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地獄の黙示録 [アメリカ映画(~1979)]


Apocalypse Now (1979)

フランシス・フォード・コッポラの名を有名にした名作です。

ベトナム戦争で、ベトナムの奥地に自身の帝国を築いてしまったカーツ大佐。カーツ大佐は、元アメリカ軍の優秀な兵士だったはずですが、今は軍の指揮下にないのでした。そこでアメリカ軍はウィーラードに命じます。カーツ大佐を暗殺せよ、と。

ウィラードは、早速軍の用意した船に乗り、山奥にあるカーツ大佐の帝国に向かいます。その道中でウィラードが見たのは、もはや目的を持たないベトナム戦争の現実、そしてそれに苦しめられる人々、兵士たちでした。さらにウィラードが得るカーツ大佐に関する情報からは、カーツに対する尊敬の念が増すばかり。果たしてウィラードはカーツ大佐を暗殺すべきなのでしょうか....

この映画の企画は、「スターウォーズ」で有名になったジョージ・ルーカスが暖めていたものです。ルーカスはいつか自分の手で映像化したいと思っていました。しかしデビューの際に世話になったコッポラが「スターウォーズ」の企画に関わってくる可能性があったので、ルーカスは「地獄の黙示録」の企画をコッポラに譲ってしまったといわれています。コッポラは「地獄の黙示録」の企画に乗り、以後夢中になります。この間にルーカスは「スターウォーズ」の開発を独自に進めたのでした。当然、この策略を知ったコッポラは気分を害し「地獄の黙示録」にはルーカスのクレジットがありません。

映画自体の製作は困難を極めました。ベトナムという不慣れな土地での撮影、資金不足、我が侭な俳優陣...コッポラは途中でノイローゼになりました。撮影時、既に有名俳優だったマーロン・ブランドは我が侭を言い続け、ウィラードを演じたマーティン・シーンは役と同化し過ぎ情緒不安定となってしまいました。コッポラもちょっとおかしくなってしまい撮影は終了しました。当然予定通りの映像は撮影できず、映画は完成しないとまでいわれました。

この制作過程の悲惨な状況は、コッポラの妻が撮影したドキュメンター「ハート・オブ・ダークネス」で詳しく描かれています。「ハート・オブ・ダークネス」は、あまりにリアルに当時の混迷を描いていて、「地獄の黙示録」よりも凄いと話題になりましたが、妻が旦那の無様な姿を撮り続けているドキュメンタリーとなっており、現在は肖像権の問題で公開はできなくなっています。

「地獄の黙示録」は撮影後に奇跡が起こります。3人の編集マンとドアーズの音楽により、ブツブツに途切れた映像が見事に繋がって行ったのです。映画は、当初の台本のようにあるストーリーが生まれ、ベトナムの混迷が鮮明に浮かび上がりました。

映画は、世界的に大ヒットします。公開当時はまだベトナム戦争はリアルで、それませベトナムを描いた映画の殆どは「アメリカ万歳」色の強い作品でした。そこに初めて「ベトナム」を肯定しない映画が現れたのです。アメリカのマスコミは「地獄の黙示録」を取り上げ興行はどんどん成功に向かって行きました。そしてベトナム戦争映画が多数製作されるというブームも起きました。

結果、この映画に関わった人々は有名になりその後の人生は一変します。マーロン・ブランドはさらに我が侭になり、コッポラの金使いはさらに荒くなりました。

面白いのは、1980年代に現れたベトナム戦争映画の名作「プラトーン」の主演がマーティン・シーンの息子チャーリー・シーンだということです。「プラトーン」はベトナムから10年以上経ち、アメリカ人が冷静にベトナム戦争を見ることが出来る時代になった故ヒットした映画です。時代は違えど同じ戦争を肯定しない映画に親子が主演しているのは感慨深いものです。

コッポラは、その後、自身の映画製作会社ゾエドロープスタジオで映画を作り続けますが「ワン・フロム・ザ・ハート」で破産します。それ以降はおとなしくなり、今はNapa Valleyでワイナリーを営み大成功を果たしています。娘のソフィアは、東京を舞台にした「ロスト・イン・トランスレーション」で、2004年のアカデミー脚本賞を受賞しました。アカデミー賞でとても喜んでいたコッポラの娘の溺愛ぶりが微笑ましかったです。


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クリス

はじめまして。
この映画の製作過程、興味深く読ませて頂きました!特に、コッポラの妻が撮ったというドキュメンタリー、なんとかして観れないものでしょうか?
又、お邪魔します。
by クリス (2005-08-17 15:32) 

DSilberling

こんにちは。私は「ハート・オブ・ダークネス」のLD(輸入盤)を持っていますが、日本国内では販売はないようです。ただ、レンタルビデオ店においてあるのをたまに見かけます。大きめのビデオレンタル店を探してみてはいかがでしょうか?
by DSilberling (2005-08-17 17:57) 

ecco

はじめまして。
映画を見たのははるか彼方の記憶で
コメントするにも
記憶が曖昧ですが
ドアーズとローリングストーンズが大好きな私にとっては
曲とともに蘇る映像があります。
by ecco (2005-08-17 20:47) 

DSilberling

オープニングの「The End」は映画史に残る名場面です。あのヘリコプターの羽の音がなんとも嫌な感じです。音楽は当時の混乱ぶりと麻薬の高揚感をうまく表現していると思います。
私はこの映画を小学生のときみましたがストーリーが全くわかりませんでした。高校を卒業する頃になりやっと理解できたのですが、今はかなり好きな映画となっています。
by DSilberling (2005-08-18 09:05) 

サダー

ワタシもこれを映画館で見ました。混んでいてかなり前のほうで見たので首が疲れた記憶が。
当然、ガキの頃です。
ヘリでワルキューレを流しながら爆撃するシーンはカッコいいと思いましたね。
でもそれ以降のシーンは幻想的な記憶として断片的に残っている程度。
また見返してみたくなりました。DVD買おうかな。
by サダー (2005-08-19 13:37) 

クロロ

すでに「SW」で有名になっていたハリソン・フォードが“ルーカス大佐”という役でチラリと出演していたし(ウィラードに任務の説明をする人物だったと思いますが…そういえばハリソンの息子の一人が“ウィラード”だったような気も(笑)、
黒澤明監督の「乱」だったか「影武者」だったかに二人も出資していたし、
さらに黒澤監督を囲んで3人でサントリー・ウィスキーのCMにも出ていたし、
…仲が悪かったんですねぇ (~_~;)
というか、ルーカスがコッポラの本性を嫌っていたのでしょうか
「ワン・フロム・ザ・ハート」は綺麗な映像でしたね
でも、これで破産していたのですか…たしかにセットは凝っていたような記憶があるような
コッポラは金の使い方が大雑把なのでしょうか (笑)
by クロロ (2005-08-19 21:00) 

DSilberling

サダーさん、こんにちは。この映画は大人になるほど面白く感じる映画です。やはりそれなりに人生経験を積むと自分と重なる部分があるんですね。

クロロさん、こんにちは。「乱」に出資したのはルーカスと、スピルバーグですね。コッポラではありません。コッポラは自分の作りたい映画と儲かる映画を交互に監督していたのですが「ワンフロムザハート」は損害が大きすぎ会社をつぶしてしまったんです。今も金使いが荒いそうですがそれ以上にワイナリーが大成功しています。
ルビコンというワインは数年前に世界一位になりました。娘の名前をつけたスパークリングワインは毎年売り切れます。
by DSilberling (2005-08-19 23:01) 

クロロ

コッポラ、関係なかったんですね(^^ゞ 
CMのイメージがずっと残って、勘違いしたままでした
そういえば20数年前に代々木のスーパーで、
「ポール・ニューマンのドレッシング」を買ったことがあります
(ラベルは彼の似顔絵) 米酢とは、かなり違って、酸味が強かったのは覚えています
コッポラのワイン…まさかラベルは彼の似顔絵、とか (笑)
でも、成功して良かったですね
それを資金にまた映画を作るということは、ありそうでしょうか?
by クロロ (2005-08-22 11:55) 

クリス

こんにちは!「ハート・オブ・ダークネス」を検索した所、ビデオ化はしている(アメリカとか)ようですね。レンタル屋にも一度行ってみようと思います。ただ、今はイギリスにいるんですが、レンタルが高くて(一回700円程度)、ちょっと渋ります・・・。でも、貴重な情報をありがとうございました!いつか絶対観たいです。
by クリス (2005-08-23 00:13) 

DSilberling

こんにちは。話はそれますがポールニューマンの食品はアメリカではかなり人気のある食品群です。一番有名なのはドレッシング、ほかにもレモネードやミートソース、ポップコーンなどがあり、売上は全て寄付されています。
コッポラのワインは本格的でとても美味しいです。日本ではダイヤモンドシリーズを3000円くらいで買うことが出来ます。お勧めはルビコンやリザーブシリーズです。

「ハートオブダークネス」は最近レンタルビデオ店でも見かけなくなってきましたので、早めの視聴をお進めします。
by DSilberling (2005-08-23 23:04) 

treevillage

DSilberlingさんこんにちは。数少ない映画関係者の方のブログが読めて感激してます。
また遊びに来ます。いろいろと面白い話を読ませて下さい。
うちのブログにも良かったら遊びに来て下さい。只今初長編映画の編集日記をつけてます。
マーティンシーンの弟が出演するB級アクション映画(笑)です。
http://blog.livedoor.jp/treevillage_usa
by treevillage (2005-10-18 14:07) 

SKY1

 「ワンフロムザハート」の(正確にはヤングフランケンシュタインの)テリー・ガー好きでした。美人じゃないけど可愛らしくて憎めない女優さんでしたね。
by SKY1 (2006-05-04 00:24) 

DSilberling

おのこうさん、こんにちは。
「ワンフロムザハート」今見ると、なんともいい味ですね。ガーも当時のラスベガスにいる女性をうまく演じています。

現在のラスベガスで「ワンフロムザハート」をリメイクしたら誰が演じるんでしょうね。
by DSilberling (2006-05-04 08:15) 

のらくろジェイ

はじめまして!
何年か前に、有楽町でリバイバルされたときに見ました!
ブラームスの曲にあわせて、ヘリコプターでサーフィンをしに行くシーンが大笑いでした☆
この映画ができるまでに、こんなにも困難があったのですね。。。
私は、映画を理解できる能力に欠けているせいか、最後、マーロンブロンドが出てきてからのシーンについて、製作者はどのようなメッセージを伝えたかったのか、教えていただけるとありがたく思います。
by のらくろジェイ (2006-12-17 13:05) 

DSilberling

のらくろジェイさん、こんにちは。
エンディングには様々な解釈があります。詳しくはそれぞれにお任せしますが、私は戦争がおこす悲劇のひとつだと思っています。
戦争がなければ、無駄死にもないですし、映画のような事件も起こらないんですね。
by DSilberling (2006-12-17 13:37) 

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