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ラストキング・オブ・スコットランド [アメリカ映画(00s)]


The Last King of Scotland

ウガンダの大統領で独裁政権を引いたイディ・アミンの半生を、彼の専属医師であるスコットランド人からみた同名小説の映画化。
アミンを演じたフォレスト・ウティカーは第64回ゴールデングローブ賞第79回アカデミー賞などおおくの映画賞で主演男優賞を受賞しました。

イギリスのジャーナリスト、ジャイル・フォーデンが1988年に発表した「ラストキング・オブ・スコットランド」(邦題は「スコットランドの黒い王様」)は、世間に衝撃を与えました。ニュースでは報道されてイメージだけは知られていた「人食い大統領」と呼ばれたアミン本人のキャラクターが詳しく書かれていたからです。この小説により、初めて彼が犯した恐ろしいまでの粛正や悪政が世に知られるようになりました。
しかし、この小説は、全てがノンフィクションではありません。全体の流れや歴史的事実は本当にあった出来事ですが、主人公のスコットランド人ニコラス・ギャリガンという人物は実在せず架空のキャラクターです。この部分が事実とは異なります。

主人公ギャリガンは、ウガンダで僻地医療に携わるため、スコットランドからやってきますが、ある事件がきっかけとなり、当時クーデターで大統領に就任したアミンのお気に入りとなります。そして、僻地から首都に招待され、その後大統領付の医者としてアミンと行動を共にします。その過程でギャリガンはアミンの没落をつぶさに目撃することになります。理想を持った新しいリーダーとして人々に指示されたアミンは大統領就任直後から悪政を行い、数十万人という国民を虐殺します。そして信用できなくなった側近も次々に暗殺してしまいます。ギャリガンも、その政治に翻弄されていくのでした。

フォーデンは、実際にアミンが大統領だった時代から、何度もウガンダを訪れ、綿密な取材を行ったようです。彼は、様々な新聞や雑誌にウガンダの惨劇を書き、世界に情報を発信してきました。そして、その集大成としてこの小説を書き上げたのです。

発刊にあたり、フォールデンは、架空の人物である主人公ギャリガンのモデルが実在することをインタビューで語っています。モデルはボブ・アストルスというアミンの側近で、ウガンダの軍部に在籍した若いイギリス人だそうです。彼は、小説の主人公よりもアクティブで、アミン政権に関わっていたようですが、彼もアミンからは拷問を受けた経験があるそうです。アミン政権崩壊後は、刑務所に長い間収監されてしまいました。アストルスは、1985年に祖国イギリスに戻り静かに生活を送っています。

この小説を映画化しようと動いたのは、スコットランド人のケビン・マクドナルドでした。彼は、原作をできるだけ忠実に映像化することを望んだのです。この企画自体は、イギリス内でも話題になり比較的スムーズに出資が決まりました。DNA Filmが制作の中心となりFilm FourやアメリカのFoxなどが賛同し撮影は開始されたのです。アミン役にはこれまでも演技で定評のあるフォレスト・ウティカーが抜擢されました。

完成した映画は、Fox Searchlightという20世紀フォックス参加のアート系配給会社により2006年9月にアメリカの少数の劇場で封切られました。そして2007年にイギリスをはじめ世界中で公開されました。どの国でも限られたスクリーンでの上映でしたが、作品は大絶賛されます。そして徐々に公開劇場が増えていきました。

その結果、世界中の映画賞にノミネートされ、様々な賞を受賞する2006年度を代表する名作となっていったのです。

ひとりの人間が理想を掲げ、ある地域のリーダーとして民を率いますが、次第に私欲のために国や都市を利用し始め、おおくの民が辛い目に遭うという図式は、長い歴史上何回も繰り返されてきました。ここ日本でも、アミンのような大虐殺はないにしても同様なことが起こってきましたし、現在もおこっているのです。この映画を通して、人は何故私欲に走るのかがかいま見えたような気がしました。

映画としても優れていて、ずっしりと重いテーマが含まれている名作です。


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コメント 24

かおり

アミンを演じたフォレスト・ウティカーが
現地の人々に「ホンモノだと思われた」と言うような話題で
この作品のことを耳にしました
この手の歴史モノはちょっと重いですが興味はありますね
確かに歴史は繰り返していますね~
by かおり (2007-03-23 20:20) 

coco030705

こんばんは。
先日ワイドショーで、アミンとホレスト・ウティカーの写真を比べていましたが、ほんとうにそっくりでした。ウティカーはアミンのしぐさやものの言い方まで真似ていたそうですね。役者というのはすごいと思います。
人間の心の闇の部分を描き出した映画なのですね。アミンだけではなく、
ヒットラーにしろ、権力を持った人間の怖さは底知れないですね。
by coco030705 (2007-03-23 21:50) 

興味津々。
誰でも権力などを持つと私利私欲に走りますね・・・歴史がよく示しています。
この映画を見るとなおさら分かるのでしょう。
by (2007-03-23 22:20) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。
ウティカーは、本当にアミンに似ていました。
あまり知らない歴史を知るのも映画の醍醐味ですね。
by DSilberling (2007-03-23 23:20) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。
こういったちょっと真面目な映画も「映画」なんです。ヒットラーを題材にした作品も見応えありますよね。
by DSilberling (2007-03-23 23:21) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。
こういう映画は政治家にも見てもらいたいものですね。
by DSilberling (2007-03-23 23:22) 

花火師

これは実は見ていないのですが・・・
文章を読んでみて、非常に興味を持ちました。
ちょっと借りてこようかな?
by 花火師 (2007-03-23 23:46) 

DSilberling

花火師さん、こんにちは。
この映画、現在公開中です。映画館でどうぞ。
by DSilberling (2007-03-24 00:22) 

あいあい

こんばんは。
この映画は見たいと思ってました。
もう、公開してるんですね。

来週あたり、見に行ってきます♪
by あいあい (2007-03-24 19:11) 

DSilberling

あいあいさん、あまりおおくのスクリーンで上映していませんのでチェックしてから映画館に行ってください。
by DSilberling (2007-03-24 20:00) 

たいちさん

この映画は是非観たいと思っています。そっくりさんが、どの程度かも確かめたいですね。
by たいちさん (2007-03-24 23:32) 

Labyrinth

DSilberlingさん またまたおじゃまします。
これは私の守備範囲外の作品かな~(笑)なんて思っていましたが
原作についてのお話しに惹かれまして見てみたくなりましたよ!
フォレスト・ウティカーは、気心の優しい役専門と勝手な思い込みがありましたので、この作品を知ったときに 意外!と思ったりしました(笑)
by Labyrinth (2007-03-24 23:48) 

DSilberling

たいちさん、こんにちは。
こういう地味な映画もたまにはいいですよ。
by DSilberling (2007-03-25 01:31) 

DSilberling

Labyrinthさん、こんにちは。
映画はエンターテイメントだけじゃないんです。こういう社会派の作品も見始めるとはまりますよ。
by DSilberling (2007-03-25 01:32) 

TaekoLovesParis

社会派映画は見るだけで、てっとり早く世の中がわかるので、なるべく
みるようにしています。「シリアナ」も以前、Sileberlingさんがこのサイトで
ご紹介なさっていたので見ました。とてもいい映画でした。これもよさそうですね。ぜひ見ないと。
by TaekoLovesParis (2007-03-25 16:09) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。
そうですね。日本で普通に生きていると見過ごしてしまう歴史的な真実を映画で知るのもいい機会ですね。
by DSilberling (2007-03-25 20:45) 

nnzpck_project21

こんばんわ!古くてすみませんが、ウイティカーは、名作『クライング・ゲーム』で、非常にいい演技をしていました。ぜひ、封切り中の、この映画を観てみたいですね。人間が権力を持つと、どれだけ性格が極端に変貌するかの一例だと思います。市民が、権力に監視されるのではなく、権力こそが、市民に監視され、批判され、評価されるべきです。それが、民主主義でしょう。我々の住む日本という国は、どうでしょうか?個人のプライバシーまでが、権力に干渉されることもありますし、市民の側に立つべきジャーナリズムが、権力を正確にワッチせず、商業主義に極めて深く振り回されている現状は、はたして正常でしょうか?メディアの責任は、とてつもなく重いと思います。また、遊びにきまーす!
by nnzpck_project21 (2007-03-25 21:09) 

DSilberling

libertyさん、コメントありがとうございます。
その通りですね。この映画の意図は、そこにあるのではないでしょうか。こういう映画が注目されるだけでも世の中は変わっていくんですね。
by DSilberling (2007-03-25 22:45) 

らいみ

おじゃまします。
とてもていねいに解説されていて、参考になりました。
原作本? も読んでみたいと思います。
by らいみ (2007-03-27 23:30) 

DSilberling

らいみさん、こんにちは。
原作は映画と異なるところがいくつかあります。映画同様、当時のアミン大統領のことがわかり怖くなります。
by DSilberling (2007-03-28 06:40) 

フォレスト・ウティカーは本当下積みの長い人ですよね♪
この人の演技って最初は歪だな~なんて思っていましたが、磨きがかかってきて独自なあの肩を斜めにして顔を微妙に半分ゆがめるしぐさが僕には印象的です。
バードから彼の存在を知り、その後僕の好きな映画には何故か主演してます。フェノミナンやスモークに!特にスモークでの彼の演技は良かった~~
この映画も独特な色出してて是非見てみたいです!!
by (2007-03-28 11:49) 

DSilberling

mamipat2001さん、こんにちは。
「スモーク」のウティカーも良かったですね。私の好きな映画です。
彼は脇役が光っていますが、映画の中心でも十分やっていける俳優ですね。アカデミー賞を受賞するのは当然ですね。
by DSilberling (2007-03-28 20:01) 

naonao

先日観てきました。DSilberlingさんのレビューを読んでこの映画観たいなあと思ってたら劇場招待券を翌日に頂きました。観れて良かったです。ウティカーの演技はやはり男優賞総なめにするだけのことはあると思いました。アミンの人物像がかなり浮き彫りにされた気がします。
by naonao (2007-03-30 17:27) 

DSilberling

naonaoさん、こんにちは。
こういう一見地味な映画も見てみるといろいろ考えさせられますね。
私のブログが参考になって嬉しいです。
by DSilberling (2007-03-30 22:39) 

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