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インサイダー [アメリカ映画(90s)]


The Insider (1999)

今回は、ジャーナリズムとは何かを問う骨太名作の紹介です。
この映画は、あるテレビニュース番組で起きた事実を映像化したものです。

アメリカのCBS放送は、3大メジャーのひとつを担う世界でも最大手のテレビ局です。日本では、日本テレビ、TBS、フジテレビと同じような民放キー局です。
このチャンネルには、1968年から続く人気ドキュメンタリー番組があります。タイトルは「60 Minutes」。60分の番組内で毎週3つのニュースを取り上げ、それぞれの裏側を鋭く報道していきます。
日本では、TBSが「JNN報道特集」で「60 Minutes」を模していますが、その内容には大きな開きがあります。「60 Minutes」は、毎回、毎テーマに関し、相当なリサーチを行い、視聴者が驚かされる情報を伝えてくれるのです。時には、ニュースが世の中を動かしてしまうほどセンセーショナルな特ダネを掴んだりします。

アメリカでは、知識層の人々にとどまらず、幅広い視聴者が、「60 Minutes」を見ています。これは、アメリカで起こる数々の問題をしっかりと見つめ、世の中を変えていこうという考えが強いからです。そして低所得者やマイノリティが置かれる現状を報道してもらい、少しでも自らの生活を良くしたいという思いもあるからです。

この映画は、この「60 Minutes」という番組が舞台です。ある日、番組のプロデューサーであるローウェル・バーグマンの元に匿名で書類が届けらます。それはタバコ産業の不正を告発する極秘ファイルでした。彼は直ぐに事実確認をするため動き出しました。そして、アメリカの大手タバコ会社であるブラウン&ウィリアムソン(B&W)社が、とんでもない成分をタバコに入れ常習性を高めているという事実を掴むのです。B&W社は、当時ラッキーストライク、マルボロ、パーラメントなどを生産していました。バーグマンは、この事実の裏付けをとり、番組で報道することにします。しかし、CBS上層部は、スポンサーでもあり政治に大きな力を持ち、さらに社を買収することができるほどの資本を持つB&W社に恐れをなしてしまうのでした。バーグマンは、事実を報道できないという報道機関で最も重要な「ジャーナリズム論」に苦悩していきます.....

日本では、同様な問題はマスコミで毎日のように起きています。そして、毎日のように「ジャーナリズム」「正義」という言葉は置き去りにされ、正しい報道が行われていないのです。日本の報道機関には、きちんとジャーナリズムの勉強をしてこなかった学生が現場記者として配属されるという大きな問題があります。そして「正義感」のない記者は、記者クラブという仲良しチームを結成し、皆で同じ内容のニュースを流すという恐ろしい慣習が当たり前のように行われているのです。

ある刑事事件のニュースを見てください。どの新聞もどのテレビ局も同じ内容です。そして感情論に流れ、国民が加害者(時には被害者)をバッシングします。そして、別の事件が起こると、新しいターゲットを非難し続けるのです。事件には必ず多面性があり、加害者の考えや被害者の考え、そしてその事件が起こった背景や、その後のインパクトなど、きちんと報道しなければならない事柄が多数あるのに何故か同じ情報が垂れ流されるのです。
記者クラブは、基本的に警察と親密で、警察から流される情報をそのままソースとすることがあります。そして、各社各局の記者が、事件に対する情報確認、共有を行い報道するのです。
この恐ろしい情報操作問題に気づいている人がいったいどのくらいいるのでしょうか?
かつて、長野県知事だった田中康夫氏は、記者クラブ解散宣言をしました。彼はきっとこの問題に気づいていたのでしょう。しかし、楽をしたいマスコミ各社は、一斉に反田中報道を始めました。そして、結局退陣させられたのです。これは、とても恐ろしいペンの暴力ではないでしょうか。

さて、話を映画に戻しましょう。番組のプロデューサー、バーグマンは、どんな脅迫にも屈することなく、大手タバコ会社の犯した犯罪を世の中に伝えるため、あらゆる困難を克服していきます。映画の見所はここです。とにかくハラハラさせられます。そして、とうとうバーグマンは、番組を降ろされてしまうのです。

でも、この話はここで終わりません。バーグマンは、さらに新たな手を打ってくるのです。バーグマンにとって、この事実を公にすることは、なんのメリットもありません。でも、「ジャーナリズム」という考えから、多くの国民を救うという使命感から、命を脅かされても、情報を開示するために突き進んでいくのです。

映画の結末は、皆さんご自身で確認してください。そして、アメリカのジャーナリズムの素晴らしさを実感していただきたいです。

そんなアメリカのジャーナリズムも、ブッシュ政権になり日本のようになってしまいました。優秀なジャーナリストは、皆解雇され、国の意向に逆らわないマスコミが台頭してしまいました。しかし、ブッシュ以後は、必ず真のジャーナリズムが復権すると思います。そして日本のマスコミもそれに追随してほしいと思うばかりです。

この事実は、結局大きな事件に発展していきました。巨大企業B&W社は、遂に経営に行き詰まってしまいました。2004年B&W社は、R.J.レイノルズ社に吸収されてしまいます。

ある民法の1番組が、結局小さな国家規模の大企業の運命を変えてしまうというダイナミックな展開は、まるで映画のようです。でもこれはつい10年ほど前にアメリカで起こった事実なのです。

映画の監督は、巨匠マイケル・マンです。そして、バーグマンを演じるのは、名優アル・パチーノ。この二人のタッグは、実際にあった事件をよりリアルに、そしてドキュメンタリー・タッチで浮き彫りにしていきます。苦悩する元B&W社の役員にラッセル・クロウが好演しています。

映画は、2000年アカデミー賞で7部門にノミネート、他にも世界中の映画賞を受賞しました。

日米共に政治や社会が混乱している現在でこそ紹介したい作品です。

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花火師

実はこの映画、見てないんですよ
この頃に話題になったのは少し覚えています。
 週末なので、DVDでも借りてこようかな?
by 花火師 (2008-01-18 14:22) 

ちょっとみたい映画ですね。
by (2008-01-18 14:29) 

依光次郎

折から内容は異なりますが、NHKで問題になった報道機関の倫理問題にもあたりますね。本作のように全くアメリカのようになれとは思いませんが、政府と報道機関のなれ合いはごめんこうむりたいところです。
by 依光次郎 (2008-01-18 16:14) 

↑同じく、NHKの問題が・・・
ちょっと難しそうですが、見てみたい映画です。
by (2008-01-18 17:48) 

SAKANAKANE

日本のマスコミの陳腐さが、よく分かりそうですね。
文化の違いって言ってしまえば、それまでなのかなぁ?
by SAKANAKANE (2008-01-18 19:09) 

かおり

かなり面白そうですねー!
ぜひ観てみたいと思います♪
by かおり (2008-01-18 21:47) 

DSilberling

花火師さん、こんにちは。
アカデミー賞にノミネートされていながら見るチャンスをなくしている作品ですね。この機会に是非ご覧ください。
by DSilberling (2008-01-18 23:07) 

DSilberling

mamiiさん、こんにちは。
これは必見ですよ。たまにはこういう社会派映画もおすすめします。
by DSilberling (2008-01-18 23:08) 

DSilberling

依光次郎さん、こんにちは。
日本のマスコミ、特にテレビは国民に大きな影響力があります。報道に携わる人々は、ジャーナリズムとその効果についてきちんと勉強すべきですし、公との馴れ合いもなんとかしなくてはいけませんね。
by DSilberling (2008-01-18 23:10) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。
映画はエンタテイメントとして仕上がっています。
全く難しくないので、気軽に見てください。
by DSilberling (2008-01-18 23:11) 

DSilberling

SAKANAKANEさん、こんにちは。
日本もそろそろ2流から脱出して1流国の仲間入りしたいですね。
by DSilberling (2008-01-18 23:11) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。
是非ご覧ください。
by DSilberling (2008-01-18 23:12) 

non_0101

こんにちは。
情報の問題は考えれば考えるほど怖いです。
この作品をもう一度ちゃんと観て、その怖さを忘れないようにしたいです。
by non_0101 (2008-01-19 08:37) 

Zunko

CBSは関連会社なのですが、この映画を知りませんでした・・。
是非見たいと思います。 

日本の記者クラブと言うのは、プリンセス雅子と言う、雅子様の事が書かれた本を読んだ時に実態を知りました。その本には、宮内庁を囲む記者クラブだったのですが、宮内庁の方とインタビューのアポを取る前に、この記者クラブに面通しが必要だとか。。宮内庁が言ってる事を各社同様に報道するとか。。雅子様が、重症のうつ病なのに、適応障害、と報道されているのも嘘ですから。。恐ろしいですよね。。ブッシュ間もなく退陣。アメリカも変わって欲しいと思います。
by Zunko (2008-01-19 16:27) 

hash

ジャーナリズムの真髄を問うアル・パチーノのセリフが印象的です。
“Are You businessmen or Newsmen ?”
by hash (2008-01-19 17:17) 

たいちさん

日本のテレビは、どのチャンネルを回しても同じ内容なのが現実です。アメリカでこのような番組があるなら、日本も真似すればいいのになあ。
by たいちさん (2008-01-19 21:10) 

aranjues

興味はあったのですが、結局見ずに済んでしまいました。
是非みたいと思います。
by aranjues (2008-01-20 20:08) 

はじめまして。柚子といいます。
ご訪問ありがとうございました。
とても勉強になるブログで驚きました。
下調べをして見た方がいい映画というのがちょっと苦手なんですが
これを機会に見てみたいと思います。
by (2008-01-20 20:27) 

TaekoLovesParis

私もこれ見ていないので、さっそくDVDで見てみます。
by TaekoLovesParis (2008-01-20 20:56) 

DSilberling

non_0101さん、こんにちは。
是非何度でもご覧ください。
by DSilberling (2008-01-20 21:24) 

DSilberling

Zunkoさん、こんにちは。
そうですよね。少しでも良い方向に向かって欲しいです。
by DSilberling (2008-01-20 21:25) 

DSilberling

hashさん、こんにちは。
是非NEWSMENが増えて欲しいですね。
by DSilberling (2008-01-20 21:26) 

DSilberling

たいちさん、こんにちは。
日本は、構造が変わらないといけませんね。
by DSilberling (2008-01-20 21:26) 

DSilberling

aranjuesさん、こんにちは。
是非、見てください。
by DSilberling (2008-01-20 21:27) 

DSilberling

柚子さん、こんにちは。
映画は純粋に見ればいいんですよ。
そして、興味があればこのブログ読んでください。
映画がさらに面白くなると思います。
by DSilberling (2008-01-20 21:28) 

DSilberling

TAEKOさん、こんにちは。
是非是非ご覧ください。
by DSilberling (2008-01-20 21:28) 

けんご

『桶川ストーカー殺人事件 -遺言-』(清水潔著)を思い出しました。

この映画は未見ですが、ぜひ見てみたいと思います。
ご紹介ありがとうございます。
by けんご (2008-02-02 16:42) 

DSilberling

けんごさん、こんにちは。
是非見てください。
by DSilberling (2008-02-05 22:41) 

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