SSブログ

エリザベスタウン [アメリカ映画(00s)]

ELIZABETHTOWN (2005)

キャメロン・クロウ監督らしい、心温まる音楽映画の秀作です。

キャメロン・クロウは、子供の頃から音楽に興味を持ち、ロックやポップスに関して、膨大な知識を有していました。この知識は早くから注目され、15歳にして「ローリング・ストーン」誌のライターとして採用されます。彼は、高校生の頃から、記者としておおくのアーティストたちと友好関係にありました。この話は、彼の映画「あの頃、ペニー・レインと」に描かれています。この映画はほぼ彼の自伝で映画はアカデミー賞を受賞しました。

音楽ライターとして仕事を得ていたクロウは、映画の脚本を書きます。これは自分の世代が恋をして馬鹿騒ぎをするという青春映画でした。脚本家としても彼の才能は花開きます。直ぐにハリウッドに脚本がピックアップされてしまうのです。そして完成した映画が「リッチモンド・ハイ」です。映画はアメリカのティーン・エイジャーの間でヒットします。そして、映画監督をしてみないかという話が舞い込んでくるのです。

若くして映画を監督することになるキャメロン・クロウは、子供の頃から好きで覚えた知識が次々と役立っていきます。そして音楽が好きな気持ちは衰えることなく、さらにどん欲に音楽に熱中していくのです。

初監督の映画は「セイ・エニシング」(1989)。もちろん、脚本も担当しています。音楽が効いた青春映画で、アメリカでは連日ティーンエイジャーたちで満員になりました。そしてこの映画からはジョン・キューザックが出てきます。キューザックは、この映画をステップに今の地位を得たと言っても過言ではないでしょう。

1992年の「シングルス」は、複数の若者を音楽を繋いで見事に描いていきます。この映画からはマッド・ディロンやブリジット・フォンダといった若手俳優が頭角をあらわしてきました。シングルスは、サウンドトラックも話題になります。映画を見た人は、サントラを購入したくなるくらい名曲が散りばめられています。そしてそれら音楽は、メジャーなヒット曲ではなく、マイナーながら良い曲を揃えていたのでした。この選曲はクロウならではのセンスです。

それから4年後、クロウは、メジャースタジオから監督のオファーを受けます。主演がトム・クルーズの野球を巡る話です。クロウは、おおくの雇われ監督のように、ただ企画を映像化することなく自身で脚本を執筆し、作品にあう音楽を選曲していきます。そして、この映画「ザ・エージェント」は世界的に大ヒットするのです。

メジャー・スタジオで評価された監督は、大監督としていきなり地位が向上します。次は好きな映画を撮って良いのです。クロウは、ソニーピクチャーズで自伝的映画を制作します。高校生が、ローリング・ストーン誌の記者になって、有名ロックバンドの同行をする話「あの頃、ペニー・レインと」です。クロウは、主人公の成功談を描くことはせず、高校生ならではの淡い恋と失恋を見事に描きました。そしてアカデミー賞で最優秀脚本賞を受賞しました。しかし、映画は興行的に惨敗します。これにクロウは相当堪えたようでしばらく仕事ができないくらい落ち込んでしまいました。

そこに手を差し伸べたのは、「ザ・エージェント」でクロウの才能を知ったトム・クルーズでした。トム・クルーズは自分の企画の監督にクロウを抜擢します。そして、作られたのが「バニラ・スカイ」です。映画はリメイク映画なので、ストーリーなどは元の映画とほぼ同じですが、オリジナルと大きく異なるのは選曲です。ここでもクロウは自分のセンスを映画に取り入れ、成功を収めています。映画は世界的にヒットしましたが、評価はいまひとつでした。

こうして、評価が高いのに興行的にうまくいかなかった「あの頃、ペニー・レインと」。興行的にヒットしたのに評価が低かった「バニラ・スカイ」の2本を経験したクロウは、自分のアイデンティティーを探ります。そして見いだした答えは、やはり自分の好きな音楽を中心に映画を作ろうというものでした。

次回作は「シングルス」や「あの頃、ペニー・レインと」みたいな映画にしようと決意したのです。おおくのスタジオが危機感を持ちましたが、ここでクロウを支援したのは、おおくのミュージシャンととむ・クルーズでした。そして、世界中のロック、ポップス好きのファンや雑誌、クロウの映画に魅せられた映画ファンもこれを後押ししたのです。

クロウは、ケンタッキー州エリザベスタウンを舞台にした、ひとりの挫折した男の物語を書き上げます。この映画「エリザベスタウン」の主人公ドリューは、オーランド・ブルームをイメージして書いたそうです。そして、その彼に手書きの地図を渡し、アイデンティティーを探す妹役クレアにキルスティン・ダンスト想定で話を作りました。もちろん、映画全編にはシーンに適したロックが配されていました。そして実は「エリザベスタウン」もクロウの自伝的な要素が盛りこまれています。大失敗という挫折から立ち直る人生の旅は、彼の監督人生とオーバーラップしています。

映画にグリーンライトが灯り、キャスティングが始まると、オーランド・ブルームとスケジュールが合わないことがわかりました。ブルームは「キングラム・オブ・ヘブン」の撮影に入ってしまうためどうしても撮影に参加できなかったのです。そこで、おおくの若い役者のオーディションが行われました。この頃、妹役クレアは、ダンストに決まり、妹ではなくドリューの人生の旅の大きな旗振り役に変わっていました。何度か、別の俳優で決まりかけたのですが、クロウは、ブルームを諦めきれず、撮影スケジュールを白紙に戻します。そして、「キングラム・オブ・ヘブン」の撮影が終わるまで待つことにしました。ドリューの母親役ホリーにはブリジット・フォンダの実の母親であるジェーン・フォンダが決まっていましたが、今度はフォンダのスケジュールが合わなくなり。こちらは降板、代わりにスーザン・サランドンがキャスティングされました。

映画は、小規模で行われたようです。ジョン・トールの撮影は素晴らしく、ケンタッキー州エリザベスタウンを見事に描いています。そして、自然を利用した演出でクロウらしい20代の切ない恋を見事に浮き彫りにしていきます。撮影後、編集でクロウがイメージした音楽をあてはめていったところ、二人の演技があまりにぴったりとあっているのに気付き、大幅に台詞をカットし、音楽に乗せた点描が増えたそうです。よって、映画を見ているとあまりに心地よくミュージカルを見ている錯覚に陥るかもしれません。

ティーンが大人になりかけ恋愛経験が増えてくると、この映画にあるような「ちょっと大人の恋」をすることがあるかもしれません。クロウは自身の脚本でこのテーマを一貫して描く続けています。そしてそこに既成楽曲をうまく選曲するのです。この手法は彼の独壇場でしょう。誰もまねをすることができない演出方法です。

映画は、大ヒットすることはありませんでした。でも「あの頃、ペニー・レインと」のような大失敗をすることはありませんでした。サウンドトラックは世界中でベストセラーになりました。

クロウは、ハートのメンバー、ナンシー・ウイルソンと結婚しており、ウィルソンは、クロウの映画の音楽と選曲にも欠かせないパートナーとなっています。彼は、少年の頃からロックに憧れ続け、ロック歌手と結婚し、音楽映画を作り続けています。大人になり、「人生は山あり谷あり」ですが、子供の頃の意志を忘れることなく、音楽を愛し楽しんでいるようです。

キャメロン・クロウは、私の大好きな監督の一人です。今後の大ヒットはしないけれども心に響く音楽映画を心待ちにしているファンのひとりなのです。

<キャメロン・クロウの作品を購入>
セイ・エニシング

シングルス

あの頃ペニー・レインと

ザ・エ-ジェント

バニラ・スカイ スペシャル・コレクターズ・エディション

エリザベスタウン スペシャル・コレクターズ・エディション


nice!(7)  コメント(11)  トラックバック(5) 
共通テーマ:映画

nice! 7

コメント 11

キャメロン・クロウ監督の人柄がわかります。
これまた参考になりました。でも映画を見ている時間がありません・・・
時間を見つけては映画を見たい。
これからも参考になる記事をお待ちします。
by (2006-09-10 08:11) 

DSilberling

nekoさん、nice&コメントありがとうございます。クロウの映画は、日本では見過ごさせがちですが、名作がおおいですよ。これから秋の夜に鑑賞するのが良いと思います。
by DSilberling (2006-09-10 10:50) 

Naka

こんにちは。
私の唯一観たクロウ監督作品「あの頃、ペニー・レインと」は、
大好きな作品です。サントラも購入しました!
クロウ監督について、興味深いお話をありがとうございます。
これから、いろいろ観てみたいと思いました。楽しみです!!
by Naka (2006-09-10 14:35) 

DSilberling

Nakaさん、こんにちは。「あの頃、ペニ・レインと」は、私の人生ともダブるところがあり、私的に好きな映画の1本です。ティーンの微妙な心の変化を見事に浮き彫りにする演出と、それを後押しする音楽が記憶に残りますね。

是非「エリザベスタウン」をご覧になってください。きっと同じような気分になれると思います。
私は、いつか、エリザベスタウンを訪ねてみたいです。
by DSilberling (2006-09-10 15:45) 

TaekoLovesParis

「あの頃ペニーレインと」は、グルーピーじゃなかったけど、私もロックが大好きだったので、よくわかる話で大好きでした。何よりもケイト・ハドソンがかわいくて、音楽もなつかしく。。そして「シングルス」も同じアパートに住むマット・ディロンとブリジット・フォンダ。青春そのものという感じでよかった。2本ともだれるところがなく、ポンポンポンと話がすすんでいく所が監督のうまさなんですね。
ペニーレイのメガネのライターくんが、監督の若い頃とは知っていましたが、
その後、シングルス、ザ・エージェント、バニラスカイが同じ監督とは、驚きです。
エリザベス・タウンは今をときめく2人の出演の青春映画なので、私の年代の見る映画じゃないかと、思って見てなかったのですが、Silberlingさんのおすすめなら見ます。
by TaekoLovesParis (2006-09-12 08:04) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。クロウの映画結構見ていらっしゃいますね。
日本ではなかなか理解してもらえない地味な内容なんですが、実は奥深いんです。
「エリザベスタウン」も賛否あると思いますが、アメリカの田舎の人情と恋愛がうまく絡み合った映画です。是非見てくださいね。
by DSilberling (2006-09-12 08:20) 

KANAchanMaMa

往年のジェーン・フォンダ ファン…世代ですので、ジェーン・Fの母親役も 見て
みたかったです。正直、この映画の 良くない評・ブログ記事の感想等を 読んで
いるのですが、観たくなりました~!(*^^)v
by KANAchanMaMa (2006-09-17 22:01) 

DSilberling

KANAさん、こんにちは。クロウの映画は、ちょっと玄人受けする内容なので、映画ファンや音楽ファン以外の方には理解しやすいわけではありません。アメリカでは、こういう映画、きちんと評価されるのですが....。
私は音楽の選曲だけでもかなりノックアウトされてしまいます。
by DSilberling (2006-09-17 22:11) 

まなてぃ

DSilberlingさん、こんばんは、の、はじめまして。
コメントをいただき、ありがとうございます。(^^)
こちらの記事を読んで、クロウ監督の映画で流れる選曲のよさの理由が
わかったような気がしました。とても楽しい内容のブログでした。
また読みにうかがわせていただきますね。
by まなてぃ (2006-10-01 23:10) 

DSilberling

まなてぃさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
映画って、ちょっと見方帰るだけで面白くなったり、興味がわいたりするんです。
私は、皆さんに少しでも映画を楽しんでいただけると嬉しいです。
これからも宜しくお願いします。
by DSilberling (2006-10-02 09:46) 

(cis)

DSilberlingさん、こんにちは。
こちらからご挨拶もせずにトラックバックしたのですが、
ご丁寧にコメント頂いて嬉しかったです。
私は映画にあまり詳しくないので、時々参考にさせて頂きますね!
by (cis) (2006-12-11 12:19) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 5

スカーレット・ヨハンソンiTUNES & iTV ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。