直したキャメロンは、その全ての知識をつぎ込み「アバター」を制作したのです。

ヒットすると思った世界中の映画館は、フィルム上映機を外し、新しいデジタル3D上映機を購入して設置しました。「アバター」は、フィルムで上映されているわけではなくデジタル上映だったのです。

3Dデジタル映画「アバター」は世界中で大ヒットしました。これによりおおくの映画館が3D対応になったのです。そして、その後制作される3D映画は映画館の設備を心配する必要がなくなりました。

もうひとつ、キャメロンが変えたことがあります。それはIMAXです。IMAXというのは、普通の35mmよりもはるかに大きなフィルム(70mmフィルムを横に使う)を使い映像を撮影し、巨大なスクリーンで上映するシステムです。もともとは博覧会会場などで使われていましたが、北米ではIMX人気があり、町中にもIMAX映画館が設置され主に大自然の風景を撮影した映画を上映していました。日本にも90年代にIMAXシアターが作られ、東京では新宿、品川などに、大阪では天保山、札幌にも作られました。しかし当時は教育的なIMAX映画がおおく一般のお客さんを確保するまでに至らず2008年頃までに全てのIMAX映画館が閉鎖されてしまいました。
キャメロンは「アバター」でIMAXのデジタル3D化にも挑戦したのです。それは、通常の映画館で上映されるシネマスコープやビスタサイズではなくIMAX4:3の広大なキャンパスに3D映像を描くという挑戦です。IMAX用に別スタッフを雇ったキャメロンは、映画館で上映される3D版「アバター」とは別にIMAX版「アバター」も制作し同時に公開しました。
皆さんは「アバター」をどこで見ましたか?IMAXでご覧になられた方はラッキーです。IMAX「アバター」は、3D版を凌ぐ素晴らしい映像でした。

「アバター」は、映画業界に歴史的革新を起こしました。世界中の劇場にはデジタル上映機が導入され3D対応になったのです。そして、沢山の3D映画が制作されるようになりました。中にはただ3D映画ブームに乗っかった粗悪な3D作品が作られました(有名な例は「タイタンの戦い」「海猿3」)。ハリウッドの大物、ジェフリー・カッツェンバーグは声明を発表し、今後いい加減な3D映画を制作するのはやめようと呼びかけました。クオリティの高い3D映画をお客さんに提供することで、キャメロンが築いた3Dマーケットを維持しようというわけです。
ハリウッドでは、この意見にほとんどの映画人が賛同し、現在では健康被害に関するルールも決められ、続々と3D映画が撮影されています。

日本では、きちんとした3D映画として「3丁目の夕日3」が撮影中です。この作品は期待できます。「怪物くん」は残念ながら2D撮影を後で3D変換する疑似3Dです。今後は、映画が、きちんと3Dで制作されているのかを確認して、疑似だったら2D版で見ることをお勧めします。

あまり知られていませんが、世界初の3D連続ドラマが日本で作られました。地上波テレビでは3D番組が解禁されていないのでスカパー!でのみの放送ですが、このドラマは「アバター」チームから技術や知識を学んだスタッフが制作している本物の3D作品です。
タイトルは「TOKYOコントロール」24時間日本の空を守る航空管制官達を描いたドラマです。

「アバター」から始まった3Dブームは、過去のブームと異なり一過性ではないような感じがしています。今後は、制作者がいかにクオリティを維持してお客さんを満足させるのかにかかっています。

<ブログリンク>
アバター
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トイ・ストーリー3 [アニメ]

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Toy Story 3

既にご存じの大ヒット映画「トイ・ストーリー」の3作目を紹介します。パート3制作までには、皆さんの知らないところでいろんな事件が起こっていました。

トイ・ストーリー」の製作会社であるピクサーが「スターウォーズ」のジョージ・ルーカスによって設立され、その後アップルのスティーブ・ジョブスが買収、アニメ映画が製作されるまでの顛末は、以前お伝えしました。(詳しくはこちら
ピクサー社は、実はとんでもない苦労をし、様々な事件に巻き込まれながら成功を手にしていました。

ピクサーによる長編アニメ第一作である「トイ・ストーリー」が劇場公開される際、配給会社であるディズニーは、ピクサーが作り上げたキャラクターの権利は全てディズニー社に属するという契約を結びました。さらにディズニーは、続編を作る権利も所有する契約もしていました。
当時のピクサーは、まだ誰にも知られていない小さな小さなアニメ制作会社でした。さらに"コンピューターで作るアニメ"という未知の分野で長編アニメを制作するというリスクもあり、配給契約はディズニー社に有利なものになったのです。当時はピクサー社長であるスティーブ・ジョブスは映画に興味がなく、ディズニーとの契約にそれほど関心を払わなかったようです。

「トイ・ストーリー」は、ディズニーによって世界配給され、世界的な大ヒットとなりました。そしてその後は、沢山のアニメ会社がCGアニメを制作し、現在ではアメリカにあるアニメ会社のほぼ100%がCGアニメ専門になってしまいました。残念なのは、「白雪姫」で初めて長編アニメを制作したディズニー・アニメーション・スタジオまでもが手書きアニメのスタッフを解雇し、CGアニメ専門の制作会社になってしまったことです。

当時のディズニーの社長マイケル・アイズナーは、「ピーターバン2」のように、ディズニーの過去名作の続編を劇場で公開するのではなくDVDで発売する戦略をとっていました。知名度のある有名作品の続編を安く作り、ビデオ市場で簡単に儲けようという作戦です。
アイズナーは当然「トイ・ストーリー」の続編の制作を強く望みました。「トイ・ストーリー2」もDVDでのみ発売される制作費の安い100分のアニメ作品でした。
アイズナーの戦略は販売面では貢献したものの、できの悪い作品群を生み出してしまいました。ウォルト・ディズニーが作ったクオリティの高いアニメ作品の続編が粗製濫造され、世界中のディズニーファンががっかりしたのです。「トイ・ストーリー2」もこれと同じような運命になるはずでした。

しかし、「トイ・ストーリー2」の制作過程を見たピクサーの上層部は、素晴らしい出来になることを確信して、この続編を劇場用の長編にしようと試みました。きちんと制作費をかけてクオリティの高い作品を作ろうとしたのです。
当初、ディズニーとピクサーとの契約は劇場用アニメ3作品でした。「トイ・ストーリー2」は続編という扱いでスタートしたので、契約の3作には含まれていなかったのです。続編を作る権利はディズニー社にありました。なので、2だろうが3だろうがディズニーが勝手に作って良いという契約だったのです。しかし「トイ・ストーリー2」が劇場で公開されることになると、ちょっとややこしくなってきます。この「トイ・ストーリー2」は、続編という扱いなのか、それとも劇場用アニメという扱いなのか、人によってとらえ方が変わってくるのです。
ディズニー社は当然「トイ・ストーリー2」は続編だと主張します。ピクサー社は「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」を製作したので、契約上は3本目の「モンスターズ・インク」まではディズニーが独占して配給権を持つと考えました。
ピクサー社は「トイ・ストーリー2」は劇場用映画なので「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」「「トイ・ストーリー2」までが契約で、「バグズ・ライフ」以降はディズニーとの契約にとらわれないと主張したのです。

toystory3.49353.b.jpgここからは泥沼の戦いと化していきます。アイズナーは、それならば「トイ・ストーリー3」はサークル7・アニメーション社という全く関係ない会社に制作発注してディズニーが勝手に作ると表明しました。契約には続編はディズニーが好きなように作れるという項目が含まれています。なので、ピクサーはどうしようもありませんでした。さらにバズの声優を担当したティム・アレンはサークル7版「トイ・ストーリー3」の出演にOKを出してしまいます。これによりサークル7は、新たな脚本を仕上げました。その内容はファンにはがっかりするものです。
おもちゃ会社に作られたバズは沢山あるはずです。台湾で作られたバズは、世界中で自分と同じバズが作られていることを知ります。さらにリコールされていることがわかり回収されるのです。

このようにアイズナー率いるディズニー社は、ファンの期待を裏切り、クリエイターの気持ちを踏みにじりながら突き進んでいました。しかし、この泥仕合はあまり知られることなく水面下で行われていたこと、そして出来の悪いアニメでもそれなりに儲かってしまったという問題があり、アイズナーはディズニー社でますます力を付けていったのです。ディズニー社の株主達も儲かれば良いという立場を取り、アイズナーを支持しました。
ウォルト・ディズニーの孫であるロイ・E・ディズニーは、ディズニー社で役員として頑張っていました。彼が唯一の"ディズニー"の血を持っている人物でした。ロイは、アイズナーの金儲け主義に抵抗します。祖父であるウォルトが考えた良質のアニメ製作や子供達に夢を与えることの重要性を社内で叫び続けました。しかし、残念なことにロイの主張は退けられてしまいます。アイズナーも株主もロイの主張などどうでもいいことなのです。金さえあればいい、株価が上がればいい、と。
ロイは結局ディズニー社を辞めてしまいました。これによりウォルト・ディズニーの志はディズニー社からなくなってしまいました。もはやディズニーはディズニーでない。こういうコメントがマスコミに取り上げられましたが、時既に遅し。おおくのディズニーファンが失望したのです。

そんなタイミングで、面白いことが起きました。アイズナーが旗を振っていたディズニー名作の続編の売り上げが伸びず、その他の事業も不採算として失敗してきたのです。そして、ピクサーは相変わらずディズニーと揉め続けていたのです。ディズニーの株主達は一斉にアイズナーを非難します。そしてアイズナーは窮地に立たされてしまうのです。

toystory3.50298.b.jpg2006年1月24日、電撃的な発表がなされました。ディズニー社はピクサー社の全ての株を購入し完全子会社化するというのです。私は驚き、困ったことになったなあと不安を感じました。ピクサーは戦いに敗れアイズナーに屈し、今後はつまらないアニメ会社に成り下がってしまうことをニュースは意味していました。きっとピクサーのクリエイター達は社を離れ、別の会社に移ることになります。そうなるとせっかくジョン・ラセターが何十年もかけて作り上げた素晴らしいピクサー社は事実上解体されることになるのです。
しかし、日本で報道されていない詳細をネットで調べていくと、ワクワクする内容を発見しました。確かにピクサーはディズニー社に買収されてしまいました。しかし新しい組織図を見るとロイ・ディズニーがトップに復帰、アイズナーは社を去り、アニメ統括役員としてピクサーを作ったジョン・ラセター、ビジネス部門の役員としてピクサー社長だったスティーブ・ジョブスが名を連ねていたのです。
契約上、経理上はピクサーは買収された形になりますが、人的に見るとピクサーがディズニーを吸収したともみえるのでした。

こうして新生ディズニー社は、ウォルト・ディズニーの血を引くロイを中心に、クリエイティブ・マインドを持つピクサーのメンバーが引き継ぐことになりました。これによりディズニーとピクサーの契約問題は解消され、アイズナーが続けていた金だけ儲かれば良いという経営スタイルも見直されることになりました。当然サークル7による「トイ・ストーリー3」の制作は白紙に戻され、ピクサー・チームによる正当な続編として企画が再始動されたのです。

こうして様々な出来事を得て「トイ・ストーリー3」が動き出しました。監督だったジョン・ラセターはディズニー社の要職に就いたので、監督はできません。勿論企画会議やストーリーの構築時には関わりますが、制作はピクサーの若手スタッフに引き継がれました。ピクサーのスタッフ達はラセターのアニメ作りを何年も支えてきた強者です。3も「トイ・ストーリー」「トイ・ストーリー2」の設定を引き継ぎファンが満足できる話になりました。声優も今までのシリーズのメンバーが再結集しています。

「トイ・ストーリー3」の宣伝はとても巧みに行われました。3をイメージした複数のポスターを制作し町中のビルボードを使いました。これはかなり長期間に及ぶプロモーションです。公開が近づくとAppleのiPhone4の発売に合わせ、タイアップが行われました。これはディズニーの役員でありAppleのCEOであるスティーブ・ジョブスが動いています。

「トイ・ストーリー3」は、アメリカで公開され大ヒット作品になりました。そして日本でも2010年夏で一番のヒットになるそうです。世界的にも大ヒットしており、満足度も非常に高いそうです。

ディズニー社を株主やアイズナーから取り戻し、ディズニーファンが望んでいる"夢の国"を復活させたロイ・E・ディズニーは、2009年12月に他界しました。きっと天国から「トイ・ストーリー3」の大ヒットを心から喜んでいるに違いありません。

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NINE ナイン [アメリカ映画(00s)]

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NINE (2009)

1993年、深刻な不景気から立ち直る前のニューヨーク・ブロードウェイ。ここで1本のミュージカルがオープンしました。1992年にロンドンのウエストエンドで始まった戯曲「蜘蛛女のキス」をミュージカル化した野心作です。
ロンドンで好評を博したこのミュージカルは、ニューヨークでの前評判も良く、私は映画版「蜘蛛女のキス」がとても好きだったので早速公開したばかりのミュージカル版を見に行きました。ブロードウェイでは伝説の女優チタ・リベラが蜘蛛女役を演じると言うことで劇場は異様な熱気に包まれていたのを覚えています。ミュージカル版「蜘蛛女のキス」はジョン・カンダーとフレッド・エップの素晴らしい楽曲、リベラたち役者人の熱演でとても素晴らしかったです。その舞台で振り付けをしていたのがロブ・マーシャルという若者でした。

アメリカの田舎ウイスコンシン州出身のロブ・マーシャルは、ペンシルバニア州にあるカーネギー・メロン大学を卒業し、ニューヨークのブロードウェイで振り付け師として成功しました。彼のブロードウェイまでの人生は正に現代のアメリカン・ドリームで、1993年の「蜘蛛女のキス」で彼の仕事は高く評価されました。その後、1994年には「くたばれヤンキース」、1998年には「She Loves Me」、1999年には「キャバレー」でトニー賞にノミネートされます。

マーシャルは、今後も順風満帆にブロードウェイの演出家、振り付け師として歩んでいくのだろうと思っていたところ、いきなり映画監督へ転身するというニュースが入ってきたのです。これには当時の舞台ファン、映画ファンは驚きました。しかしマーシャルが監督する作品が「シカゴ」であることで誰もが納得したのです。
マーシャルは自他共に認めるボブ・フォッシーの大ファンです。ボブ・フォッシーは、舞台の演出家・振り付け師であり、その後映画監督に転身しています。そしてフォッシーが企画して実現しなかった「シカゴ」の映画化を実現するにはマーシャル以外考えられないのです。

大きな気体を背負って、マーシャルは映画版「シカゴ」を監督します。フォッシーは主人公をマドンナで企画していましたが実現せず1987年に他界しました。マーシャルは主人公にレニー・ゼルウィガーを抜擢、脇にキャサリン・ゼタ=ジョーンズやクイーン・ラティファを配置して素晴らしい作品に仕上げました。なんとこの「シカゴ」は2002年のアカデミー賞12部門にノミネートされ、作品賞を含む6部門で受賞してしまいました。ゴールデングローブ賞でも作品賞を含むメインのカテゴリーを制覇します。
マーシャルは、舞台で評価されただけでなく映画でも最速でトップ評価されてしまいました。

前置きが長くなりましたが、そのロブ・マーシャルが「Memories of a Geisha」の次に映画監督として選んだのがこの「NINE」です。

皆さんはフェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」(1963)という映画をご存じでしょうか?「道」(1954)、「甘い生活」(1959)などで有名なイタリア人監督の自伝的な映画です。彼はそれまで8本映画を撮っていて9作目の手前に自身の苦悩を描いた名作です。

この「8 1/2」をミュージカル化したのが「NINE」です。フェリーニの映画を見事にミュージカル化しておりとても素晴らしい舞台です。ミュージカル版は大成功しロングラン公演が行われました。そのミュージカル版を今度は映画にしようというわけです。

なので基本的に「NINE」は、「8 1/2」とほぼ同じストーリーです。ただ、複数の女性に翻弄されるひとりの男という要素が強くなっているように思います。

この企画は2007年にヴァラエティ誌により制作が発表されました。製作出資は「シカゴ」で製作をバックアップしたワインスタイン兄弟です。「イングリッシュ・ペイシェント」(1996)、「コールドマウンテン」(2003)のアンソニー・ミンゲラが脚本をリライトし撮影を開始する予定でしたが、アメリカ脚本組合のストが起こり脚本制作がストップしてしまいます。その間にミンゲラは54才という若さで病死してしまいました。その後ストは収束しミンゲラが書き残した台本を使い撮影が開始されたのは2008年10月でした。
主人公の"女に翻弄される映画監督"グイド役には「ノー・カントリー」「それでも恋するバルセロナ」のハビエル・バルデムがキャスティングされていましたが、ストにより撮影スケジュールが変わってしまったので、バルデムは降りダニエル・デイ=ルイスが新たに選ばれました。
今回はキャスティングに苦労したようで、主役の交代劇の他にも「シカゴ」でマーシャルと一緒に仕事をしたレニー・セルウィガーとキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、役が気に入らず降板しています。
それでも、最終的にはアカデミー賞を受賞している名女優達(ニコール・キッドマン、ジュデイ・デンチ、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス)が参加を表明、イタリア映画界の大女優ソフィア・ローレンも参加するというとても豪華な俳優陣となりました。
ちなみに、キャサリン・ゼタ=ジョーンズのやるはずだったクラウディア役はニコール・キッドマンが担当しています。ペネロペ・クルスはクラウディア役でオーディションを受けましたがカルラ役になりました。マリオン・コティヤールは、ジュデイ・デンチが演じた衣装デザイナーのリリー役のオーディションを受けましたがグイドの妻のリリーとなりました。ケイティ・ホームズとデミー・ムーアもオーディションを受けましたが落ちました。

映画はシネスコの画角を最大限に活かした素晴らしい映像で撮影されました。撮影監督のディオン・ビープはとても優秀な人です。「Memories of a Geisha」のメイキングでも感心させられましたが、自然光とライティングをここまで巧みに使いこなすカメラマンは彼くらいではないでしょうか。勿論撮影後のデジタルグレーディングも丁寧に行われています。
音楽は素晴らしくミュージカル版同様クオリティがとても高いです。ミュージカル版にはないケイト・ハドソン演じるファッション記者が歌うオリジナルソングも素晴らしいです。
また、イタリアの美しい風景や60年代の美術デザインや衣装も素晴らしいです。
「NINE」は、映画が総合芸術であることを我々に視覚的に教えてくれるのです。

映画は概ね好評で、世界中の映画賞でノミネートされましたが「シカゴ」ほどの受賞と評価は得られませんでした。

私は東京のIMAXシアターで大画面&シネマスコープという贅沢な環境でこの映画を見ることが出来ました。あまりの素晴らしさにとても感動しましたが、約300人のお客さんの中で男性は私だけでした。やはり女性のほうが、芸術に敏感なのかなあと思いつつ、この映画を評価している日本人男性がきわめて少ないことに寂しさを感じました。

まだ日本は古いジェンダールールが残っているんだなあと気づかされた映画でもありました。

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グリーンゾーン [アメリカ映画(10s)]

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Green Zone (2010)

アメリカの起こしてしまった大失態を暴く問題作を紹介します。

世界的にベストセラーになっている「A Young People's History of the United States」という本をご存じでしょうか?日本では「学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史」というタイトルで翻訳版が発売されています。
この本には、今まで語られていなかったアナザー・サイドのアメリカ史が書かれています。というより今まで知られていたアメリカの歴史は嘘の歴史で、真実の歴史を初めて文章化した本だとも言えます。
その本の最後の章に映画「グリーンゾーン」が描く内容についての記載があります。

アメリカによる、2003年に行われた「イラクの自由作戦」のことです。このイラク戦争は、イラクに他国を脅かす大量破壊兵器が隠されているという確実な情報を元に行われた戦争でした。しかし、それより10年ほど前から国連は何度もイラクを視察していて、大量兵器は見つかっていませんでした。この戦争について、国連のスタッフや知識のあるマスメディアは、疑問を示しました。しかし、2001年の9.11テロによる感情的なアメリカ国民は、冷静さを失っており、ブッシュ大統領を全面的に支持し、本来は9.11テロとは全く関係のないイラクに侵攻していったのです。

当時、我々も大量破壊兵器がイラクにあるんだったら、直接9.11テロに関係なくてもイラクをたたいておいたほうが良いと思ったのです。日本のマスコミは自分たちでろくに取材もせず、ロイターやCNNからの情報を訳して放送しているだけなので、日本国民のおおくは、アメリカ国民と同じように国家の判断に従ったのでした。

しかし、この後とても恐ろしいことがわかりました。
大量兵器は存在しなかったのです。

この事実は、ひっそりと報道されました。なので、日本ではそれほど大騒ぎにはならなかったのですが、よく考えるととんでもないことです。近代史においてここまで国家が国民、いや全世界で生きている人々に対し間違いを伝えるという事件があったでしょうか?

さらに驚いたことに、大量破壊兵器が存在するという情報は、そもそもアメリカ政府がねつ造していたという可能性があるという事実が明るみに出てきたのです。
そう、イラク攻撃のためにアメリカ政府は世界中に嘘をついていたのです。

これによりイラクでは民間人数千人が命を落としました。精度の高いミサイルを使っているので、民間人の巻き添えは最小限ですというアメリカの発表も嘘で、バグダッドでは、家族が休暇で宿泊していた観光ホテルが爆撃され、さらに爆撃機はそのホテルに戻ってきて攻撃を加えました。

この驚くべき事実は、はるか昔のお話ではなく、つい数年前に起こったのです。
平和ぼけ日本では、こんな世界史に刻まれるべき大問題はほとんど報道されず、おおくの日本人は知らないこととなっています。

前置きが長くなりましたが、映画「グリーンゾーン」のお話です。
監督のポール・グリーングラスは、アメリカが犯した「歴史上最大の嘘」を映画化したいと思っていました。映画という手法を使えば、この酷い出来事の真実を知らない人々にも事件を知らせることが出来るのではないか、と。ただし、ドキュメンタリーを作ってもそれほどおおくの観客は獲得できないですし、話題にもならないでしょう。グリーングラスは、ドラマ性のある映画で、真実を伝えたかったのです。

取材を始めるとワシントン・ポスト紙の元バグダッド支局長、ラジブ・チャンドラセカラが書いた「グリーンゾーン」という本に出会いました。グリーングラスは、この本をベースに映画を制作することを決意し、さらに取材を進めていきました。
ご存じの通り、グリーングラスはイギリス人で元ドキュメンタリー映画の制作者です。彼は取材は得意で精力的に動きます。映画の重要なファクターはストーリーテリングです。事象が羅列されるのではなく、登場人物に感情移入できて、メインキャラクターがドラマ的な展開を行わなくてはなりません。グリーングラスは主人公となるべきモデルを探します。そして遂にモンティ・ゴンザレスという軍人をみつけます。ゴンザレスの任務は、イラクで大量破壊兵器が存在すると思われる場所を捜索することでした。しかし、いくら探しても兵器は見つからないのです。そしてだんだん何かがおかしいと思い始めます。

ゴンザレスの体験は、グリーングラスも私たちも疑似体験できます。
イラクに大量破壊兵器がある→なんとか排除しなければ行けない=世界平和を願う→兵器がないぞ?=疑問&混乱
映画は、その真相を暴いていくのです。

グリーングラスは、「ボーンス・プレマシー」と「ボーン・アルティメイタム」で一緒に仕事をしたマット・デイモンに声をかけます。デイモンこそが主人公を演じられる役者だと監督は確信していたのです。デイモンは、直ぐにこの企画にサインをします。そして映画化が具体化していきます。制作出資はボーン・シリーズと同じ会社です。配給も同じです。制作過程では、メンバーが同じなのでボーン・シリーズの第4作目が作られていると思われていましたが、実は全く違う映画でした。

グリーングラスは、「ユナイテッド93」、ボーン・シリーズで確立したリアリズムを徹底するため、プリプロダクションを綿密に行い、まるでイラクの最前線基地にいるような映像を作り出しました。勿論イラクで撮影しているわけではなく、スペイン、モロッコ、イギリスで撮影され、CGによってイラクを作り出しています。
そして遂に「グリンゾーン」は、リアリティのある戦争サスペンス映画として完成します。映画としてとても高いレベルで完成した素晴らしい作品となりました。

結果、マット・デイモン主演の戦争アクション映画にみえるこの映画は「アメリカの大嘘」に興味のない映画ファンを取り込むのに成功します。

「グリーンゾーン」とは、イラクにおける安全地帯という意味です。でも、この映画を見終わると我々はグリーンゾーンにいる嘘をついたアメリカに荷担していることに気づくでしょう。そして、そういう自分に驚き考えを改めなければいけないと思うかもしれません。

ただのアクション映画だと思っていると、それ以上深い深いテーマが刻み込まれているグリーングラスらしい映画です。

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第82回アカデミー賞 授賞式 3/3 [映画賞・映画祭]

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The 82nd Annual Academy Awards

1回2回に続き、09年度アカデミー賞を詳しくお伝えしていきます。
今回が最終回、いよいよメインの賞が発表されます。

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編集賞:Editing
プレゼンターは、タイラー・ペリーです。「編集者は、撮影されたカットを選びます。役者にとってクローズアップの撮影は怖い感じがします。(役者を綺麗に見えせるため)300,000万ドルもする照明機材やレンズ、「アバター」のようなCG技術が必要かも。冗談です。では、ミディアム・ショット。これは見栄えが良く、アラも目立ちません。ワイド・ショットもあるけれど、私はミディアムがいいです。では、客席の皆さんをワイド・ショットで。」すると、画面が会場のワイド・ショットになりました。「そして、司会者の今の様子」すると、カウチで毛布にくるまりテレビを見ているさえない司会者2人が映りました。会場は大爆笑です。「これで、映画の編集の仕事がわかったと思います。」
これでは、映画の編集はわかりにくいので、補足します。編集者は膨大な量の撮影済みフィルムからOKカットを選び、地道に編集していきます。米国映画の場合は、まずマスターショットを撮影し、クローズアップ、ミディアム、ワイドなどの撮影を行っていきます。編集者は台本通りにただフィルムを繋げるのではなく、シーンによってクローズアップを選んだり、ワイド・ショットを選んだりして、映画にメリハリを付けていきます。勿論、カットによって観客は感じ方が大きく変わるので、編集で映画は良くも悪くもなります。
ノミネートは、『アバター』、『第9地区』、『ハート・ロッカー』、『イングロリアス・バスターズ』、『プレシャス』でした。
受賞は、『ハート・ロッカー』のボブ・ムラウスキーとクリス・イニスでした。二人は初ノミネート、初受賞です。この二人は夫婦でもあります。ムラウスキーは舞台に上がるといきなり「ホラー映画にはロジャー・コーマン!今夜は良い夜だね。」と発言。イニスは、「初めて仕事をくれたサム・ライミに感謝します。そしてスタッフに。」「スタジオの意見に左右されず自由に作った映画です。ありがとう。」
ロジャー・コーマンはじめ、サム・ライミも『ハート・ロッカー』に関わったスタッフも、スタジオに抵抗してきた人々です。こういうクリエイティブ・オリエンテッドなスタッフが受賞するのはとても素晴らしいことです。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
キアヌ・リーブスが、『ハート・ロッカー』を紹介しました。

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外国語映画賞:Foreign Language Film
ペドロ・アルモドバルとクエンティン・タランティーノの登場です。タランティーノは「貴方に会えて嬉しいです。長い間貴方のファンでしたよ。」アルモドバルは「私は君の映画は大好きだ。セリフの意味がわからないけど・・。」外国語映画賞のプレゼンターにはぴったりな二人です。
ノミネートは、『Ajami』(イスラエル)、『The Milk of Sorrow』(ペルー)、『Un Prophete』(フランス)、『瞳の奥の秘密』(アルゼンチン)、『白いリボン』(ドイツ)でした。
受賞は、『瞳の奥の秘密』のファン・ホセ・カンパネラ監督です。監督は「アバターのナヴィ語が外国語映画賞の対象でなくて良かった。」と発言しました。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
キャシー・ベイツが、『アバター』を紹介しました。

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主演男優賞:An Actor in a Leading Role
主演男優賞候補の映像が編集され上映されました。
上映が終わると、舞台には蒼々たる顔ぶれが登場します。ミシェル・ファイファー、ヴェラ・ファミーガ、ジュリアン・ムーア、ティム・ロビンス、コリン・ファレル。彼らは賞のプレゼンターではなく、ノミネートされた俳優のプレゼンターです。
ミシェル・ファイファーがジェフ・ブリッジスを紹介しました。「『ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』の撮影初日、ジェフ・ブリッジスと私はメイク担当が同じでした。2時間をかけて私の顔から欠点を取り除いた後、彼女は、私から取り除いた欠点を彼に植え付けたのです。ジェフはそれほどリアリティを追求します。彼こそが真の俳優です。」「私は撮影の間に、3人の娘さんと遊んでいるのを見ました。仕事とプライベートの両立ができると教えてくれたのもジェフです。」「さらに、ジェフは毎年のように素晴らしい演技を披露します。『Crazy Heart』もそのうちの1本です。
ヴェラ・ファミーガがジョージ・クルーニーを紹介しました。「ジョージ・クルーニーの恋人を演じる前に、ちょっと怖じ気づいたと思いますか?そう、その通り。でも彼にあってホッとしました。輝いた瞳、いたずらっぽい笑顔で、暖かく包み込んでくれます。共演者を立て、最高の芝居をさせることを考えてくれます。その優しいさは、スクリーンの上でもそれ以外でも同様です。人柄が良く幅広い役を演じ、監督としても一流です。そしてファンタスティックな色男。ある人が言ってました。「夢の男だね!」と。ジョージ、おめでとう。」
ジュリアン・ムーアがコリン・ファーズを紹介しました。「『シングルマン』で、コリンと私が演じたのは20年間親友だった男女です。でも撮影時は初対面でした。共演したのは3日だけ。彼の評判は聞いていたので楽しみにしていました。しかし彼はその期待を大きく超えていました。気さくで、チャーミング、ユーモアがあり親切。本当に長年の親友だと錯覚するほどでした。コリンの素晴らしさを知り尽くすには3日では足りません。」
ティム・ロビンスがモーガン・フリーマンを紹介しました。「モーガン、貴方とは『ショーシャンクの空に』で共演しました。そしてオスカー候補になりました。親友同士を演じた私たちにも現実世界で友情が生まれました。クランクアップの日に貴方が言った言葉が忘れられないです。「友達になると言うことは相手のためにコーヒーを炒れることだ、できるか?テッド」私はテッドじゃない」会場は失笑。「それほど仲良くなっていきました。モーガンは誰より心の広い人です。そしてマスターです。共演者は誰でも例外なく大きな刺激を受けます。仕事に対して真面目な人ですからマンデラ役でのノミネートは不思議ではありません。」「モーガン、貴方の才能に経緯を表します。」
コリン・ファレルがジェレミー・レナーを紹介しました。「ジェレミーとは『S.W.A.T.』で共演し撮影以外でも一緒に遊びました。メキシコに行ったよね。殆ど記憶がないけど。でも一つのベッドで寝たことは忘れていないよ。言っておきますが何もなかった。」会場は大爆笑です。「単純なアクション映画でもジェレミーは輝いていました。そしてジェレミーは誰とでも同じように接していました。『ハート・ロッカー』ので友人の芝居を見るのもとても嬉しい経験でした。20年の俳優人生で遂に才能を発揮できる役に出会えましたね。政治的なことを追い求めた映画ではない。だからひとりの男の姿が真に迫ってきます。ノミネートされて当然です。グッドラック、ジェレミー。」

プレゼンターは、昨年主演女優賞受賞したケイト・ウィンスレット。
ノミネートは、『Crazy Heart』のジェフ・ブリッジス、『マイレージ、マイライフ』のジョージ・クルーニー、『A Single Man』のコリン・ファース、『インビクタス/負けざる者たち』のモーガン・フリーマン、『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナーでした。ちなみにabcの事前アンケートでは、ジェフ・ブリッジス、35%。ジョージ・クルーニー、20%。コリン・ファース、8%。モーガン・フリーマン、26%。ジェレミー・レナー、11%でした。
受賞は一般視聴者も支持したジェフ・ブリッジスでした。会場全員がスタンディングオベーションをおくりました。

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主演女優賞:An Actress in a Leading Role
主演女優賞候補の映像が編集され上映されました。
上映が終わると、男優賞と同様、舞台には蒼々たる顔ぶれが登場します。フォレスト・ウィテカー、マイケル・シーン、ピーター・サースガード、オプラ・ウィンフリー、スタンリー・トゥッチ。

フォレスト・ウィテカーがサンドラ・ブロックを紹介しました。ウィティカーは、『ラストキング・オブ・スコットランド』でオスカーを手にした俳優です。『しあわせの隠れる場所』で、サンドラ・ブロックが演じるのはタフな女性です。感情を出しません。彼女は引き取った若い男に自分専用ベッドは初めてだと言われます。そのときサンドラは目で感情を表現していました。私は監督として『微笑みをもう一度』で彼女と仕事をしました。なにげなく演じているようでしたが実はデリケートで複雑な芝居をしていました。とてもきめやかで魔法のような演技。それが女優・サンドラ・ブロックです。」
マイケル・シーンがヘレン・ミレンを紹介しました。「全ての英国首相は、ヘレンのような女王と良い関係になるべきです。私はヘレンが女王に扮しオスカーを受賞した『クイーン』で共演しました。」シーンは、英国首相役でしたね。「撮影中にいつも思うことがありました。こんなに女王に惹かれて良いのだろうか、と。エリザベス女王ですからね。」会場は笑いに包まれました。「しかし女王のメイクが落ちてくると見ヘレンの手に蜘蛛の巣のタトゥーが出現します。才能と勇気とタトゥーを持ったヘレン・ミレン。女王も伯爵夫人も演じられるのです。オスカー・ノミネートおめでとう。」
ピーター・サースガードがキャリー・マリガンを紹介しました。「キャリー・マリガンと私は2回恋に落ちています。演技上のお話しです。1回目は舞台、2回目は『17歳の肖像』です。酷い仕打ちをしました。結婚していると黙っていて申し訳ない。優雅で知的な人物の複雑な演技を見事に演じました。幸いに私たちはまだ若いので、今後も素晴らしい演技を見ることができるでしょう。こうやって賞されるのはどんな感じですか?きっとこれからも讃えられることがおおいので慣れたほうがいいですよ。」
オプラ・ウィンフリーがガボリー・シディベを紹介しました。「彼女は、大学に行くつもりでした。しかし月曜日に学校をサボって『プレシャス』のオーディションへ行きました。火曜日に電話があり、リー・ダニエルズ監督と会うことになりました。水曜日に主演が決定します。そして今夜、同じ部門でメリル・ストリープと同じオスカー候補者です。これぞハリウッドのおとぎ話です。」シディベは、涙を流していました。「『プレシャス』で厳しい現実におかれた主人公。あの演技はどこから来たの?楽しくて前向きで輝いているあなたが人々の心に訴える絶望的な少女に変身しました。どややればあんなお芝居ができるの?あなたはまるでアメリカ版シンデレラです。女優として今新しいキャリアを歩こうとしています。これからも沢山の賞賛を浴びることにになるでしょう。おめでとう、ガボリー・シディベ。」
スタンリー・トゥッチがメリル・ストリープを紹介しました。「メリル、何かかお話ししましょうか。世界中の人と同様、私も貴方を愛しています。貴方と共演した2作品は私の代表作です。演技はいつも素晴らしい、その上、有名女優なのにいつも優雅で謙虚。これはすでに誰もが知っていることですね。誰も知らないこと、貴方はユーモアがあって優しく協調性がある。そんな理想的な共演者ですばらしい友人です。しかし賞や栄誉と言った分野ではあなたはどうも独り占めする傾向にあるようですね。そこで私はアカデミーにある提案をしました。俳優のノミネートは16回までと。そうなればこれが最後になるんです。好きか嫌いかは別として誰もがメリル・ストリープは最高の役者だということを認めています。

プレゼンターは、昨年主演男優賞受賞したショーン・ペン。「ボクは正式なアカデミー会員ではないです。アカデミーもボクも昨年は優れた女優への感謝を怠っていたように思います。今日は気持ちをリフレッシュして素晴らしい女優を讃えたいです。というコメントをしました。
ノミネートは、『しあわせの隠れ場所』のサンドラ・ブロック、『The Last Station』のヘレン・ミレン、『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、『プレシャス』のガボリー・シディベ、『ジュリー&ジュリア』のメリル・ストリープでした。
ちなみにabcの事前アンケートでは、サンドラ・ブロック、55%。ヘレン・ミレン、4%
。キャリー・マリガン、5%。ガボリー・シディベ、17%。メリル・ストリープ,19%でした。
受賞は、『しあわせの隠れ場所』のサンドラ・ブロックでした。数日前に行われたラジー賞では、最低女優賞を受賞し、ちゃんと授賞式に出席したブロックが、今度はアカデミー主演女優賞を受賞です。
舞台に上がり、オスカー像を受け取った彼女は「私の実力?それとも皆さんが諦めたの?」と発言。会場は失笑でした。「アカデミー賞のおかげで、この1ヶ月間は様々な人たちと時間を共有できました。将来仕事をしたい方々です。皆さんは私の憧れです。この賞は4人の女優さんと共有したいです。ギャビー、言葉にならないほど素晴らしい。キャリー、あなたの優雅さと美貌は嫌みです(笑)。ヘレン、私は貴方を家族と思っています。メリル、貴方は本当に期すが上手ですね。」『スピード』で有名になった彼女はここまで立派になりました。彼女は、映画関係者への謝辞を述べました。そのなかでジョージ・クルーニーに対して「私をプールに突き落としたことを今でも恨んでいます」というコメントは会場で受けていました。そして母親への感謝の言葉。このあたりからブロックは涙を見せます。
サンドラ・ブロックのスピーチは誰もが心を奪われ、彼女自身がとても魅力のある女性だということがわかるものでした。

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監督賞:Directing
プレゼンターはバーブラ・ストライサンドです。「今夜、5人の優れたノミネートから誰が選ばれるのでしょうか?女性だったら史上初です。もしかしたら史上初のアフリカン・アメリカンかもしれません。自ら脚本も手がけた3人の内の誰かかもしれません。1人は史上最高の興行成績を記録した人物です。皆さんにおめでとうと言いたい。」
ノミネートは、ジェームズ・キャメロン(『アバター』)、キャスリン・ビグロー(『ハート・ロッカー』)、クエンティン・タランティーノ(『イングロリアス・バスターズ』)、リー・ダニエルズ(『プレシャス』)、ジェイソン・ライトマン(『マイレージ、マイライフ』)。
ちなみにabcの事前アンケートでは、ジェームズ・キャメロン、49%。キャスリン・ビグロー、27%。クエンティン・タランティーノ、14%。リー・ダニエルズ、5%。ジェイソン・ライトマン、4%でした。
受賞は、キャスリン・ビグローでした。ストライサンドは、名前を読み上げる前に「ついにやった!」と発言、これにビグローはハッとします。ビグローの1列後ろにはかつての旦那であり、今回監督賞を争ったジェームス・キャメロンがいました。キャメロンも直ぐに立ち上がり拍手を送りました。会場にいる全員がスタンディングオベーションをおくりました。ビグローは声を震わせながら「人生最高の瞬間です。」とコメント。「とても力のある監督達、影響され崇拝してきた方々と一緒にノミネートされたことが信じられなかったです。アカデミー会員の皆さん、ありがとうございます。この賞をイラクやアフガニスタンや世界で毎日命をかけて頑張っている彼らに!Come Home Safe.」

私はビグローと仕事をしたことがあります。とても背が高く美しかった。そして凛とした信念がある人でした。それはいまから10年以上も前の話です。驚いたのは、その当時と見かけがほとんど変わっていないことです。彼女は1951年生まれです。現在58才。そんな才能と美しさを持つ人物が史上初の女性の最優秀監督賞を受賞しました。ちなみに現在も元夫のジェームス・キャメロンとは仲がいいそうです。

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作品賞:Best Motion Picture
トム・ハンクスの登場です。「作品候補が10作品というのは1943年以来、当時は戦争中で作品賞は『カサブランカ』でした。簿ガードとバーグマンが出演した名作と同じ栄誉に輝く作品の発表です。受賞は『ハート・ロッカー』。」
ノミネートは、すでに各賞の合間で行っていたので、ここでは紹介されませんでした。ちなみにabcの事前アンケートでは、『アバター』、54%。『しあわせの隠れ場所』、8%。『第9地区』、2%。『17歳の肖像』、1%。『ハート・ロッカー』、18%。『イングロリアス・バスターズ』、6%。『プレシャス』、3%。『A Serious Man』、1%。『カールじいさんの空飛ぶ家』、5%。『マイレージ、マイライフ』、2%。でした。

『ハート・ロッカー』は、9部門でノミネートされ、6賞でオスカーを獲得しました。スピーチは、とても素晴らしいものでした。「自分たちは自分たちのやりかたでここに集う才能を使い映画を作ると決めたのです。うまくいけば配給会社が見つかり気に入ってもらえるかもしれないと作業をしました。だからここに立てるとは思ってもみませんでした。サミットに感謝します。」「世界中の制服を着て仕事をしている人にこの賞を捧げます。」
『ハート・ロッカー』は、スタジオや企業の論理に左右されず、信頼できる少数のスタッフたちが作り上げた小作品です。先導が少ないので、自分たちのカラーが色濃く出ます。もし、ここに企業が入っていたら「恋愛を入れろ!」とか「もっと爆発シーンを増やせ」とか「有名な役者をキャスティングしろ」と口を挟んだはずです。このような介入をしないで配給をしたサミットは、確かに素晴らしいです。ご存じの通り、近年サミットは急速に成長している企業です。ヒット作がたくさんあります。きっとサミットは、大企業病に陥っていない唯一の映画配給会社なのではないでしょうか。

そして、フィナーレ。司会のスティーブ・マーティンは、「授賞式が長すぎるから『アバター』でさえ古く感じるよ。」「アレック、君は俳優、コメディアン、そして人間としても最高だよ。」アレックは「良い締め言葉だ!」

アカデミー賞は、世相を反映します。もし、現在アメリカが兵士を中東に派遣していなかったら、こういう結果になったでしょうか?戦争は、エンターテイメント業界にも大きく影響したのです。といいつつ、アメリカ人のインディアン侵略を模したような作品には肯定的になれないという側面もあります。また別次元で見ると、大手スタジオの勢力を減らしたいと思うスタッフの気持ちも働いています。
実は、アカデミー賞にノミネートされた作品や人々はすでに十分素晴らしいのです。ノミネート作品は全て見るべきですし、見て満足できます。最優秀賞は、外的環境、内的環境によるところが大きいです。

皆さん、是非ここに記された作品を見て、ご自身で最優秀賞を選んでみてください。映画に関する認識がきっと変わるはずです。



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第82回アカデミー賞 授賞式 2/3 [映画賞・映画祭]

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The 82nd Annual Academy Awards

前回に続き、09年度アカデミー賞を詳しくお伝えしていきます。

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ガバナーズ・アワード
クイーン・ラティファの登場です。
彼女は、11月14日に行われた史上初のアカデミー協会賞のイベントについて説明しました。
このイベントで映画界に貢献した3人の映画人にガバナーズ・アワード(名誉賞)が授与され讃えられたそうです。そして、そのときのハイライトが上映されました。

1人目は、プロデューサー、ディレクターであるロジャー・コーマン氏。ご存じの通り、彼はジェームス・キャメロンはじめおおくの映画人にとって師であり親代わりであり、友達でもあります。イベントでは、タランティーノ、スピルバーグ、ロン・ハワードが祝辞を述べていました。
2人目は、撮影監督のゴードン・ウィルスが。彼はゴッドファーザー・シリーズやウッディ・アレンの映画で有名です。
3人目は、ローレン・バコール。「三つ数えろ」などで名声を博し、ハンフリー・ボガードと結婚。私世代では「オリエント急行殺人事件」「ミザリー」でとても美しかった女優さんです。

最後にアーヴィング・G・タルバーグ賞は「エクソシスト」「スーパーマン」などのプロデューサー、ジョン・キャリーに授与されました。彼は、現場のプロデューサーではなく、メジャー・スタジオの役員という立場で企画にグリーンライトを灯す仕事をしてきた人物です。

アカデミー賞の会場にはロジャー・コーマンとローレン・バコールが来ていました。
ロジャー・コーマンは、容姿がこの20年全く変わっていないように見えました。低予算映画を山のように作り、赤字を作らない映画人です。彼のB級映画で現在ハリウッドのトップで活躍する映画人が教育を受けました。この賞に十分値する人物です。
ローレン・バコールは、かつて映画におおく出演していた頃の面影はあまりなく、かなりのお婆さんでした。
二人が紹介されると、会場は拍手拍手です。先輩に対し深い尊敬の念を抱き、全員がスタンディングオベーションをおくりました。

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助演女優賞:Actress In a Supporting Role
プレセンターはロビン・ウィリアムズです。
ウィリアムズは、「素晴らしい女優が候補になったこの賞を授与できるのはとても光栄です。」とスピーチしました。
ノミネートは、『ナイン』のペネロペ・クルス、『マイレージ、マイライフ』のベラ・ファーミガ、『Crazy Heart』のマギー・ギレンホール、『マイレージ、マイライフ』のアナ・ケンドリック、『プレシャス』のモニークです。
abcの事前アンケートでは、50%もの視聴者がモニークを支持していました。受賞は、予想通り『プレシャス』のモニークでした。モニークの名前が呼ばれると、会場にいるおおくの俳優がスタンディングオベーションをおくりました。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
コリン・ファースが、『17歳の肖像』を紹介しました。

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美術賞:Art Direction
シガニー・ウィーバーが赤いドレスを着てプレゼンターとして登場しました。「初めてエイリアンのセットを見たとき、その美しさに驚きました。セットを歩き回り感動しました。エイリアンが破壊してしまったけど・・・」
ノミネートは、『アバター』、『 Dr.パルナサスの鏡』、『 NINE 』、『シャーロック・ホームズ』、『ヴィクトリア女王 世紀の愛』でした。
ノミネート作品の紹介には、素晴らしいビデオが用意されていました。各作品の美術が描いたイメージスケッチが紹介され、その絵と同じ映画のセットにオーバーラップしていきます。美術は撮影前にほぼ映画と同じ構図のスケッチ画を制作していることがわかります。そしてその絵は、セットデザインだけでなく映画のテイストまで加味されているんですね。
abcの事前アンケートでは77%が『アバター』を支持していました。受賞は、『アバター』のR・カーターとR・ストロムバーグ、装置のK・シンクレアでした。これは納得のいく結果です。世の中に存在しない世界を一から作り上げた彼らの仕事は偉大でした。『アバター』に出演したウィバーからオスカーを受け取る受賞者は、とても嬉しそうでした。

司会のスティーブ・マーティンとアレック・ボールドウィンが登場です。「次のプレゼンターはファッション界の人気者です。「シングル・マン」の監督トム・フォードとシングル・パウンド(軽い)サラ・ジェシカ・パーカーです!」

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衣裳デザイン賞:Costume Design
トム・フォードは、グッチのデザイナーとしてグッチを蘇らせた男、そしてイヴ・サン・ローランを蘇らせたデザイナーです。そんな彼はNYU出身で映画にも興味があったようです。09年には「シングル・マン」という映画の監督をしました。サラ・ジェシカ・パーカーは、「セックス・アンド・ザ・シティ」で有名ですね。10年には同作2本目の映画が公開されます。ファッション界の業界人から見るとアカデミー賞らしい二人のカップリングです。アカデミー賞は、このような素晴らしいプレゼンターを用意することでいっそう素晴らしいショーになっているのですね。
ノミネートは、『 Bright Star』、『ココ・アヴァン・シャネル』、『 Dr.パルナサスの鏡』、『NINE』、『ヴィクトリア女王 世紀の愛』でした。abcのアンケートでは41%が『NINE』を支持していましたが、受賞は19%支持の『ヴィクトリア女王 世紀の愛』でした。やはり、この部門は歴史映画が強いですね。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
シャーリーズ・セロンが、『プレシャス』を紹介しました。

続いて司会のスティーブ・マーティンとアレック・ボールドウィンが登場です。ここでアカデミー賞で音楽を担当するマーク・シェイマンと指揮者のハロルド・ウィーラーが紹介されました。

パラノーマル・ビット
ホラー映画についての特別映像が上映されました。上映の前に、スティーブ・マーティンとアレック・ボールドウィンが体験した不思議な一夜の映像が流されました。これは「パラノーマル・アクティビティー」のパロディです。アカデミー賞のために二人が出演したコメディ仕立てのホラー映像でした。

特集:ホラー映画
プレゼンターはクリスティン・ステュワートとテイラー・ロートナーです。「『エクソシスト』がアカデミー賞を受賞してから37年が経ちました。今夜はホラー映画に敬意を表したいと思います。」というスピーチをしました。
そして、アカデミー賞のために編集されたホラー映画の映像が上映されました。
オープニングは、『ジョーズ』です。スピルバーグの傑作ですね。次は『エルム街の悪夢』、今年リメイクされます。まずはフレディーのシルエット。そしてチャッキー(『チャイルド・プレイ』)のシルエット。『エクソシスト』の有名なシルエット、『サイコ』のシャワーシーンで、シャワーカーテンに写るシルエット・・・ホラー映画に使われたシルエットの映像が繋げられていきます。ここまでは『ジョーズ』の音楽で包まれていました。
『サイコ』でシャワーカーテンが開けられ、ベイツがナイフを振り上げると、今度はナイフ・シーンで映像を繋いでいきます。『ハロウィーン』のブギーマンの手元、『13日の金曜日』のナイフ。
『ポルターガイスト』のキャロル、『エルム街の悪夢』のジョニー・デップ(彼のデビュー作ですね)が「あいつがきたぞ!」と叫ぶと、音楽は『サイコ』になり、一気にホラー映画の名シーンがスクリーンに映し出されました。
悪魔の住む家』『シャイニング』『スクリーム』『ヘルレイザー』『13日の金曜日』『ソウ』『羊たちの沈黙』『ハロウィーン』『エイリアン』『チャイルド・プレイ』『悪魔のいけにえ』。ここまでは、映画に登場する犯人(悪者、敵)が登場しました。フレディー、ジェイソン、ジグソー、レクター・・ホラー映画を見ない人でも誰もが知っているキャラクターたちです。
続いて逃げる映像集。『死霊のはらわた』『シャイニング』『エルム街の悪夢』と繋がり、今度は事件の犯人が登場するシーンが!『サイコ』『リング』・・・
そしてクラシック・ホラーの登場です。『ノスフェラトゥ』『ドラキュラ』『オペラ座の怪人』『狼男』『フランケンシュタイン』『フランケンシュタインの花嫁』デ・ニーロ版『フランケンシュタイン』『ビートルジュース』『フロム・ダスク・ティル・ドーン』『スリーピー・ホロウの伝説』『鳥』コッポラ版『ドラキュラ』『生ける屍の夜』・・・
今度は、女性の悲鳴を集めています。『サイコ』『ポルターガイスト』『リング』『スクリーム』・・・
次は何故か『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』など歯医者のシーンを集めました。
一転『エクソシスト』の音楽になり、名作ホラーの美男美女たちの美しい映像が繋がれて映写されました。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のトム・クルーズとブラッド・ピット、『エイリアン2』のシガニー・ウィーバー、『シザーハンズ』のジョニー・デップ、『13日の金曜日』のケビン・ベーコン・・・
最後に『シャイニング』の廊下のシークエンス、『シックス・センス』の名シーン『エイリアン』『エクソシスト』『キャリー』『エルム街の悪夢』『ブロブ』『ブレア・ウイッチ・プロジェクト』・・・たたみかけるようにホラー映画の名シーンが映写されました。
カメラが会場を写すと、クイティーン・タランティーノが嬉しそうに拍手していました。

特集:サウンド
ザック・エフロンとアナ・ケンドリックの登場です。
「次は映画に素晴らしい音を加える方々への賞です。今日は素晴らしい声の持ち主に手伝って貰います」
サウンドに関する映像が上映されました。ナレーションはモーガン・フリーマンです。フリーマンは音響編集とミックスに関し映画『ダークナイト』の映像を使いながら解説していきました。
このビデオは、映画学校の教材として使えるほどわかりやすく興味が持てるものでした。映画を撮影したときは音が不十分です。映像を編集した後、音響チームは、現場で録音された音を整音し、足りない音を新たに録音します。タイヤのきしむ音、壊れる金属の音、爆発音などです。これらの音を編集したあと、ミキサーが登場します。ミキサーは沢山の音を丁寧に調整していきます。ここでセリフと音響効果のバランスが整い、お客さんが聞きやすくなるのです。

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音響効果賞:Sound Effect
引き続きザック・エフロンとアナ・ケンドリックがプレゼンターです。
ノミネートは、『アバター』、『ハート・ロッカー』、『イングロリアス・バスターズ』、『スター・トレック』、『カールじいさんの空飛ぶ家』。今年はどの作品も素晴らしい音響でした。アバターは、この世ではありえない音を創造しハート・ロッカーは、戦争の激しい音響を見事に作り上げました。無音のシーンも素晴らしかったです。「イングロリアス・バスターズ」は、タランティーノらしい激しい音響が印象的でした。「カールおじさん」は、スカイウォーカーサウンドらしい品のある仕上がりでした。
受賞は、『ハート・ロッカー』のポール・N・J・オットソンでした。

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録音賞:Sound Mixing
引き続きザック・エフロンとアナ・ケンドリックがプレゼンターです。
ノミネートは、『アバター』、『ハート・ロッカー』、『イングロリアス・バスターズ』、『スター・トレック』、『トランスフォーマー リベンジ』。音響効果賞とほぼ同じ作品が並びました。どの作品もいったい何トラック使ったのかという厚みのある音でした。邦画では32トラック程度ですが、ここに並んだ作品は100を超えるトラックを調整していると思います。劇場でのサラウンド感も見事でした。
受賞は、『ハート・ロッカー』のポール・N・J・オットソンとR・ベケットでした。オットソンは、今回だけで2つもオスカーを得ました。

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科学技術賞:Scientific Technical Awards
『ブッシュ』で好演したエリザベス・バンクスの登場です。彼女は、科学技術賞を発表しました。
15部門で43人が受賞しました。とても簡単に紹介されましたが、実は受賞者は映画界にとってとても重要な仕事をしたのです。皆さんが何気なく行っている映画館や見ている映画には新しい技術が満載されています。例えば、映画を撮影するフィルムは毎年新しいものが開発されています。劇場のスピーカーは、どんどん音質が良くなっています。最近ではデジタルシネマの技術開発が盛んです。このように観客が直接目にはしない映画技術を支えている人たちが受賞しました。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
ジョン・トラボルタが、『イングロリアス・バスターズ』を紹介しました。

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撮影賞:Cinematography
サンドラ・ブロックがプレゼンターです。「私はどの撮影現場でもまずDP(撮影監督)と親しくなります。そして綺麗に撮ってとお願いします。ホントです。芸術とかはどうでもいいので綺麗にね、と」これは女優の本音ですね。
ノミネートは、『アバター』、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』、『ハート・ロッカー』、『イングロリアス・バスターズ』、『白いリボン』です。
abcの事前アンケートでは、『アバター』60%、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』13%、『ハート・ロッカー』12%、『イングロリアス・バスターズ』13%、『白いリボン』2%でした。
受賞は、一般視聴者の期待通り『アバター』のマウロ・フィオーレでした。フィオーレは、アカデミー初受賞です。彼のスピーチが感動的だったのでここに記しておきます。「私の両親はスーツケース4個に夢を詰めて米国に来ました。シカゴとオマハの住民に感謝します。そしてニュージーランドのクルー、(そしてイタリア語で)イタリア万歳!心から愛しています!」
3Dの撮影はとても大変だったはずです。2D映画はフォーカスを決めるのが比較的簡単です。しかし3Dの場合、フォーカス以外に、起点となるポイントを決めなくてはいけません。このポイントから手前が飛び出して見え、ポイントの後ろが奥行きとなります。ポイントを間違うと、人間の目と脳に障害が残る可能性があるので、1カット毎に綿密な画面設計が求められます。そして、激しい動きや短いカットも人体に影響を与える可能性があるので、慎重に撮影する必要があるのです。ただでさえ大変な3D撮影を『アバター』というSFアクションで取り入れたのは、当初誰もが無謀だと思いました。しかしマウロ・フィオーレは、スローモーションやズームを上手く使って3D映像の問題点を克服しています。さらにシネマスコープ版とIMAX版という2種類の映像を作り上げています。要は映画2本分の作業をしたのです。これはアカデミー賞を受賞するのは当たり前です。さらにいうと、映画撮影の歴史を変えた程の人物です。

追悼2009: In Memoriam
デミー・ムーアの登場です。
追悼演奏はジェームズ・テイラーでした。彼は"In My Life"をギター1本で歌いました。

パトリック・スウェイジ(俳優)、モーリス・ジャール(作曲家)、モンテ・ヘイル(俳優)、ジーン・シモンズ(俳優)、トゥリオ・ピネッリ(脚本家)、エリック・ロメール(監督)、ケン・アナキン(監督)、デビッド・キャラダイン(俳優)、ギャレス・ウィガン(スタジオ・エクゼクティブ)、ダニエル・メルニック(プロデューサー)、ハワード・ジーフ(監督)、ドム・デルイーズ(俳優)、アーミー・アーチャード(ジャーナリスト)、ロン・シルヴァー(俳優)、ブリタニー・マフィー(俳優)、ルー・ジャコビ(俳優)、サイモン・チャニングーウィリアムズ(プロデューサー)、ベッツィ・ブレア(俳優)、ジョセフ・ワイズマン(俳優)、ジャック・カーディフ(撮影)、キャスリン・グレイソン(俳優)、アーサー・カントン(PR担当)、ナット・ボクサー(音響)、ミラード・カウフマン(脚本家)、ロイ・E・ディズニー(スタジオ・エクゼクティブ)、ラリー・ゲルハート(脚本家)、ホートン・フート(脚本家)、ロバート・ウッドラフ・アンダーソン(脚本家)、バド・シュールバーグ(脚本家)、マイケル・ジャクソン、ナターシャ・リチャードソン(俳優)、ジェニファー・ジョーンズ(俳優)、デビッド・ブラウン(プロデューサー)、カール・マルデン(俳優)

今年度もおおくの映画人が他界しました。パトリック・スウェイジの死は、私たち世代にとってはショックでした。個人的にはディズニーを長い戦いの後立て直したロイ・E・ディズニーと素晴らしい映画をプロデュースしたデビッド・ブラウン(プロデューサー)に敬意を表したいと思います。

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音楽賞:Music (Original Score)
プレゼンターはジェニファー・ロペスとサム・ワシントンです。
今年は世界のダンサー達が、ノミネート作品の楽曲に会わせパフォーマンスを披露しました。ノミネートは、『アバター』、『 Fantastic Mr. Fox』、『ハート・ロッカー』、『シャーロック・ホームズ』、『カールじいさんの空飛ぶ家』でした。どの楽曲もメロディーラインがしっかりしていて誰もが心に記憶するものです。
abcのアンケートでは、『アバター』43%、『 Fantastic Mr. Fox』5%、『ハート・ロッカー』4%、『シャーロック・ホームズ』18%、『カールじいさんの空飛ぶ家』31%という予想でした。受賞は、『カールじいさんの空飛ぶ家』のマイケル・ジアッキーノでした。ジェームス・ホーナー残念!

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視覚効果賞:Visual Effects
ジェラルド・バトラーとブラッドリー・クーパーがプレゼンターです。
ノミネートは、『アバター』、『第9地区』、『スター・トレック』の3作品でした。受賞は当たり前ですが『アバター』のJ・レッテリ、S・ローゼンバウム、R・ベネハム、A・R・ジョーンズでした。受賞者は、監督、プロデューサー、ライトストーム、WETAに感謝していました。
今年のアカデミー賞が後世に語り継がれるとしたらこの『アバター』です。受賞数は少なかったのですが、『アバター』で映画の視覚効果の概念が変わってしまいました。新しい映像表現を『アバター』チームは完成させたのです。今まではILMが視覚効果の中心だったのですが、遂にニュージーランドのWETAの時代がやってきました。今後のWETAがどんな魔法を使うのか、今から楽しみです。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
ジェイソン・ベイトマンが、『マイレージ、マイライフ』を紹介しました。

アレック・ボールドウィン「次のプレゼンターは、27才でアカデミー脚本賞を受賞、その後アクションスターに転向しました。ハリウッドの歴史でも脚本家がアクションスターになった例は大変珍しいですよね。」
マット・デイモンが登場です!デイモンはドキュメンタリー賞のプレゼンターです。

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長編ドキュメンタリー賞:Documentaru Feature
ノミネートは、『ビルマVJ 消された革命 』、『 The Cove 』、『 Food, Inc. 』、『 The Most Dangerous Man in America: Daniel Ellsberg and the Pentagon Papers 』、『 Which Way Home 』でした。受賞は『 The Cove 』。受賞達は政治的な発言をせず謝辞を述べました。


第82回アカデミー賞授賞式を途中までお伝えしました。今年は、『アバター』VS『ハート・ロッカー』という話題に終始しましたが、実際にアカデミー賞を見てみると、映画愛に溢れた演出でした。映画に関わる人たちを讃えるのがアカデミー賞の理念です。そしてノミネートされた作品やスタッフ、キャストが、温かい目でこれを見ている光景が素晴らしかったです。

さて、次回はいよいよメイン賞をお伝えします。結果は皆さんご存じでしょうが、ここでは、受賞作だけでなく映画愛に溢れた授賞式自体の雰囲気をお伝えできれば、と思っています。

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第82回アカデミー賞 授賞式 1/3 [映画賞・映画祭]

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The 82nd Annual Academy Awards

今年もアカデミー賞を詳しく解説していきましょう。テレビで中継を見た方、結果だけ知っている方もおおいと思いますが、ここではテレビや結果だけでは分からないアカデミー賞の魅力や裏側を紹介していきます。
今年は、1944年以来、最優秀作品賞のノミネートが10作品になったことが話題となりました。10作品になることで票がバラけ、どの作品が受賞するかわからなくなります。もしかしたら今までのように5作品ノミネートだったら受賞していたはずの作品が賞を逃すかもしれないという可能性があり、発表前からかなり予想がヒートアップしていました。
そして、今年のもうひとつの目玉は「アバター」VS「ハート・ロッカー」の対決です。映画歴史上の興行収入記録を破った「アバター」、その監督ジェームス・キャメロンの元妻キャサリン・ビグローが監督した「ハート・ロッカー」が多数ノミネートされており、この結果にも興味が集まりました。

さあ、ロサンゼルスのコダックシアターで第82回アカデミー賞授賞式が始まります!

オープニング
今年の舞台は、全体的に色を抑えた品のあるものでした。舞台上には大きなモニターが6つ。真ん中のモニター2つは上下左右に可動式で、プレゼンターの登場時は扉として機能し、長めの映像を映すときは2つが繋がり1つのモニターとして機能します。そして、センターにモニターが必要ないときは左右に移動したり、時には舞台上にはけてしまうのです。左右の4枚のパネルは通常2個のモニターとしておいてあり、時々4枚になります。この6枚のパネルが効果的に動き、アカデミー賞全体をショーアップしていました。舞台の上部と左右袖には、キラキラした幕が設置され優雅さを演出しています。

大きなモニターが動き出すと、そこには複数の人影が。主演男優賞と主演女優賞にノミネートされている面々であることがわかります。左からジェフ・ブリッジス(『Crazy Heart』)、サンドラ・ブロック(『しあわせの隠れ場所』)、ジョージ・クルーニー(『マイレージ、マイライフ』)、ヘレン・ミレン(『The Last Station』)、コリン・ファース(『A Single Man』)、キャリー・マリガン(『17歳の肖像』)、モーガン・フリーマン(『インビクタス/負けざる者たち』)、ガボレイ・シディベ(『プレシャス』)、ジェレミー・レナー(『ハート・ロッカー』)。メリル・ストリープ(『ジュリー&ジュリア』)。蒼々たる顔ぶれです。
会場に「第82回アカデミー賞 授賞式が始まります!」というナレーションが流れると、客席からそれぞれのパートナーが舞台にあがり、二人で客席に座るという演出で幕を開けました。

左右のモニターには、ハリウッドで活躍してきたコメディアンの白黒写真が写されました。舞台上にはニール・P・ハリスが登場します。いつも通りのオープニングの歌は彼が歌いました。ハリウッドの歴史や今年の話題を取り入れた素敵なショーでした。

今回の司会は、スティーブ・マーティンとアレック・ボールドウィンです。マーティンは、今年で3回目の司会となります。ボールドウィンは、暫く映画界から離れていましたが今はNBCのテレビドラマで大活躍中の俳優です。

二人の司会者は、なんと舞台の天井からキラキラ光る乗り物に乗り、派手に登場しました。
マーティンは、ちょっと年を取った印象です。ボールドウィンは、ちょっと太った感じがします。今年はこのコメディアンとテレビ俳優(!)がアカデミー賞を進行していきます。
ご存じの通り、スティーブ・マーティンは、コメディアンであると同時に監督、プロデューサー、脚本家でもあります。とても才能があり、人をハッピーにさせる天才です。アレック・ボールドウィンは、ボールドウィン・ファミリーの中心的存在で、子供の頃からハリウッドの俳優やスタッフにおおくの友人を持つ人物です。一見、なんでこの2人が司会なの?と思うかもしれませんが、実は納得のいくキャスティングなのです。

二人はアカデミー賞の仕組みを説明しました。まず、6000人の会員が投票します。それをプライス・ウォーターハウスという管理会社が集計し、結果は当日まで金庫に保管されるのです。
このシステムについては、皆さんもご存じだと思います。この公平性があってのアカデミー賞です。何故世界中の映画ファンがアカデミー賞を見るのかというと、きちんとした資格のある人々が投票し、不正なく票が集計されているからなのです。どこかの国とは大違いですね。

そして、二人はメリル・ストリープに話題を移します。彼女は史上最もおおくノミネートされた俳優であると同時に、最もおおく最優秀賞を取れなかった俳優でもある、と。これには会場も大爆笑でした。

ここからは、例年通りのノミネート作品や俳優の紹介です。二人はユーモアを交えて紹介していきます。かなり際どい内容ですが、それを笑いに変えてしまう話術には感心させられました。ここでいくつか紹介しましょう。
「あれは、『アバター』のジェームス・キャメロン監督じゃないか?」といって赤青の3Dメガネを取り出す2人。「あの切り貼り映画が大ヒットしたなんて!」という会話の後、テレビ画面には、『アバター』にでてきた森の精霊が合成されました。2人の周りを飛び回る精霊、するとマーティンが殺虫剤を取り出し、それらを殺してしまいました。
『ハート・ロッカー』の監督・キャサリン・ビグローを紹介するときは、元夫である『アバター』のジェームス・キャメロン監督に時限爆弾付きのバスケットを送ったというエピソード(勿論ウソ)を披露。キャメロンはお返しにTOYOTA車を送ったとか...
イングロリアス・バスターズ』で助演男優賞にノミネートされているクリストフ・ヴァルツを紹介するとき、映画の中ではユダヤ人捜しに必死だった彼に向かって「ここにはユダヤ人が沢山いるよ!」という表現。「好きなだけ連れて行け!」で大爆笑。

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助演男優賞:Actor in a Supporting Role
プレゼンターは昨年助演女優賞を受賞したペネロペ・クルス。深紅のドレスに身を包み優雅に登場した彼女はスペイン語アクセントでノミネート作品を紹介しました。
マット・デイモン(『インビクタス/負けざる者たち』)、ウディ・ハレルソン(『The Messenger』)、クリストファー・プラマー(『The Last Station』)、スタンリー・トゥッチ(『ラブリーボーン』)、クリストフ・ヴァルツ(『イングロリアス・バスターズ』)。
受賞は、予想通りクリストフ・ヴァルツでした。彼はアカデミー賞に初ノミネートで初受賞です。ご存じの通り、彼はドイツ人です。俳優として成功するためには海を渡って米国に来ないといけないと思っていたときに、この作品に出会い、タランティーノ達と一緒に冒険をして来た。そしてこの新天地で暖かい歓迎を受けて嬉しいと、流暢な英語でスピーチしました。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
ライアン・レイノルズがプレゼンターで、『しあわせの隠れ場所』を紹介しました。

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長編アニメ映画賞:Best animated feature film of the year
プレゼンターは、キャメロン・ディアスとスティーブ・カレルです。奇妙な取り合わせに思えますが、この二人はコメディ映画の俳優でもあります。
キャメロンは、スピーチをカンでしまいました。そして、カレルのことをジュードと呼んでしまいます。「どうもプロンプターの調子がおかしくて・・・」と困るキャメロンに、「本当は、ここには私ではなくジュード・ローが来るはずだったんだけど、急遽私が出ることになったんだ」とカレルが切り返しました。これは、芝居なのか、本当にプロンプターが壊れたアクシデントだったのかわかりませんでした。
このあと、アカデミー賞のために作られたアニメが上映されました。アニメーション賞にノミネートされている作品の主人公達がノミネートされたことにコメントしていきます。各アニメーションスタジオがオリジナルでアニメを制作し、声優さんがきちんとアフレコしています。これはかなり貴重な映像でした。
ノミネートは、『コララインとボタンの魔女 3D』、『Fantastic Mr. Fox(原題)』、『プリンセスと魔法のキス』、『ブレンダンとケルズの秘密』、『カールじいさんの空飛ぶ家』でした。
受賞は『カールじいさんの空飛ぶ家』。ピクサーのピート・ドクターは6度目の受賞です。会場にはジョン・ラセターとスティーブ・ジョブスの喜ぶ姿がありました。

ここで司会のスティーブ・マーティンとアレック・ボールドウィンの登場です。
「次のプレゼンターは、私たちのことを知らないほど若い、アマンダ・サイフライドとマイリー・サイラスです」

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歌曲賞:Original Song
今までは、歌曲賞は後半に発表されていましたが、今年は2番目でした。
ノミネートは、「Almost There」(『プリンセスと魔法のキス』)のランディ・ニューマン、「Down in New Orleans」(『プリンセスと魔法のキス』)の同じくランディ・ニューマン、「Loin de Paname」(『幸せはシャンソニア劇場から』)のラインハルト・ワーグナー(作曲)とフランク・トマ(作詞)、「Take It All」(『NINE』)のモーリー・イェストン、「The Weary Kind」(『 Crazy Heart』)のライアン・ビンガムとT・ボーン・バーネットでした。
受賞は、ライアン・ビンガムとT・ボーン・バーネット。今年は熾烈な戦いとなりましたが、渋い選択でした。アメリカ人ならではの、ハリウッド人ならではの受賞ですね。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
クリス・パインが、『第9地区』を紹介しました。

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オリジナル脚本賞:Original screenplay
ティナ・フェイとロバート・ダウニー・Jr.の登場です。
二人は脚本家の本音を代弁しました。我が儘なキャストやプロデューサーとの共同作業で疲れる脚本家の考えを面白おかしく話す二人はとても好感が持てました。
ノミネートは、『ハート・ロッカー』、『イングロリアス・バスターズ』、『 The Messenger』、『 A Serious Man』、『カールじいさんの空飛ぶ家』。受賞は、『ハート・ロッカー』のマーク・ボールでした。彼はアカデミー賞初受賞です。
戦争を取材してこのストーリーを思いつき、映画化を期待してそれが実現した。スタッフ、キャストに感謝すると共に、イラク駐在15000人の兵士とアフガンにいる12万人の兵士、負傷した3万人、殉職した4000人、そして先月なくなった父親に感謝するといった立派なスピーチでした。

追悼 ジョン・ヒューズ
プレゼンターは、マシュー・ブロデリックとモリー・リングウォルドです。今年、心臓発作によって突然亡くなった脚本家、監督、プロデューサーのジョン・ヒューズを追悼しました。ジョン・ヒューズは、「プリティ・イン・ピンク」「恋しくて」「ホーム・アローン」などの脚本で有名です。10代の青春を瑞々しく描く天才でした。
ブロデリックは、「フェリスはある朝、突然に」でフェリスを演じてから25年、「フェリス、今日もサボるの?」と聞かれるというエピソードを披露し、会場は笑いに包まれました。
そして、ヒューズが手がけた作品が見事に編集された映像が会場で流されました。そこには、マシュー・ブロデリック、モリー・リングウォルド、スティーブ・マーティン、エリック・ストルツ、メアリー・ステュアート・マスターソン、リー・トンプソン、ケビン・ベーコン、マコーレ・カルキンなど80年代の映画スターが映し出されました。当時青春時代を過ごした人々にとっては、自分の過去をのぞき見て懐かしめる素晴らしい映像です。それだけ皆が映画館で楽しんだ名作をヒューズは作ってきたんだと実感することもできました。
上映が終わり、モニターが左右に分割されると7人が登場しました。マシュー・ブロデリックとモリー・リングウォルドに加え、ジョン・ヒューズ映画の常連達です。ジョン・クライヤー、アンソニー・マイケル・ホール、ジャド・ネルソン、アリー・シーディ、マコーレ・カルキンがヒューズの思い出を語りました。皆、映画に出演していた頃より明らかに年をとっていますが、素晴らしいスピーチでした。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
サミュエル・L・ジャクソンが、『カールじいさんの空飛ぶ家』を紹介しました。

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短編アニメーション賞:Animated Short Film
プレゼンターは『17歳の肖像』のキャリー・マリガンと『アバター』のゾーイ・サルダナです。二人とも豪華な衣裳での登場です。サルダナは、『アバター』で自分の顔の登場シーンはなかったので、一致しない方もおおかったようですが、あのネイティリを演じた女優です。
会場には、映画製作者への第一歩というテーマの映像が流れました。様々な映画関係者がどうやって今の地位に辿り着いたのかを話しました。かなり貴重なコメントが含まれていて、これから映像業界に入りたい若者にはかなり強いインパクトがあったのではないでしょうか。ここで共通するのは、短編を作ることが重要だということでした。
ノミネートは、『 French Roast』、『 Granny O'Grimm's Sleeping Beauty』、『 The Lady and the Reaper (La Dama y la Muerte)』、『 Logorama』『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』。アニメ界は激変し、『ウォレスとグルミット』以外は全てCGによる作品でした。既にセルアニメは存在していません。
受賞は、『 Logorama』のニコラス・シュメルキンでした。シュメルキンは、フランス人です。フレンチ・アクセントを謝罪しつつ、映画に登場した3000の企業ロゴを提供してくれた方々に感謝していました。16分の作品を作るのに6年もかかったそうです。だから次回は長編映画を作って36年後に戻ってきたいというかわいいスピーチでした。

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短編ドキュメンタリー賞:Short Documentary
キャリー・マリガンとゾーイ・サルダナが続けてプレゼンターを務めます。
ノミネートは、『 China's Unnatural Disaster: The Tears of Sichuan Province』、『 The Last Campaign of Governor Booth Gardner』、『 The Last Truck: Closing of a GM Plant』、『 Music by Prudence』、『 Rabbit à la Berlin』。
受賞は、『 Music by Prudence』のロジャー・ロス・ウィリアムズとエリノア・バーケットでした。残念ながらこれら作品は、日本で見ることができません。こおような一見地味ですが見るに値する作品をなんとか日本でも配給して欲しいですね。

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短編実写映画賞:Short Live Action
引き続き、キャリー・マリガンとゾーイ・サルダナがプレゼンターを務めます。
ノミネートは、『 The Door』、『 Instead of Abracadabra』、『 Kavi』、『 Miracle Fish』、『 The New Tenants』。
受賞は、『 The New Tenants』のヨアヒム・バックとティヴィ・マグナソン。これら短編はiTUNESや別所哲也氏が主催するショートショート・ムービー・フェスティバルなどで見ることができます。

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メイクアップ賞:Makeup
ベン・スティラーの登場ですというアナウンスと共に舞台に出てきたのは青い顔の生物です。なんだ!と思ったらベン・スティラーが「アバター」のパンドラ人のメイクをしています。これには大爆笑です。
結構長い間わけのわからないパンドラ語を話し、「リハーサルの時は良いアイデアだと言われたのに」と言ったんだ、とベン。「ナチスの軍服も考えたけど他の人とかぶるから」「アバターはこの賞にはノミネートされていません。ノミネートされているスタートレックのスポックの耳を付ければ良かったんだ。ボクの持っている耳にはレナード・ニモイ(オリジナル版のスポック役)のサインが入っているんだ」など映画ファンは、腹を抱えて笑ってしまう面白ネタを連発しました。
そして、舞台の近くに座っているジェームス・キャメロンに向かって「I See You !」これは「アバター」の中のセリフですね。「ボクの三つ編みとあなたのドラゴンを結合させたい」これはパンドラ人の仕草をぱろっています。
ノミネートは、『イル・ディーヴォ』、『スター・トレック』、『ヴィクトリア女王 世紀の愛』の3作です。ちなみに「アバター」がノミネートされていないのは、パンドラ人はメイクではなくCGIだからです。
受賞は、『スター・トレック』のバーニー・バーマン、ミンディ・ホール、ジョエル・ハーロウ。毎年、この賞を受賞するのはコスチュームものです。歴史物がおおいのです。今年は是非「スタートレック」に受賞して欲しかったので嬉しいです。スピーチは、JJ・エイブラムスのしっかりとしたビジョンとエネルギー、完璧主義のおかげだというものでした。

◆◆◆最優秀作品賞ノミネート作品紹介◆◆◆
ジェフ・ブリッジスが、『A Serious Man』を紹介しました。

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脚色賞:Adapted Screenplay
プレゼンターはジェイク・ギレンホールとレイチェル・マクアダムスです。脚色賞とは、原作があるものの脚本を作った人に与えられる賞です。ベースに作品があるので、それをどのようにして映画の脚本として成立させるのかが腕の見せ所になります。
ノミネートは、『第9地区』、『 17歳の肖像』、『 In the Loop』、『プレシャス』、『マイレージ、マイライフ』。各作品を丁寧に紹介しました。これを見ると脚色がどのように行われているのかがわかりました。
受賞は、『プレシャス』のジェフリー・フレッチャーでした。彼はアカデミー賞初ノミネート、初受賞です。フレッチャーは、感極まって泣きそうでした。一生懸命お礼をいう彼の姿はおおくの視聴者の心を打ちました。

司会のスティーブ・マーティンが登場し「今のスピーチは私が書いたんですよ」といいました。なんて気の利いたコメントでしょう。

今年のアカデミー賞は、昨年同様前半は淡々と進んでいきました。ベン・スティラーくらいしか面白いことは起こらずちょっと地味に見えますが、むしろアカデミー賞の重厚さを感じることができました。
この後、82回アカデミー賞がどう盛り上がっていくのかは、皆さんもニュースなどでご存じだと思います。
次回も、ニュースでは報じられなかったアカデミー賞をお伝えしていこうと思います。
お楽しみに。

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フロスト×ニクソン [アメリカ映画(00s)]

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Frost/Nixon(2008)

ハリウッドスタジオのエクゼクティブと食事をすることがあります。彼らは皆寛容なふりをしつつ繊細な心であることを感じます。もちろん大きな制作費を扱う仕事はとてもタフです。そして有名人や映画監督プロデューサー達と友好関係を築く必要があります。朝早くから夜遅くまで、我々のイメージするアメリカ人とは異なり、日本のビジネスマン以上に働く彼らの凄さには驚かされます。
そんな彼らに共通することがあります。それは、とても良い靴を履いているのです。きっと一足数十万する靴を磨き上げて履いているのです。仕立ての良いスーツを着込んでいるのは当たり前ですが、何故かハリウッドスタジオのエクゼクティブは明らかに高級な靴を履いています。

映画「フロスト×ニクソン」には、靴に纏わる話が登場します。勿論メインストーリーとは関係ない話なのですが、この靴という小さなキーワードが映画に輝きを与えているのです。

こんな書き出しだと、皆さんはこの映画がいったいどんな映画なんだ?と驚かれるでしょう。映画は、第37代アメリカ大統領、そして歴史上ただひとり、任期中に大統領を辞職したリチャード・ニクソンと彼をインタビューする若手インタビュアー デビッド・フロストの事実に基づいたお話です。私は、この映画の主人公デビッド・フロスト氏についてあまり詳しくは知りませんでした。そして、「○○ゲート事件」と呼ばれる元になったウォーターゲート事件に関しても新聞や雑誌による一般的な情報しか知りませんでした。私のような日本人にとってニクソン大統領やウォーターゲート事件は、遠い海の向こうの話でしかなかったのです。当然、この映画にもそれほど興味を持っていませんでした。しかし、数々の賞を受賞していて監督はロン・ハワードだと聞くと、とりあえず見てみようと思い劇場に足を運びました。

この映画は、2つの側面から実際にあった事件を描いています。ひとつは、大統領を引退したニクソンに初めてのインタビューを試みて、ニクソンの事件への関与を浮き彫りにしていくというドキドキするドラマ、そしてもうひとつは、テレビ番組が作られていくうえでの制作陣のバタバタとしたドラマです。映画を見ていない人は、きっとこの映画を前者だと思っていることでしょう。しかし見終わってみると実は後者のほうがストーリーの根幹を貫いていることがわかります。そして、最終的にはニクソンという大物とただのテレビレポーターという人物の人間性や本質をあぶり出していくのです。
シンプルに見えて実に心揺さぶられるこの映画は、ただの事実を映像化しただけではなく作り手が何度も検証した脚本によって成立している希に見る秀作だったのです。

調べてみると、この映画はもともと舞台だったそうです。映画で脚本を担当しているピーター・モーガンが手がけた同名の舞台が世界で上演されていました。舞台というものは、一度たりとも同じものが存在しない世界です。そこで何度も本が直され、映画の脚本に近づいていったのでしょう。細かな台詞は研ぎ澄まされ、ひとことひとことが心に刺さります。そして映画版のニクソン役であるフランク・ランジェラとフロスト役のマイケル・シーンは、オリジナル舞台の配役そのままです。何度も何度も舞台で演じてきた役を映画で演じ直しているのだから、うまくできて当たり前です。瞬き、手の動き方まで意味のある素晴らしい演技を見せてくれます。

映画は、ロン・ハワードの制作会社であるイマジン・エンターテイメントと契約配給会社であるユニバーサル・スタジオのロゴで始まります。その後、なんとワーキング・タイトルのクレジットが出てきます。ワーキング・タイトルは「ノッティング・ヒルの恋人」「ラブ・アクチュアリー」などを制作しているイギリスの会社なのです。なんでイギリスの会社がアメリカの汚点を描くのかわかりませんでしたが、デビッド・フロストはイギリス人だったのです。そしてこの映画を作るのに必要な資金が巻簡単には集まらず、ワーキング・タイトルに資金要請を行ったのでしょう。

ロン・ハワードは、ここで説明する必要もない名監督です。沢山の映画を監督し、沢山の映画賞を受賞してきました。彼が最も得意なのは実際にあった事件を再構築した映画化です。私は彼の作品の中で「アポロ13」が好きですが、そのほかに「バックドラフト」や「ビューティフル・マインド」などの作品を手がけています。勿論商業映画も得意で「スプラッシュ」「身代金」「ダ・ビンチ・コード」なども監督しています。そんな彼が久しぶりに挑んだテーマは、ニクソン大統領の起こしたウォーターゲート事件を追うわけではなく、引退したニクソンを描く「フロスト×ニクソン」でした。
脚本は、舞台を通して既に完成の域に達しており、役者も舞台からの続投です。こうなると監督の活躍する場がないように思われますが、ハワードだからこそできる素晴らしい演出と編集で観客の心を掴んでいきます。特に爆発やカーチェースがあるわけでもないのに2時間という上映時間を感じさせない見事な演出です。

そして、音楽はいつも派手な曲作りを得意とするハンス・ジマーがとても抑えた仕事をしています。「ミッション・インポッシブル」「パイレーツ・オブ・カリビアン」と同じ作曲家とは思えない歴史物語にあう重厚な楽曲を提供しています。

撮影はサルバトーレ・トチノ。開くレンズを多用した撮影技法には驚かされました。そして1970年代を描き出す艶やかな色合いはEFILMのカラーグレーディング・チームの技です。とにかく映像と質感が素晴らしく見入ってしまいました。

驚くべき史実、練り込まれた脚本、成熟した演技、素晴らしい演出、抑えられた芸術的な音楽、艶やかな映像とここまで各部署が磨き上げたファクターを持った映画は、名作になるしかありません。映画は、世界中の沢山の映画賞を受賞しました。第81回アカデミー賞では、作品賞を含む5部門にノミネートされましたがこの年は「スラムドッグ・ミリオネア」に賞が偏り、受賞できませんでした。

「フロスト×ニクソン」、この素晴らしい映画は、日本ではそれほどヒットしませんでしたが、映画好きは是非見ることをお勧めします。映画とは何かという答えがここに詰まっているのです。そして、こういう映画が日本できちんと評価される日がいつの日か来ることを願ってしまいます。

さて、靴の話に戻ります。どうやら高級な靴はハリウッドのエクゼクティブだけでなく、テレビ業界の人も拘っているようです。そして政治家も。そして靴によりその人の個性がこの映画で見え隠れしています。このあたり、是非お見逃しなく!

<フロスト×ニクソンをさらに掘り下げる>
フロスト×ニクソン [DVD]

オリジナル・サウンドトラック「フロスト×ニクソン」

Frost/Nixon: Complete Interviews (2pc) (Spec) [DVD] [Import]

Frost/Nixon: Behind the Scenes of the Nixon Interviews

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