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ユナイテッド 93 [アメリカ映画(00s)]


United 93

イギリス人監督が9.11テロを扱い真摯に作り上げた、真実に迫るドキュドラマ。

2001年9月11日。誰もが忘れることができない日です。この日おおくの罪無き人々がテロの犠牲になりました。事件後、様々な映像がテレビで中継され、次々と事実が明らかにされてきました。

そんな中、この事件を映画として製作し人々の記憶に留めたいと思う映画関係者が増えてきました。ただ、この事件をどう切り取りどう残すべきか、実際の行動に移す前に企画立案者は悩みそして映像化を諦めていきました。

イギリス人のドキュメンタリー作家であり映画監督であるポール・グリーングラスは、この事件を安易に扱うべきではないと考えていたようです。しかし、プロデューサーのロイド・レヴィンとミーティングを重ねていくうちにハイジャックされペンシルバニアに墜落したユナイテッド航空93便を描くという方向性を提案します。9月11日にハイジャックされた4機のうち唯一テロリストの目的を達せられなかった1機の話です。

グリーングラスは、映画の製作が見えてきたところで犠牲者の綿密なリサーチを開始します。まずは、遺族へ映画の企画に関する手紙を送り、その後犠牲者がどんな性格で飛行機になるまでどのような行動をとったのか調べ尽くしました。おおくの遺族はスタッフの真摯な態度に心を開き協力していきます。93便には日本人学生も乗り合わせていました。彼の遺族にもスタッフは何度も来日してリサーチを行ったそうです。遺族たちには、映画制作中も定期的に映画の製作状況が伝えられていきました。

93便の乗員乗客以外のリサーチも進められていきました。こちらの担当はマイケル・ブロナーです。彼はアメリカでは有名なドキュメンタリー番組「60ミニッツ」のプロデューサーです。事件の時担当していたおおくの航空管制官や軍の関係者に会い、細かなリサーチを行っていきます。こうして事件の起こったときの詳細が浮き彫りになり、9.11委員会からも貴重な事実が提供され当時の正確な実態がわかりました。

この時点で脚本が作られ、キャスティングが開始されます。映画は、いわゆる演出主体の作りではなくドキュメンタリーっぽいドラマ作りという手法が採用されます。これはグリーングラスが得意とする制作方法です。キャストは有名人を廃し、無名の役者を採用しました。容姿は実際の被害者に似るようにしたそうです。キャスティングされた俳優は、自分が演じる犠牲者の詳細を知ることになります。そしてできるだけ実在の人物になりきろうと努力しました。なかには実際に遺族と連絡を取りながら役作りをした俳優もいました。またパイロット役とCAは、実際に経験のある俳優が選ばれています。これにより圧倒的なリアリティが映画に付け加えられました。さらに管制サイドですが、こちらは本人が自分の役を演じています。今まで航空映画ではまともに管制官を描いた作品は皆無でした。今回は、本物の管制官が演じているのでとても真実みのある管制の現場が描かれています。

撮影は、きっちりとした演出をせず、即興的な演技で構成されていきました。わかっている事実はそのままに、記録に残っていない部分は、役者に委ねられました。それぞれ十分なリサーチを行っている役者は、ハイジャックされた時当人はどう行動したかを演じていったのです。

映画は、リアリティのある作品として完成します。そして犠牲者、遺族に最大限の経緯を払って制作した結果、おおくの人の心を揺さぶるドキュドラマとして観客に受け入れられていきました。アメリカでは配給会社の予想を上回るヒットを記録し、世界的にも好意的に受け入れられました。日本でもヒットしています。

そして、アメリカ人が9.11テロ描く作品がほぼ同時に完成しました。こちらは「プラトーン」のオリバー・ストーンが監督した「ワールド・トレード・センター」です。おそらく感情を前面に押し出し、「ユナイテッド93」とは対極の作品になるのではないでしょうか。アメリカでは「ワールド・トレード・センター」もヒットしているようです。果たしてアメリカ以外ではどう受け入れられるのでしょうか。


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コメント 24

ワイワイ

詳しい解説ありがとう。
by ワイワイ (2006-08-30 13:19) 

coco030705

こんにちは。
5年も前の事件とは思えないほど、生々しい記憶が残っています。
これほど綿密なリサーチが行われた映画も、なかなかないかもしれません。
怖いでしょうが、やはり見ておくべき映画のひとつでしょうね。
良い記事をありがとうございました。
by coco030705 (2006-08-30 13:33) 

かおり

感情的な作品ならば観ようと思いませんでしたが
ここまで綿密にリアルにこだわった作品ならば見る価値はありますね
いつもながら丁寧な解説をありがとうございます♪
by かおり (2006-08-30 15:46) 

DSilberling

ワイワイさん、こんにちは。これからも宜しくお願いします。
by DSilberling (2006-08-30 16:44) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。この映画、Must See Filmです。この手のドキュドラマはなかなかお目にかかれませんので映画としても見ておくべきですよ。
by DSilberling (2006-08-30 16:45) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。この映画、テロリストの動機を描いていないところも優れています。彼らも人間です。このあたりは、演じている役者も褒め称えられるべきですね。
by DSilberling (2006-08-30 16:46) 

ユナイテッド 93は予告編は見ました。いろいろなことがあった航空機。
撮影前も撮影中も苦労が多かったのだとよくわかりました。
どんなリアルさになったのでしょうか。時間があれば観にいきたいと思っています。
by (2006-08-30 20:29) 

先日私も見てきました。
終わった後、劇場がシーンとする映画でした。
事件の当日、NHKBSの映画を見ていた私は、突然切り替わった画面に映し出されたワールドトレードセンターの火災放送をリアルタイムで見ていました。
そして2機目の突入、崩壊。
その時行われていただろう、管制官や映画の中の出来事。
早く平和になってほしいですね。
by (2006-08-30 20:45) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。これは辛い内容ですが、見ておいた方が良いと思います。こういう時代に私たちが生きているのですから....
by DSilberling (2006-08-30 21:37) 

DSilberling

ikoさん、こんにちは。私は5年間NYに住み、毎日WTCを見て通学していました。ツインタワーは何十回も訪れた場所です。そして、事件には私の大学の仲間が何十人も巻き込まれました。この映画は私にとっては人ごとではないのです。映画としても素晴らしい完成度の作品です。こういう映画が世界平和に繋がるといいのですね。
by DSilberling (2006-08-30 21:40) 

non_0101

こんばんは。
週末に観て来ました。覚悟はしていてもやっぱり辛かったです。
でも、本当に観てよかったと思います。
パンフレットに亡くなった乗客と乗員のプロフィールが詳しく掲載されていて
もう、それだけでも胸がいっぱいになりました。
と同時に、製作者の方々の真摯な気持ちが伝わってきた気がしました。
by non_0101 (2006-08-31 00:02) 

KANAchanMaMa

全遺族に了承を取って 映画化したことと、管制官が本人!…という情報は、
TV等で仕入れていましたが、完成まで貫かれた 丁寧なスタッフの心遣いには、
この記事を読んで 感嘆しました。
1日に観に行こう!…と 思っておりましたが、この記事を 鑑賞前に読めて、
良かったです♪
by KANAchanMaMa (2006-08-31 00:47) 

DSilberling

nonさん、辛かったですよね。私も同感です。日本のパンフレットもしっかりしていて好感が持てました。
by DSilberling (2006-08-31 07:55) 

DSilberling

KANAさん、こんにちは。そうでしたか。是非映画を見てください。こういう作品も「映画」です。
by DSilberling (2006-08-31 07:56) 

Naka

本当に臨場感溢れる凄い作品でした。
なるほど、完成までには、製作側の熱意と、遺族への深い心遣いがあったのですね。DSilberlingさんの記事を読み、多くの人の思いが伝わって来て
改めて感動しました。映画を観て良かったと思います。
by Naka (2006-09-02 00:28) 

DSilberling

Nakaさん、こんにちは。そうですね。この映画のスタッフは立派ですね。このような映画制作の方法もあるんですね。彼らが今まで作ってきたドキュドラマもなかなか素晴らしいですよ。
by DSilberling (2006-09-02 00:31) 

かおり

今、観て帰ってきました・・・
良く出来すぎていて、あまりにもリアルで
気持ち悪くなってしまいました
それだけ完成度が高いと言うことなのかもしれませんが・・・
by かおり (2006-09-02 00:59) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。そうでしたか。確かにあまりにリアルすぎるかも。こういう映画もあるんですね。
by DSilberling (2006-09-02 01:03) 

maya

こんなに手間をかけて製作されているとは知りませんでした。
この映画を見て、テロってどういうことだろう、どうしたらいいのだろう、ってやっぱり思いました。答えはわかりませんが。
とても、いいつくりの映画だったと思います。見て良かった。きついテーマですけどね。感情移入さえすればすぐ泣けるんだけど、そうもさせてくれないのが、よかったです。
by maya (2006-09-02 14:38) 

DSilberling

mayaさん、こんにちは。この映画は意図的に観客の感情移入をさせないように演出されていますね。これで良かったのだと思います。逆のアプローチの「WTC」はどうできあがっているのか気になりますね。
by DSilberling (2006-09-03 00:27) 

たいちさん

詳しい解説有り難うございます。
次の「ワールド・トレード・センター」の映画も楽しみにしています。
by たいちさん (2006-09-12 16:42) 

DSilberling

たいちさん、こんにちは。「WTC」どうでしょうかねえ。楽しみです。
by DSilberling (2006-09-13 08:20) 

先日はご訪問ありがとうございました。
こんなに前の映画だったんですね?
詳しく書いていただいているので、大変参考になりました。
ぜひ、トラバさせてくださいね?
by (2007-05-15 23:11) 

토토사이트

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