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イングロリアス・バスターズ [アメリカ映画(00s)]

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Inglourious Basterds (2009)

今回は、「イングロリアス・バスターズ=名誉なき野郎ども」のお話です。

<第1章:監督>
クインティン・タランティーノ、おおくの映画ファンになじみのある映画監督です。彼は脚本家、プロデューサー、撮影監督、俳優としても知られています。日本ではCMにも出演しているので知名度はかなりあるのではないでしょうか。彼の生い立ちも広く知られています。22際のとき、ロサンゼルス・マンハッタンビーチにあった個人経営のビデオ・レンタル店でバイトをしながら、そこにおいてある映画を見まくり、仲間と映画談義で盛り上がったこと。そのとき見たカンフー映画や日本の任侠映画に傾倒したとことなども有名なエピソードです。そんな彼は映画のプロットライターとしてプロデューサーのローレンス・べンダーに認められるようになり、そのうちのひとつ「トゥルー・ロマンス」がトニー・スコット監督により映画化されることが決まり、自分でも「レザボア・ドッグス」(1992)で映画監督デビューを果たすことになりました。

タランティーノ監督の特徴として、主人公たちが話す会話の中に過去の映画の雑談がおおく使われること、ストーリー全体が、かつてのグラインドハウスと呼ばれるB級映画に強く影響を受けていることがあげられます。本人もこれを意識しており、毎回悪ふざけ映画をギリギリの線でメジャー作品に仕上げる天才です。

2本目の監督作品である「パルプ・フィクション」(1994)で、カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞し大ヒット監督の仲間入りをします。その後は「ジャッキー・ブラウン」(1997)、「キル・ビル」(2004,2004)、「グラインド・ハウス:デス・プルーフ」(2007)と自分が見てきた映画の焼き直しとも言えるタランティーノしか作れない作品をリリース、ヒットしてきました。ただあまりに映画オタクの傾向が強く一般のお客さん、特に女性からの支持は得られませんでした。

<第2章:企画から脚本まで>
タランティーノは、同時にいくつもの企画を頭に描き、それが合体したり分離したりしてひとつの作品が完成していきます。この企画は今から10年ほど前、1976年にイタリアで製作された「地獄のバスターズ」という映画をもとに話が始まりました。最終的にはタイトルと戦争映画という要素しか残りませんでしたが、始まりはこのB級映画だったのです。「キル・ビル」の撮影中もスタッフやキャストにこの戦争映画の企画についてタランティーノはよく話していたそうです。しかしその他の企画もベラベラと喋るので、聞いている方はどの企画が実現するかは全くわかなかったそうです。タランティーノは、いろいろな人に自分の企画を話しながらストーリーを整理し、ひとりの時は歴史を勉強し、過去に見た1940年代の映画を反芻し、だんだんと「イングロリアス・バスターズ」のストーリーが生まれていったのです。そして2008年7月2日、急に脚本が完成しました。
完成した脚本は、今までのタランティーノ映画よりも洗練されていました。ただの映画オタクが喜ぶ映画ではなく、一般の映画ファンでも受け入れられるメジャーなストーリーラインでした。勿論タランティーノ節は随所に埋め込まれていますが、第二次世界大戦のパリを舞台に見事な戦争映画として描かれていたのです。

<第3章:制作>
タランティーノから連絡を受けたプロデューサーのローレンス・ベンダーは、脚本完成から4日後、この作品をどうしていくか本人と話し合いました。タランティーノは、なんとかして2009年5月のカンヌ映画祭に間に合わせたいと切望します。1年に満たない時間でこの脚本を映画として完成させるのがいかに困難かは、素人でもわかります。しかし、タランティーノは引きません。そこで、急遽準備を始め14週間後には撮影を開始するというとんでもないスケジュールが組まれました。緊急で集められたメインスタッフは、まさに地獄の苦しみを味わうことになります。キャスティング、スタッフ集め、ロケハン....山のような仕事をこなしていきました。幸いにしてタランティーノは、どんな映画にするのか明確なビジョンがあったので、ロケ場所やキャスティングで悩むことはほとんどなかったようです。決めることはどんどん決めてくれたので、作業が停滞することはなかったのです。ローレンス・ベンダーは、契約と出資金集めに奔走しました。ラッキーなことにタランティーノ監督を長年応援しているワインスタイン兄弟が今回も支援してくれることになりました。しかし資金の確保と同様、予算の遂行、法的手続きは多忙を極めました。こうやって地獄の野郎どもは、タランティーノの為に文句も言わず撮影のセットアップを行っていったのです。

<第4章:キャスティング>
キャスティングは、タランティーノとしては既にイメージキャストが出来上がっていましたが、急な撮影だったため望んだ俳優が捕まらないこともありました。しかし、結果タランティーノらしい俳優が集結しました。
ブラッド・ピットは、実はスティーブン・スピルバーグ監督の新作「Money Ball」の撮影に入るはずでしたが、撮影が延期され「イングロリアス・バスターズ」の撮影に参加できました。この映画の場合主人公ではありませんが、彼は出演を快諾し南部なまりのバスターズを演じています。オーディションでなかなか決まらなかったのがナチの大佐ハンス・ランダ役でした。しかし、最終的にはドイツの俳優クリストフ・ヴァルツが決まります。今回の映画で一番の演技をしたのは彼です。とても素晴らしく今後映画祭ではほとんどの助演男優賞を受賞するのではないでしょうか。バスターズのひとりドニード役には、タランティーノとは何度も一緒に仕事をしているイーライ・ロスがキャスティングされました。ロスは「「キャビン・フィーバー」「ホステル」シリーズで有名ですね。さらにバスターズのヒューゴ役にはドイツ映画界の大御所ティル・シュヴァイガーがキャスティングされています。シュヴァイガーは97年のドイツ映画「ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア」で人気となりました。この映画の日本版リメイクの際、日本に来れなかったのはこの映画が撮影中だったからです。あまり気づかないかもしれませんが、コメディアンのマイク・マイヤーズが将軍役で出演しているのも映画ファンを驚かせました。あの「オースティン・パワーズ」のマイク・マイヤーズ、地味すぎて驚きます。さらに日本人として嬉しいのがジュリー・ドレフュスの出演です。ナチ付フランス語通訳という地味な役ですが、90年代の日本で活躍していた女優さんだけに親近感がありますね。彼女は「キル・ビル Vol.1」にも出演していました。

<第5章:マニア向けな仕掛け>
メジャーなキャスティング、メジャーなストーリー、そして戦争映画という派手な仕掛けが合わさり、今までのタランティーノ映画とは一線を画した作品に仕上がった本作。でもタランティーノ節は生きています。映画を見てみると、山のように映画オタクねたがちりばめられていました。全てをここに記すことができないほど膨大な量ですが、その知識がなくても映画を楽しめるようになっています。ではいくつかトリビアを紹介します。
☆毎作品音楽に凝っていますが、「イングロリアス・バスターズ」もかなりがんばっています。印象に残るのはエンリオ・モリコーネの音楽です。実はモリコーネにサントラの依頼をしたそうですが、スケジュールがあわなかったそうです。そこでモリコーネが過去に作った音楽を多用しています。これによりなんともノスタルジックなヨーロッパ映画のような味わいが加味されています。
☆シュヴァイガー演じるバスターズのヒューゴ。名前をヒューゴ・スティグリッツといいます。この名前は実在するメキシコのB級映画俳優からとっています。
☆ナレーションは、タランティーノの親友であるサミュエル・L・ジャクソンです。
☆ストーリーの肝となる映画館のフィルム。昔のフィルムはとても燃えやすかったのです。なので、映写技師は免許制です。燃える原因はニトロセルロースという原料です。ちなみに現在の映画フィルムは合成樹脂なので燃えにくいです。フィルムが燃えるシーンは、「追想」のマネですね。

<第6章:完成、そして公開>
映画は、2009年のカンヌ映画祭に間に合うよう完成し、観客から賞賛されました。そしてアメリカでは8月21日に公開され、タランティーノ作品の中では過去最高の興行成績を樹立しました。日本では、ブラピ押しの宣伝でヒットしました。
タランティーノは、この作品でただの映画オタク向け作品ではなく、堂々としたメジャー作品を作ることのできる映画監督というレベルに引き上がったようです。でも、メジャースタジオの言うことを聞いて何でも撮る職業監督という意味では彼は不適合者でしょう。タランティーノ印をきちんと押した他の監督では作ることのできないメジャー作品を今後も作っていくのだと思います。そうなると、やはりプロデューサーは彼のことを熟知しているローレンス・ベンダー、そして出資と配給はワインスタイン兄弟ということになります。いつまでたってもタランティーノは、タランティーノなんです。


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ジジョ

こんにちは☆
「洗練」された事が、うれしいような、物足りないような
複雑な気持ちで観た映画でした。
でも、いつまでたってもタラはタラではありますね〜☆
by ジジョ (2009-12-05 22:35) 

アクアマリン

はじめまして。
ご訪問&nice!ありがとうございました。
私もイングロリアス・バスターズのマイク・マイヤーには驚きました。
彼はオースティン・パワーズのイメージが強いので(^^;

by アクアマリン (2009-12-06 06:38) 

non_0101

こんにちは。
今まで二の足を踏んでいた監督さんですが、この作品で初チャレンジをしてきました。
噂通りの凄い監督さんですね。作品のパワーに圧倒されました。
これからも映画を楽しんで創っていって欲しい監督さんです☆
by non_0101 (2009-12-06 09:04) 

じぃじぃ

こんにちは、はじめまして。
訪問、nice ありがとうございます。
(^▽^)/
by じぃじぃ (2009-12-06 09:59) 

山雨 乃兎

拙ブログに、ご訪問有り難うございました。(^。^)
凄い、映画に関しての長文の論考ですね。感服しました。
一度、ゆっくり読ませて頂きますね。
また、お寄りします。^^
by 山雨 乃兎 (2009-12-06 14:48) 

sheri

こんにちは。

ブラッド・ピットの大ファンなのですが、タランティーノ作品は
見たことがないので観ようか悩んでいたのですが、
こちらを読んでやっぱり観よう!と思いました。

多忙の為もしかしたらDVDまで待つことになるかもしれませんが・・・
by sheri (2009-12-06 14:58) 

nomame

私は「パルプ・フィクション」、「キル・ビル」、「グラインド・ハウス:デス・プルーフ」しか観ていませんが、
不思議な世界観の作品ばかりですよね。
「イングロリアス・バスターズ」も早く行きたいと思っています。
by nomame (2009-12-07 21:57) 

たいちさん

ブラッド・ビットの来日で脚光を浴びている映画ですが、クリストフ・ヴァルツに注目するあたり、さすがだと思います。機会あれば観たい映画ですね。
by たいちさん (2009-12-09 16:19) 

Krause

本年は、ブログを通じてお世話になりました。
また、2010も宜しく御願い申し上げます。

by Krause (2009-12-31 19:27) 

토토마진

The content is so positive, I feel that my heart is warming every moment I read it. Even if you read the article about twice or three times, it's not a waste of time at all. https://jinnen.com

by 토토마진 (2023-07-18 13:34) 

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