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ハッピーフライト [日本映画]

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Happy Flight

この映画の監督の矢口史靖氏は、「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」でメジャーになった監督です。

「ウォーターボーイズ」は、男のシンクロを扱い話題となり、その後ドラマシリーズが製作されました。
もともとこの企画を立案したのは、後に矢口監督と一緒に仕事を一緒にするプロデューサーの2人です。この2人が「アドレナリンドライブ」で才能を感じた矢口氏にアプローチをかけます。しかし監督は、そんな気持ちの悪い映画は作りたくないと拒否します。そこで、プロデューサーは、1本のビデオを監督に届けました。それは、実際に男のシンクロを真剣にしている埼玉県立川越高校の水泳部のシンクロビデオでした。

これを見た矢口監督は、映画の監督を受けることにしました。こうして映画「ウォーターボーイズ」は生まれたのです。
この企画は、出資者の同意を得るのにも大変でした。そんな企画はあたらないと出資を拒否されたのです。そんな中、東宝のビデオチームと電通が一部出資を引き受けます。そして当初予定の制作費の半分の金額で制作が始まりました。

予算がないので、出演者は全員無名です。当時は妻夫木、玉木、誰もが全く無名の役者でした。そんな有象無象が自分たちでシンクロのレッスンを受け、自分たちでシンクロをできるまで努力、そして撮影が行われたのです。

この苦労の後、映画は公開されスマッシュヒットします。

「スウィングガールズ」は、「ウォーターボーイズ」の企画当初から矢口監督がやりたい企画でした。「ウォーターボーイズ」のヒットにより、企画には簡単にGoサインがでました。しかし、出資者サイドからは、強引にキャストが押しつけられてしまいました。矢口監督と2人のプロデューサーは、自分のイメージとは全く違うキャストで映画を作ることを拒否します。
彼らは、自分たちが納得の出来るキャスティングを行います。集まったのは、無名の女優達。出資者は、こんな映画は当たるはずがないと主張し、制作を無期延期にしてしまいます。
脚本も完成し、キャストも決まったのに映画の制作は中止という状況でしたが、フジテレビの亀山千広氏が、独断で出資を決めます。彼には、この映画の持つ可能性が見えたのではないでしょうか。

映画は無事撮影が行われ、完成します。そして「ウォーターボーイズ」の2倍以上の興行収入を上げるのでした。

そして、いよいよ「ハッピーフライト」です。
2本のヒット作を監督した矢口氏は、沢山の映画会社とテレビ局から誘いを受ける人気監督になりました。何億円でも払うから是非うちで映画を撮影して欲しいという依頼が毎日あるそうです。

いくらでもお金持ちになれる環境ですが、彼が選択したのは、自分が作りたい映画を作る。そして、「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」で共に苦労したプロデューサーと一緒に映画を作ることにしたのです。

こうして、いつもの仲間と自分たちが作りたい映画を作ろうと動き出しました。

監督は、当初航空パニック映画を作ろうとしました。しかし、航空業界をリサーチし始めると、知らなかった情報を次々と知ることができました。そしてパイロットやCA以外の仕事がとても面白いことがわかってきたのです。監督は2年間かけてそれらの職種を取材し、とても面白い脚本を完成させました。

出資は、前2作と全く同じ出資会社です。今では沢山の会社が出資したがりますが、プロデューサーはそれを受け入れず、「ウォーターボーイズ」の時の恩をかえずべく東宝のビデオチームと電通がメンバーです。

プロデューサーはじめいつものチームは、撮影前からANAとの大規模タイアップやフランク・シナトラの楽曲の使用許可など困難な問題を克服し、様々な宣伝展開を仕掛けています。

よく映画では黒澤組とか伊丹組とか制作チームを「組」と呼びます。映画製作というプロジェクトは3年以上かかるのがあたりまえです。こうなると、お金を稼げばいいというものではなく、長く信頼関係を築いて良い作品を作れるチームが必要となるのです。これが「組」なんです。

最近では、こういう組が減ってきています。作品ごとにフリーのスタッフがパートタイムで集まり映画を短期間で制作しバラバラになっていきます。今でも信頼関係を築いてしっかりと映画作りをしているのは「周防組」「三谷組」「北野組」「山田組」そして「矢口組」くらいでしょう。ご存じの通り、これらの組が作り上げる作品は公開時に爆発的なヒットはしませんが、長い間映画ファンに愛される映画です。

こういう良質な映画は今後も作り続けていってほしいです。

皆さんも、映画をキャストでだけ見ずに、たまにはエンディングロールを読んでみてください。そこには、「組」のメンバーが記録されています。

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コメント 20

nomame

「組」のお話、感動しました。
こうした中から
世界で戦える日本映画が生まれてくろのかもしれませんね。
by nomame (2008-11-13 00:36) 

komadamu

はじめまして♪komadamuと申します。

エンドロールはそれが長ければ長いほど、さぞやプロデューサーや監督さん大変だったんじゃなかろうか・・・って思いつつ、
いつも最後まで見ているのですが、
でもそれがいたずらに長いだけじゃなくて、信頼関係の大きさだとすれば、とても素敵なことですよね。
by komadamu (2008-11-13 00:46) 

依光次郎

FLY!FLY!FLY!をBSにて見せていただきました(ダイジェスト版らしい)。
本作のCMもされていて、観るしかないと思いました。

スウィングガールズもアメリカへ彼女らを連れて行ったり、プラスアルファも(全く良い意味で)お上手なプロデューサーさんのようです。

いずれ「組」と俳優さんの関係を解説していただければ。(^^;
by 依光次郎 (2008-11-13 05:38) 

びっけ

あの『ウォーターボーイズ』が世に出るまでに こんな苦労があったとは!
『スウィングガールズ』も順風満帆で出来たわけではなかったのですね。
いつもながら、DSiberling さんの事情通に感心します。

小学校の同級生が 三谷組で仕事をしています。
彼は、周りの人間関係が いい環境で仕事できているんだろうなぁと思い、ホッとしました。
by びっけ (2008-11-16 21:38) 

tomoart

邦画がヒットするようになって、少し前には考えられないほど大量の作品が公開されているように思います。その中で不思議に思っていたのは、堤幸彦監督の多作ぶり。年に3本も監督出来ると言うのはどうなってるのか、と思いましたが、それが時代の潮流という事なんでしょうね。堤監督はきっと器用なんでしょう。それで出来た作品がそれなりに面白いのがスゴいと思います。
でも、やっぱり映画はじっくりしっかり作って欲しいのが人情。○○組と呼ばれる製作体制が、いつまでも続きますように・・・・。
by tomoart (2008-11-16 23:02) 

coco030705

映画創りの現場って、こういう風になっているんですね。
DSilberling さんの詳しい解説で、よくわかりました。ありがとう
ございました。
今やなんでも早く効率よく、が求められますが、映画創りは
やっぱり血の通ったものであってほしいですね。
お金を投じれば、面白い大作はつくれるかもしれませんが、
しみじみと胸を打つ映画や、人間味溢れる作品は
創る側の信頼関係があってこそ、生まれるんですよね。
by coco030705 (2008-11-16 23:18) 

希

はじめまして。映画制作の裏側、制作者サイドにもまたドラマがあるなんて考えたことがありませんでした。ビジネスとしての柵がある中で自分の信念を曲げずに頑張るクリエイターの方々。そんな方々にこれからも活躍できる機会と場を。そして私たちを楽しませる作品をたくさん作っていって欲しいです。
by (2008-11-17 00:14) 

syu

製作側の熱意や粘りはきちんと作品に反映されるものですね。
日本映画、これからもいい作品が増えると嬉しいですね。
いつも貴重なエピソードありがとうございます。
by syu (2008-11-17 09:52) 

かおり

ウォーターボーイズはとても好きな作品ですが
メイキングを観たときに受けた感激がとても大きかったですね
長いこと「さあ泣け!さあ感動しろ!」といわれているような気がする
"大作"といわれる日本映画に辟易していたので
「こんなに熱い想いを持って映画を製作する人々」
の存在にうれしい驚きを感じました♥
観客の見えないところでもこんな感動的なドラマがあるなんて!
いい映画たくさん観たいと思っています★

by かおり (2008-11-17 13:42) 

たいちさん

矢口監督の作品を私は観ていませんね。気骨のある監督のようですね。
今回も作品が完成されるまでの、裏話を面白く読まさせていただきました。この映画も最近盛んにPRしていますので、機会あれば観たいですね。
by たいちさん (2008-11-17 15:05) 

non_0101

こんにちは。
本当に作りたい映画を作り上げるには、やっぱり苦労が絶えないのですね。
あんなに面白い2作品だったのに、実はこんなに苦労していたとは…
本当にヒットして良かったです☆
“組”というのもいいですね。
はやり映画の色を出すには監督さんの力だけではなく
監督と気心の知れたスタッフが大切なのですね。
ぜひ、この矢口組にも素敵な作品を作り上げていって欲しいです。
by non_0101 (2008-11-19 12:56) 

hir

いつも更新、楽しみにしています
今回もにわか映画ファンとして為になるお話でした!

スウィングガールズ、ウォーターボーイズ、もう一回見直してみたくなりました

by hir (2008-11-19 19:48) 

hanntinngu

スウィングガールズのメイキングを観たことがあるのですが、
一生懸命楽器練習している姿に感動しました。
殆どが初心者に近かったそうですね。
だからこそあの最後の演奏が迫力あるものになったのだなと。
そういう意味で、今回のハッピーフライトも楽しんできました。
CA以外の職員達の奮闘ぶりが良かったです。
by hanntinngu (2008-11-21 11:25) 

duke

おもしろそうだなぁと思っていましたが、ますますみたくなりました。スピリッツのあるものは、輝きがありますよね。
by duke (2008-11-22 23:04) 

としゆき

はじめまして。としゆきと申します。
ご訪問&nice!ありがとうございました。いい映画でしたね。
信頼関係の築かれた「組」というのは、ぴったりくる表現ですね。
by としゆき (2008-11-24 14:46) 

SAKANAKANE

日本だけの事情では無いかも知れませんが、出資サイドがリスクを嫌って、キャスト至上主義に凝り固まってしまったら、映画業界の未来は暗いモノになってしまうでしょうね。
見る側の意識が変わって行けば、そんな風潮も無くして行けると思うんですが。
by SAKANAKANE (2008-11-30 00:45) 

TaekoLovesParis

私もちょっと気にしていた映画なのですが、Silverlingさんのオススメなら
間違いなしです。
by TaekoLovesParis (2008-12-14 23:38) 

AI

今年もお世話になり ヾ(*´∪`*)oc<【。゜・+:.・ァリガトゥゴザィマシタ・.:+・゜。】
来年も。・:*:・(*´ー`*人)。・:*:・ヨロシクデス♪
なんとか今年最後の更新ができたので
お暇があったらお立ち寄りくださいませ.+゜(・∀・)゜+.゜
それでは よいお年を・・・♪
by AI (2008-12-30 19:28) 

aranjues

専門的な映画解説、毎回楽しみにしておりました。
来年もよろしく御願いします。
よき年をお迎え下さい。
by aranjues (2008-12-31 12:50) 

Krause

今年はブログを通じてお世話になりました。また、ろくなコメントもできず恐縮です。来年も宜しくお願い申し上げます。

by Krause (2008-12-31 19:20) 

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