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ブレードランナー ファイナルカット [アメリカ映画(00s)]


Blade Runner The Final Cut(2007)

私がとても好きな映画「ブレードランナー」について書こうと思います。といってもこの映画に関しては既に紹介しています。作品については過去のブログをご覧ください。

今回は、「ブレードランナー」の最新版である作品と、それに併せて発売される次世代DVDについてです。

映画の歴史だけでなく、その後の工業製品や建築デザインにまでインパクトを与えたリドリー・スコット監督作「ブレードランナー」。公開から25年が過ぎても色あせることなく映画ファンのなかでは評価が高く劇場では再上映が行われてきました。

結果、7バージョンも制作され、それぞれの解釈がおおきく異なっているという珍しい作品となりました。(解釈はいくつか存在しており3バージョン〜7バージョンの幅があります)
1)リサーチ試写バージョン(ディレクターズ・カット)=Original Workprint
2)北米劇場公開バージョン(プロデューサーズ・カット)=Domestic Cut
3)インターナショナル・バージョン(プロデューサーズ・カット)=International Cut 日本では完全版と呼ばれている
4)クライテリオン・バージョン (3)とほぼ同じ
5)北米テレビ放送バージョン
6)最終版(1992年公開、10周年記念の再編集バージョン、ディレクターズ・カット)=Director's Cut リマスター版(2006)も存在。
7)2007年版

※ディレークターズ・カットを「最終版」と命名してしまったのは日本のワーナーです。これにより今後混乱が生じる可能性があります。

日本では、(3)の日本劇場公開時のバージョンであるプロデューサー・カットか、ビデオやDVDで販売された(6)の最終版と呼ばれるディレクターズ・カットの2バージョンを見た方がおおいはずです。
インターナショナル・バージョンの一番の特徴は、明るいエンディングであることです。ラストシーンは、緑の森の空撮です。主人公デッカードとレプリカントのレイチェルは、二人で幸せに人生を歩むという後日談がナレーションで入ります。
ディレクターズ・カットは、エンディングは暗く、デッカードまでもがレプリカントではないかという疑念とその後の不安を感じる終わり方となっています。

制作のラッド・カンパニーは最近活動をしておらず、フィルムは配給元のワーナーブラザースが所有していたようですが、2001年にワーナーは(1)(3)そして新しいバージョンの3種を入れたDVDボックスを販売しようと試みます。しかし、コンプピーション・ボンドと呼ばれる保険会社と権利問題の訴訟が起こり、もはや映画「ブレードランナー」は7バージョンで完結、そして映画館やDVDでの視聴もできない状態にありました。

そんな中、2006年にワーナーブラザースは映画の配給権を完全に整理し、新しく「ブレードランナー」の25周年を記念してDVDを発売すると正式にアナウンスしました。DVDの映像は綺麗にレストアされているようだ、というニュースはネットを通じて世界中の「ブレードランナー」ファンを駆けめぐりました。
そして、さらに新しい情報が付け加えられたのです。新たなバージョンの登場です。リドリー・スコット監督は作品の25周年にあわせDirector's Cutをバージョンアップさせるのです。

結果、リドリー・スコット監督による「Blade Runner The Final Cut (2007)」が制作されました。1992年制作の最終版(Director's Cut)に手を加えた形で制作が進められました。
オリジナルのネガ・フィルムはデジタルスキャンされ、最新のデジタル技術で撮影時のミスを修正しています。特に特撮シークエンスは、丁寧にレストア作業が行われました。監督が必要だと感じたシーンは、新たに撮影が行われました。
音響は5.1チャンネルのドルビーデジタルにリマスターされました。

以下が大きな変更点です。
・北米公開版で削られていた残酷なショットの復活
・ブライアンとデッカードがNexus6について語るシーンの追加
・デッカードがヘビ売りのハッサンと会話するシーン。この映画を嫌いなハリソン・フォードではなく、ハリソン・フォードの息子の口元を新たに撮影し、父親の声をリップシンクさせている。
・チャイナタウンの追跡シーンに(1)からショットを追加
・ユニコーンのシーンをレストア
・デッカードがゾーラを追い詰めるシーンで、スタントマンにより新たに撮影されたショットを追加
・バティがタイレルに詰め寄るシーンで、台詞を「I want more life, fucker.」から「I want more life, father.」に変更。撮影時に2バージョン収録しており、Fatherバージョンは(1)と(5)でかつて使用された。

さて、皆さんは1つの映画に何故沢山のバージョンが存在するのか不可解な思いに捕らわれたと思います。細かな変更をして、その度にバージョン数が増えていく・・・
これにはいくつかの要因があります。まずは、編集権が誰にあるかということです。通常、映画の全体を統括するプロデューサーは、最終的な編集権を有します。
監督が自分で編集したバージョンがプロデューサーに認められると、それが劇場で公開されます。この場合は、バージョンが1つしか世に存在しないということになります。
しかし、おおくの作品の場合は、監督が編集したバージョンをプロデューサーが認めず、変更を施してしまいます。理由は「稼ぐため」です。映画が長いと1日に劇場で上映する回数が減り、入場者数も減ってしまいます。よって映画は2時間以内におさめたいのがプロデューサーの基本的な考え方です。さらにたくさんのお客さんに満足してもらうため、監督の編集したバージョンを試写し、お客さんの反応を見てプロデューサーが編集し直すのです。
「ブレードランナー」は(1)の試写で、お客さんがわかりにくいということが分かったので、ナレーションを追加しました。さらにエンディングが暗いという理由で、明るい終わり方に変更されました。
このプロデューサーの作業は、お客にとっては良いことだったりします。実際、私は全バージョンで一番(2)のプロデューサー・カットが好きです。

しかし、監督自身は納得いきません。普段なら監督編集バージョンは、スタジオの倉庫に眠り二度と表に出ることはないのです。
プロデューサーと監督の編集における確執については「未来世紀ブラジル」について書かれた「バトル・オブ・ブラジル」に詳しく書かれています。

つぎにややこしくしている問題は、作品と監督のその後、です。
作品が評価されたり、監督が有名になると、ファンはそれらについて詳しく知りたくなります。作品には監督が真に望んだバージョンが存在するらしい、という噂はすぐに広まっていくのです。熱狂的なファンのいる「ブレードランナー」、そして監督として成功していったリドリー・スコットの発言力が強まり、過去のバージョンを見たいという要求が強まって監督版が公開されました。

別バージョンを公開すると、スタジオは思いもかけず儲かることを発見します。
そして、次から次へと様々なバージョンが公開され続けてきました。

そんな裏事情がありながら、「ブレードランナー」ファンの私はこの現象を25年間、楽しみに追いかけてきました。「Blade Runner The Final Cut (2007)」も早速デジタル上映で鑑賞してきました。とても美しく生まれ変わった「ブレードランナー」を映画館のスクリーンで再び体験できるたのは夢のようでした。20年近く前に子供だった私が見た時の印象とは違った見方ができたのも嬉しい誤算でした。とにかく新しい発見がたくさんあり、作品の素晴らしさを改めて思い知らされました。

映画は1回見て終わり、と思っている方がおおいでしょうが、25年もかけて1本の映画を楽しめることもあるんです。

これに近い体験ができる作品がいくつかあります。ジョージ・ルーカスの「スターウォーズ」シリーズと「機動戦士ガンダム」シリーズです。それぞれにいくつもバージョンが存在し、それぞれにファンがいて、長年盛り上がっています。

2007年12月には、1,2,3,6,7の5バージョンが入ったDVDボックスが発売されます。ブルーレイディスクやHDDVDでの発売も予定されています。
特に(1)のリサーチ試写版は、史上初めてのリリースとなります。私もこれで全バージョンをやっと手に入れることができます。

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「ブレードランナー」論序説 (リュミエール叢書 34)

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tomoart

ディレクターとプロデューサーの話、勉強になりました。トラバさせていただきますm(_ _)m。
by tomoart (2007-12-02 18:28) 

Silvermac

ドジョウは何匹もいるのですね。w(^_^)ンー?ナニナニ。
by Silvermac (2007-12-02 21:39) 

チャッピィー

こんばんは。
nice!だけ押してコメントが遅くなりました・・すみません。
先程は、ブログに訪問頂き有り難う御座いました。
アメリカ映画  凄い詳しいですね・・・
此からも宜敷 お願いします。
by チャッピィー (2007-12-02 22:12) 

non_0101

こんばんは。
7バージョンもあるなんて凄い作品です!
偉大な作品はファンに支えられて成長していくのですね~
by non_0101 (2007-12-02 22:44) 

SAKANAKANE

原作者が好きなので、文庫本で揃えていますが、すっかりメジャーになったお陰で、やはり複数の翻訳版が存在したりします。
by SAKANAKANE (2007-12-02 22:49) 

ほほ~、僕も不思議に思っていたのですが、バージョンがたくさんあるのにはそんな理由があったのですね…受け売りで語れそうです。φ(◎。◎‐)メモメモ
by (2007-12-02 22:51) 

DSilberling

tomoartさん、トラックバックありがとうございます。
by DSilberling (2007-12-02 23:10) 

DSilberling

SilverMacさん、こんにちは。
同じドジョウですけど・・・(笑)
by DSilberling (2007-12-02 23:11) 

DSilberling

チャッピィーさん、宜しかったら過去記事も読んでみてください。
by DSilberling (2007-12-02 23:12) 

DSilberling

nonさん、こんにちは。
全てのバージョンをDVDで見比べることができることも面白いですね。
by DSilberling (2007-12-02 23:13) 

江戸うっどスキー

とても、勉強になりました。
制作の裏側など知る由も無いので^^;
見比べるのも面白そうですね。
by 江戸うっどスキー (2007-12-02 23:14) 

DSilberling

SAKANAKANEさん、こんにちは。
今後も様々なバージョン違いが増えてくるのでしょうね。
by DSilberling (2007-12-02 23:14) 

DSilberling

電人Mさん、こんにちは。30周年記念版バージョンがでたりして・・・
by DSilberling (2007-12-02 23:15) 

サダー

スターウォーズが1977年に公開されたとき、リドリースコットもそれを観てショックを受けたとか言っていたと記憶しています。
直後にエイリアン、そしてこのブレードランナーときているのはやはりスターウォーズに対する彼なりの答えなんではないかと。
リプリーやデッカードはルークやハンソロとは随分違うヒーロー(ヒロイン)に見えますし、作品を覆うダークさはSWの対極とも見えます。そういう意味でむしろアンチSWがイマジネーションの原点であるとすら思えます。

ブレードランナー以降はSF監督と言うレッテルを嫌ってSFに触らないと言われてますが、ルーカスと違うのは成功体験に酔わなかったところでしょうか。ちょっと年上だったからか。
そういうところはさすがなのですが・・・・10年に一度BRに触るのはちょっと後悔しているのかもとか勘ぐっちゃいます・・・(^^) SFやっときゃ良かったって。(笑)
by サダー (2007-12-02 23:38) 

花火師

ブレードランナー 大好きな作品です。
何度も見て、何度も考えさせられました。見るたびにいろんな印象があってとても面白い作品だと思っています。
 新宿のマルイシティでやるって情報を見てどうしようか悩んでます
by 花火師 (2007-12-03 00:31) 

びっけ

ハリソン・フォードの息子の口元を撮って・・・というエピソードには驚愕でした。
そうかぁ・・・、ハリソン・フォードは『ブレード・ランナー』が好きではないのですか・・・。
複数バージョンが存在する理由など、いつもながら、DSiberlingさんの博識には感嘆します。
★ 実は私は暗いエンディング(デッカードもレプリカ?)の版が好きだったりします。(笑)
by びっけ (2007-12-03 00:54) 

julliez

ブレードランナー、子供心に見たときからとても印象的でファンタジックでつかみどころが無く不思議な映画のイメージがあります。
そうだったのですね。
最近、何でそんなに色々なバージョンがあるのか不思議に感じていた所だったのでスッキリしました。
ありがとうございます。
by julliez (2007-12-03 02:03) 

BOOMERANG

 いつもながら読み応えのある記事を書いてくださってありがとうございます、毎回楽しみにしています。
 今では簡単に見られないブレードランナーのDVD BOX楽しみにしています。
by BOOMERANG (2007-12-03 02:57) 

たいちさん

私の知らないバージョンの裏事情があるんですね。大変参考になりました。
by たいちさん (2007-12-03 12:28) 

かおり

DSiberlingさんこんにちは^^
昨日 ちょうど試写会の宣伝をテレビで見ましたよ♪
実はこの作品も観たことが無かったりします(笑)
でもこの記事を読んだら確認しなきゃ気がスミマセンね~♪
海外の作品ではラストシーンにいろんなパターンを作っている
と言う話は以前から聞いて知っていましたが
カットしたり付け足したりいろいろやっているんですね・・・?
その辺の”事情”に関してはここまで解説してもらったことは無かったので
いつもながら、大変勉強になりました★
ちなみにガンダムは今、30代前半の友人がいろんな関連本を
ドカッと貸してくれているので読んでます
最初のシリーズは私も見てましたよ!
by かおり (2007-12-03 13:44) 

RISUCO

はじめまして
ご訪問&nice!ありがとうございました
ウチの夫も「ブレード・ランナー」面白いって言ってました
夫に「ブレード・ランナー」を勧められているのに
ずっと観ていないことを思い出しました。
反省・・・
近いうちに観ます!!!
by RISUCO (2007-12-03 15:33) 

DSilberling

サダーさん、こんにちは。
スコット監督は、SFないですねえ。
新作のアメリカン・ギャングスターは、かなり名作ですよ。
by DSilberling (2007-12-03 19:25) 

DSilberling

花火師さん、こんにちは。
「ブレードランナー」を大画面で見るチャンスです。
直ぐに映画館へ!
by DSilberling (2007-12-03 19:26) 

DSilberling

びっけさん、そういう意見がでるのも、複数バージョンが公開されたからですね。実はおおくの映画に最低2バージョン存在します。あまり好きになれなかった映画にももしかしたら好きになれるバージョンがあるかも、と思うだけでワクワクしますね。
by DSilberling (2007-12-03 19:27) 

DSilberling

julliezさん、私は、歳をとるほどにこの映画の素晴らしさに気付かされます。1つの映画を何回も見るという行為も面白いですよ。
by DSilberling (2007-12-03 19:29) 

DSilberling

BOOMERANGさん、こんにちは。
いえいえ、皆さんに少しでも映画を楽しんで戴きたいだけです・・・
by DSilberling (2007-12-03 19:29) 

DSilberling

たいちさんは、どのバージョンを見たのでしょう?是非別バージョンも見てください。
by DSilberling (2007-12-03 19:30) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。
「ガンダム」は12月に発売される劇場版がおすすめです。
今発売中の劇場版DVDは見ないでください。
史上最も酷い改悪版ですよ(笑)。
by DSilberling (2007-12-03 19:31) 

DSilberling

chibirohさん、はじめまして!
ご夫婦で、この映画の「愛」について語ってください。
by DSilberling (2007-12-03 19:32) 

「ブレードランナー」も「未来世紀ブラジル」も好き…というか 
なんだかまた見たいような見たくないような。 
でもとにかく強烈な印象のある映画です。
そっかぁ 新しいバージョンがでたのですね。みなくっちゃ~!!
by (2007-12-03 22:41) 

Kimball

ふえー!!
7バージョンもあるというのは知りませんでした!!\(^o^)/

なは、小生は「暗い」エンディングのほうが好きです。\(^o^)/
by Kimball (2007-12-07 22:44) 

aranjues

随分前に見たっきりです。
無性に見たくなっています、今。
by aranjues (2007-12-16 17:39) 

*ぴあの*

いつも楽しいブログをありがとうございます(´∀`o)
08も DSilberling さんにとって、素晴らしい1年になりますように.。.:*☆
by *ぴあの* (2007-12-31 08:33) 

チャッピィー

・寒中お見舞い申し上げます。
昨年は、沢山お付き合い頂き有り難う御座いました。
本年は、昨年以上のお付き合い宜敷お願い致します。
健康が一番ですね・・お互いに健康に留意しましょうね。
by チャッピィー (2008-01-01 15:48) 

ひろたん

今年も宜しくね
by ひろたん (2008-01-04 22:49) 

ブレードランナー だいだい大好きな映画です。
ハリソン・フォードに惚れ込んだのもこの映画からです。
バージョンが多いので、DVDのどれを買ったらいいのか
わからなくなっていましたが、こちらの丁寧な説明で
よーく分かりました。
ありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
by (2008-01-06 00:37) 

春分

おおよそのことを知っていましたが、これだけきちんとまとめた文は読んだことがありませんでした。とても参考になりました。私も最初の公開(もちろん日本で)の際に、すばらしい内容(シド・ミードによるビジュアル、ハリソン・フォードよりインパクトのあったルトガー・ハウアーのロイ。そしてレイチェル他、あるいは血の表現)にもかかわらず、エンディングに不満がありました。
書くと長くなるので、ここまで。前後しましたが、私のところにもいらして頂きありがとうございました。
by 春分 (2008-03-09 13:48) 

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