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パンズ・ラビリンス [ヨーロッパ映画]


Pan's Labyrinth

久しぶりの更新です。
今回は、第79回アカデミー賞で注目され、世界中で数々の賞を受賞したスペインとメキシコにより制作された傑作を紹介します。

<監督>
監督のギレルモ・デル・トロは、メキシコ出身で、子供の頃から映画好きで、特殊メイクで有名なディック・スミスの元で映画制作の仕事を始めました。そして長い間、特殊メイクという立場で映画業界にいた後「クロノス」(1992)で映画監督として仕事を再スタートしました。
「クロノス」で演出力と特殊造形の使い方に評価を得たデル・トロは、「ミミック」(1997)の監督を依頼されます。「ミミック」の仕事を無事にこなした後、彼は、そうしても映画化したい漫画「ヘルボーイ」に着手します。主演は、ロン・パールマンしかいないと確信していたのですが、出資者から理解が得られず、このプロジェクトは頓挫してしまいます。
そこで彼は、自身の企画でスペイン内戦下の少年を描いた「デビルス・バックボーン」(2001)を映画化します。この映画は地味ですが映画業界、スペインで絶賛されました。
「ブレイド2」(2002)を職業監督としてこなし、遂に監督として地位を築いたデル・トロは「ヘルボーイ」(2004)を完成させます。「ヘルボーイ」は、原作ファンから絶大な歓迎を受けヒットします。そしてDVD売り上げはかなりの数字となりました。
こうして、着実に映画監督、そして脚本家として成功してきたデル・トロは、風貌からもアメリカ以外からの成功した監督ということからも第2のピーター・ジャクソンと呼ばれています。
そのギレルモ・デル・トロ監督が、「デビルス・バックボーン」依頼、スペイン内戦を舞台にした映画に挑戦したのが、本作「パンズ・ラビリンス」です。

<スペイン内戦>
スペイン内戦は、日本ではあまり知られていないですが、世界的な悲劇のひとつです。1936年、スペインで起きた内戦でアサーニャ率いる人民戦線政府と、フランコ将軍を中心とした反乱軍が争いました。世界の国々はこの内戦に介入をしないことを表明しましたが、結局各国の思惑に巻き込まれ、結果第2次世界大戦の前哨戦という意味合いとなっていきました。この内戦で恐ろしい経験をしたのは、なんの罪もないスペイン国民でした。国内の死者は20万人近くとなり、約50万人が難民となってフランス国境に押し寄せました。この内線でスペインは壊滅的な打撃を受けたのです。

映画は、このスペイン内戦下1944年と設定されており、舞台は内戦後半のゲリラ線が始まったピレネー山脈あたりだと推測されます。

<ファンタジー映画>
「パンズ・ラビリンス」は、悲惨なスペイン内戦で父親を殺された母カルメンと子オフィリアが主人公です。母は、反乱軍のビダル大尉と再婚し、大尉の赴任する山の中の軍の砦に連れてこられます。そこでは、辛い辛い生活が始まります。
特にオフィリアは、義父からの愛も受けられず、母の容体が悪くなるにつれ孤独になっていきます。そこに、妖精が現れるのです。そして妖精に連れて行かれた迷宮には、パンと呼ばれる牧羊神がおり、オフィリアこそが自分たちの王女様だというのです。オフィリアは自分が真の王女かどうか3つの試練に挑むことになります。

そして、現実の耐え難い日々、そしてパンとのファンタジーの世界の2つのストーリーがダイナミックに始まっていきます。映画は、ファンタジーになりすぎることはなく、ベースは、辛い現実の世界です。そのなかに鮮やかなファンタジーの世界が描かれ、観客は一気に映画に引き込まれていくのです。

ファンタジー映画ということで「ナルニア物語」や「ロード・オブ・ザ・リング」「ダーク・クリスタル」と同じジャンルだと思われがちですが、実際はこれらファンタジー映画とは趣が異なる作品となっています。

<完成後>
映画は、2006年のカンヌ映画祭でプレミア上映されました。映画はスペイン語で制作されたため、英語字幕、フランス語字幕で上映されたにもかかわらず、上映後22分にも及ぶ長い長いスタンディング・オベーションが続きました。この映画を初めて見た観客は心の底から感動したのでしょう。賞賛は、カンヌにとどまらず、世界中に飛び火していきます。
アカデミー賞を含む世界中の映画祭で賞を多数獲得し、各国の映画評は全て好意的、さらに一般の観客が投票する人気投票でも高得点を得ます。Internet Movie Databaseでは、オールタイム・ベスト250で47位でした。

日本では、2007年9月29日に単館上映という形で公開されました。
これほど世界中で絶賛され、ヒットしたにもかかわらず公開規模により日本ではほとんど知られないまま映画公開が終了します。これにはいくつかの問題があります。日本映画業界は、現在邦画の力が強く、洋画がヒットしない状況にあります。そんな中、洋画はメジャースタジオ映画ばかりが公開されるのです。ソニー・ピクチャーズの「スパイダーマン」、ディズニーの「パイレーツ・オブ・カリビアンパラマウント・ピクチャーズの「トランスフォーマー」など、ハリウッドスタジオ作品以外は公開されなくなっています。「パンズ・ラビリンス」はスペインとメキシコの映画です。こういうスタジオ映画以外の名作は、かつては、日本ヘラルド映画や東宝東和など独立系映画配給会社によって日本公開が行われていましたが、こういうスタジオ以外の会社は倒産するか統合されてしまい、日本にほとんど存在していません。
「パンズ・ラビリンス」はCKエンターテイメントという小さな配給会社が、なんとか日本公開しているに過ぎないのです。CKエンターテイメントが、小さいながらも日本で本作を公開したことには賞賛します。しかし、宣伝費もプリント費もないなか、この作品が日本でおおくの人に指示されずひっそりと終わっていくのはとても残念です。

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ヘルボーイ


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チャッピィー

こんにちは・・
内容の濃い素晴らしい記事ですね・・・
先程は、ブログに訪問頂き有り難う御座います。
此からも宜敷 お願いします。
by チャッピィー (2007-11-23 14:24) 

non_0101

こんにちは。
公開前から話題だったのに、本当に館数が少なくて残念ですね。
公開が始まった頃に観ようとしたら、満員で入れませんでした。
ようやく今週、時間が合って観て来たところです。
大きな画面で観れて良かったと思うようなインパクトのある作品でした。
by non_0101 (2007-11-23 15:07) 

はじめまして。
この映画には興味があったし話題だったので観ましたが
期待どうりというか期待以上に面白く心に残りました。

素晴らしい解説で、ついついいろいろ読んでしまいました。
また参考にさせて頂きます。
by (2007-11-23 15:26) 

DSilberling

チャッピィーさん、こちらこそ宜しくお願いします。
by DSilberling (2007-11-23 15:52) 

DSilberling

nonさん、こんにちは。
そうですね、大画面で見られるのは今しかないかと・・・
パンフレットの出来が悪く残念でした。
by DSilberling (2007-11-23 15:53) 

DSilberling

HEADMAXさん、こんにちは。
こういう素晴らしい得画を見る機会がなくなってしまうのが残念ですね。観客も映画を見る目を持たないと行けませんね。
by DSilberling (2007-11-23 15:54) 

お久しぶりです。また記事が読めてよかった。
知らない作品です・・・
by (2007-11-23 17:04) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。
海外に行っていて更新できませんでした。
この映画、今年のベストです。是非見てくださいね。
by DSilberling (2007-11-23 17:12) 

SAKANAKANE

初めまして。拙ブログにご訪問&niceを、アリガトウございました。
ここしばらくは、映画を見ていませんが、良い作品は本当に素晴らしいですよね。
by SAKANAKANE (2007-11-23 17:24) 

Labyrinth

DSilberlingさん こん!
いつもnice!をどうもありがとうございます。
おっ! と思って コメントだけにしましたが・・・ (;^_^A
実はまだ観ておりませんので d^^; 
観てきてからジックリ読ませて頂きたいと思いまする~
前から興味津々だったので、とても楽しみです!
by Labyrinth (2007-11-23 17:40) 

Kimball

いつもながら、また、素晴らしい映画を
ご教示頂きありがとうございます!!

きっと、「TVのかみさま」が、スカパーの映画専門
チャンネルのどこかでみせてくれることを
祈っています。\(^o^)/
by Kimball (2007-11-23 18:47) 

こんにちは。
いつも興味深い記事をありがとうございます。
勉強不足でこの監督も映画も初耳でしたが、この記事を読んでギレルモ・デル・トロ監督に興味がわいてきました。
他の作品もチェックしてみたいと思います。
by (2007-11-23 21:25) 

coco030705

こんばんは。
すばらしい映画のようですね。ブログ仲間のあいだでも
評判を呼んでいました。DSilberling さんの記事を読んで
ますます見たくなりました。
このところ色々あって映画も行けなかったのですが、
そろそろまた映画を楽しもうと思っています。
またよろしくお願い致します。
by coco030705 (2007-11-23 21:25) 

サダー

辛い現実とファンタジーの二重世界って興味わいてきます。
見てみようと思います!

映画って産業でありながら高リスク高リターンな芸術なんでしょうね。
失敗しないために尖がった作品がなくなるのは仕方ないんでしょうけど、寂しいものがありますね。
by サダー (2007-11-23 21:59) 

お世辞抜きで。
素晴らしい記事です。
僕も観たくなってきました。

上映館は忘れましたが。
フィールド・オブ・ドリームス。
ニューシネマ・パラダイス。
極少数の映画館が、ロングランしてましたね
結局。
再評価?みたいな感じで。
ビデオで大ヒットになったと記憶してます。

なんか日本語が変。
すみません。。
by (2007-11-23 22:19) 

花火師

こういうケースは本当に多いですね。
最近、近所に映画館、といってもショッピングセンターにある例のタイプですが、近いところに合計20館もあります。すこしマイナーでもいい映画ってやつを見れるように動いてほしいなーと強く思いました。
by 花火師 (2007-11-24 01:19) 

DSilberling

SAKANAKANEさん、こんにちは。
是非映画館で映画を見てください!
by DSilberling (2007-11-24 02:51) 

DSilberling

Labyrinthさん、こんにちは。お名前と同じ映画です。
是非、映画館で!
by DSilberling (2007-11-24 02:52) 

DSilberling

Kimballさん、こんにちは。
この映画はプロダクション・デザインが素晴らしいです。
是非大画面での鑑賞をお勧めします。
by DSilberling (2007-11-24 02:52) 

DSilberling

電人Mさん、こんにちは。
デル・トロ監督は、この作品で彼の才能がやっと発揮できたんだと思います。これから彼の作品を見るのなら是非「パンズ・ラビリンス」から見ることをおすすめします。
by DSilberling (2007-11-24 02:54) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。
この作品は、ある程度映画を見ている方ならきっとクオリティの高さを実感できるはずです。DVDやSD画質だと映画の演出意図が消えてしまいますので、劇場での鑑賞、あるいはHD放送で映画を見てください。
by DSilberling (2007-11-24 02:55) 

DSilberling

サダーさん、こんにちは。
ビジネスという側面から見ると映画はハイリスク・ハイリターンです。投資としてはお勧めしません。
そんな難しいビジネスですが、デル・トロは見事に両立しています。
by DSilberling (2007-11-24 02:57) 

DSilberling

RONさん、ありがとうございます。
シネスイッチ、シネマスクエア東急など名画座が頑張っていたのは20年前です。今はシネコン&メジャー映画が中心となり、隠れた名作は本当に隠れて誰にも知られないという悲しい状況です。
アートハウスの映画も頑張って欲しいものです。
by DSilberling (2007-11-24 02:58) 

かおり

うーん・・・まったく知りませんでした^^;
世界中で”本当の意味で”絶賛された作品を観てみたいですね♪
かつては映画は2本立てが当たり前で
目当ての映画と同時に”B級”と言われる作品も楽しめました
前評判や宣伝ばかりのメイン作よりもカップリングの方が
面白いことも珍しくはありませんでしたね★
そうやって私たちは子供の頃から洋画にも親しんできたのですが
これだけ情報量の多い現代の方が”洋画に触れる”チャンスが
少なくなっていると言うことなのでしょうね・・・
単館上映と言うことになると地方都市では宣伝さえあまりなく
見逃してしまうものも多いんですねー
もったいないな・・・
by かおり (2007-11-24 16:26) 

ひろたん

最近映画はみていません
見ないといけないわぁ~と思いました
by ひろたん (2007-11-24 16:41) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。
最近は情報が氾濫しすぎて、逆に情報を取りに行かなくなってしまいましたね。
かつては、映画情報は乏しく、一生懸命名作を探したものです。
「パンズ・ラビリンス」は、日本以外ではとても人気があります。
是非見てください。
by DSilberling (2007-11-24 18:07) 

DSilberling

ひろたんさん、こんにちは。
少しでもこのブログがお役にたてると嬉しいです。
by DSilberling (2007-11-24 18:08) 

nd502

スペイン内乱といえばピカソの「ゲルニカ」の題材にもなっていますね。
それと第二次世界大戦開戦前のナチスドイツが予行演習的意味合いを
かねて軍事介入しました。
写真家ロバート・キャパを一躍、有名にしたのもこの内線です。
by nd502 (2007-11-24 23:07) 

mirai

こんばんは、初めまして。ナイスありがとうございます(^^)
映画界もいろんな流通事情があるんですね。
私は映画館でしか選べないので、こんな作品は知りませんでした。
昨日はヘアスプレーを見てきました。
楽しい映画でしたね~(^^)
by mirai (2007-11-25 01:16) 

*ぴあの*

DSilberlingさんのおかげで知ることができた私たちはラッキーですが、
素晴らしい作品が、単館上映のため あまり知られていないというのは、
もったいない話ですね‥‥。
by *ぴあの* (2007-11-25 08:54) 

DSilberling

nd502さん、こんにちは。
そうですね、恐ろしい戦争をベースに、ファンタジー映画を作る監督の力に驚かされました。
by DSilberling (2007-11-25 11:18) 

DSilberling

miraiさん、こんにちは。
そうですね、流通業界の事情で映画の選択肢がなくなっている日本の現状は問題があります。これからもよろしくお願いいたします。
by DSilberling (2007-11-25 11:20) 

DSilberling

*ぴあの*さん、こんにちは。
これからも皆さんが素晴らしい映画を見る可能性が増えるようブログ書いていきます。
by DSilberling (2007-11-25 11:21) 

たいちさん

この映画の美術部門へ、スペイン在住の私の日本人友人が参加しましたので、よけいお気に入りになっています。
by たいちさん (2007-11-26 12:36) 

キキ

こんばんは。
とても美しく、悲しく、残酷な素晴らしい映画で、2回観ましたが2回ともラストは涙が止まりませんでした。
上映館が少ないので映画館での鑑賞が難しい方もいらっしゃると思います。残念です。
by キキ (2007-11-26 18:44) 

キャンベラでもやっていたのに 見ずじまいでした~残念。
もう一回上映しないかしら~
今上映中でおすすめはありますか?
by (2007-11-26 21:18) 

DSilberling

たいちさん、こんにちは。
そうですか!この映画の美術は本当に素晴らしかったです。
尊敬します。
by DSilberling (2007-11-30 09:38) 

DSilberling

キキさん、こんにちは。
実は、この映画とても辛い辛い映画なんですよね。
内戦の悲惨さを訴えた作品です。
by DSilberling (2007-11-30 09:40) 

DSilberling

mompeliさん、こんにちは。
映画は映画館で見るのがベストです。
映画製作者は映画館での上映を前提で作っています。

お勧めの新作は近々ご紹介します。
by DSilberling (2007-11-30 09:41) 

coco030705

こんにちは。
ようやく「朝日ベストテン映画祭」でスクリーンで見てきました。
確かにDSilberling さんがおっしゃっているとおり、DVDなどでは
この映画の美術のすばらしさはわからないでしょうね。
ほんとうにいい映画でした。単館上映だったことがおしまれますね。
TBさせていただきます。
by coco030705 (2008-02-05 17:51) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。
スクリーンで見ることができて良かったですね。
by DSilberling (2008-02-05 22:41) 

Naka

映画の背景について、大変参考になりました!
日本では、小規模な公開で、本当に残念に思います。
私も映画館で観たかったです。
by Naka (2008-08-31 22:01) 

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