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カーズ [アメリカ映画(00s)]


CARS (2006)

ピクサーが制作した、車を擬人化して描く3DCGアニメです。

1999年「トイ・ストーリー2」が完成し、次回作をどんなアニメにしようか悩んでいたジョン・ラセター監督は、スタッフを集めます。
そこで、共同監督のジョー・ランフト達と次回作に向けたブレインストーミングを行いました。ラセターは、大好きな車をテーマにした映画ができないか提案しました。ただ、ストーリーはまったく見えていませんでした。

リサーチを進めるうちに、スタッフは、マイケル・ウォリスと出会います。彼は、「ルート66」に関する書籍を執筆している作家です。ウィリスがルート66についての話をしたところ、ラセターは心を動かされました。そして、映画の舞台をルート66にしようと考えました。

まずは、ウィリスをガイドにして、スタッフ皆で、ルート66を実際に走ってみることになったのです。

ルート66という道路をご存じでしょうか?
この道は、1926年に作られた国道で、イリノイ州シカゴとカリフォルニア州サンタモニカを結んでいました。交通の中心地であるシカゴから西海岸の主要都市であるロサンゼルスを結ぶ道ということで、当時は、この道はアメリカの主要道という位置づけとなり、交通量は増え続けました。しかし、1985年にインターステート・ハイウェイが整備され、主役は高速道路に移り、ルート66は廃線となってしまいます。
新しくできた高速道路は、主要都市を直線で結びます。よって、ルート66にあったおおくの街が寂れていきました。そして住人は、商売ができなくなり街を去っていったのです。

ジョン・スタインベックは、著書「怒りの葡萄」のなかで、ルート66を「マザー・ロード」と呼び、他にも「メイン・ストリート・オブ・アメリカ」などと呼ばれていたルート66。ジャズでも歌われ、ポップカルチャーにもおおく登場したルート66。皆に愛されたこの道は、85年以降、忘れ去られていきました。

しかし、1990年、アリゾナ州のルート66沿いに住む住人達は、旧道を歴史的街道にしようと運動を起こします。そしてまずはアリゾナ州が、旧道をHistoric Route 66とし、他州も追随することで、現在は観光道路として蘇っています。

ラセターは、シナハン(シナリオ・ハンティング)で、実際にルート66を旅することで作品のイメージを掴むことができました。主人公は、レーシングカーです。常に前を向き人生をレースのように速く生きています。しかし、あるアクシデントが起こり、ルート66に迷い込むのです。そこで、レーシングカーは、自分とは全く違う価値観の人々とふれあっていきます。スタッフが、シナハンで知り合ったルート66に住む住人達は、作品に反映されていきます。

ラセターは、「モンスターズ・インク」「ファインディング・ニモ」などのプロデューサーをこなしながら、この映画のストーリーを作っていきました。そしてタイトルを「カーズ(車達)」としました。

私も、先日「ルート66」を車で走ってきました。かつての主要道であったルート66は、現在は高速道路の隣を走っています。しかし、そこを走る車はほとんどありませんでした。道には「ROUTE 66」とマークが残っていますが、ほとんどの旅行者は、そんな道を見向きもせず、隣の高速道路を飛ばして走り去っていきます。そんな旧道をのんびり走ると、様々なものに出会い、住人と触れ合うことができるのです。40年代から60年代の古き良きアメリカの景色を残した街が現れるのです。そこには、昔ながらの人情深い人々が今も暮らしています。ダイナーでは、パンケーキとコーヒーを提供しています。ガソリンスタンドでは、街の人々が集まって何やら盛り上がっているのです。私は、その時代を生きていませんが、なんだかタイムスリップしてしまったような錯覚をうけました。確かに、東京で時間に終われながら生きていると、こういう街に迷い込み、人生とは何なのかを考えさせられました。
実は、映画の主人公マックイーンは我々自身なのではないでしょうか。きっとルート66を走ると誰もがこの映画でラセターが何を訴えたかったのかがわかると思います。

話を戻しましょう。ストーリーが完成すると、ピクサーのスタッフはキャラクターデザインを行い、コンピュータで作画を始めました。これには4年ほどかかりました。スタッフは映像のクオリティを上げるために新しいソフトを開発し、車のボディの反射などレンダリングも行っていったのです。ピクサーは映画制作において技術を第一にしない会社です。まずは、ストーリーとキャラクター設定を大事にします。そして、それに見合う美しいコンピュータグラフィックスを制作していくのです。

私は、2004年にピクサーを訪れた際、この映画を制作していました。スタッフは少しでも映画を良くしようとがんばっていました。音響チームは世界中のサーキットを回り、様々な音を録音していました。
このような地味な作業がやっと終了したのは、2006年の3月です。そして6月に全米公開されました。

近年、ピクサー以外にもほとんどの映画スタジオが、CGアニメに参戦してきました。これにより、もはやCGアニメというだけでは映画はヒットしなくなっています。そして、今回はピクサーとディズニーが合併するというニュースもあり、世界中が新生ピクサーの作品の動向を気にしていた時期でした。

映画は、大ヒットします。そして続いて公開されたアメリカ以外の地域でもヒットしていきました。
日本では、ラセターと交友関係のあるスタジオ・ジブリの新作と公開が重なってしまい、結果客を奪われたかたちになってしまったのは残念でした。しかし、映画の完成度は、ジブリよりも遙かに優れていました。

日本人には、車が擬人化するという違和感やストーリーがわかりにくいという指摘がありましたが、これは地域差なので仕方がないでしょう。
私は、車が好きで、ルート66を実際に走ってきたので、この映画をとても気に入っています。

この映画をあらためて観ると、非常に私的な映画に感じました。これは、ラスター監督自身のお話なのではないか、と強く思わされました。彼は、ピクサーを起こし、成功しました。しかし、その裏では多忙を極め、自分らしさが失われていたのではないでしょうか。たまたま新企画を模索する中で、ルート66の住人達に出会い、人生で何が一番大事なのかを悟ったのでしょう。映画「カーズ」の中には、その気持ちが強くあらわれているように思います。

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ラセターさん、ありがとう


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コメント 18

Plus-ic76

おもわず一気に読んでしまいました。ラセター氏の想いがそのまま伝わってくるような、そんな文面に感動してしまいました。
by Plus-ic76 (2006-11-18 22:29) 

車を擬人化した映画なので分かりにくい・・・
ルート66を走った人でないと理解できないのかもしれませんね。
でも文面で映画で何を訴えているのか、ひとコマを垣間見た気分。
by (2006-11-18 22:46) 

かおり

昨日、レンタルショップで「カーズ」はまた今度・・・って置いてきました^^
ルート66が舞台なんですね?
次回はぜひ借りてきましょう♪
先日の1週間の旅の余韻が伝わってきましたよ(笑)いい旅でしたね
by かおり (2006-11-18 23:02) 

Naka

忘れかけている大切なものを取り戻させてくれるような、
心に残る作品でした。
ここまでストーリーがしっかりしていると、
CGが最大限に生きてくるのだな、と感心しました。
by Naka (2006-11-19 00:39) 

Labyrinth

大好きな作品なので、思わずTBさせて頂いちゃいました。^^;
宜しくお願い致します。
こんなに詳しく解説して頂けると、なんか妙に嬉しい♪
出来ることなら、σ(^_^;)もルート66を走って体感したいです~!
by Labyrinth (2006-11-19 01:11) 

堀越ヨッシー

この映画を見て、やっぱりピクサー作品は、ジョン・ラセター監督のものが一番面白いなーと再認識しました。吹き替え愛好家としては、「バグズ・ライフ」と並んで良い出来だったのも嬉しい点でした。
車は確かに擬人化されてましたが、それも必要最小限に抑えられてたのが好感を持てました。ランディ・ニューマンの音楽や挿入歌も良かったですね。オイラはサントラを毎日聴いてます!(苦笑)。新作の「ラタトゥーユ」も楽しみです♪。
by 堀越ヨッシー (2006-11-19 08:18) 

DSilberling

Plus-ic76 さん、こんにちは。
読んでいただき嬉しいです。これからも宜しくお願いします。
by DSilberling (2006-11-19 09:28) 

DSilberling

nekoさん、車の擬人化は、ちょっと無理があるのかもしれません。
このあたり、もう少し解決方法があったかも.....
by DSilberling (2006-11-19 09:29) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。私は、メインストーリーよりもルート66のストーリーが好きです。是非観てください。
by DSilberling (2006-11-19 09:30) 

DSilberling

Naka さん、そうですね。映画はストーリーが一番大事なんですね。何年か経つと映像技術は古くなるものです。それでも名作として歴史に残る映画はストーリーが良いんですね。
さて、「カーズ」は歴史に残る映画になれるでしょうか。
by DSilberling (2006-11-19 09:32) 

DSilberling

rabyrinth さん、こんにちは。
映画を観てから「ルート66」を訪ねると、楽しいですよ。あの風景を観ることができます。
これからも宜しくお願いします。
by DSilberling (2006-11-19 09:33) 

DSilberling

堀越ヨッシーさん、こんにちは。
ピクサーは、ディズニーの一員となって、今後作品数が増えると思います。クオリティは維持して欲しいですね。ラセターはディズニーランドのライドの責任者にもなりました。こちらも期待したいです。
by DSilberling (2006-11-19 09:36) 

たあきよ

はじめまして!この度は訪問して頂きありがとうございました。
『カーズ』は、ピクサー映画も大好きで&F1レーサーのミハエル・シューマッハ選手が声優で出演しているということで、映画館に観に行こうと思ってたのですが、字幕版の上映時間が合わず観れなかったのでDVD絶対に買おうって思ってました。
まだ買ってないのですが・・・、こんなに長い年月を費やして制作された魂の込められた作品だと知れて、これから観るのがとても楽しみです!!!
by たあきよ (2006-11-20 00:32) 

DSilberling

たあきよ さん、こんにちは。
映画にはシューマッハだけでなく、トム・ハンクスなども参加しています。
最後までよーく観てください。
by DSilberling (2006-11-20 01:31) 

naonao

私もこのかわいいカーズ試写会で見ました。
どうせ子供の映画と高をくくっていたのですが、画質も音声も上質で感動作でした。「のんびり行くのも悪くない」とある種、人生観まで織りこみ素晴らしかった!それにスティーブマクィーンやロックハドソンを思い出させる名前やら、ポールニューマンの声も聴けて。トムハンクスまで声あててたのですか?知らなかった。残念!!
by naonao (2006-11-20 22:37) 

DSilberling

naonaoさん、こんにちは。
ピクサーは、大人でも十分に楽しめるように作品を作っていますね。
次回作、楽しみです。
by DSilberling (2006-11-21 00:15) 

ジジョ

ピクサーの映画で初めて涙しました。。 大人に染みますね。
初めは「車、、」と思いましたが、まったく違和感なかったデス。
ピクサーもディズニーも「動くとカワイイ」のは、凄いな〜と思います。
次回作のWall-Eってどんなだろ? 楽しみデス。
by ジジョ (2006-11-23 02:53) 

DSilberling

ジョジョさん、こんにちは。
カーズは、大人の男性に好評なようです。
現在ピクサーは複数作の制作に入っています。
今後のラインナップが楽しみですね。
by DSilberling (2006-11-23 15:49) 

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