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SAYURI [アメリカ映画(00s)]


Memorirs of a Gaisha (2005)

アメリカ人が描いた日本人にも必見の芸者の世界。

1997年にアーサー・ゴールデンが、書いた「Memories of a Gaisha」は、発売されるや400万部を超えるベストセラーになりました。「グラデュエーター」のプロデューサーであるダグラス・ウィックは、すぐに映画化権を得、スティーブン・スピルバーグに監督をオファーしました。当時、このニュースはセンセーショナルで、スピルバーグが遂に自身の好きな「日本」を撮るということで、世界中の話題となりました。

しかし、話はそう簡単には進みません。実際に映画化すべくプロデューサーが動き出すと様々な困難があることがわかってきました。ひとつは、キャスティングです。何度も日本に飛び主人公の「さゆり」に合う女優を捜し求めたのですが、なかなか適任者があらわれませんでした。アメリカでメジャー公開するために必要なのは容姿と演技力だけではなく英語力も必要だったのです。残念ながら、英語力を兼ね備えた「さゆり」役は日本では見つかりませんでした。そして撮影許可に関してもなかなか許可が下りず時間がかかってしまいます。そうしているうちにスピルバーグは別作品にスケジュールをとられてしまいます。スピルバーグは、監督ができる時間が物理的になくプロデューサーという立場でこの作品に携わるようになります。

監督には「シカゴ」でアカデミー賞を取ったロブ・マーシャルが適任と考えたプロデューサーは、彼にオファーを試みます。しかし、マーシャルからはなかなか良い返答が帰ってきませんでした。マーシャルは、自分が本当にこの作品に向いているのか悩んでいたようです。しかし、原作を何度も読み、作品に参加する決意をします。彼なりの原作に関する解釈が見いだせたのです。この映画は、日本だけに限った話ではなく世界中の女性にも起こりえるストーリーである、と。

マーシャルは芸者を「アーティスト」ととらえます。そして、長年のパートナーである振り付け師のジョン・デルーカを呼びます。芸者の美しい踊りと真剣に向き合うためです。デルーカは、日本に行き、日本舞踊について勉強します。数々のミュージカルを手がけてきたデルーカは、日本舞踊が西洋のダンスと真逆である事に打ちのめさせられます。しかし、彼は日本の文化を学び、日本の伝統芸の美しさや所作を学び取ります。そして、ルールを守りつつ、大胆にアレンジを加えた新しい「舞踊」を完成させました。

プロダクション・マネージャーのジョン・マイヤーは、脚本にある、30年代の日本を求め、日本各地を旅します。しかし、現在の日本は、開発が進んでしまい、当時の面影は見つかりませんでした。そこで神社など一部を除き、セットでの撮影を決めます。これには、日本の撮影に対する非協力的な問題も立ちふさがっていました。マイヤーは、調べられるだけ日本の建築を学び、広大なセットをロサンゼルス郊外に建築します。ここは、まるで30年代の花街。日本人が見ても違和感のない見事なセットが建築されました。しかし、ロサンゼルスは太陽がいつも輝いている街です。曇空のおおい日本とは光の量が違います。そこで、広大なセットはシルクの屋根で覆われました。光を遮る事で日本の光を実現しているのです。

衣装は、当時の着物がそれほど残っていなかったので、コレン・アトウッドが作りました。作るといっても日本の着物文化を習得しなければなりません。衣装チームは、何年もかけて日本で様々な文献を紐解き、素材や染色の技術を学びます。そして、見事に着物を再現していきます。着物は何重にも重ねて着るものですので、画面には映らない内側まで制作しています。

数回にわたるキャスティングで、「さゆり」役を見つけられなかったスタッフは、日本人をあきらめアジア人であるチャン・ツィーを選びます。彼女なら、見かけと演技は完璧で、英語も話せます。そして、さゆりを育てる豆葉役にミシェル・ヨー、さゆりと反目する初桃役にコン・リーと日本人以外がキャスティングされました。このように主要な配役は、日本人が選ばれませんでした。そんな中、桃井かおりと工藤貴が、がんばって良い役を獲得しています。さゆりとかかわる男性には全員日本人がキャスティングされました。中でも渡辺謙と役所広司は見事な演技と英語力でこの映画を高めています。

キャスティングに関して、私はリアルタイムで見ていたのですが、やはり日本の芸能界は他国と比べると特殊だなあと感じました。欧米では、演技力や歌唱力があるのは最低レベルで、その上にさらなる魅力があって初めてスターダムにのし上がれます。そして、芸能界の底辺には、いつかは夢をつかもうとする下積をする若者が沢山いるのです。よって、ブロードウェイで東洋人キャスティングが白人に取られると、アジア人俳優はデモ行進をするくらいどん欲です。それにひきかえ、日本ではうまくもない歌を歌い、下手な演技で我が侭を言うタレントがなんとおおいことか!この一連のキャスティングでは、日本人女優は要がないと思われてしまったのです。たったひとりでも「さゆり」役の女優があらわれなかった事がとても残念です。いつの日か、世界に誇れる女優が日本でも誕生する事を願わないでいられません。

話を戻します。撮影現場は、4カ国語が飛び交う複雑な場所となりました。しかしマーシャルは冷静に演出していきます。彼はもともとブロードウェイのダンサーでした。よって、舞台のアプローチで綿密な演出をしていったのでした。十分な準備があったおかげで、現場は問題も起こらず撮影は終わりました。

芸者の世界を初めて描いた「SAYURI」は、世界的に好意をもって受け入れられました。そして日本でも、若者を中心に話題となりました。しかし、日本国内では、「日本人が演じていない」とか「日本人が見ると変」という否定的な意見も見受けられ大ヒットはしませんでした。果たしてそうでしょうか。スタッフは、膨大な勉強をして撮影時には我々日本人より遥かに日本文化に精通しています。そして、意図的に日本を演出しているのです。これは日本を理解していないわけではありません。そして、日本人が演じていないのは上記のような理由があったからです。

映画はアカデミー賞6部門にノミネートされ、アートディレクション、撮影、衣装で受賞しました。そして、「芸者=娼婦」という間違った世界的固定概念を打ち破ったという意味においても日本文化に貢献した映画となりました。

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コメント 22

★由佳★

やったぁ♪一番乗り~!
この前、本屋で英語の『さゆり』見つけましたょぉ^^
でも、全然分かりませんでした^^;
by ★由佳★ (2006-07-23 20:57) 

SAYURIの背景に、日本の芸能界のレベルの低さが・・・
確かにそうですね。日本の芸能界は独特の方向。そのため主演の芸能人がいなくなってしまう。虚しい。
日本人が演じなかったからもしかしてよい作品になったのかも・・・
by (2006-07-23 22:12) 

DSilberling

由佳さん、こんにちは。本は、映画よりさらにしっかりとした内容ですよ。
by DSilberling (2006-07-23 23:36) 

DSilberling

nekoさん、そうですね。まあ、我々観客も、ちゃんとエンターテイメントを見る眼を養わななけらばいけません。人気だけで映画を見に行くのではなく、本当に素晴らしい作品を見極めるべきですね。某男性グループが出てれば映画がヒットするというのは、観客にも問題があるんですね。
by DSilberling (2006-07-23 23:38) 

TaekoLovesParis

1999年にアメリカの友達の所へ行ったとき、「すごくおもしろい、この本知ってる?」と見せてくれたとき、SAYURI、吉永小百合の自叙伝かと思ったけど、「geisya」と言われ、違うと気付きました。
封切られてすぐ映画館に見に行ったら、吹き替えでした。時間によって、
原語上映と吹き替えが分かれていたのです。

<広大なセットはシルクの屋根で覆われました。光を遮る>
いつも夕方の光のようにグレイっぽくて、変だなぁと感じていたのです。
こういうわけだったのですね。

コン・リーが鬼気迫る演技ですごいから、観客は、サユリに同情して
しまいますよね。着物をおいらん風に着てけだるく立つ姿のコン・リーは
色っぽくて見とれてしまいました。ミッシェルヨーもサユリも着物姿、踊り、
所作に違和感がなく、これじゃ日本人が選ばれないはず、と納得してしまいました。だって、あれだけの量の英語せりふをこなさなければならないんですから。

違和感があったのは、最初、サユリの子供時代のシーン、いなかの道を
走るんだけど、日本の田舎にはああいう街路樹はない、、って思いました。

シカゴで成功したロブ・マーシャルというふれこみにふさわしく、エンタテイメント
性の高い大作で見応えがありました。衣装が華やかで、サユリはかわいかった。桃井かおりの英語、聞きたかったのに、、、あの独特の話っぷりを英語で
どう表現するのかなと。

俳優なのに、演技力よりも、ルックスばかりが評価されることに問題がある
んですよね。だから演技のうまい人は舞台俳優になる傾向があるような。。
by TaekoLovesParis (2006-07-24 01:15) 

のりんこ

日本の芸能界は、作られた人気ですよね。
某五人組が主役やれば数字が上がるとか、
某アイドルグループが吹き替えをやると、観客動員数が多いとか。
そのお陰で、良い作品の筈が最後迄観る事が出来なかったりします。
悲しい日本芸能界事情って事ですね。。。
by のりんこ (2006-07-24 02:01) 

maron02

奥が深いですね!
いい俳優はテレビの人気番組やドラマよりも舞台へ行っている気がしますね!
TVで見ないから人気がないイコール演技が下手だの思われる傾向があるような・・・
「SAYURI」は日本人より本当の日本を追求・理解して作品を作り上げているから
こその作品となったんでしょうね^^
by maron02 (2006-07-24 08:31) 

かおり

こうして作品の成り立ちを教えていただくと
ゼヒ見たくなりました!
私もどちらかというとガイジンの作った似非日本映画という印象が強く
どちらかというと嘗めていました
「ラストサムライ」がそれまでのものにくらべて比較的出来はよかったものの
やはり心から共感するには 突っ込みどころが多かったので
最初から「SAYURI」に関してはパスでした
ただ、数少ない日本の女優、桃井かおりは観たかったんですが♪
とても勉強になりました
ありがとうございます^^
by かおり (2006-07-24 08:51) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。桃井かおりは、かなりがんばっていましたよ。ただ、やはり長い英語は難しかったようで、センテンスはいつも短かったです。でも、あれだけ重要な役を演じるにはかなりのプレッシャーがあったのでしょう。日本での完成披露では、日本語が使えるからとかなり饒舌でした。
by DSilberling (2006-07-24 09:59) 

DSilberling

のりんこさん、こんにちは。
そうですね、そろそろ本物のエンターテイメントを選ぶ眼を持たなければならないですね。
by DSilberling (2006-07-24 10:01) 

DSilberling

まろんさん。こんにちは。確かに舞台俳優はしっかりとした演技力を持つ人がおおいですね。テレビドラマだと、とりあえず脇役でキャスティングされていますが、むしろ脇役のほうが立ってしまう事がよくありますね。
アメリカ人は最高を目指すため、国籍や人種を問わないんですね。日本人もがんばらねば。
by DSilberling (2006-07-24 10:04) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。
「日本」は、3つの側面を持っていると思います。1つは、日本人が思う「日本」、1つは外国人が見る「日本」、そして本当の「日本」です。
外国人が描いた日本をおかしいと思う事がありますが、実は本当の日本を日本人が受け入れていない場合もありますね。
このあたりは、また別の機会にお話ししますね。
by DSilberling (2006-07-24 10:07) 

みかまん

実は私も原作は面白い、よく書かれているなと感じたのですが、映画に関してはどちらかと言えば否定的でした。桃井かおり、役所広司はいいなと思ったのですが..でもこういう風にバックグラウンドを説明して貰って少し感じかたも変わりました^^
by みかまん (2006-07-24 14:54) 

DSilberling

みかまんさん、こんにちは。
映画は個人のバックグラウンドや見るタイミングで印象が変わるものです。
だから、否定的に感じられることもあるでしょう。
私は、映画を別の角度から見て頂き、さらなるおもしろさをお伝えできれば、と思っております。
ちょっとでも感じ方が変わってもらえたようでうれしいです。
by DSilberling (2006-07-24 19:10) 

★由佳★

そぅなんですヵぁ☆彡
でも、英語だとやっぱり読めないヵら悲しいです…。
日本語バージョンあったら探して見ます(`・д・)ゝ
by ★由佳★ (2006-07-24 20:03) 

クロロ

ずいぶん前ですが、ある番組で「日本人には全然判らないけれど、六本木あたりでむこうとこっちからイラン人とイラク人がすれ違おうとするときに、判るんですってお互いに“この人はイラン人じゃない”とか“イラク人じゃない”とかが」という人がいました
私もオーストラリアで似たような経験をしたことがあります
微妙な違和感というのは、どこかしらに出るのだと思います
世界に目を向けるとなると確かに日本人にとって、英語は大変ですね…でも、“SAYURI”のような企画が今後もありえると見越して、頑張っている役者さんもいるのではないかな…と期待しています
本当なら日本映画自体が発信し、マーケティングに乗せられたら、一番いいのでしょうけれど…
by クロロ (2006-07-25 11:44) 

DSilberling

由佳さん、こんにちは。たぶん日本語訳も発売中ですよ。
by DSilberling (2006-07-25 16:38) 

DSilberling

クロロさん、こんにちは。
そうですね。日本でもがんばっている人はたくさんいるんです。でも語学が......。
渡辺謙さんは、LAに居を構え、相当努力をしているようです。やればできるんですね。
近い将来、日本からクロスカルチャルな映画が発信できるようになるといいですね。
by DSilberling (2006-07-25 16:42) 

★由佳★

日本版!?また見てみます^^
でも、はっきり言ってこの本ってぶ厚すぎですよね^^;

次の更新待ってます^^
私のブログどんどん更新中なんで、また見に来ていただけたらうれしいです。
by ★由佳★ (2006-07-31 19:34) 

サダー

世界に通用する女優。
ニホンジンにもがんばってほしいですね!
by サダー (2006-08-15 00:35) 

やいこ

こんばんは。
映画のバックグラウンドを知る事で、この映画に対する見方が少し変わりました。
日本の女優・俳優さんにももっともっと頑張って欲しいですね。
by やいこ (2006-10-03 00:40) 

DSilberling

サダーさん、やいこさん、こんにちは。
日本人はやはり英語が問題のようです。なんとか英語力を身につけた女優さんに登場してほしいものですね。
by DSilberling (2006-10-03 23:25) 

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