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トイストーリー [アニメ]


Toy Story (1995)

フルCGアニメーションを確立した映画史に残る名作。

ジョージ・ルーカスは、「スターウォーズ」製作後、今後はCGの時代がくると予見し、ルーカスフィルム内にCG部門を立ち上げました。こCGで映像を作り出すという試みは、<CGでアニメを作る部門>と、<実写にCGを合成する部門>にわかれました。アニメを作る部門は、当時とても遅いコンピュータで動画を作る試みを行いましたが、なかなか成果が出ませんでした。実写にCGを合成する部門はILMに設置され、ゆっくりと開発が進み少しずつ映画製作に用いられるようになりました。

80年代は、PCで四角を画面上に描くにも一苦労し、それを移動させるためには膨大なプログラムを入力する必要があり、現在のようにリアルな映像が簡単に作れるなんていう時代ではありませんでした。そんな時代からルーカスフィルムはCGを扱える技術を開発していたのです。後にILMチームは「ジュラシックパーク」で開花します。どうみても本物にしかみえない恐竜をCGで作ってしまったのでした。そしてアニメ部門は遂に外部に売られてしまうのです。

このCGアニメ会社を購入したのが、Apple Computerを設立したスティーブ・ジョブスです。彼は、ルーカスからこの「将来のない」会社を譲り受け、サンフランシスコの小さなビルに事務所をオープンします。そして、だんだんと早くなってきたPCで動く映像を作り出せるよう研究を続けます。

ピクサーと名付けられたこの会社は、短編の製作に着手します。そして今やピクサーのオープニングロゴにも登場する卓上ライトが主人公の「ルクソーJr.」が完成します。ライトが動く5分の短編は、アニメ業界を驚かせました。3Dで作られた仮想空間にライトを配置し、照明を当て、カメラアングルを決めて撮影するという実写さながらのアプローチ、そしてまるで実写のような物理法則に従ったキャラクターの動きは当時本当に驚かされました。この「ルクソーJr.」はアカデミー賞はじめ沢山尾の賞を受賞してピクサーの名を世界に知らしめました。

しかし、この時点で、ピクサーは赤字企業でした。設立以来ずっと研究開発に力を注いでいたため、利益がなかったのです。そこで、遂にフル3DCGの長編アニメーションを制作するという決断をしたのです。

当然、映画を作る前に、膨大なソフトウエアを開発しなければなりません。スタッフは、ハードやソフトを自分たちで作り出し、映画制作をはじめました。この時点でピクサーは大変重要なジャッジを行っています。映画はあくまでお客さんが楽しむものです。よってストーリーが非常に大切であるということを確認したのでした。監督のジョン・ラセターは、CGアニメであろうが、セルアニメであろうが、まずは面白いストーリーを作ることに専念しました。そして、このストーリーが活きるCGアニメを作ったのです。新しい技術を取り入れる映画の場合、とかくスタッフは新しい技術に魅了されてしまい、ストーリーは後回しになってしまいます。しかし、これだと絵的な驚きはあってもお客さんは納得しません。ラセターは冷静にこのあたりの問題点を早期に解決していたのです。

映画は3年を超える制作期間がかかりました。そして、この映画から新しいソフトウェアがいくつか生まれました。現在プロのCGアニメーターが使うソフトはピクサー製のものがかなりあります。

映画のタイトルは「トイストーリー」。人間がいない間、動きだす人形達のお話です。このストーリーはとても良く出来ています。当時、人間をCGで作るのは技術的に大変な作業でした。よって、主人公は「もの」なのです。人間はほんの少ししか登場しません。これにより関節の少ない、そして表情表現も制限された極めてアニメの手法に近い形で映画制作を行えたのです。

90年代に制作された日本製フル3DCGアニメ「ファイナルファンタジー」は、技術にこだわり制作費がかかったのですが、ストーリーはとてもつまらなく、結果大失敗に終わりました。ピクサーは、映画製作者が陥ってしまいがちな間違った方向には向かわず、お客さんが満足する映画を作るという信念を貫いたのです。

結果、「トイストーリー」は大ヒットします。勿論、いままで見たことのない映像に誰もが心奪われたのですが、やはりストーリーが面白かったのです。おおくのお客さんはストーリーで満足しました。そして口コミで人気が広がって行ったのです。配給のディズニーは、主人公たちのキャラクターグッズをタイミングよく発売し、関連商品の売上も物凄い数字になりました。全てが予想以上の大成功になったのです。

ピクサーは一夜にして、大金持ちになりました。今までの累積赤字は瞬時に解消しました。そして、「トイストーリー」の利益を元にサンフランシスコに大きな自社ビルを建てました。そして、さらに余った資金を次の作品に投下します。

誰もが金持ちになって遊び回ったのかというと、そんなことはなく、相変わらず面白いストーリーを練ったのです。そしてさらにお客さんを喜ばせようと新社屋に籠りました。

私はピクサーに数回お邪魔したことがあります。レンガ作りの建物は、重機を入れず職人さんが建てたそうです。「アニメは人が作ります。だから我々は人が作った建物でものつくりをしたいのです。」と語るスタッフはとても穏やかな人でした。エントランスを入ると、そこには大きなカフェがありました。カフェの名前は「ルクソーJr.」コックさんは、スタッフのために少しでも美味しいものを提供するのが生き甲斐だと話していました。廊下をキックボードやローラーブレードで行き来しているのはクリエイター達です。皆自分の作った小さな家で作業をしています。なんだかおとぎの国に迷い込んだような楽しい会社でした。さらに驚いたのは会社のマネージメントです。守衛さん、コックさんからクリエイターまで、ここは皆が週2時間ピクサー・ユニバーシティという大学に通わなければいけません。そこでは、映画を撮影したり演技の勉強をするそうです。クリエイター達はここで人の動きや実写映画の構造を勉強するそうです。守衛さんやコックさんは、スタッフと一緒に映画の作り方を学ぶことでスタッフの顔を覚え、皆の苦労を知ることになります。よって会社の強い連帯感が生まれているのです。

お金に余裕があるからできるのかもしれませんが、かつて慢性的な赤字状態の頃からのポリシーだそうです。短期的利益ばかり追求している企業では、ピクサーのようなマネージメントはできませんし、「トイストーリー」のような素晴らしい作品を作ることもできないでしょう。

ピクサーは、その後も順調にアニメを制作しヒットしています。来年の「カーズ」では、ラセターが監督として久しぶりに頑張っているようです。

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コメント 17

クロロ

いつも興味深い話をありがとうございます
本当にこの映画のキャラクターは生き生きしていますね
CMを見て想像していたバズの体格が、実際に映画を見ると
ウッディよりもグンと小さかったので、吹き出してしまったことを思い出します
ディズニーと違って粘っこくない感覚がいいですね
ちょっと毒気もあって(エディ・マーフィーが混ざっても違和感が無い、というか)
ルーカスが手放した…おかげなのでしょうか?
それにしても、「トロン」から比べると恐ろしい勢いでCGは進歩していますね
by クロロ (2005-11-05 21:53) 

DSilberling

クロロさん、いつもナイスありがとうございます。トロンは実はCG映画ではないんです。CGっぽく人が線を書いているんです。物凄い人力に頼っているんですね。エンドロールの中国人スタッフ(かなりの数)ががんばった作品です。本格的なCG映画は「スターファイター」ではないでしょうか。アメリカでは人気がありますが日本ではあまり話題になりませんでした。
by DSilberling (2005-11-05 23:19) 

non_0101

アメリカの会社の話を読むと、その環境の良さにいつも羨ましく思ってしまいます。でも、簡単に人を辞めさせたりもするのですよね。不思議です…
ところで、ピクサー作品は楽しくて好きです。特に「トイストーリー」と「モンスターズインク」は大好きです!最近は、ドリームワークスやFOXもCGアニメでヒットさせるようになりましたけど、やっぱりこの2作品にはかなわない気がします。
でも、今、一番気になっているのは「チキン・リトル」。本家ディズニーの3Dアニメがどんなものなのか…?とりあえず、キャラクターは最高にかわいいですよね。早く観たいです。もちろん、「カーズ」も楽しみにしています!
by non_0101 (2005-11-06 01:39) 

勉強になります。

ピクサー黎明期のストーリーが、実にクリアになりました。Shin
by 勉強になります。 (2005-11-06 08:37) 

DSilberling

nonさん、こんにちは。日本での報道だけみるとアメリカの会社はすぐ解雇するというイメージがあります。でも、ピクサーはじめきちんとした会社はそんなことせず社員を大切にしています。最近のリサーチで調子の良い会社は社員を大切にしていること、そして短期的利益に固執していないことがわかってきました。航空業界ではサウスウエスト航空がずば抜けて評価が高いですが、社内はピクサーとよく似ています。

ドリームワークス、FOX、ディズニーもCGアニメに参戦していますが、ピクサーと比べるとそれぞれ違いがあります。ディズニーは会社が瞑想しているので「チキンリトル」は厳しそうですね。
「カーズ」はみたスタッフはほとんどが泣いてしまったそうです。気になりますね。
by DSilberling (2005-11-06 08:53) 

DSilberling

Shinさん、そうですか?これからもよろしくお願いします。
by DSilberling (2005-11-06 08:54) 

クロロ

えええっ?! 「トロン」は手描きだったのですか?!! ずーっと黎明期のCG作品
だと思っていました
教えていただいて、ありがとうございます
by クロロ (2005-11-06 10:43) 

サンラブ

はじめまして
私のブログ記事にniceを有難う御座いました。

トイストーリー私大好きです。今でこそCGのアニメーション沢山生まれていますがやっぱりこのトイストーリーのグラフィックが好きです。
by サンラブ (2005-11-06 11:43) 

DSilberling

そうですね。私も当時はCGって奇麗だなあと思っていました。あの美しい光は手書きだったんですね。CGを使っているところもありますが、ほとんどはアナログでした。
by DSilberling (2005-11-06 11:45) 

はじめまして、kurumiと申します。
この映画大好きです。ストーリーはキャラクターが素敵で・・・
ピクサーの社内は何かの番組で見て、こんなに夢のある場所で仕事をしてるから、あんなに素敵な仕事ができるんだ。と感心した記憶があります。
いろいろと勉強になりました。
by (2005-11-06 15:29) 

jedioki

「トロン」は20周年記念盤DVDのメイキングによると
コンピュータのモニタにワイアーフレームのCGを描いて、それを手描きでトレースしてセル画にし、アニメーションにしたとありましたね。
純粋にコンピュータ・ジェネレイテッドの映像を使用した映画は、やはり「スター・ファイター」になると思います。日本ではDVDも出てませんねえ・・・好きな映画なんですが。
意外と知られていないのは「スター・ウォーズ」第1作のデス・スター攻撃作戦会議のシーン。R2-D2がメモリーしていたデス・スターの設計図をパイロットたちが見るシーンのワイアーフレームのアニメーションは、後に「エイリアン」の脚本を書くダン・オバノンらがクリエイトしたCG映像でした・・・よね?(笑
by jedioki (2005-11-06 15:46) 

DSilberling

kurumiさん、こんにちは。ピクサーは、まだまだ魅力のある会社なんですよ。これから徐々に書いていきますのでお楽しみに!

jediokiさん、そうですね。私は「スターファイター」輸入版DVD持ってます。何度も見てますよ。当時、映画館でも見たのですが、CG映像にとても興奮しました。今では自分のMACで作れるような映像でしたが、「ゴルゴ13」と違ってきちんと汚しが入っているのはにくかったです。ep4のデススターも手書きでしたね。さすがマニアですねえ。
by DSilberling (2005-11-06 15:52) 

jedioki

あ!
「ゴルゴ13」忘れてましたね(笑)
えーと、そうそう、”COMPIX”ってネーミングでした!
DVDも出てましたね、パイオニアLDCから。
by jedioki (2005-11-06 23:18) 

hide

訪問ありがとうございます!僕もこんなに詳しい説明と文章が書けたらいいんですけど、思ったまま書いてますので、、、また時間がある時は立ち寄ってください。ありがとうございます。
by hide (2005-11-07 00:01) 

DSilberling

jediさん、「ゴルゴ13」のCGは当時でもちょっとなあ、と感じました。
hideさん、これからもよろしくお願いします。
by DSilberling (2005-11-07 12:14) 

KANAchanMaMa

コメントも含め、とても面白く 読ませていただきました。
私は、「トイ ストーリー」〔1〕でも 〔2〕でも、切ないストーリーに 泣きました。
飛べると思っても “人形である”という現実を 認識しなければならない「バズ」
〔1〕や、大人になっていく少女に 忘れ去られ捨てられる「ジェシー」〔2〕の
心理描写なんて、大人の鑑賞に 充分 堪えられる ストーリーでしたから…☆
まさに “ストーリーで満足した”一人…です。私も!(*^^)v
また、ちょびちょび(!?)と 過去記事に おじゃまさせて下さいマセ!(^_^)/
by KANAchanMaMa (2006-08-21 01:05) 

DSilberling

古い記事へのコメント嬉しいです。
自分で書いた記事を読み返すことができます。
ピクサーは、子供に向けた幼稚なストーリーを作らず、自分たちが面白いストーリーを練ります。
これがヒットの秘訣なんでしょう。
次回作は07年公開です。楽しみですね。
by DSilberling (2006-08-21 10:16) 

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