SSブログ

オペラ座の怪人 [アメリカ映画(00s)]


The Phantom of the Opera (2004)

ミュージカル「オペラ座の怪人」の忠実な映像化作品です。

このパリのオペラ座を舞台にした悲しいお話は1900年頃から何度も映像化、そして舞台化されてきました。そのなかで有名なのはルパード・ジュリアンが監督した1925年版の映画です。この映画の登場する怪人は鼻の穴が大きく、当時は相当なショックがあったそうです。それ以降、「オペラ座の怪人」は世界的に有名になります。

ニューヨークのブロードウェイで80年代に一世風靡した名プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュは新作にこの古典ホラーを使おうと思い立ちます。そして、当時組んでいた名作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーに仕事を依頼します。そして生まれ変わったブロードウォーミュージカル版「オペラ座の怪人」は、評論家から絶賛されます。そして今でも世界でロングラン公演が行われています。

ブロードウェーやロンドンのウエスト・エンドでヒットしたミュージカルは、映像化されることがあります。古くは「ウエストサイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」「コーラスライン」、そして「エヴィータ」「ロッキーホラーショー」など、メジャーではないですが人気のあるミュージカルも映像化されています。アンドリュー・ロイド・ウェバーも、自身の最高傑作である「オペラ座の怪人」の映像化を切望します。そして2004年、舞台を忠実に再現した映画が完成します。

監督は、今や右に出るものがいない職業監督ジョエル・シュマッカーです。「セント・エルモスファイアー」で有名監督の仲間入りした彼は、それ以降青春映画を何本か監督しますがヒット監督とはいえない状況でした。彼は人柄が良く、自分のこだわりを強く出せない監督だといわれています。そんな彼を起用したのがハリウッドのプロデューサー達です。原作があったり、既に色がついている作品の監督を依頼したのです。例えば「バットマン・フォーエバー」。ティム・バートン監督により明確に色付けされた映画シリーズです。バートン監督はパート2まで監督し、それ以降の映画製作にはのりませんでした。ワーナーブラザースは、バットマンシリーズは儲かると判断し、バートンのカラーを継承して監督をしてくれる人を捜しました。自分のクリエイティビティを出さずに別の監督の意図を踏襲することを良しとする監督などそういません。しかしシュマッカーはこれを引き受けます。そして見事にバートンのテイストを活かして続編を作ったのです。その他にもニコラス・ケイジが契約上やむをえず出演することになり制作された「8MM」なども無難に監督しています。かつては「スターウォーズ」EP5のアーヴィン・カーシュナー、EP6のリチャード・マーカントなど優秀な監督もいましたが、このような職業監督は最近いなくなりました。
そんなシュマッカーが「オペラ座の怪人」に抜擢されました。彼は舞台を分析して、うまく映像にしています。ミュージカル舞台を見た人のおおくは、あまりにもそっくりなことに驚くでしょう。しかし、舞台と映画は当然表現方法が違います。印象は同じにしながら様々な映像技法を使い、お客さんが心地よく見られるよう配慮した演出はなかなか見事です。
さらに、我が侭なアンドリュー・ロイド・ウェバーの意見を尊重し映画を完成させるのは、相当大変な作業だったことが想像できます。ウェバーは元々プロデューサーではありません。音楽家です。だから映画を作るための細かな、そして面倒な仕事をするわけはありませんし、映像に関する知識もありません。自分の作り上げた大切なミュージカルを忠実に映画化したいという野望だけがあったのです。そしてワーナーブラザースはじめ出資者は、お客さんが喜ぶための映画作りを強要してきます。もちろんヒットして儲かることが大前提です。このようなうるさいスタッフに囲まれ映画を完成させるのは大変な仕事だったでしょう。しかしシュマッカーは、自身の我を抑え、沢山の口うるさいエクゼクティブを抑えながら映画作りを進行させて行きます。そして、最終的には制作者、出資者、お客、全ての人が満足する映画を完成させるのです。
職業監督と言うと、とかく馬鹿にされます。しかし「オペラ座の怪人」のような企画には、シュマッカーのような人は必要です。この映画にティム・バートンが入っていたら、途中で空中分解してしまったでしょう。

出演者は、あまり有名ではない俳優をキャスティングしています。クリスティーンには、若い頃オペラにも出演していたEmmy Rossum、怪人役はGerard Butlerが演じています。もちろん歌も吹き替えではなく、自身で唄っています。これはなかなか見事です。

映画は世界で公開され、なぜか日本で大ヒットしました。他国はそれほどのヒットではなかったようです。この理由に関する分析はきちんとされていませんが、私は「ウェバーの音楽」と「宣伝」に秘密があるように思います。ウェバーの音楽は日本ではテレビでよく使われています。特に「オペラ座の怪人」のテーマ曲は有名で、公開時にはHONDAレジェンドのCM曲としても使われました。よって、誰もが親しみのある映画のような効果が生まれました。映画宣伝では、ミュージカル映画であることを伝えず恋愛映画であるような告知をしていました。ミュージカルといわれると拒否反応を示す日本人はとてもおおいのです。でも見てみると意外と楽しめるものです。このあたりの心理をうまく掴んだ宣伝だったと思います。「エヴィータ」の宣伝もこれで成功していますので、基本的には成功例の踏襲なのですが、見事でした。

私は、ニューヨークのブロードウェイでキャストが変わる毎に「オペラ座の怪人」を鑑賞してきました。のべ6回見ているので、舞台の変遷も理解しているのですが、舞台より見劣りするといったことはなく十分楽しめました。そして映画のために増えたシーンや新しい楽曲を楽しむことも出来ました。ミューイカルを見たことのない人はどのくらい楽しめるかわかりませんが、映画としてもきちんと成立していると思います。なにより聞き覚えのあるウェバーの楽曲が次々にアレンジされて唄われるので飽きることはないと思います。そして、見終わると「ミュージカル」も悪くないなあと思うでしょう。

オペラ座の怪人 コレクターズ・エディション (初回限定生産)を購入
オペラ座の怪人 通常版を購入


nice!(4)  コメント(14)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 4

コメント 14

coco030705

こんにちは。
この映画はよくできていましたね。なかなか楽しめました。
職業監督というものがあるのを、初めて知りました。
でもこういう立場の人も、あるいは必要かもしれませんね。
人間関係をうまくやっていける人ですね。映画監督といえば、
個性のかたまりと言うイメージですが、それだけではなりたたない
部分があることを、この記事を読んで知りました。勉強になりました。
by coco030705 (2005-09-19 17:30) 

DSilberling

cocoさん、コメントありがとうございます。
職業監督ってとても重要なんですよ。日本でいうとテレビの監督に近いと思います。
個性を出さずに統一感を作り上げるんです。
「オペラ差の怪人」はシュマッカー監督がいなかったら成功しなかったと思います。
by DSilberling (2005-09-19 21:15) 

alas-de-panda

初めまして。昨日niceをいただいたので来てみたら、
今日まさに私が見たオペラ座の怪人についての記事が!
なんとタイムリー・・・と思って読ませていただきました。
勉強になりました!
by alas-de-panda (2005-09-19 22:31) 

DSilberling

ぱんださん、こんにちは。コメントありがとうございます。タイムリーでしたね。これからもよろしくお願いします。
by DSilberling (2005-09-20 07:45) 

vivian

先頃、オペラ座の怪人のDVDを購入しました。 ミュージカルとはまた比較のしようがない程、素敵な作品に仕上がっていたと思います。 メイキングで監督?が、当初はクリスティーヌ役はサラ・ブライトマンを起用しようとしたいたことを知り、少し残念に思いましたが、今・・・思えば、やはりエミーの方が初々しくて癖の無い歌唱力や演技力ということで、正解だったのだと思います。 サラの歌は、特典で聴けるので、それで良いのかも♪
by vivian (2005-09-21 02:02) 

Cecilia

私のブログにお越しいただいてありがとうございました!
こちらに来てみたら、いきなり「オペラ座」で びっくりいたしました。
私は声楽をやっているので、「音楽」面からばかり観てしまいますが、なるほど・・・と思いました。
エミー・ロッサム、大変美しく愛らしい上、歌が素晴らしい!
ジェラルド・バトラー・・・ファントムと共に彼のファンにもなりそうです!!
又書きますが、我が家ではカルロッタの人気が高いです!
オペラ座の舞台裏の様子がよく分かり、いろいろな意味で楽しめる映画だと思います!
by Cecilia (2005-09-21 15:00) 

DSilberling

Ceciliaさん、ようこそ。映画っていろいろな見方があるんですね。私は音痴なので、「音楽面」からはなかなか語れません。これからもよろしくお願いします。
by DSilberling (2005-09-21 15:35) 

両津勘吉

アニキ、blog読ませていただきやした。
内容もすばらしく、また自分にも大いなる示唆となった・・・俺もブログ近々始めてみたいと思います~浦和の住民より
by 両津勘吉 (2005-09-24 11:24) 

DSilberling

両津勘吉さん、これからもよろしくお願いしますね!
by DSilberling (2005-09-24 12:51) 

Ren

こんにちは、如意宝珠Renです。nice!ありがとうございました。
舞台版は見たことがないのですが映画で十分楽しめました。
ミュージカルっていいかも!、と思えたのは予想外のすごい収穫です。
NYで見るのはちょっと難しいですがせめて劇団四季の舞台を見たいです。
by Ren (2005-09-24 16:40) 

DSilberling

Renさん、こんにちは。やはりNYのほうがグレードが高いですので、できればブロードウェイ版を見てほしいです。セットや衣装は四季版も同じですが、演技や歌のクオリティは.....。
これからもよろしくお願いします。
by DSilberling (2005-09-24 21:37) 

こんにちわ。DSilberlingさんの記事とっても参考になりました!!
私も映画しか見たことないので、ますますミュージカル見たくなりました。
これからも時々おじゃましま~す(^-^)
by (2005-11-03 10:25) 

Silberling

ゆうゆうさん、こんにちは。ミュージカル、できればブロードウェイ版をご覧ください。四季の舞台は、ちょっと劣ります。これからもよろしくお願いします。
by Silberling (2005-11-03 17:21) 

먹튀검증

This is a very neat blog post. My school teacher suggested that I might like this blog. Similar to on my blog There is a discussion board for articles and photos. Would you like to visit my blog? https://meoktwi.com

by 먹튀검증 (2023-09-07 17:51) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トップガン ポーラーエクスプレス ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。