ボーン・スプレマシー [アメリカ映画(00s)]
The Bourne Supremacy
作家ロバート・ラドラムが書いた「ジェイソン・ボーン」3部作の第2作である「殺戮のオデッセイ(The Bourne Supremacy)」(1986)をマット・デイモン主演で映像化したヒット作の裏側を紹介します。
前作「ボーン・アイデンティティー」は、紆余曲折がありながら映画は世界的にヒットし、ユニバーサル・スタジオは、続編の制作を期待しました。
監督のダグ・リーマンと脚本家のトニー・ギルロイは、この提案を受け続編のプロット作りを始めます。リーマンは、前作のプロット作りの時、ギルロイに原作を読ませませんでした。リーマンが読んで面白かった部分を口頭で伝え、その部分を膨らませて映画「ボーン・アイデンティティー」の脚本は完成していたのです。よって、ストーリーは原作から離れてしまっていました。こうなると、ラドラムが書いた続編「殺戮のオデッセイ(The Bourne Supremacy)」のストーリーは、映画の続編として成立しません。そこで、リーマンとギルロイは、題名こそ原作と同じ「ボーン・スプレマシー」としながら、映画にあわせた続編としてほぼオリジナルでストーリーを作り上げることになってしまいました。
よって、この「ボーン・スプレマシー」の原作ファンが映画を見ると、かなりストーリーが違って驚くでしょう。しかし、映画の脚本は映像としてはとても面白い完成度でした。
さて、前回のお話しの続きです。
「ボーン・アイデンティティー」の監督だったリーマンは、スタジオとのつきあいが嫌になり、今回は監督を引き受けませんでした。このあたりの裏事情は関係者が口を開かないので真意がわからないのですが、本人が自ら退いたのか、プロデューサーが監督を退けたのかはわかりません。結局、リーマンはエクゼクティブ・プロデューサーという都合の良いポジションを得ます。直接撮影現場を指揮しませんが、作品には口を出せ、映画がヒットすれば成功報酬が得られるのです。
結局監督は、ポール・グリーングラスというあまり知られていないイギリス人に決まりました。実はグリーングラスは、ドキュメンタリー・タッチの映画を撮らせると、とても素晴らしい才能を発揮する監督で、本人はこのチャンスをうまく活かそうと監督を快諾します。
そして、いよいよプロジェクトが動きだしました。キャストは、前作同様ジェイソン・ボーンにマット・デイモン、彼女のマリー役にフランカ・ポテンテ、CIAのジェイソンのトップアボットにブライアン・コックスが演じています。スタッフは、前作同様、制作会社はマーシャル・ケネディ・プロダクションです。フランク・マーシャルは、プロデューサーも務めています。撮影監督も同じくオリバー・ウッド、音楽もジョン・パウエルです。
要は、監督以外はほぼ同じメンバーで続編が作られることになったのでした。
このようなことは、時々起こります。一番わかりやすい例は「スターウォーズ」です。監督のジョージ・ルーカスは、初めの「スターウォーズ」(「スターウォーズ エピソード4」)で、監督をしました。当時SF映画というと陳腐な子供映画だと思われていたため、20世紀フォックスから呆れられ、資金援助打ち切りの危機に遭いながら苦労して完成させたのが「スターウォーズ」です。しかし業界の予想に反し映画は大ヒットします。そこですぐにフォックスは続編の製作をルーカスに依頼しました。しかし精神的に参っていたルーカスは監督を引き受けることなくエクゼクティブ・プロデューサーという肩書きを作りそこに収まったのでした。結局続編「スターウォーズ 帝国の逆襲」(「スターウォーズ エピソード5」)の監督はアーヴィン・カーシュナーが引き受けました。
ダグ・リーマンは現場の軋轢から解放され、プロデューサーという俯瞰の目で作品をとらえることが出来ました。現場は優秀なライン・プロデューサーが動き素晴らしい映像が撮影されていきました。
映画は、順調に撮影が終了し2004年7月23日に全米で公開されました。公開されるとたちまちボックスオフィスのトップに躍り出て、以後7週間もトップ10入りします。そして世界で2億7000万ドル以上の売り上げを記録してしまいました。これは前作の2倍以上の売り上げです。
スタジオは、早速さらなる続編である第3作「ボーン・アルティメイタム」の制作を要望するのでした。
<「ジェイソン・ボーン」3部作を購入>
ボーン・アイデンティティー (ユニバーサル・ザ・ベスト第8弾)
ボーン・スプレマシー
ボーン・アルティメイタム
2008-11-03 07:17
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コメント(34)
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こんばんは。
原作を読まずに脚本を作るということもあるのですね。
映画と本は別物という割り切り精神が面白いです。
監督さんの交代も微妙な事情みたいですけど、
ポール・グリーングラス監督の得意なドキュメンタリー・タッチが
この作品にはぴったりでしたね。
by non_0101 (2008-11-04 00:03)
続編のある作品って今はたくさんありますが、監督人事にしてもこんなことがあったりするんですね。
訪問ありがとうございます。
by 花火師 (2008-11-04 00:36)
今回も、興味深い裏話、面白かったです。
エクゼクティブ・プロデューサーという肩書きも面白いですが、リーマンが監督を退いた真相が未だに謎なのも、面白いですね。
by SAKANAKANE (2008-11-04 02:22)
nonさん、こんにちは。
文字と映像は、表現方法がかなり違うので原作を映像化するときはかなり苦労します。
今回は、原作から離れることで成功している良い例です。
by DSilberling (2008-11-04 07:27)
花火師さん、こんにちは。
シリーズで監督が交代するとだいたいつまらなくなります。
私は映画を見る前にいつもスタッフクレジットをチェックします。
だいたいこれで、作品のクオリティが推測できます。
しかしこの映画は珍しくうまくいっていますね。
こいういう例は、「スターウォーズ」「ハリー・ポッター」「ダイ・ハード」くらいでしょうか。
by DSilberling (2008-11-04 07:30)
SAKANAKANEさん、こんにちは。
きっといろいろと辛いことがあったのでしょう。
皆大人なので、こういう話は表に出さないのではないでしょうか。
でもリーマンのところには、巨額のロイヤリティーが入っているはずです。
by DSilberling (2008-11-04 07:31)
こうしていろんな裏話を伺うと
あらためて、一度にまとめて観たくなりました♥
続きの記事も楽しみにお待ちしてます♪
それにしても
DSilberling さんはいつも映画をご覧になるとき
こういう情報を持った上でご覧になるのでしょうか?
それともまずは予備知識無しですか?
いずれにしても、いつも感心して記事を拝見してるんですが・・・
自分がいつもぼーっと観ているもので、ちょっと気になりました(笑)
by かおり (2008-11-04 11:15)
こんばんは。
更新、楽しみにしていました!
面白いお話を、ありがとうございます^^
監督が変わって、今度はどんな感じになるのか
この作品を見るのが、とても楽しみになりました。
by さんた (2008-11-04 17:12)
作品を鑑賞してプログラムを読むだけでは
絶対に手に入れられないお話ですね。
最後の「ボーン・アルティメイタム」で、
DSilberling さんの記事も完結ですね。楽しみです。
by nomame (2008-11-04 18:43)
いろんな事情を知って、
「ボーン」シリーズに出会えたことの
幸せをしみじみと感じています。
キャスティングも、今となっては
ジェイソン・ボーン=マット・デイモン以外
考えられないですね。
by Naka (2008-11-05 01:02)
前半、インドでのシーケンスはすごいですね。
平和な日常が一転する場面のスピード。編集の技なのでしょうか。
この二作目も大好きなのですが・・・・、ラストシーンはあまり気に入ってません。ほかのやりようはないのかよって、見るたびに思います。
この時期、マットデイモンがオーシャンズではいらわれ役なのがとても対照的ですよね。(^^)
by サダー (2008-11-05 01:32)
なるほど、監督よりも大きな立場で制作にかかわる道もあるんですね。
ジョージルーカスも大変だtたんでしょうね。
by mirai (2008-11-05 19:41)
かおりさん、こんにちは。
私はだいたいこういう情報を知ってしまう状況にあります。
ただ、映画は純粋に楽しんでいますよ。
私が一番集中するのはエンドロールです。エンドロールからいろいろな情報、そしてドラマが見えてくるんです。
by DSilberling (2008-11-05 20:47)
さんたさん、こんにちは。
このシリーズは、カラーが統一されているので違和感なく見ることができますよ。
by DSilberling (2008-11-05 20:48)
nomameさん、こんにちは。
雑誌やパンフレットに書いていない情報をここに記すようにしています。これからもお楽しみに!
by DSilberling (2008-11-05 20:49)
Nakaさん、こんにちは。
映画は偶然が重なって完成するんですね。
でも、これは必然だったりするんです。
本当に奥が深いです。
by DSilberling (2008-11-05 20:50)
サダー さん、こんにちは。
この映画は、演出、撮影技法、編集、そしてアクション演出がうまく絡み合っています。この作品でアクション映画の歴史が変わったと言えると思います。
by DSilberling (2008-11-05 20:51)
miraiさん、こんにちは。
ルーカスの苦難の道は、ルーカスの回で詳しく記していますので読んでみてください。
by DSilberling (2008-11-05 20:52)
こんばんは。
ジェイソン・ボーンの3部作はヒット映画のシリーズ化ものにしては、きっちり話がつながっている上に、お話がいたずらに拡散せず、収拾のつかないスケールアップもしないので、よくできてるなぁと感心したものです。でも、裏では結構ゴタゴタしてたんですね。
by しまうま (2008-11-06 23:44)
先日、ボーンシリーズとして、テレビで一挙に放映されたのを観ました。面白いシリーズですね。今回は、知らない裏事情も読めて良かったです。
by たいちさん (2008-11-07 14:23)
こんにちは!
先日はご訪問ありがとうございました♪
ちょっとした知識を持って見るのと見ないとでは
興味や愛着も変わりそうですね。
ボーンシリーズは一作目しか観ていないのですが、
続きを借りてこようと思います(^-^)
by むちゃ (2008-11-08 15:47)
こんにちは^^ ボーンアイデンティティーですっかりマットデイモンが大好きになり、3作とも見ています。原作と違ったり、色々あるのですね。教えていただいたのでまた見直したくなりました^^
by duke (2008-11-09 00:30)
niceありがとうございました。
原作と違うも作品ってつまらないイメージがありますが(自分だけ?)、
サイコやシャイニングは名作ですよね。
オリジナルに忠実だからってハリーポッターみたいにちょっと無理を感じるものもありますし。
にしても面白い記事ですね。
by sugarbabe (2008-11-09 19:07)
ジェイソン・ボーン・シリーズこそが本物のスパイ映画のような気がしています。今までのスパイ映画にありがちな、秘密兵器を使うことなくサバイバルしていく姿が凄まじいくカッコイイです。完成度の高いシリーズだと思います。
by ばぁつん (2008-11-11 00:19)
2億7000万ドル以上の売り上げってすごいことですね!
これはもうじっくり鑑賞したいです。
次回作のUPを楽しみにしています。(^^)
by ふじくろ (2008-11-11 01:02)
ボーンシリーズは2回づつみてしまいました。
1回ではストーリーや人間関係が把握しきれませんでした。
by aranjues (2008-12-31 12:49)
しまうまさん、こんにちは。
映画の裏ではいろいろな確執が少なからずあるものです。
でも、このシリーズのようにうまく行くことは少ないんですよ。
by DSilberling (2009-01-03 21:33)
たいちさんさん、こんにちは。
こういう良質のエンターテイメント作品が日本でもヒットすればいいのですが・・・
by DSilberling (2009-01-03 21:34)
むちゃさん、こんにちは。
続編はご覧になりましたか?
by DSilberling (2009-01-03 21:35)
dukeさん、こんにちは。
最近WOWOWでHD放送やってますね。
かなり綺麗でしたよ。
by DSilberling (2009-01-03 21:35)
sugarbabeさん、こんにちは。
小説を映像化するのは、かなり難しいですね。
それを成功させるのは、数パーセントの作品だけです。
by DSilberling (2009-01-03 21:36)
ばぁつんさん、こんにちは。
本家007シリーズも、ボーン・シリーズに影響受けて真面目なアクションになりましたね。
by DSilberling (2009-01-03 21:37)
ふじくろさん、こんにちは。
第3作目UPしましたよ。
by DSilberling (2009-01-03 21:38)
aranjuesさん、こんにちは。
密度の濃い脚本なので、見れば見るほど理解が深まり楽しめますね。
by DSilberling (2009-01-03 21:38)