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3D映画がやってきた [映画技術]

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3D映画がやってきた!

2010年は3Dの年でした。「アバター」の登場で世の中は見事に3D映画へと流れました。たった1本の映画が世界の映画産業を一変させてしまったのです。そして数多くの3D映画が制作され、ある作品は成功し、ある作品は失敗しました。

今回は、この3D映画、そしてIMAXについて記していこうと思います。

3D技術は映画が発明されて直ぐに基本原理が開発されています。当時は右目と左目の視差原理を利用するという根本的な概念は理解できていたのですが、立体映像をフィルムで撮影してそれを観客に見せるには、技術的な部分で問題点がおおかったようです。それでも祭りやイベントなどでは、立体映像を見せる興業などが流行っていたそうです。

ヒッチコックの目指した3D
時代は移り、1950年代に3D映画ブームが起こりました。当時は大きな35mmカメラを2台同時に動かし、右目用映像と左目用映像を撮影、そして2台の映写機で上映するという大変面倒なものでした。この頃は3Dにおおくの映画会社が飛びつき劣悪なホラー映画やイベント色の強い映画が乱造されました。
そんな中、この3D技術に興味を持ったのがアルフレッド・ヒッチコックです。当時ハリウッドで急成長株だったヒッチコックは、潤沢な資金を元にクオリティの高い3Dサスペンス映画を企画します。そして3D技術を確固たるものにして、映画産業に新たなマーケットを築くべく努力します。その映画のタイトルは「ダイヤルMを廻せ!」。ヒッチコックは丁寧に全編3D撮影を行いました。カメラ2台を常に使い、フィルムも当然2倍必要となりました。そして、この困難な撮影を終え編集も行い、テスト上映に辿りつきました。
その3D映像を見たヒッチコックは、驚くべき決断を下します。「ダイヤルMを廻せ!」は、3D映画としてではなく2D映画として公開する、と。
結局、3D効果というのは、この作品には向かず、2Dで見て貰ったほうがヒッチコックの演出が伝わるということでした。おそらく「ダイヤルMを廻せ!」の技術スタッフや興業チームはとても落胆したでしょう。内容に関わらず3D映画というのは宣伝になりますし、それまでの粗悪3D映画に亜妃ってしまった観客はヒッチコック印の3D映画に飛びついたはずです。

結果、「ダイヤルMを廻せ!」は、2D公開されヒッチコックの予想通り内容が評価されヒットしました。その後、時々ニューヨークやロンドンのアートシアターで「ダイヤルMを廻せ!」3D版の上映が行われました。私は1991年にNYの小さな映画館の深夜上映会で3D版を見ましたが、確かにヒッチコックの意図は理解できました。3Dでなくても十分なのです。
50年代の3Dブームは、終わっていきます。そして暫くは3D映画があったことすら忘れ去られてしまったのです。

1980年代のブーム
その後、新たな3D映画ブームが到来します。偏光レンズというメガネをかけることで、過去の3D映画よりも迫力のある映像を見られる技術が開発されたのです。このとき、新しい技術に飛びついたのはやはりホラー色の強い映画でした。「ジョーズ3D」「13日の金曜日3-D」です。私は劇場に市を運びましたが、これはなかなか迫力があり満足度が高かったです。このブームの最大の成功作は「キャプテンEO」です。映画館での上映ではありませんでしたがジョージ・ルーカスがプロデューサーを務め、当時生活に困っていたかつての師コッポラを監督として迎え入れ、マイケル・ジャクソンを主演に迎えた短編は、大きな話題となりました。

このとき。史上初めて一般家庭用の3D再生機が発売されたのも話題となりました。テレビは普通のアナログブラウン管テレビです。再生にはVHDを使いました(VHDとは、VHSテープに変わる新しいメディアとして登場したディスク型の再生デバイスです。レーザーディスクとの競争に敗れ発売間もなく消えていきました)。私は、当時この3D再生対応VHDを購入して3D映画を家庭で楽しんでいましたが、3Dソフトがほとんど発売されず当時は困ったものでした。そのうちVHD自体が消えてしまいました。

80年代の3Dブームは、圧倒的なソフト不足のうちに終焉を迎えていったのです。

そして2010年代
世の中はデジタル時代に移行していました。
新たな3Dブームは、ジェームス・キャメロンがきっかけです。彼は新作をデジタル3Dで撮影し、デジタル3D装置で上映するという大胆な考えを発表します。撮影機材を全て新しく開発し、上映方式も全て新しくすると言うのです。この投資額は莫大ですし、劇場側がどこまで着いてくるのかわかりませんでしたが、彼の野望はどんどん広がり、誰も彼を引き留める人はいなかったのです。

キャメロンは、SONYを訪ね全く新しいデジタル3Dカメラの制作を依頼します。それは、より人間の目の構造に近いカメラです。人間は物を見るとき面白い目の動きをします。遠くのものを見るときは2つの黒目の幅は約4.5cmです。しかしものを近づけると寄り目になるのです。ものをどんなに遠ざけても黒目は4.5cm以上にはなりません。
この原理をカメラに応用したのです。カットによって2つのレンズの幅が変化するのです。これを視差と呼びます。カメラレンズの前に広がる空間に視差ポイントを決めるという新しい仕事が生まれました。ポイントより手前にある物は飛び出して見え、後ろにある物は奥行きとして見えるのです。
この技術を利用し非常に広大な奥行き感を表現することが出来るようになりました。
同時にキャメロンは健康被害についても研究します。3D映像は目から入る情報に嘘をついて脳内で立体映像を作らせます。この過程で船酔いのような副作用を生んでしまうのです。これは人によって差がありますが、飛び出す効果がおおいほど健康被害も増えることがわかりました。そこで、飛び出し効果は抑えて奥行き感を利用した立体映像を制作することを思いつきました。

約10年を費やして3Dを原理から見つめ直したキャメロンは、その全ての知識をつぎ込み「アバター」を制作したのです。

ヒットすると思った世界中の映画館は、フィルム上映機を外し、新しいデジタル3D上映機を購入して設置しました。「アバター」は、フィルムで上映されているわけではなくデジタル上映だったのです。

3Dデジタル映画「アバター」は世界中で大ヒットしました。これによりおおくの映画館が3D対応になったのです。そして、その後制作される3D映画は映画館の設備を心配する必要がなくなりました。

もうひとつ、キャメロンが変えたことがあります。それはIMAXです。IMAXというのは、普通の35mmよりもはるかに大きなフィルム(70mmフィルムを横に使う)を使い映像を撮影し、巨大なスクリーンで上映するシステムです。もともとは博覧会会場などで使われていましたが、北米ではIMX人気があり、町中にもIMAX映画館が設置され主に大自然の風景を撮影した映画を上映していました。日本にも90年代にIMAXシアターが作られ、東京では新宿、品川などに、大阪では天保山、札幌にも作られました。しかし当時は教育的なIMAX映画がおおく一般のお客さんを確保するまでに至らず2008年頃までに全てのIMAX映画館が閉鎖されてしまいました。
キャメロンは「アバター」でIMAXのデジタル3D化にも挑戦したのです。それは、通常の映画館で上映されるシネマスコープやビスタサイズではなくIMAX4:3の広大なキャンパスに3D映像を描くという挑戦です。IMAX用に別スタッフを雇ったキャメロンは、映画館で上映される3D版「アバター」とは別にIMAX版「アバター」も制作し同時に公開しました。
皆さんは「アバター」をどこで見ましたか?IMAXでご覧になられた方はラッキーです。IMAX「アバター」は、3D版を凌ぐ素晴らしい映像でした。

「アバター」は、映画業界に歴史的革新を起こしました。世界中の劇場にはデジタル上映機が導入され3D対応になったのです。そして、沢山の3D映画が制作されるようになりました。中にはただ3D映画ブームに乗っかった粗悪な3D作品が作られました(有名な例は「タイタンの戦い」「海猿3」)。ハリウッドの大物、ジェフリー・カッツェンバーグは声明を発表し、今後いい加減な3D映画を制作するのはやめようと呼びかけました。クオリティの高い3D映画をお客さんに提供することで、キャメロンが築いた3Dマーケットを維持しようというわけです。
ハリウッドでは、この意見にほとんどの映画人が賛同し、現在では健康被害に関するルールも決められ、続々と3D映画が撮影されています。

日本では、きちんとした3D映画として「3丁目の夕日3」が撮影中です。この作品は期待できます。「怪物くん」は残念ながら2D撮影を後で3D変換する疑似3Dです。今後は、映画が、きちんと3Dで制作されているのかを確認して、疑似だったら2D版で見ることをお勧めします。

あまり知られていませんが、世界初の3D連続ドラマが日本で作られました。地上波テレビでは3D番組が解禁されていないのでスカパー!でのみの放送ですが、このドラマは「アバター」チームから技術や知識を学んだスタッフが制作している本物の3D作品です。
タイトルは「TOKYOコントロール」24時間日本の空を守る航空管制官達を描いたドラマです。

「アバター」から始まった3Dブームは、過去のブームと異なり一過性ではないような感じがしています。今後は、制作者がいかにクオリティを維持してお客さんを満足させるのかにかかっています。

<ブログリンク>
アバター
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家にレンタルビデオ店がやってきた! - Apple TV [映画技術]

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Apple TV

いつも思うこと。家で映画を見たいけどレンタルビデオ店に行くのが面倒。レンタルビデオ店に行ったけど見たい映画がレンタル中。見たい映画が置いていない。返却が面倒。延滞金がかさむ。せっかくデジタルテレビを購入したのに、レンタルはDVD(画質が悪い)。BDレンタルが少ない。映画を見たいけど、内容がわからない。DVDがたまりすぎて家に置き場がない。・・・・・・

こんなフラストレーションを解決してくれるのがApple TVです。えっネットで予約、自宅に届く、ポストで返却できるレンタルDVDがあるじゃないか、と思う方、あれよりもっともっと便利なんです。Apple TV。

では、具体的にApple TVの仕組みを簡単に説明しましょう。
この機械はiPodやiPhoneでおなじみのアップルが作った製品です。製品自体は2年ほど前から売られていました。しかし他のアップル製品のように注目を浴びずひっそりと売られていました。先月ソフトウェアが3.1にバージョンアップされ、いよいよ注目の機械となったのです。

<セッティング>
○Apple TVは、家にあるテレビにHDMI接続します。
○ネットとは無線LANで自動接続します。無線がない場合はLANケーブルで繋ぎます。
以上でセッティングは終了です。

<特徴>
○沢山の映画のレンタルと購入が可能
実際に電源を入れると、映画という項目にたくさんの映画のポスターアートが表示されます。現在人気の作品群です。勿論、ジャンルや検索で数万タイトルにアクセスできます。
気になった作品のポスターをクリックすると、作品概要と予告編、購入、レンタルのボタンが現れます。まず予告編を見て気に入ったらレンタルか購入してみましょう。このときかかる費用は事前に登録してあるクレジットカードから引き落とすか、電気店やコンビニで売っているiTUNESカードで購入します。
レンタルでも購入でも、映画はネットを通じてApple TVのHDDにコピーされます。レンタルの場合は1ヶ月でデータが自動消去されるので、それまでに見る必要があります。購入した作品はHDDに永久保存されます。
○ドラマも豊富
アメリカで放送されたほぼ全てのドラマを見ることができます。今放送中のドラマはアメリカで放送直後から視聴が可能になります。テレビ局やタイトルから検索できます。映画と同様、レンタルと購入があります。
○なんとHD!
ほとんどのタイトルにHD画像が用意されています。現在HDを見るためにはブルーレイディスクが必要ですが、Apple TVでは、映画やテレビドラマをHDで視聴できるのです。
○ネットラジオが豊富
Apple TVの隠れた機能です。世界中のネットラジオが高音質で聞けます。勿論CMやDJのダラダラトークはありません。専門の音楽が24時間流れてきます。部屋でなんとなく音楽を流したい時はアンビエント、スムース・ジャズなどがおすすめです。チャンネルは100以上。とても嬉しい機能です。
○音楽が聞ける
これはiPodを使っている人ならわかりやすいです。自分のiTUNESのライブラリの音をApple TVから聞くことができます。PCに入っている音楽データをApple TVにコピーするか、PCの電源を入れておけば無線で音楽データを中継します。
○最新映画の予告編が見られる
現在、アメリカで公開中の最新映画の予告編をHDクオリティで見ることができます。

Apple TVの詳しい説明はこちら:
http://www.apple.com/jp/appletv/

私は、いつもApple TVを使って主に映画を楽しんでいます。家の大型デジタルテレビは、HDを見るのに適しています。残念ながらDVDでは、画質が悪く映画が楽しめません。BDは高価であまり購入していません。Apple TVのスイッチをONにして人気作品を眺めます。気になった作品は、まず予告編を見ていきます。そして、見たい映画を発見したらレンタルします。1作品のレンタル料はHD版で500円程度です。購入する場合は、HD版で1500円程度です。作品によって価格は異なります。古い作品は安いです。
使ってみると、とても便利であることがわかります。レンタルという面倒なシステムから解放され、映画を見る回数が飛躍的に増えました。

現段階で、Apple TVの便利さに気づいている人はまだ少ないです。アップルもiPodやiPhoneの宣伝に必死でApple TVを売ろうという意気込みもありません。何故でしょうか?
アメリカでは、無線LANとブロードバンドの環境が十分に整っていないので、Apple TVの機能を押し出しても、物理的に動かない可能性があるのだと思います。日本では、アメリカより遥かに進歩したインフラのお陰でApple TVはストレスなく動作します。では、日本で普及しないのは何故でしょう?2009年末で、日本での動画配信サービスが始まっていません。Apple TVで見られる映画やドラマは全てアメリカからやってきます。当然決済もドルです。これがネックとなっています。画面の文字は全て日本語かされているのですが、肝心の映画に日本語字幕が入っていないのです。おそらくおおくの日本人は、Apple TVを購入して映画の予告編を見たり、You Tubeを見たりしているのでしょう。中にはネットラジオを楽しんだり、自分のiTUNESに入っている音楽をテレビに転送して聞いているのではないでしょうか。実際に映画やドラマをレンタルしたり購入している人は少数だと思います。
日本のコンテンツホルダーは、iTUNESに映画や番組を供給しません。各社独自のサイトで番組を配信しています。これらはPCでしかみることができない場合がおおくとても不便です。一刻も早くiTUNESに番組を配信して、1クリックで全ての番組を購入できる環境を整えるべきです。そのとき日本ではやっとApple TVの素晴らしさに皆が気づくのではないでしょうか。

私は、閉鎖的な日本のコンテンツを見捨て、アメリカから1クリックで映画やドラマを一足お先に楽しんでいます。皆さんも、Apple TVを試してみてください。きっと新しいエンターテイメントの世界を感じることができるでしょう。

<Apple TVを購入>
Apple TV 160GB MB189J/A

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日本映画の音はなぜ聞き取りにくいのか? [映画技術]

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日本映画の映像はなぜ汚いのか?」の回は、非常におおくのアクセスをいただきました。邦画の画質の悪さを気になっている方が結構いるんだなあと改めて思い私の訴えが伝わったようで嬉しくなりました。皆さんの不満をできるだけ劇場の方や制作者に伝えてください。こういう小さな声がいつか邦画界を変える力になっていくのです。

さて、今回はご依頼のあった映画の「音」についてお話しましょう。映像ほど難しくないのでおつきあいください。

皆さんは、映画の音響についてどのくらいご存知でしょうか?たぶん聞こえているからそれでいいと思っていると思います。しかし、映画の音響は奥深いのです。
そもそも昔の映画には音がありませんでした。サイレント映画と呼ばれていた時代のことです。その頃は映画館では映像にあわせて音楽を流すか、弁士と呼ばれる人がマイクでストーリーを説明していたのです。
その後、録音技術が発達し、ついに映像と音が一緒に上映される時代が来ました。これはトーキーと呼ばれ、たくさんのお客さんが劇場に集まり音の出る映画を楽しんだのです。それから100年近くが経ち、現在では立体音響が主流となっています。

映画館には、スピーカーが10個以上設置されています。映画館に入り上映が始まる前に四方の壁を見てください。スクリーン以外の3つの壁には沢山のスピーカーが並んでいるのを見ることができます。見えませんが、スクリーンの裏には複数の巨大なスピーカーが設置されています。このように観客を囲むようにスピーカーが並んでいるのには、実はちゃんと意味があるのです。

<現代の音響システム>
「5.1チャンネル」という単語を見たことはありますか?現在、世界中の映画のほとんどは「5.1チャンネル」で音声が作られています。
5.1とはいったいなんでしょう?これは音声トラックの数なのです。わかりやすくいうと右/中央/左/右後/左後の5チャンネルと低音の6種類のトラックのことです。各チャンネルには台詞や音響、音楽などが収録されるのですが、低音はただ「ズー」という低音ノイズだけが収録されています。「ズー」という音がある/ない、そして音量が大きいか小さいかという信号のみあればいいので1チャンネル分の帯域を使う必要がなく0.1チャンネル分の容量に低音情報を入れています。なので5.1チャンネルと呼ばれています。要は映画の音声は、6個の別々の音声チャンネルが映像と同時に再生されているのです。

ここまでは理解できましたか?そうなると映画館には6個のスピーカーがあればいいということになります。実際に確認していきましょう。スクリーンの裏には大きなスピーカーが3個あります。左のスピーカーからは左の音声、中央のスピーカーからは中央の音声、右のスピーカーからは右の音声が出ます。大きな音が出るとスクリーンが揺れてしまうのでスクリーンには小さな穴が沢山あいています。
これで3チャンネルですね。車が画面右から左に走ると音も映像に会わせて右から左に移動します。皆さんお気付きの通り3つの音声チャンネルを駆使して車の移動を表現しているのです。
そして、劇場内の左側にある沢山のスピーカーと後ろの左半分のスピーカーからは左後のチャンネルに入っている音が再生されます。そして同様に劇場右側にあるすべてのスピーカーと後ろの壁にある右半分のスピーカーからは右後のチャンネルに入っている音が再生されるのです。
これにより、画面の奥から手前に飛んできた飛行機は、画面から見えなくなった後、音だけが後ろに飛んでいくという臨場感ある音響設計が可能です。スピーカーとスピーカーの間があくと音の空白地帯が生まれます。なので、スピーカーはなるべくおおく劇場に設置してどの席に座ったお客さんでも同じ音響体験ができるようにスクリーン以外の壁にはスピーカーを並べています。
このように映画の音は左右前後に移動するように作られています。
では低音スピーカーはどこにあるのでしょう。実は低音には音の指向性がないのです。なので映画館のどこかに低音を発生させるスピーカーを置いておけば良いのです。おおくの映画館はスクリーンの裏に設置されていますが、時にはスクリーンの手前にバズーカ砲のようなスピーカーを置いてお客さんに見えるようにしている映画館もあります。映画内で大爆発のときなどは、この低音スピーカーから「ズーン」という低音が発せられお腹の奥まで響き映画を盛り上げます。

では、皆さんのご自宅のテレビには何個スピーカーがついていますか?家のテレビは何チャンネル音声ですか?90%以上の方のテレビは2チャンネルのステレオ音声です。テレビからは右と左の2つの音声しか出ていないのです。映画の場合、劇場用に5.1チャンネル音声を作り、テレビ用に2チャンネル音声を作り直しています。なので、映画館でお金を払うのはもったいないからテレビ放送でいいや、とかDVDで見ればいいやと思っている方は、実は大きな勘違いをしていることになります。せっかくお金と時間をかけて作った5.1チャンネル音声を聞かずに映画を評価しているのです。

実はブルーレイやDVDには劇場用の5.1チャンネル音声が収録されています。そしてWOWOWなどのデジタル放送でも5.1チャンネル音声を放送しています。これらの5.1チャンネル音声は、テレビとは別にデコーダーと最低6個のスピーカーを家のテレビの周りに設置しないと再生できません。なので、日本の住環境を考えると家庭で5.1チャンネル再生を楽しんでいる方はとても少ないのです。

さて、音響の制作はどうなっているのでしょう?

<アメリカの場合>
映画の撮影現場にマイクを複数置いて音の移動を収録するのは不可能です。画面にマイクが写ってしまいますし、いろいろな音が撮影中にでてしまい後で使い物になりません。なので、現場では現場音を収録しています。わかりやすくいうと台詞のみ収録しています。

台詞は、ブームマイクかワイヤレスマイクで収録します。それでもうまく行かない場合はアフレコになります。インディ・ジョーンズなどは、ほとんどのセリフがアフレコです。映画を見ているとハリソン・フォードは、きちんと撮影現場でセリフを言っているように見えますが実は撮影後にスタジオでマイクの前でアフレコしています。フォードは、素晴らしい俳優というだけでなく素晴らしい声優でもあるのです。
セリフはリレコという作業で、きれいにクリーニングされ聞き取りやすい音域に調整されます。これでセリフの音声素材は完成です。

サウンドデザイナーとは、すべての音を統括するスタッフです。アメリカのアカデミー賞では音響賞を受賞する立場にある人です。サウンドデザイナーは、撮影前に映画監督やプロデューサーと映画で何を伝えたいのかについて何度も打ち合わせを行います。これが後で非常に重要になります。
そして、映画に必要な音を作って音響制作の準備をします。例えば「スターウォーズ」のレーザーガンの音は、長い電線を棒で叩いた音を録音し、それをコンピュータで加工しています。「カーズ」の車の音は、ナスカーレースに出向いて実際の車の走る音を録音しておきます。このように沢山の音のライブラリーを準備しておくのです。世界中で一番進んでいる音響制作会社はルーカスフィルムの1部門であるスカイウォーカーランチです。ここには30年以上もためてきた膨大な音声ライブラリーがあります。コンピュータ上で「Benz E 550 door」と入力すると、ベンツEシリーズのドアを閉める音がリストアップされます。そこには各年式がでてきますので、映画の中で使われている車が1996年式Eクラスの場合は、その音を選択するのです。こうやってかなり細かく音を再現します。もし、必要な音がライブラリーにない場合は、ライトセイバーの音のように新たに収録します。

サウンドデザイナーは、映画の映像にあわせひとつひとつ音をつけていくのです。これは膨大な時間が必要です。そして音楽家は、映像に会わせ音楽を作曲し、5.1チャンネルで収録します。ほとんどがオーケストラなので、大きなスタジオを借りオーケストラを入れてレコーディングを行います。

これら「セリフ」「効果音」「音楽」をひとつにまとめるのがミックス作業です。まずは、小さな部屋で音をひとつにまとめていきます。すると、セリフと音楽がぶつかってセリフが聞こえない箇所がみつかります。その場合、監督の意図に沿ってセリフを立たせたり音楽を変えたりします。このように映画全体を通して観客がストーリーを追えるように調整します。これをプリ・ミックスといい約1
ヶ月作業を行います。
次に、データを大きなスタジオに移してファイナル・ミックスを行います。このスタジオは、映画館と同じ大きさで、スクリーンも映画館と同じです。その真ん中に大きな調整卓が置いてあり、監督やプロデューサー立ち会いのもと、プリ・ミックスで作った音声を聞きながらさらに直していくのです。大きな劇場で5.1チャンネルを再生すると、小さな部屋では気づかなかった問題点が見えてきます。そして監督やプロデューサーの考えがうまく反映されていない箇所もここで直されていきます。ファイナル・ミックスにはだいたい10日ほど費やします。アメリカでは9時から5時まで働き、週末はオフです。なので、常にスタッフはリラックスして作業を行います。

完成したら、日を変えてメインスタッフで試写します。ここで問題なければ音は完成します。もしここで問題があれば、ファイナル・ミックスに戻って再調整します。

プリ・ミックスの小さな部屋、ファイナル・ミックスを行うスタジオ、最後に試写をする映画館は、どこもTHXという基準に則った仕様になっています。どこの部屋も使われている機材やスクリーン、壁の反響版、映写機などすべて企画統一されています。なので、基本的に大きさこそ違いますが同じ再生環境で行われています。

最近日本の映画館にもTHXマークがつき始めました。これは、映画制作者が制作を行った環境と同じ状態で映画を見ることができる映画館だということです。なので、同じお金を払うなら是非THXマークのついている映画館で映画を見るべきです。アメリカでは、同じ映画でもTHX映画館とそうでない映画館ではお客さんの数がかなり違います。それは、アメリカの映画ファンは音響のことを知っていてきちんと映画館を選んでいるということなのです。

<日本の場合>
さて、日本の現状です。ここ数年で日本の録音に関しては飛躍的な進歩がありました。それは長年使ってきた6mmからDAT、そしてデータ録音にメディアがアップグレードされたのです。今から10年ほど前は、皆が6mmのオープンリールテープを使ったアナログ録音を行っていました。それが、現在ではアメリカと同じデータ録音に進化したのです。この機材の急速な進歩はあたりまえなのですが、保守的な邦画制作現場ではある意味画期的な出来事です。
しかし、収録方法は相変わらずブームマイクが主流です。アメリカでもブームマイクは使いますが、現場によって臨機応変に対応しています。日本でも進歩的な録音チームは、ワイヤレスを使ったシステムを導入していますが、徒弟制度でのし上がった古いスタッフはマイク一本での集音という伝統芸に酔っています。
そして、できるだけ現場の音を収録することに命をかけています。よって、セリフと現場の音が同時に録音されてしまうため後で音の調整ができません。
これら現場で録音した音を、整音し、音声トラックにしていきます。最近ではこのプロセスもコンピュータで行われるようになってきました。しかし、音を調整する部屋はスタジオと呼べるものではなく、昔の駅前映画館といった感じです。音はこもり、スピーカーは何十年も使い続けノイズがでたりするしろものです。
さらに驚くのは、録音技師が整音を行っているのです。日本の音響を司っているのは録音技師なのでした。録音技師は、録音に長けているはずです。しかしサウンドデザインや音の演出にも秀でているのでしょうか?勿論、2つの才能を持つ人もいるでしょう。
残念ながら、日本の映画ではサウンドデザインという職種がないのです。録音さんが、録音した音のなかからOKテイクを揃えて、映像にあわせるのが主な仕事です。そこには映像をさらに魅力的にする魔術師がいないのです。テレビ局主導の映画などは、ここに効果さんを呼んで派手な効果音を足したりします。そして音楽は音楽で独自に作られはめられていきます。
ダビングと呼ばれる作業で、これら音の素材が一緒になります。ただ、数日という短時間の中で監督は、音の調整に試行錯誤することになり、当然満足のいく音作業は望めないのです。

そして映画は完成します。なぜか完成した映画はTHXシアターで全スタッフにお披露目されますが、完成までには、統一した基準となるスタジオを介さないのです。だから、日本映画の音はバラバラですし、クオリティはハリウッドに比べ劣ると言わざるを得ません。でも、この映画業界の古いシステムの中では、スタッフはがんばっています。あり得ないほど少ない予算と時間、そして劣悪な労働環境、古いスタジオの中で、よくも今のレベルまで音を作っているなあと感心します。きっとアメリカ人のスタッフが見たら作業をする前に帰ってしまうでしょう。

そんな悲しい現実が続いていますが、最近邦画の音響制作に光がさし始めてきました。ある音響制作会社が渋谷にTHX基準と同等のスタジオをオープンしました。そしてスタッフもアメリカで勉強してきた若者が集まっています。そしてサウンドデザイナーがいるのです。現在では主にアニメで使われていますが、このスタジオを利用したアニメはどの作品も素晴らしい音に仕上がっています。東宝も重い腰をあげて現在ポストプロダクション・スタジオを建設中です。果たしてアメリカ基準の音響スタジオが完成するのでしょうか?楽しみです。

長くなりましたが、映画の音について皆さんも少しは興味がわいたのではないでしょうか。
映画を音響で見るのも楽しいと思います。今度、映画館に行ったらスピーカーの位置や、そこから出てくる音のエレメントに気をつけてみてください。きっと、録音スタッフやサウンドデザイナーの心が伝わってきます。
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日本映画の映像はなぜ汚いか? [映画技術]

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今回は、映画技術についてのお話です。内容は難しいので読むのはやめようと思った方も、是非おつきあい下さい(笑)。
日本映画の画質が汚いと思っている人が結構います。何故邦画はハリウッド映画のように輝いて見えないのかを疑問に思う方もおおいでしょう。この不思議な疑問について、できるだけわかりやすく説明しようと思います。

ちょっと過激なタイトルを付けましたが、結論から言うと実は邦画の映像が汚いわけではありません。
映画の画質は、様々な要因によって決まるのですが、日本のカメラマン、監督、制作チームは、自分たちで満足のいく映像を作り出しているのです。
それなのにおおくの人が邦画の画質が悪いと感じるのは何故なのでしょう?
その不思議を解明するのが今回のテーマです。

まずは、映画が撮影されてからどのような過程を進んで映画になるのかを簡単に説明します。
<撮影>
ほとんどの映画は35mmフィルムで撮影されます。フィルムで撮影するメリットは、ビデオやデジタルカメラに比べ遙かにおおくのデータを収録することができることです。ハリウッドのあるポストプロダクション会社のデータによると、35mmフィルムのデータ量は6Kといわれています。HDテレビの画質は、約2K、最新のデジタルカメラが2K~4K程度です。よって今現在、撮影で一番データ量が優れているのは35mmフィルムということになります。ハリウッド映画やCMなどが撮影に35mmフィルムを使うのはこのような理由があるからなのです。

現在、スチルカメラ市場では、デジタル化が進み、35mmフィルムの撮影は激減しています。ポスターや雑誌、写真集の大きさであればデジタルカメラでも十分な画質が得られます。しかし、大スクリーンに投影する映画(動画)となると、35mmフィルムの活躍の場はまだまだあるわけです。

<現像>
フィルムは、あたりまえですが現像しないといけません。撮影済みのフィルム(ネガ)を現像して映像が見える状態のフィルムにします。これは、日本ではIMAGICAやSony PCLなどの現像所が行います。ハリウッドだとテクニカラーとかデラックスが大手として有名です。

<編集>
撮影した映像を編集するのには、フィルムを切って貼るという作業を長年行ってきました。現在でもこの作業を行っています。しかし、マスターフィルムを切ったり貼ったりするのはフィルムを傷つける可能性があるので、最近はデジタル化の波が押し寄せています。
撮影されたフィルムは、一度1K程度の軽いデジタルデータにスキャンされ、それをコンピュータに取り込んで編集します。編集ソフトはAVIDやAppleのファイナルカット・プロです。映画の編集が確定した時点で、コンピュータ上の映像通りにネガフィルムを手作業でつなぎ合わせるのです。

<劇場上映>
編集が終わり、完成したネガフィルムは、色が反転しています。なので、それをポジフィルムにする作業があります。このポジフィルムが0号プリントと呼ばれます。スタッフは、劇場で0号を試写上映して見て、色の問題を議論します。そして、このカットはもう少し明るく、とか、ここはもっと青くなど指示します。それを受けて、現像所は現像をやり直し、色を整えます。この作業をカラータイミングといいます。色が正しくなったフィルムを初号プリントと呼び、これを大量に複製して全国の劇場に納品し、各劇場で上映が行われます。

<ビデオ>
劇場で上映されるフィルムは1秒24コマです。テレビは1秒30コマです。よって、テレビやDVDで映画を見られるようにするためには、テレシネという変換作業が行われます。マスターモニターを見ながら監督とカメラマンが、自分の意図した画質になるよう丁寧に作業を進めます。それが完成するとHDビデオ原板が完成し、テレビで放送されたり、DVDやBDとなって家庭で映画が見られるわけです。

このように沢山の行程を得て、映画ができあがっていくのです。この全ての過程で画質が変化する可能性があります。さらに何度かの現像行程では、フィルムの世代が落ちていきます。これはアナログの宿命です。なのでフィルムの管理や現像行程の繊細さで映像は大きく左右されていきます。

では、それぞれの行程での画質に関わる問題についてお話しましょう。

<撮影>
ハリウッド映画は、撮影に大きなセットを組んだり大規模なロケーションを敢行します。その際は、巨大な照明を用意して撮影場所を照らします。フィルムは光に反応するので、光があればあるほど映像は綺麗に映ります。そのため撮影監督という仕事が確立されていて、カメラマンがカメラとレンズ、照明を指揮して自分の作りたい映像を撮影していきます。
日本ではどうでしょう。まず予算の関係で、ハリウッドほど沢山の照明を用意できないことがおおいです。よってフィルムに収録される映像には撮影時点でハリウッドと差が出ています。
しかし、最近のフィルムは技術革新が進み、高感度化されています。なので、かつてのように照明で映像の差が出にくくなりました。クリント・イーストウッドなどはほとんどノー・ライトで撮影していますが、毎作品素晴らしい映像を見せてくれます。実は、照明のあて方やレンズの使い方などでも画質におおきな差が出ることがわかっています。この辺りはカメラマンや照明技師のスキルやセンスの差になってしまうのです。

あまり使いたくない例ですが、日本の時代劇と「ラスト・サムライ」を見比べると、同じ日本を描いているのに映像のクオリティがかなり違うのに気がつくでしょう。これは、様々な行程が関係してくるのは間違いありませんが、撮影時のカメラマンと照明技師のセンスの違いによることが大きいのです。"「ラスト・サムライ」は、日本でも撮影しているけど、海外でも撮影しているから色が違うんだ"という方がいます。では、邦画と「ロスト・イン・トランスレーション」を比較してください。全編東京で撮影したハリウッド映画(しかも、ほとんどキーライトのみ)の「ロスト・イン・トランスレーション」は、とても美しく感動します。それに引き替え邦画は、あそこまで美しい映像はあまりありません。

<現像>
ハリウッドのスタッフも認めていますが、日本の現像はとても優秀で綺麗に現像してくれるそうです。ただ、カメラマンの要求は聞き入れてくれないようで、技術者として自分たちの優れていると思いこんだ現像を行ってしまうそうです。これは現像という作業だけでなくおおくの日本産業に言えることですが、自分たちの技術力に固執するあまり、マーケット全体のニーズを見失う傾向があるということの一例です。
なので邦画は、どの映画もそれほど差がなく現像されてしまいます。これにより邦画全体の画一化が起こっています。ハリウッドでは、カメラマンの意図通り現像液の濃度が調合され現像されます。日本で撮影されたハリウッド映画のおおくは、日本での現像を避けて未現像のままフィルムを抱えアメリカに持ち帰り、アメリカで現像が行われています。これは、アメリカの現像所のほうがカメラマンの自由な発想に対応してくれるからだそうです。

<編集>
ハリウッドでは、編集の技術が発展しています。デジタル・インターミディエート(DI)という技術です。撮影済みのフィルムを現像したら、すぐに6Kでデジタルデータに変換します。35mmフィルムのデータを全てデジタルに置き換えるわけです。その重いデータを4Kにして編集作業を行い、デジタルで色補正やCG合成を行います。すると4Kのデジタルマスターが完成します。このデジタルマスターをフィルムに戻すと4K解像度の劇場用フィルムになるのです。
この作業の最大のメリットは、フィルムで撮影したデータをコンピュータ上で自由にいじれることです。現像ですらコンピュータで設定変更できるのです。これによりとても美しい映像を作り出すことに成功しています。さらにネガフィルムを手で切ったり貼ったりする作業がなくなりました。映画の完成版はデジタルで完成し、それをフィルムにする(レーザーライターでフィルムに書き込みます)という行程で世代が落ちません。

<劇場上映>
日本では、初号プリントをコピーして劇場に配送します。字幕作業が入るとさらに1世代画質が落ちます。ハリウッド映画は、各国語字幕版のデジタルマスターを作り、それをフィルムにします。なので「ハリー・ポッター」の日本語字幕版のマスターは、もっとも画質の良い状態のデータをフィルムにして日本に送られてくるのです。

<ビデオ>
DIの映画は、デジタルマスターがそのままビデオマスターになります。なので、とても綺麗です。デジタルマスターの最終調整はプロデューサーが行います。お客さんの方向を向いたプロデューサーがきれいなマスターを作るのです。
日本では、監督とカメラマンが自分の好きな画質に調整してビデオマスターが完成します。ビデオマスターに使うフィルムはローコンポジといわれるフィルムです。このフィルムには撮影時のデータが残っていないので、色の補正はあまりできません。ハリウッド映画の場合、DIでない場合は、マスターフィルムを使ってビデオマスターの制作作業をプロデューサーが行います。日本でもマスターフィルムを使ってビデオマスターを作ればいいのですが、手間がかかるという理由でローコンポジを使うのです。
ハリウッドのビデオメーカーは、ローコンポジを使ったビデオマスター素材を受け付けません。理由は画質が悪いからです。なのに、日本のDVDのパッケージを見ると「ローコンポジからのテレシネを敢行!」など自慢していたりします。おそらく日本のビデオメーカーのスタッフも、フィルムの知識がないのでしょう。とても恥ずかしいです。

だんだん見えてきたと思いますが、実はハリウッド映画と邦画の画質の違いは、技術やお金が大きな要因ではないのです。そこに関わる人の考え方の違い、もっというとセンスの違いなのです。使われている機材はハリウッドも日本もそれほど変わりません。ただ各工程で、映像に対する感覚や執着の仕方が違うだけなのです。
これは、実は深刻な問題です。日本で映画を制作しているスタッフは、自分達の作った映画の画質に満足しこれでいいと思っています。一般の人から何故邦画の画質が悪いのかを聞かれても誰も明確な答えが出せないのです。

<今後の課題>
まずは、日本の映画スタッフは世界のスタンダードと世界の技術を知るべきです。一時、SonyやPanasonicが映画マーケットに進出しましたが、どれもうまくいきませんでした。技術会社も同様です。結局日本的なテレビ文化をベースにハードもソフトも独自進化を遂げてしまいました。これは携帯電話と同じです。世界から見たら日本の映像産業はガラパゴス化しているのです。
携帯電話と違うのは、我々は日本以外の映画を見ることができるという点です。島の外と中はなんか違うぞと気づける点なのです。携帯電話も今までは海外からのメーカーは排除し、我々日本人は海外の携帯マーケットがどう動いているのかなかなか知ることができませんでした。しかしiPhoneなど海外の優れた形態が入ってきてやっと自分たちのガラパゴス化に気づいて現在大きな方向転換を行っています。これまでの形態産業における損失は計りしれません。
同様に映像産業は、現在岐路に立たされています。今までのようにテレビ文化に根付いた独自路線で今後も進むのか、それとも海外の産業と同じようにスタンダード化していくのかを模索しなければいけない局面になってきました。

今後は、邦画でも日本の会社を使わずハリウッドでポストプロダクションを行うプロデューサーが出てくるかもしれません。あるいは日本の映画産業自体が大変革を起こし、ハリウッドスタイルを導入するかもしれません。どうなるかは誰もわかりませんが、私としては、少しでもお客さんが満足する画質を追求していってほしいなあと思います。

追記:
2015年時点で、日本の映画館はハリウッドからの影響によりデジタル化されました。すでにフィルム上映を行なっていません。映画は35mmフィルムではなくDCPというデジタルメディアによって配給されています。
この出口の変化に呼応するように、邦画界にもデジタル撮影の波が押し寄せてきました。
現在は、ほとんどの映画はデジタルで撮影されています。これに伴い、このブログに記されているような複雑なポストプロダクション行程は必要なくなりました。現在は、デジタルカメラで撮影し、デジタルデータを編集し、色を補正し、映画が完成します。撮影から劇場まで一貫してデジタルになったことにより、もはやハリウッドと何も変わらない環境が日本でも確立したのです。さて、ではこのデジタル環境で邦画を見ると画質はどうでしょう?フィルム時代と比べると相当綺麗になったと感じるのではないでしょうか。しかしやはりちょっと違うと思う方もいるはずです。この辺りはいつか詳しく記したいと思います。

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iTUNES & iTV [映画技術]


iTUNES&iPOD

今回は、映画のメディアのお話です。

映画は、映画館で見るために作られています。大画面スクリーンに映し出されるように映画には高画質&高音質が求められます。そして莫大な費用と時間、スタッフとキャストの熱意までもが加わり完成しているのです。

しかし、80年代にビデオが普及し、映画は映画館だけのものではなくなりました。フィルムはテレシネという作業でビデオ・データに変換され、家庭で気軽に楽しめるようになったのです。そして、80年代後半にパイオニアによってLD(レーザーディスク)が開発され、家庭で高画質な映画鑑賞が可能になりました。

このころから、映画をコレクションする人が増えました。それまで映画ファンが、過去の作品を見る場合、名画座で公開するのを待つか、カットされトリミングされ醜い形に変貌したものをテレビ放送で見ることしかできなかったのです。そういう映画ファンの所有欲をかき立てたのがLDです。おおくの映画好きがLDを購入しはじめました。そしてクライテリオンなどのメーカーが高画質・高音質なLDを沢山発売しました。クライテリオンには、スタッフやキャストのインタビューやメイキング映像などが特典として付き、ファンは感動したものです。

90年代に入ると、DVDなるメディアが登場します。この小さなディスクには、映画が1本入ってしまうのです。当然、データはデジタル圧縮されますが、この圧縮技術がなかなか優秀で、ディスクの小ささと扱いやすさ、そしてけっこう高画質・高音質なので、いっきに普及したのは皆さんもご存じの通りです。

そして、2006年。世はハイビジョン時代です。消費者は大型で薄型のハイビジョンテレビを購入し、リビングは広くなりました。そうすると、DVDの画質では物足りなくなります。ハイビジョンテレビを持つ人は、ハイビジョンが記録されているメディアを欲しがるようになりました。そこに登場したのがハイビジョンを記録するメディアです。残念ながらこのメディアは2種類に分かれ、統一規格ではありませんでした。(詳しくは次世代DVDの項を参照してください)

今、まさにハイビジョンという規格が普及し、そのデータを入れるメディアが要求されているのに、メーカーサイドは、消費者無視のくだらないプライドの争いをしているのです。

そんな状況下の先週、Appleが世の中をアッと言わせる技術を発表しました。それがiTUNESとiTVです。

iPODを持っている方はiTUNESになじみがあると思います。このソフトは、PCに音楽をため込み、整理し、iPODに音楽を転送するものです。しかし、バージョンアップしたiTUNESを良く見てください。そこには「Movie」とあるのです。そう、iTUNESでは、映画が購入できるのです。そして音楽と同じように映画を扱えるのです。現時点では、まだアメリカ国内だけのサービスで、しかもSD(DVDレベルの画質)ですが、技術的にはハイビジョン対応です。よって、皆さんも、アメリカのアカウントさえ持っていれば、今すぐにPCで映画を購入しiPODで映画ライブラリーを持ち運べるのです。これは凄いことです。音楽も自分の持っている数万曲というライブラリを全てiPODに入れられるということを知ったときは衝撃的でしたが、今度は映画なんです。

でも、あんな小さい画面で映画を見るのはちょっと辛いと思う方もいるでしょう。はじめに記したとおり、映画は「映画館」で見るために作られているのです。大きなスクリーンで見るのが正しい見方なんです。

そんな人に向けて開発されたのがiTVです。発売は2007年の春頃になるそうですが、この弁当箱みたいなものは、無線でiTUNESに入っている映画をリビングの大画面TVに映し出すことができるんです。

こうなると、今後どういうことが起きるのか未来予想図をお話しましょう。
週末、暇なので夜中に映画でも見ようかなあと思うとします。今までは、レンタルビデオ店に行きました。時には見たい映画が人気作品がレンタル中だったり、マイナー作品でレンタル店にはDVDが置いていなかったりします。レンタル店に行くのが面倒な人はDVDを購入している人もおおくいます。しかし、家には大量のDVD。もう置くスペースがなく、困っているでしょう。しかしiTUNESさえあれば簡単です。iTUNES Storeにアクセスすると、そこには新作映画から古い映画までほぼ全ての作品がラインナップされています。過去のTVドラマや、日本で放送されなかった番組なんかもあるのです。旅行ガイドやドキュメンタリーなども豊富にあります。あとは、自分の見たい作品を購入するだけです。もちろんの予告編をチェックすることもできます。価格はレンタルビデオより若干高くDVDより安いです。保存して何度でも楽しめるので妥当な価格ではないでしょうか。

自分のiTUNESにため込んだ映画は、ボタンひとつでテレビに映し出されます。ストリーミングではないので、早送り、巻き戻しもスムーズです。勿論一度購入すれば永久的に保存されているので何回見ても追加費用は発生しません。

どうでしょう。なかなか便利なシステムではないでしょうか。このiTUNESというソフトは、価格はなんと無料です。今すぐダウンロードするべきです(http://www.apple.com/jp/itunes/download/)。そして、まだ日本でははじまっていませんが、アメリカのiTUNES Storeをのぞいてみましょう。ちょっとだけ視聴できますので、雰囲気は味わえるのではないでしょうか。既に予告編はハイビジョンで無料提供されています。(http://www.apple.com/trailers/)

さて、この次にやってくるであろう技術は、ライブラリーの持ち運びです。
最近は海外のホテルに行くと部屋にiPOD用のスピーカーが置いてあるのを見かけます。自分のiPODを部屋のスピーカーで聞くことができるサービスです。日本ではカーナビとiPODがつなげるようになりました。レンタカーなどではCDを持ち歩くより簡単に自分の好きな音楽を手軽に楽しめます。
近い将来、ホテルの部屋やカーナビ、飛行機のシートTVにiTVの機能がつく日がくるでしょう。こうなると、自分の好きな映画やテレビドラマなどをiPODに入れて持っていれば、どこでも楽しむことができるのです。例えば、ブラジルに出張に行ってTVをつけても内容がわからない状況でも、iPODで映画を楽しむことができます。勿論字幕や吹き替え音声付きです。しかもiPODの中には沢山の映画が保存できますので、新作から旧作まで鑑賞できるのです。

Blu-Ray discやHD DVDが、もたもたしているうちに、さらに便利で先を行くiTUNESが登場したのを一番驚いているのは、日本のメーカーなのではないでしょうか。一部の雑誌やネットの記事を読むと、かなり見当違いの批判をしているものを見かけます。一番多いのが、いまさらSDでHD対応ではない、とか、根拠無く日本では成功しないとかいうものです。しかし、技術的には既にHD対応していますし、iPODが発売されたときも同様の記事をよく見かけました。要はユーザーが満足するサービスをいかに提供するのかという一番重要な部分を日本のメーカーは見落としてしまっています。

さて、数年後、果たして世の中はどうなっていくのでしょう。

私は、29800円のiPODと無料のiTUNESで、早速映画のライブラリーを持ち歩き楽しんでいます。

<iPODを購入>
Apple iPod 30GB ホワイト [MA002J/A]

Apple iPod 30GB ブラック [MA146J/A]

Apple iPod nano 2GB ホワイト [MA004J/A]

Apple iPod nano 2GB ブラック [MA099J/A]

Apple iTunes Music プリペイドカード 2,500円 [MA163J/A]


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次世代DVD [映画技術]

今回は、映画を見る技術についてお話します。

今、日本のテレビ界は白黒からカラーに変化したときと同じくらい大きな転換期にさしかかっています。2011年には、今まで使っていたテレビで番組をみることができなくなります。ある日テレビをONにしたら全チャンネルが砂嵐になるのです。これは、テレビ放送がアナログからデジタルHDに完全移行するからです。2011年までには、国民全員が、デジタルテレビを購入しなければならないのです。このことを知らない人が現在日本には40%以上いるといわれています。

デジタルHD放送は、すでに始まっており、現在はサイマル放送と呼ばれる移行期です。今までのアナログ放送と今後のデジタルHD放送の2つの電波がテレビ局から送出されています。東京タワーを見ると、タワーのてっぺんあたりのかたちがちょっと変わっているのに気づきます。これがデジタルHD放送の送出アンテナです。各テレビ局は、同じ内容の番組を2種類の電波(アナログとデジタルHD)にわけて放送しているのです。そのため、テレビ局は2000年頃に機材を全て買い替えてデジタル放送対応にしました。おおくのテレビ局が移転したのはこのためです。

アナログとデジタルHDはいったい何が違うのでしょう?
1)画質 
一番の違いは画質です。今までのアナログ放送は、点に置き換えると480*640です。一方デジタルHDは、1080*1920です。同じテレビサイズだとデジタルHDのほうがきれいに見えます。そして40インチ以上の大画面にした時は、アナログはかなりぼやけた映像になりますが、デジタルHDはきれいで滑らかな映像になります。
2)画角
画角はアナログが4:3で正方形に近い横長です。デジタルHDの画角は16*9のワイドです。ワイドになる事で、映画が本来のサイズで鑑賞できます。そして人間の視界に近いのでより臨場的に映像を楽しめるのです。

さて、ここからが映画を見る環境が今後どうなるのかという本題です。

日本中のテレビがデジタルHDになると、当然、その周辺にも変化が起きます。画質が上がるということで、テレビが大型化します。そして、画角が16:9ということで、ビスタサイズの映画と相性が良くなります。今までより映画鑑賞が楽しめるのです。

そこで、今までのアナログテレビで見るためのDVDもデジタルHDテレビで見るための次世代DVDへ移行します。まるで映画館で見るような美しい映像をDVDで楽しめる時代が到来するのです。これは映画ファンにとっては素晴らしいことなのですが、ここでフォーマットの不統一という問題が勃発してしまいました。

まるでビデオ創世記の「VHS対β戦争」の再来です。このビデオ戦争は、VHSが勝利し、βを購入した人々は、後でVHSを買いなおすという被害を被りました。このようなフォーマット争いは2度と起こしてはならないと誰もが思っていたはずですが、結局、次世代DVDも消費者に負担を強いる大問題に発展してしまったのです。

今回はSony、パナソニックが中心となり作り上げた「Blu-Ray Disc」と東芝が中心となった「HD DVD」の戦いです。この対立の問題の歴史は長く、ここでは詳しく紹介しませんが、要は、技術者のつまらないプライドのぶつかり合いの結果で、そこには消費者の立場に立った議論はほとんどありませんでした。

実は、この2つのフォーマット、技術的にはほとんど同じものなのです。違いはディスク構造くらいで、ここまで似通っているなら統一規格が作れたのではないか、と思ってしまいます。一時は歩み寄った各社ですが、数名のこだわりが統一フォーマットの夢を壊してしまいました。

2006年、まずHD DVDのハードとソフトが発売されました。予想通りとてもきれいで、この映像を見た映画ファンは今までのDVDを買い控えます。遂に次世代DVDのマーケットが開かれた瞬間です。しかし、HD DVDの販売は芳しくないのです。映画ファンは、本命のBlu-Ray Discを待っているのです。

おそらく、ソフト的にはHD DVDとBlu-Ray Discの画質の差はないでしょう。それは、映像記録方式は両方ともほぼ同じ技術だからです。それよりも消費者はどちらのフォーマットが主流になるのかのみを気にしているのです。自分はかつての負け組(βビデオを購入してしまった失敗を犯した人々)にはなりたくないのです。

現在、次世代DVDフォーマットはBlu-Ray Discになるのではないかと思われています。それにはいくつか理由があります。
1)2006年末に発売されるPlaystation 3には、Blu-Ray Disc再生機能があり、2007年初旬には日本国内で150万代以上が普及すると言われています。HD DVDは、同じ時期で数万台の出荷にとどまると予想されています。

2)販売されるメディアとしては、おそらく次世代DVDが最後になるでしょう。近い将来、映画などのソフトは、データ販売が主流になるはずです(詳しくはiTUNESの項を参照)。それまでのインフラが整うまでのつなぎとなる最後の媒体として、有力なのは容量のおおいBlue-ray Discです。HD DVDは、既にあるDVDの古い技術を継承しているので、つなぎメディアとしては向いていません。

3)PC業界では、マイクロソフト1社がHD DVD陣営で、残りのほとんどはBlu-Ray Discを支持しています。かつてオーディオビジュアル機器の王様SONYが1社でβを開発し、ひとりで突っ走ったときと似ています。

2006年いっぱいは、この消費者を無視した愚かな争いが続きますが、2007年後半には、決着がつくでしょう。すぐにでも大画面でHD画像を堪能したいという人以外は、Blu-Ray Discを待つべきでしょう。そして、このような下らない争いは、今後2度と起こしては行けないと業界は反省すべきです。


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THXについて [映画技術]


THX

今回は、THXについてお話をしたいと思います。 THXに関する簡単な知識があると映画をより楽しめることができます。

映画を見に行くと、映画館の入口付近に「THX」というマークがついている劇場があります。日本ではワーナーマイカルの一部スクリーンや六本木ヴァージンシネマズなどにTHXプレートがついています。そしてDVDを買うとジャケットにやはり「THX」というマークがついています。いったいこれらはどういう意味があるのでしょうか。

この「THX」という言葉には、実はあの映画「スター・ウォーズ」が関係してくるのです。

○なりたち
それはもう20年以上も前のこと。映画「スター・ウォーズ」の完成間近。ジョージ・ルーカス監督は、音の調整を数ヶ月にわたる長期間をかけて作りました。セリフ・効果音・音楽それぞれが適切に調整され、セリフは朗々と響き、効果音は大迫力で迫り、音楽は観客たちの情感を大いに盛り上げるという、それは素晴らしい音が完成したのです。
しかし、観客の様子を見ようと劇場に足を運んだルーカスは、そこで愕然とする光景に出会うことになります。その劇場は設備が古く、まともに映画の音が再生されておらず、“セリフが聞こえないよ〜”と観客たちが困りはてているというものでした。
このことを大いに反省したルーカスは、“映画上映に最適な映画館の基準作り”に着手したのです。スクリーンや椅子の材質、壁の反響の具合、劇場内の照明の明るさ、スピーカーなどの音響装置の選択など、映画の作り手が意図した映像と音を、そっくりそのまま再現できる劇場作りをしようというわけです。
こうして作られた基準をクリアした劇場を、ルーカスは“THXシアター”と名づけました。自身の映画初監督作品であるSF映画「THX-1138」のタイトルをとったことからも、彼のTHXシアターへのこだわりの強さをうかがえます。

○THXシアターの登場
この"THXシアター"はアメリカ人観客にインパクトを与えました。それまでも、映画をよく見るアメリカ人にとって暗く映写されるスクリーンやノイズの入って曇ったスピーカーに嫌気を感じていたのです。"THXシアター"の基準がルーカスから発表されると、資本力のある大きな映画館がこの基準を採用しだしました。時を同じくしてドルビー社が立体音響システムを開発してきたので、劇場は一度の改装で"THXシアター"の「質」とドルビー社の「立体音響システム」を導入したのでした。
観客はすぐに反応します。同じ映画でも"THXシアター"のほうに明日を向ける人々が増えてきました。映画を見るなら心地よく見たいと思う客が、今まではわかりにくかった劇場の上映環境を入口でチェックできるようになったのです。
この影響でいまやアメリカのシネマコンプレックスは"THXシアター"基準が普通に採用しています。
日本では、このあたりの環境整備がとても遅れてしまいました。問題はいくつかあります。ひとつは日本人が上映環境にそれほど拘らなかったということ。そして映画館サイドも積極的に"THXシアター"基準の導入を行わなかったことです。幸い、黒船(ワーナーマイカルやヴァージン)がやってきて、日本の映画館は一気に改革されることになります。現在では全国的に"THXシアター"が増えつつあります。
THXシアターは、THX社の社員によって年1回チェックを受けています。もし基準に満たない状況になった場合はTHX社員は劇場についているTHXマークを剥奪します。よって、THX基準を満たすためには劇場側は常に努力をしなくてはいけません。

○THX−DVDとは?
では、THX-DVDとは何でしょう?
これはTHXシアターと同じく、映画の作り手たちが意図した映像と音を忠実に再現したDVDという意味になります。
今回のDVD制作にあたっては、以下のプロセスでのチェックが行われます。
 (1)ハイビジョン収録のマスターテープ
 (2)DVD収録用にデジタル圧縮した映像・音声データ
 (3)実際にプレスされたテスト盤DVD 
これらの素材をアメリカのTHX社に送り、厳しいクオリティのチェックを受けているのですが・・・その“重箱の隅”たるやは素晴らしく、想像を絶する細かさなのです。 “○○時間○○分○○秒○○コマ目の、画面のどこどこにこれこれなノイズがあります・・・”そんな指摘が数十箇所にわたって送られてくるのです。こうした映像の微調整を徹底的に行った結果、めでたくTHX-DVDとしての合格を得る事ができるのです。THX-DVDとして合格すると、ロゴをジャケットとDVDに収録することになります。これは、言わばハイクオリティの証明書なのです。

このほかに、DVDプレイヤーやスクリーンなどにもTHX基準が設けられています。よって、家庭で映画制作者が意図した上映ができるようになりました。ただ、機器に関しては価格が高いので簡単に導入できないのが欠点です。映画館は入場料さえ払えば、最高レベルの視聴が可能なわけなので、映画を見るときは是非"THXシアター"での視聴をおすすめします。

尚、この文章はJediokiさんの協力を得て作成したものです。

<追記/2005/09/05>
THXーDVDなのに画質が悪いという意見を聞きます。THXは、高画質を保証するものではなく、制作者が意図した映像や音響をお客さんに忠実に伝えるDVDを作ることが使命ですので、制作者が望まないような画質にすることはありません。DVDは、あくまでマスターとDVDの品質を同じにするものです。よって、「画質が悪いDVD」と感じる場合は、制作者がこの画質を望んでいるということになります。悪いのではなく意図ですね。


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