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ゾディアック [アメリカ映画(00s)]


Zodiac (2007)

セブン」のデビッド・フィンチャー監督が5年ぶりにメガホンをとったサスペンスの傑作です。

1969年、サンフランシスコの住民は、ある事件に恐怖しました。その事件とは、その後数年間に渡り発生する連続殺人事件です。この一連の事件は「ゾディアック事件」と呼ばれました。

この連続殺人犯は、自らを「ゾディアック」と名乗り、自分の犯した殺人事件をまるでゲームのように楽しんでいきました。彼は犯人にしか知ることのできない情報や暗号文を新聞社に送りつけ、それを新聞に掲載するように脅迫します。その結果、新聞紙はこの事件を大きく取り上げ、警察や記者達が翻弄させられていきます。

この事件は、世界的に有名となりクリント・イーストウッド主演の「ダーティ・ハリー」で事件が模倣されています。この映画が公開された当時、犯人はまだ捕まっておらず、警察は犯人が映画を見に来るのは確実だとして連日映画館を監視しました。

これほどまでに謎に包まれ、人々の関心を集めた連続殺人事件ですが、結局犯人は特定できず人々の記憶から忘れ去られていきました。

しかし、この事件の裏で熱心に調査をしていた人物がいました。サンフランシスコ・クロニクルという新聞社で挿絵を描いていた漫画家ロバート・グレイスミスです。彼は、事件が起こり犯人から暗号文が送られてくると、それを熱心に解読します。そしてゾディアックという犯人をじわじわと探り出していったのでした。といっても彼には捜査権もなければ記者という立場でもないわけで、一般市民が調べるにはいろいろと限界がありました。それでも彼は、できる限りの調査をしていきます。

世の中は「ゾディアック事件」に関心を示さなくなってきました。しかしグレイスミスは地道にひとりで調査を行っていったのです。その成果が「ゾディアック」という1冊の本にまとめられました。

この本は、発売時注目され、直ぐに映画化権が売られましたが、その後10年間は映画化にまで至りませんでした。事件を扱うのが難しかったのでしょう。その映画化権を新たに入手したのがプロデューサーのバンダービルトとブラッドリー・フィッシャーです。彼らはこの原作を映像化できるのは一人しかいないと思っていました。

デビッド・フィンチャー監督は、幼い頃サンフランシスコで生活をしていて「ゾディアック事件」を身近に感じていたはずです。彼はプロデューサーから持ち込まれた企画に飛びつきました。そして「切り裂きジャック」依頼の有名な連続殺人事件をテーマにするというよりも、ひとりで地道にこの事件を探ったロバート・グレイスミスに焦点を当てようと試みたのです。

映画は、徹底したリアリズムで撮影したいと監督が強く望み、それを制作陣が受け入れました。1970年前後のサンフランシスコを忠実に再現するという困難な問題をスタッフはひとつひとつクリアーしていきました。オープニングのサンフランシスコの夜景は、おそらく実際に撮影した映像にCGI処理を加えてあるはずです。観客は、この映像を何の違和感もなく受け入れるでしょう。しかしその映像は現在のサンフランシスコの景色とはかなり異なっています。そして、ストーリーが進むと、街の至る所に現在ではありえない光景が登場してくるのです。映画はストーリーが一番重要です。よってこのような細かな美術に関しては見過ごしがちですが、ほんのちょっとしか写らない看板などまで全てが70年当時の景色となっています。これにより、映画がその当時に撮影されたような不思議な感覚に陥るのです。そして主人公のグレイスミスを演じるジェイク・ギレンホールもまた徹底したリアリティを追求しています。彼の容姿は当然、演技もまるで1970年そのままです。

監督は、このリアリティに溢れる世界で起こる恐ろしい事件と、その事件に翻弄される人々の心を丁寧に描いていきます。私は、息をすることも忘れてストーリーにのめり込んでいくような気分に陥りました。

この映画、実は世界で初めてヴァイパーというフルデジタルカメラで全編撮影された歴史に残る映画でもあります。このヴァイパーというシステムは撮影時にフィルムと同等の映像データをハードディスクに取り込むことが可能です。よって、撮影後に監督とカメラマンは、編集室で「現像」を行えるのです。「現像」で、色彩設定やピンをいじることができるのです。これは通常フィルムで行っていた作業と同じです。今までのデジタルカメラでは、この「現像」ができませんでした。撮影現場で色やピンを決めてしまうので、後では画質をいじることができなかったのです。膨大な映像データを蓄積し、後で自由に画を変更できるヴァイパーを使い、フィンチャーは、時間をかけ自分の望む映像を手に入れました。

長い時間をかけ、フィンチャーは新作「ゾディアック」を完成させました。今回の作品は、映像的には映画史に残る素晴らしい作品となりました。内容的には、フィンチャーの今までの経験を活かした新しいステップに到達していると思います。ストーリーと映像が非常に高次元で融合しているのです。皆さんがご覧になってこの作品をどう感じるのかとても知りたいですが、映画業界に従事している人々にとってはとても刺激的な作品であり、非常にレベルの高い演出に驚かされる作品でもあります。

フィンチャーは、今後映画をフィルムで撮らないと宣言しています。今後はヴァイパーでの撮影を見据えているのでしょう。それほどまでに作品の空気感を大切にしたいのでしょう。そして、次回作ではおそらく「ゾディアック」とは全く違う空気を我々に見せてくれるのではないでしょうか。

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コメント 46

かおり

実際の事件を題材にしているのですね~
中身を聞いて興味が湧きましたよ♪
それとヴァイパーというシステム、フィルムとの違いが
分かるものなのでしょうか?^^
by かおり (2007-04-22 22:47) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。
映画はかなりハイレベルな完成度です。映像の違いはわかりますよ。
やはり色再現が凄いです。空気がわかります。
今年のApple NABのデモ映像にも選ばれていますね。
http://www.apple.com/finalcutstudio/action/?movie=nab
by DSilberling (2007-04-22 22:57) 

お久しぶりです。お元気でしたか?

実際の映画が題材なんだ。
ヴァイパーとは、初めてききました。読んでいて分かるような分からないような感じです。色合いが違うのかな??
by (2007-04-22 23:28) 

うっ、みたい。
ストーリーも、70年代のサンフランも魅力です。
by (2007-04-22 23:48) 

jedioki

ええっ もう観たんですか?
うらやましい・・・
by jedioki (2007-04-22 23:53) 

花火師

いいですねーみたいなー
デビット・フィンチャーと言うと、セブンは良かったなー
by 花火師 (2007-04-23 02:10) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。今回はちょっと難しかったですか?一度ご覧になってください。公開はGWあけです。
by DSilberling (2007-04-23 09:01) 

DSilberling

Ikesanこんにちは。
70年代のサンフランシスコは、CGで作っていますがまったくわからないくらいなじんでいます。これだけでも見る価値ありましたよ。
by DSilberling (2007-04-23 09:02) 

DSilberling

jediokiさん、こんにちは。
ヴァイパーの映像がどうしても見たくてワーナーの方にお願いしました。フィルムよりDVDのほうがヴァイパーの力がわかるような気がしました。
by DSilberling (2007-04-23 09:03) 

DSilberling

花火師さん、こんにちは。
私は「セブン」と同じくらい好きな作品でした。最近の数作はちょっと映像表現に傾きすぎでしたね。今回は実際にあったストーリーなので、かなりしっかりしてます。
by DSilberling (2007-04-23 09:04) 

naonao

たまにはサスペンス映画もいいですね。
観てみたいです。
by naonao (2007-04-23 14:36) 

高倉

「セブン」は凄い作品でした。
怖いんだけど、モーガン・フリーマンが渋くて
最後まで見てしまいました。
by 高倉 (2007-04-23 18:46) 

coco030705

こんばんは。
おもしろそうな映画ですね。DSilberling さんの文を読んでいると、
ぜひ見たくなります。ジェイク・ギレンホールは昨年は「ブロークバック・
マウンテン」でいい演技を見せていました。彼の演技と共に、1970年代の
サンフランシスコの空気感を感じたいと思います。
by coco030705 (2007-04-23 21:44) 

non_0101

こんばんは。この作品は先日テレビで紹介されていて
とても面白そうだなあと思っていました!
私はどうしても字幕に目が行ってしまうので細かい美術は見逃しがちです…
何度も観ていろいろ楽しみたくなりそうです。
公開が待ち遠しいです!
by non_0101 (2007-04-23 23:05) 

DSilberling

naonaoさん、こんにちは。
今回は結構お勧めですよ。
是非見てください。
by DSilberling (2007-04-23 23:19) 

DSilberling

keiさん、こんにちは。
「セブン」は本当に良くできたサスペンスでした。
今回はあのような絶望的なお話ではないので、安心して見られると思います。
by DSilberling (2007-04-23 23:20) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。
ギレンホールは、役になりきっています。その抑えた演技がとてもよかったです。
by DSilberling (2007-04-23 23:21) 

DSilberling

nonさん、こんにちは。そうですね。日本人は字幕を見なくてはならないので、映像を見落としがちですね。今回は是非「絵」に注目してください。
by DSilberling (2007-04-23 23:22) 

恐い映画ですよね・・・。苦手です。
by (2007-04-24 06:35) 

DSilberling

JJさん、こんにちは。
怖くないですよ。ホラーではありません。どちらかというとパズルを解くようなお話です。
by DSilberling (2007-04-24 08:38) 

Labyrinth

DSilberlingさん こん! (^_^)/
いつもnice!をありがとうございます。(笑)
DSilberlingさんが いつになく?熱く語っておられるので きっと凄い作品なんでしょうね!
是非とも見てみなくちゃ!と思いました (^-^)b
実は「ゾディアック」という音の響きで敬遠しそうになっておりましたのよ~ん(爆)
by Labyrinth (2007-04-24 23:30) 

DSilberling

Labyrinthさん、こんにちは。ゾディアックって怖い名前ではないんです。フランスの時計メーカーの名前でもあるんですよ。
映画、見てくださいね!
by DSilberling (2007-04-25 01:57) 

nnzpck_project21

こんばんわ!この映画は、まだ未見です。興味深そうなサスペンス映画ですね。ヴァイパー法という、新しい撮影・編集システムは、観客が映画館やDVDで観る時、通常のフィルム映像と較べて、具体的にどうのように違って見えるのでしょうか?色彩でしょうか?画面がより緻密な映像処理になっているのでしょうか?教えて頂ければありがたいですね。
by nnzpck_project21 (2007-04-25 22:19) 

DSilberling

libertyさん、こんにちは。
ヴァイパーは、基本的にフィルムと同じ画質となります。今までのデジタルカメラはフィルムの1/6から1/9しか映像データを収録できなかったのですが、ヴァイパーはFilmと同じ要領で映像を収録します。
そしてデジタルなのでCG合成と親和性が高いのです。フィルムとデジタルカメラのいいとこ取りですね。
今後映画撮影はヴァイパーで撮影しDIでマスタリングするのがす単ダートとなっていきます。その第一作目が「ゾディアック」なんです。映像だけでも見てくださいね。
by DSilberling (2007-04-25 22:51) 

nnzpck_project21

こんばんわ!御回答ありがとうございます。なるほどー。テクニカルな撮影技術も、日進月歩なんですね。スピルバーグも、フルに取り入れるタイプでしょう!きっと!「ゾディアック」は、必須チェック映画として、近々レンタル屋で探してみます。
by nnzpck_project21 (2007-04-26 21:44) 

DSilberling

映画はこれから劇場公開ですよ。
是非、映画館でみてみてくださいね。
by DSilberling (2007-04-27 03:14) 

kenta-ok

デビット・フィンチャーといえば、雨、雨、雨。
by kenta-ok (2007-04-29 11:14) 

DSilberling

kenta-okさん、こんにちは。
今回も雨ありますよ。撮影での雨降りは大変な仕事量なんです。だから雨降りのおおい映画の現場スタッフは相当神経使うんですね。
by DSilberling (2007-04-29 13:07) 

TaekoLovesParis

ヴァイパーというデジタルカメラを使うことによって、70年代のサンフランシスコをCGI処理でつくれるのですね。↑のlibertyさんへのSilberlingさんのお答えで、処理技術が少し理解できました。
観客には、作ったとわからないほどリアルに、映像に注目しながら、ぜひ、見てみたいです。
こういうことをきいてなかったら、ストーリーとジェイク・ギレンホールの演技にだけ注目して、見終わってしまうと思いました。
by TaekoLovesParis (2007-04-29 23:08) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。
そうですね。映画というのはお客さんにわからない様々な技術が使われています。「スパイダーマン」のようにCGとわかるものから「硫黄島からの手紙」のように全くわからないCGまで様々です。
こういう視点で映画を見るのも楽しいですよ。
by DSilberling (2007-04-30 23:47) 

びっけ

70年前後のサンフランシスコを忠実に再現・・・というDSilberlingさんの紹介文に非常に興味をそそられました。
正直、『セブン』は苦手な映画だったので、この映画も敬遠していましたが、それは考え違いでしたね。
早速、観てみます!
by びっけ (2007-05-19 22:09) 

DSilberling

びっけさん、こんにちは。
サンフランシスコのCGIは、見る価値ありますよ。
by DSilberling (2007-06-01 13:25) 

Zunko

早速見に行きます・・(ケーブルTVでやってるかな~)。ご紹介有難うございます。
by Zunko (2007-06-03 01:47) 

かめ

はじめまして、
アリゾナから来ました。
製作側のディーテールへのこだわりは、伝わってきました。
但し、やはり事件の報道を実体験したかどうかで、受け入れ方が違ってくると思います。
自分は、この作品で初めて事件を知ったので、やはりバックボーンが弱すぎました。
by かめ (2007-06-17 11:15) 

DSilberling

Zunkoさん、こんにちは。
日本でも公開始まりましたね。
是非、映画館で見てください。
by DSilberling (2007-06-17 21:24) 

DSilberling

かめさん、こんにちは。
私もこの事件は生まれる前の事件ですのでリアリティについては本当はわかりません。でもサンフランシスコには良く行くので、時代差は実感できました。映画は、観客に完全に伝わらないところまで細かく作られているんですね。
by DSilberling (2007-06-17 21:26) 

はじめまして!
先日はナイス!ありがとうございました。
「ゾディアック」観て来ました。
サスペンス好き、ましてや「セブン」大好きだったので、期待どおり面白かったです!私のツボでした。もう一度映画館で観たいぐらいです。
by (2007-06-21 15:06) 

DSilberling

しろくま子さん、こんにちは。
「ゾディアック」なかなかの力作でしたね。
私も映画館でもう一度みたいです。
by DSilberling (2007-06-24 03:17) 

まなてぃ

DSilberlingさん こんにちは。Niceありがとうございました。
私は、この映画は、初めの刑事、警察の捜査こそ真剣に字幕を
追って事件を追って、のめりこんでみていたのですが、
風刺イラストレーターが捜査を始めたころには、
集中力が切れてしまったのと、似たような事実に飽きてしまい
しんどさを感じた映画でした。ゾディアックの謎に興味がもてるかが、
この映画を好きになるか、嫌いにするかに分けるような
気がしましたね。(^^)
by まなてぃ (2007-06-24 13:59) 

DSilberling

まなてぃさん、こんにちは。
この映画は事実を映像化しているので、フィクションの映画として見ると飽きてしまうかもしれませんね。でも、フィンチャーの映像美と編集はとてもクオリティが高く、よくぞここまでリサーチしたなあと感心しっぱなしでした。
by DSilberling (2007-06-24 14:31) 

初めまして!
DSilberlingの記事の書き方は凄く勉強になりますね。
つたない私の記事にniceいただきまして、ありがとうございます。
「セブン」を見終わった時に面白かったけれど落ち込んだので、
「ゾディアック」はDVDで見ようかなと思っていましたがコメントを読んで、やはり映画館で見る事にします!
by (2007-06-28 19:28) 

hana

昨日映画館で観て何だか頭から離れなくて、もう一度観たいなと思ってます。今度は映像も気にしながら観たいですね。
by hana (2007-06-28 23:07) 

バラサ☆バラサ

DSilberlingさん

niceありがとうございます。お返ししますね。

記事中の撮影時のネタとか裏話、素晴らしいです。
by バラサ☆バラサ (2007-07-04 21:04) 

DSilberling

capekさん、こんにちは。
映画は、人によって見方がかなり異なるので、この映画に関しても様々な見方があると思いますが、「映画」としては非常にクオリティが高い作品です。これからもよろしくお願いいたします。
by DSilberling (2007-07-04 22:29) 

DSilberling

hanaさん、こんにちは。
私もこの作品は何度も見たいです。
by DSilberling (2007-07-04 22:30) 

DSilberling

バラサ☆バラサさん、こんにちは。
これからもよろしくお願いいたします。
by DSilberling (2007-07-04 22:30) 

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