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NINE ナイン [アメリカ映画(00s)]

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NINE (2009)

1993年、深刻な不景気から立ち直る前のニューヨーク・ブロードウェイ。ここで1本のミュージカルがオープンしました。1992年にロンドンのウエストエンドで始まった戯曲「蜘蛛女のキス」をミュージカル化した野心作です。
ロンドンで好評を博したこのミュージカルは、ニューヨークでの前評判も良く、私は映画版「蜘蛛女のキス」がとても好きだったので早速公開したばかりのミュージカル版を見に行きました。ブロードウェイでは伝説の女優チタ・リベラが蜘蛛女役を演じると言うことで劇場は異様な熱気に包まれていたのを覚えています。ミュージカル版「蜘蛛女のキス」はジョン・カンダーとフレッド・エップの素晴らしい楽曲、リベラたち役者人の熱演でとても素晴らしかったです。その舞台で振り付けをしていたのがロブ・マーシャルという若者でした。

アメリカの田舎ウイスコンシン州出身のロブ・マーシャルは、ペンシルバニア州にあるカーネギー・メロン大学を卒業し、ニューヨークのブロードウェイで振り付け師として成功しました。彼のブロードウェイまでの人生は正に現代のアメリカン・ドリームで、1993年の「蜘蛛女のキス」で彼の仕事は高く評価されました。その後、1994年には「くたばれヤンキース」、1998年には「She Loves Me」、1999年には「キャバレー」でトニー賞にノミネートされます。

マーシャルは、今後も順風満帆にブロードウェイの演出家、振り付け師として歩んでいくのだろうと思っていたところ、いきなり映画監督へ転身するというニュースが入ってきたのです。これには当時の舞台ファン、映画ファンは驚きました。しかしマーシャルが監督する作品が「シカゴ」であることで誰もが納得したのです。
マーシャルは自他共に認めるボブ・フォッシーの大ファンです。ボブ・フォッシーは、舞台の演出家・振り付け師であり、その後映画監督に転身しています。そしてフォッシーが企画して実現しなかった「シカゴ」の映画化を実現するにはマーシャル以外考えられないのです。

大きな気体を背負って、マーシャルは映画版「シカゴ」を監督します。フォッシーは主人公をマドンナで企画していましたが実現せず1987年に他界しました。マーシャルは主人公にレニー・ゼルウィガーを抜擢、脇にキャサリン・ゼタ=ジョーンズやクイーン・ラティファを配置して素晴らしい作品に仕上げました。なんとこの「シカゴ」は2002年のアカデミー賞12部門にノミネートされ、作品賞を含む6部門で受賞してしまいました。ゴールデングローブ賞でも作品賞を含むメインのカテゴリーを制覇します。
マーシャルは、舞台で評価されただけでなく映画でも最速でトップ評価されてしまいました。

前置きが長くなりましたが、そのロブ・マーシャルが「Memories of a Geisha」の次に映画監督として選んだのがこの「NINE」です。

皆さんはフェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」(1963)という映画をご存じでしょうか?「道」(1954)、「甘い生活」(1959)などで有名なイタリア人監督の自伝的な映画です。彼はそれまで8本映画を撮っていて9作目の手前に自身の苦悩を描いた名作です。

この「8 1/2」をミュージカル化したのが「NINE」です。フェリーニの映画を見事にミュージカル化しておりとても素晴らしい舞台です。ミュージカル版は大成功しロングラン公演が行われました。そのミュージカル版を今度は映画にしようというわけです。

なので基本的に「NINE」は、「8 1/2」とほぼ同じストーリーです。ただ、複数の女性に翻弄されるひとりの男という要素が強くなっているように思います。

この企画は2007年にヴァラエティ誌により制作が発表されました。製作出資は「シカゴ」で製作をバックアップしたワインスタイン兄弟です。「イングリッシュ・ペイシェント」(1996)、「コールドマウンテン」(2003)のアンソニー・ミンゲラが脚本をリライトし撮影を開始する予定でしたが、アメリカ脚本組合のストが起こり脚本制作がストップしてしまいます。その間にミンゲラは54才という若さで病死してしまいました。その後ストは収束しミンゲラが書き残した台本を使い撮影が開始されたのは2008年10月でした。
主人公の"女に翻弄される映画監督"グイド役には「ノー・カントリー」「それでも恋するバルセロナ」のハビエル・バルデムがキャスティングされていましたが、ストにより撮影スケジュールが変わってしまったので、バルデムは降りダニエル・デイ=ルイスが新たに選ばれました。
今回はキャスティングに苦労したようで、主役の交代劇の他にも「シカゴ」でマーシャルと一緒に仕事をしたレニー・セルウィガーとキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、役が気に入らず降板しています。
それでも、最終的にはアカデミー賞を受賞している名女優達(ニコール・キッドマン、ジュデイ・デンチ、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス)が参加を表明、イタリア映画界の大女優ソフィア・ローレンも参加するというとても豪華な俳優陣となりました。
ちなみに、キャサリン・ゼタ=ジョーンズのやるはずだったクラウディア役はニコール・キッドマンが担当しています。ペネロペ・クルスはクラウディア役でオーディションを受けましたがカルラ役になりました。マリオン・コティヤールは、ジュデイ・デンチが演じた衣装デザイナーのリリー役のオーディションを受けましたがグイドの妻のリリーとなりました。ケイティ・ホームズとデミー・ムーアもオーディションを受けましたが落ちました。

映画はシネスコの画角を最大限に活かした素晴らしい映像で撮影されました。撮影監督のディオン・ビープはとても優秀な人です。「Memories of a Geisha」のメイキングでも感心させられましたが、自然光とライティングをここまで巧みに使いこなすカメラマンは彼くらいではないでしょうか。勿論撮影後のデジタルグレーディングも丁寧に行われています。
音楽は素晴らしくミュージカル版同様クオリティがとても高いです。ミュージカル版にはないケイト・ハドソン演じるファッション記者が歌うオリジナルソングも素晴らしいです。
また、イタリアの美しい風景や60年代の美術デザインや衣装も素晴らしいです。
「NINE」は、映画が総合芸術であることを我々に視覚的に教えてくれるのです。

映画は概ね好評で、世界中の映画賞でノミネートされましたが「シカゴ」ほどの受賞と評価は得られませんでした。

私は東京のIMAXシアターで大画面&シネマスコープという贅沢な環境でこの映画を見ることが出来ました。あまりの素晴らしさにとても感動しましたが、約300人のお客さんの中で男性は私だけでした。やはり女性のほうが、芸術に敏感なのかなあと思いつつ、この映画を評価している日本人男性がきわめて少ないことに寂しさを感じました。

まだ日本は古いジェンダールールが残っているんだなあと気づかされた映画でもありました。

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コメント 9

たいちさん

ブロードウェイの本物の舞台は迫力ありますね。私は昔一度だけ観ました。さて「NINE」は観たいと思っていて見逃した映画です。機会あればDVDで観たいと思っています。ソフィア・ローレンも頑張っていますね。
by たいちさん (2010-06-16 14:07) 

coco030705

こんばんは。
俳優さんたちの降板劇がおもしろいですね。グイドにはハビエルよりダニエル・ディ・ルイスが合っているように思います。
そうそうたる女優さんたちが総出演で、キラキラと輝いていましたね。
by coco030705 (2010-06-16 21:11) 

nomame

観てきました。
やはりミュージカルシーンは映画館の大スクリーンが楽しめますね。
確かに男性客が少なかったのも覚えています。
ちょっと残念ですね。
by nomame (2010-06-17 02:10) 

non_0101

こんにちは。
音楽の美しさと女優たちの存在感に圧倒される作品でした。
ケイト・ハドソンの曲はオリジナルだったのですね。
あの舞台のシーンは楽しかったです☆
by non_0101 (2010-06-17 12:42) 

DSilberling

たいちさん、こんにちは。
ブロードウェイやウエストエンドのミュージカルは本当に質が高いですね。先日「アダムスファミリー」を見てきましたが見事でした。
by DSilberling (2010-07-09 18:10) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。
私もダニエル・ディ・ルイスが気に入っています。
とても似合っていました。
by DSilberling (2010-07-09 18:12) 

DSilberling

nomameさん、こんにちは。
こういう映画も見て映画の楽しみの幅を広げて欲しいですね。
by DSilberling (2010-07-09 18:13) 

DSilberling

nonさん、こんにちは。
本当に女優さん達が素晴らしかったですね。
シネマスコープの映像と照明も素晴らしかったです。
by DSilberling (2010-07-09 18:13) 

vitamin_b2

DSilberlingさん、こんにちは^^

訪問&nice!ありがとうございました。
ここのところ忙しく、ろくに映画をみてませんが、たまには家でゆっくり見たいものです^-^;
by vitamin_b2 (2010-07-12 12:56) 

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