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宇宙戦争 [アメリカ映画(00s)]


War of the Worlds (2005)

スティーブン・スピルバーグとトム・クルーーズが、「マイノリティ・リポート」に続きタッグを組んだSF映画。原作は、H.G.ウェルズが100年以上前に書いた傑作小説です。原作の日本題が「宇宙戦争」だったので、今回の映画もそのままの題名となっていますが、ちょっと違和感があります。

「宇宙戦争」は、1953年にアメリカで映画化されています。当時は、このストーリーと日系人(アルバート・ノザキ)による不思議な形のUFOのインパクトで大ヒットしました。私も子供の頃テレビでこの映画を見て夜怖くて眠れなかったのを覚えています。

さて、スピルバーグ版の「宇宙戦争」ですが、原作そして53年版の映画とどう違っているのでしょう。ストーリーは基本的には同じです。ある日突然やってきた宇宙人が襲撃を開始し、それに翻弄される人々を描いています。ただ、こまかな部分で新たな設定が付け加えられています。私としては、今回新たに付け加えられた要素は、あまり感心できませんでした。昔からトライポッドが埋め込まれていたという設定や子供を守るためには助けた人をも殺してしまう主人公などは、全体のストーリーとかみ合っていませんし、意味があるものではありません。ただ、わけのわからない状況に翻弄される一市民の描き方はなかなかのものでした。そして、スピルバーグらしい残忍な描写は素晴らしく、最新のVFXと相まって観客を怖がらせてくれます。

この企画は、スピルバーグとクルーズがたまたま興味を持っていたことが発端です。当初、時間をかけて映像化する予定でしたが2004年の夏に2人のスケジュールが空いていることがわかり、急遽映画制作が決定しました。脚本家のデビッド・コープは短時間で第一稿を完成させ二人に見せたところ基本的にOKを貰い、スタッフは慌ただしくプリプロダクションに入りました。

私は今年の1月に現場を見ることが出来たのですが、現場はスケジュールのない中、物凄いスピードで撮影を行っていました。そして公開直前の6月でもまだ撮影を行っていて、本当に公開が間に合うのか不思議でした。スピルバーグは、現在ドリームワークスSKGとアンブリン・エンターテイメントの経営者でもあり、とても忙しい状態で、どうやって現場をわましているのか不思議でしたが、関係者によると打ち合わせは殆ど参加せず、優秀なスタッフに任せているようです。撮影当日に初めてセットを見ることもしばしばあるそうです。スピルバーグはセットにやってきて、すぐに演出を考え、あっという間に撮影を終え帰ってしまうそうです。まあ、超多忙なエクゼクティブが撮影に大量の時間を使うのは無理なのでしょう。そう考えると、スピルバーグの直感的な演出は見事です。むしろ演出以外に彼の能力を使わないので、余計なことは考えず観客に向ける恐怖の演出が研ぎすまされているのでしょう。彼の初期の作品にあった残虐性がこの映画では復活しているように思えます。

映画全体としては、スピルバーグが関わった演出以外はあまりほめるところが見当たりません。コープの脚本は汎用なものですし、クルーズの演技も平凡です。全体の構成や編集も一般の観客には唐突すぎて乗れません。トライポッドや宇宙人のデザインもがっかりです。あえていうなら、VFXはがんばっていました。私が見た飛行機が墜落している街のセットも凄い予算を使っていて感心しました。

残念ながら、映画史に残る名作ではありませんが、1800円払って恐怖を味わうには適した映画です。宇宙人はトム・クルーズ以外の人間を容赦なく殺しまくります。これは圧巻です。

私はスピルバーグの次回作「1972 Munich Olympics Project」を楽しみにすることにします。

<追記 2005/09/22>
映画の公開が終了して、いろいろな意見を聞いてみるとこの映画は様々な評価を受けていることがわかりました。普通の映画ファンは総じて否定的な意見ですが、映画制作者なかでも映画監督からはとても高い評価を得ているのです。これには驚きました。話を詳しく聞くとその理由が見えてきました。スピルバーグの演出力を評価しているのです。その他のつじつまの合わない部分や演技などに話が及ぶと確かに否定的なのですが、あのトライポッドが襲撃してくる演出、そしてマクロではなくミクロな視点が素晴らしいそうです。なるほど、と思いつつ一般のお客さんに向いて制作していない点は私としてはポジティブになれませんでした。

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コメント 8

ぺ。

私も先日観に行きましたよ。

Sさんの映画批評の世界へ引き込まれて
気がついたら、そうだそうだとうなずいていました。

私自身、評価を付け加えるのであれば、
ダコタの演技に恐怖を覚えました。
末恐ろしいです・・・。
by ぺ。 (2005-07-29 11:29) 

クロロ

まだ見ていないのですが、DSilberling さんの記事なのでつい読んでしまいました…! 随分「怖い」仕上がりのようですね
やはり気になる一本なので、必ず見に行くつもりです
ところで「1972 Munich Olympics Project」というタイトルも気になります
どういう内容なのでしょうか?
(やはり個人的に脳裏をかすめるのは“BLACK SEPTEMBER”ですが…?)
by クロロ (2005-07-30 21:07) 

DSilberling

ぺ。さん、クロロさん、こんにちは。
「宇宙戦争」は、わけのわからない状況に追い込まれた主人公の目線として描いた映画としてはなかなかの出来映えです。とにかく残酷です。総合芸術としての映画という観点で見ると、ちょっと辛い部分もありますが、スピルバーグはあえて翻弄される人々を描いたのだと思います。

スピルバーグの次回作は実際にあったオリンピックでの暗殺事件を映像化するそうです。どちらかというとドキュメンタリータッチな社会派映画になるのではないでしょうか。
by DSilberling (2005-07-31 12:08) 

クロロ

“あの事件”でしょうか? だとすると、
イスラエルの選手団が標的にされていましたので、スピルバーグ自身、
感じるものも強いのではと、容易に想像はできますね…
「宇宙戦争」で来日したときのインタビューでも、9.11以来社会的な恐怖や、
テロに関心がとらわれているようなことを言っていましたので、
重厚な作りになるのかな…
by クロロ (2005-07-31 21:45) 

Silberling

そうでしょう。おそらく「カラーパープル」や「プライベートライアン」的な映画になるのではないでしょうか。楽しみですね。
by Silberling (2005-07-31 22:59) 

クロロ

こんばんは …あまり的確なことは書けませんが、TBさせていただきました
by クロロ (2005-08-02 22:22) 

通行人

とても面白かったのですがどうしても一つだけ分からないことがあります。
人間よりはるかに高度な科学力を持ちながらなぜウイルスの存在を知らなかったのでしょうか?
by 通行人 (2007-01-08 16:10) 

ナゾの映画好きT

 もともと原作が植民地政策・帝国主義を批判した内容で、事実アメリカ大陸から梅毒を持って帰ってきたせいで西洋人が梅毒漬けになったことの反芻でもある。
 コープがこれに対しての説得力のある脚本を出せていたら『映画秘宝』の五分五分の評価ではなく、少なくとも六分四分の評価を出せていたと思う。
by ナゾの映画好きT (2012-09-22 17:23) 

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