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ロスト・イン・トランスレーション [アメリカ映画(00s)]


Lost in Translation (2003)

アカデミー脚本賞受賞作の名画。

監督は、フランシス・フォード・コッポラの娘、ソフィア・コッポラ。「地獄の黙示録」「ゴッドファーザー」を監督してきた気性の荒い父親とは違い、大切に育てられたお嬢さんであるソフィア。彼女は若い頃女優としてでデビュ−します。子供の頃から「アウトサイダー」(1983)、「ペギー・スーの結婚」(1986)など父親の映画にちょっとだけ出演していますが、メジャーデビュー作は「ゴッドファーザー3」(1990)です。しかし、女優として開花することはなかったようです。彼女は父親譲りのクリエイターだったようで、映画撮影の現場でスタッフの仕事に興味を持ちました。そして女優業をしながら、沢山の才能を開拓していくのです。

衣装デザイナーとして「ニューヨーク・ストーリーズ」(1989)に参加したり、カメラマンとしてスパイク・ジョーンズ監督の「Torrance Rises」(1999)に参加します。さらには脚本家としてもいくつかの作品を書き上げ、次第に女優業から映画スタッフに移行して行きました。その様子を見て、父親フランシスは彼女の映画製作を支援します。

完成したのは「Lick the Star」(1998)、そしてサンダンス映画祭で話題になり世界的にアート映画としてヒットした「ヴァージン・スーサイズ」(1999)です。ソフィアはこの2作では脚本も担当し、小作品ながら評価されます。

私は、アメリカ・ユタ州のスキーリゾートで行われるサンダンス映画祭で「ヴァージン・スーサイズ」を完成させたばかりのソフィアに会ったことがあります。彼女は、育ちの良さからとてもおおらかで気さくな性格でした。そして、自分の作りたい映画を力まずに作り続けていきたいと語っていました。お金に苦労している訳でもなく、子供の頃から映画制作現場で育ってきた彼女にとっては、肩肘張らずにのんびり人生を楽しんでいるという感じでした。

「ヴァージン・スーサイズ」が成功を収め、フランシスから借りた制作費もきちんと返却でき、彼女は次の作品にとりかかります。選んだ舞台は東京でした。もともとソフィアは日本がとても好きで、日本文化に精通しています。ロサンゼルスでは、メルロースにある寿司バーのない日本食店で彼女をよく見かけます。彼女は寿司には興味がなく酢の物などを食べています。そして沢山の日本に関する本も読んでいて、プライベートでも東京をよく訪れています。だから、アメリカ人が持っているステロタイプな日本を打破する企画を考えたのも当然かもしれません。

新作も小さなユニットで低予算の映画作りにしました。メジャー映画に行かず、自分のコントロールできる規模にした選択は素晴らしいです。背伸びせず映画作りを楽しんでいるソフィアの性格があらわれています。製作チームはまず、日本で撮影に協力してくれる会社を探しました。それまでも「ブラックレイン」などで日本の行政が映画撮影に非協力的なことは知られていました。そこで、脚本は極力ホテル内にとどめ、新宿の町並みは車の中などから撮影してしまう手法でいくことになりました。日本での協力会社は東北新社になりました。東北新社はCM製作や単館系アート映画製作のノウハウを持っている会社です。そして、小さなスタッフルームもオープンし撮影が始まったのです。

主演は、「ゴーストワールド」などで、良い演技をしていたスカーレット・ヨハンソンです。このキャスティングはソフィアならではの大胆な選択です。そして相手役には、ちょっと人気に陰りがあったビル・マーレイをキャスティングします。映画の中のボブ・ハリスそのままの配役には脱帽です。

現場は日本クルーとアメリカクルーの文化の差、そしてお嬢さんであるソフィアの気ままな性格で混乱を極めたそうです。参加したスタッフによると「ブレードランナー」の現場に近い程の危機的な問題を抱えての撮影だったそうです。しかし、様々なスタッフの努力が実り、映画は完成しました。

完成した映画は、試写の段階で評判になりました。そしてフォーカス配給で公開され、世界的にヒットします。映画は沢山の映画祭で賞を受賞します。アカデミー賞では、名作と競い最優秀脚本賞を受賞するまでになってしまいました。

私は、アカデミー賞の受賞式の日にサンフランシスコにいました。受賞翌日にフランシスが経営するナパバレーのワイナリーを訪れると、ワイナリー全体に装飾が施され、建物の中には「Congratulations, Sofia!」という看板がたくさん掲げられていました。親バカとはこのことだなあと思いながら、アカデミー賞で自分が受賞したときよりも喜んでいたフランシスの顔を思い浮かべ笑ってしまいました。勿論、娘の名前を付けた「sofia」というシャンパンはバカ売れでした。

この映画のヒットで、ソフィアは、「コッポラの娘」というレッテルから解放され、最近ではフランシスが「ソフィアの父親」と呼ばれるようになりました。ビル・マーレイはかつての栄光を取り戻しました。スカーレット・ヨハンセンは、人気女優の仲間入りをしてハリウッド大作に主演しています。
映画の舞台になったパークハイアット東京は、大人気ホテルとなり、今でも毎日ほぼ満室です。New York Bar & Grillも予約をとるのが大変です。

ソフィアは、遂にハリウッドメジャーに進出します。タイトルは「マリー・アントワネット」公開は2006年です。この映画でもソフィアは脚本を自分で書いています。主演はキルスティン・ダンスト。けっこう大きな作品だそうです。さて、大規模映画でソフィアはどんな飛躍を遂げるのでしょうか。今から楽しみな1本です。

<ソフィア コッポラの作品を購入>
ロスト・イン・トランスレーション
ヴァージン・スーサイズ


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コメント 11

tmct-t2

初めましてー。
この映画でソフィア監督を知り、その魅力にまいった人の一人です。
次回作、来年なんですね!楽しみにしとかなきゃ。

「ソフィアの父親」っていいッスね。
そう言われるのが嬉しくてしょうがないでしょうね、きっと。
by tmct-t2 (2005-11-12 23:42) 

Silberling

やっつさん、こんにちは。フランシスは映画監督というより、ワイナリー経営で大成功していて、今はソフィアのことを見守るのが一番重要なようです。息子は、才能がまだ表れていませんが、家族は仲が良いそうです。
by Silberling (2005-11-13 08:23) 

coco030705

こんばんは。
この映画、見ようと思いながらまだ見ていません。この記事を読んで、
やっぱり見なきゃと思いました。
ソフィアって、日本びいきだったんですね。そうでなくては、東京を舞台に
しないでしょうね。
新作が「マリー・アントワネット」とは、楽しみです。でも、主演がキルスティン・
ダンストというのが、ちょっとひっかかります。どんな演出でみせてくれるのでしょうか。
by coco030705 (2005-11-13 20:24) 

DSilberling

「ロスト〜」は、映画通には大評判、でも所謂ポップコーンムービーではありませんので、あまり映画を見慣れていない方にはどうとられているのかわかりません。

ダンストって、日本では人気ないですねえ。アメリカでは相当かわいいと思われています。
by DSilberling (2005-11-13 20:40) 

non_0101

こんばんは。
この映画は劇場で即、パンフレットを購入した1本です!
心細さと切なさとそしてやさしさに、観る方の心も癒された気がしました。
スカーレット・ヨハンソンの魅力を知ったのもこの映画です。
“「ブレードランナー」の現場に近い程の危機”だったのですか?
やっぱり文化や考え方の違いの壁は難しいのですね。
本当に完成してよかったです。
by non_0101 (2005-11-13 23:59) 

coco030705

おはようございます。
この作品をみましたので、TBさせていただきますね。
by coco030705 (2005-11-18 08:55) 

DSilberling

nonさん、cocoさんこんにちは。そうですね。このように制作費が高い訳でもないのに心に残る作品ができて良かったと思います。そしてなによりリアルな東京がちゃんと描かれたハリウッド映画ということでも日本人として嬉しかったですね。
by DSilberling (2005-11-19 16:44) 

マクロビスタイル

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by マクロビスタイル (2005-11-21 23:59) 

DSilberling

私も食べてますよ。
by DSilberling (2005-11-23 00:34) 

siena

こんにちは。コメントありがとうございました。
「ロスト〜」の事がとても詳しく書いてあって、興味深く拝見させていただきました。
現在アメリカに住んでいらっしゃるのでしょうか?
以前友人がナバに住んでいて、よく訪ねていました。
ここにソフィア・コッポラも住んでいたと知り、なんとなく納得してしまいました。
別の映画評も楽しみにしています。それでは。
by siena (2005-12-06 18:39) 

DSilberling

sienaさん、こんにちは。ソフィアはあのワイナリーで盛大な結婚式をしましたが、離婚してしまいましたね。ワインはナパでもトップクラスの美味しさでルビコンは絶品です。一度飲んでみてください。
by DSilberling (2005-12-07 07:57) 

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