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3D映画がやってきた [映画技術]

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3D映画がやってきた!

2010年は3Dの年でした。「アバター」の登場で世の中は見事に3D映画へと流れました。たった1本の映画が世界の映画産業を一変させてしまったのです。そして数多くの3D映画が制作され、ある作品は成功し、ある作品は失敗しました。

今回は、この3D映画、そしてIMAXについて記していこうと思います。

3D技術は映画が発明されて直ぐに基本原理が開発されています。当時は右目と左目の視差原理を利用するという根本的な概念は理解できていたのですが、立体映像をフィルムで撮影してそれを観客に見せるには、技術的な部分で問題点がおおかったようです。それでも祭りやイベントなどでは、立体映像を見せる興業などが流行っていたそうです。

ヒッチコックの目指した3D
時代は移り、1950年代に3D映画ブームが起こりました。当時は大きな35mmカメラを2台同時に動かし、右目用映像と左目用映像を撮影、そして2台の映写機で上映するという大変面倒なものでした。この頃は3Dにおおくの映画会社が飛びつき劣悪なホラー映画やイベント色の強い映画が乱造されました。
そんな中、この3D技術に興味を持ったのがアルフレッド・ヒッチコックです。当時ハリウッドで急成長株だったヒッチコックは、潤沢な資金を元にクオリティの高い3Dサスペンス映画を企画します。そして3D技術を確固たるものにして、映画産業に新たなマーケットを築くべく努力します。その映画のタイトルは「ダイヤルMを廻せ!」。ヒッチコックは丁寧に全編3D撮影を行いました。カメラ2台を常に使い、フィルムも当然2倍必要となりました。そして、この困難な撮影を終え編集も行い、テスト上映に辿りつきました。
その3D映像を見たヒッチコックは、驚くべき決断を下します。「ダイヤルMを廻せ!」は、3D映画としてではなく2D映画として公開する、と。
結局、3D効果というのは、この作品には向かず、2Dで見て貰ったほうがヒッチコックの演出が伝わるということでした。おそらく「ダイヤルMを廻せ!」の技術スタッフや興業チームはとても落胆したでしょう。内容に関わらず3D映画というのは宣伝になりますし、それまでの粗悪3D映画に亜妃ってしまった観客はヒッチコック印の3D映画に飛びついたはずです。

結果、「ダイヤルMを廻せ!」は、2D公開されヒッチコックの予想通り内容が評価されヒットしました。その後、時々ニューヨークやロンドンのアートシアターで「ダイヤルMを廻せ!」3D版の上映が行われました。私は1991年にNYの小さな映画館の深夜上映会で3D版を見ましたが、確かにヒッチコックの意図は理解できました。3Dでなくても十分なのです。
50年代の3Dブームは、終わっていきます。そして暫くは3D映画があったことすら忘れ去られてしまったのです。

1980年代のブーム
その後、新たな3D映画ブームが到来します。偏光レンズというメガネをかけることで、過去の3D映画よりも迫力のある映像を見られる技術が開発されたのです。このとき、新しい技術に飛びついたのはやはりホラー色の強い映画でした。「ジョーズ3D」「13日の金曜日3-D」です。私は劇場に市を運びましたが、これはなかなか迫力があり満足度が高かったです。このブームの最大の成功作は「キャプテンEO」です。映画館での上映ではありませんでしたがジョージ・ルーカスがプロデューサーを務め、当時生活に困っていたかつての師コッポラを監督として迎え入れ、マイケル・ジャクソンを主演に迎えた短編は、大きな話題となりました。

このとき。史上初めて一般家庭用の3D再生機が発売されたのも話題となりました。テレビは普通のアナログブラウン管テレビです。再生にはVHDを使いました(VHDとは、VHSテープに変わる新しいメディアとして登場したディスク型の再生デバイスです。レーザーディスクとの競争に敗れ発売間もなく消えていきました)。私は、当時この3D再生対応VHDを購入して3D映画を家庭で楽しんでいましたが、3Dソフトがほとんど発売されず当時は困ったものでした。そのうちVHD自体が消えてしまいました。

80年代の3Dブームは、圧倒的なソフト不足のうちに終焉を迎えていったのです。

そして2010年代
世の中はデジタル時代に移行していました。
新たな3Dブームは、ジェームス・キャメロンがきっかけです。彼は新作をデジタル3Dで撮影し、デジタル3D装置で上映するという大胆な考えを発表します。撮影機材を全て新しく開発し、上映方式も全て新しくすると言うのです。この投資額は莫大ですし、劇場側がどこまで着いてくるのかわかりませんでしたが、彼の野望はどんどん広がり、誰も彼を引き留める人はいなかったのです。

キャメロンは、SONYを訪ね全く新しいデジタル3Dカメラの制作を依頼します。それは、より人間の目の構造に近いカメラです。人間は物を見るとき面白い目の動きをします。遠くのものを見るときは2つの黒目の幅は約4.5cmです。しかしものを近づけると寄り目になるのです。ものをどんなに遠ざけても黒目は4.5cm以上にはなりません。
この原理をカメラに応用したのです。カットによって2つのレンズの幅が変化するのです。これを視差と呼びます。カメラレンズの前に広がる空間に視差ポイントを決めるという新しい仕事が生まれました。ポイントより手前にある物は飛び出して見え、後ろにある物は奥行きとして見えるのです。
この技術を利用し非常に広大な奥行き感を表現することが出来るようになりました。
同時にキャメロンは健康被害についても研究します。3D映像は目から入る情報に嘘をついて脳内で立体映像を作らせます。この過程で船酔いのような副作用を生んでしまうのです。これは人によって差がありますが、飛び出す効果がおおいほど健康被害も増えることがわかりました。そこで、飛び出し効果は抑えて奥行き感を利用した立体映像を制作することを思いつきました。

約10年を費やして3Dを原理から見つめ直したキャメロンは、その全ての知識をつぎ込み「アバター」を制作したのです。

ヒットすると思った世界中の映画館は、フィルム上映機を外し、新しいデジタル3D上映機を購入して設置しました。「アバター」は、フィルムで上映されているわけではなくデジタル上映だったのです。

3Dデジタル映画「アバター」は世界中で大ヒットしました。これによりおおくの映画館が3D対応になったのです。そして、その後制作される3D映画は映画館の設備を心配する必要がなくなりました。

もうひとつ、キャメロンが変えたことがあります。それはIMAXです。IMAXというのは、普通の35mmよりもはるかに大きなフィルム(70mmフィルムを横に使う)を使い映像を撮影し、巨大なスクリーンで上映するシステムです。もともとは博覧会会場などで使われていましたが、北米ではIMX人気があり、町中にもIMAX映画館が設置され主に大自然の風景を撮影した映画を上映していました。日本にも90年代にIMAXシアターが作られ、東京では新宿、品川などに、大阪では天保山、札幌にも作られました。しかし当時は教育的なIMAX映画がおおく一般のお客さんを確保するまでに至らず2008年頃までに全てのIMAX映画館が閉鎖されてしまいました。
キャメロンは「アバター」でIMAXのデジタル3D化にも挑戦したのです。それは、通常の映画館で上映されるシネマスコープやビスタサイズではなくIMAX4:3の広大なキャンパスに3D映像を描くという挑戦です。IMAX用に別スタッフを雇ったキャメロンは、映画館で上映される3D版「アバター」とは別にIMAX版「アバター」も制作し同時に公開しました。
皆さんは「アバター」をどこで見ましたか?IMAXでご覧になられた方はラッキーです。IMAX「アバター」は、3D版を凌ぐ素晴らしい映像でした。

「アバター」は、映画業界に歴史的革新を起こしました。世界中の劇場にはデジタル上映機が導入され3D対応になったのです。そして、沢山の3D映画が制作されるようになりました。中にはただ3D映画ブームに乗っかった粗悪な3D作品が作られました(有名な例は「タイタンの戦い」「海猿3」)。ハリウッドの大物、ジェフリー・カッツェンバーグは声明を発表し、今後いい加減な3D映画を制作するのはやめようと呼びかけました。クオリティの高い3D映画をお客さんに提供することで、キャメロンが築いた3Dマーケットを維持しようというわけです。
ハリウッドでは、この意見にほとんどの映画人が賛同し、現在では健康被害に関するルールも決められ、続々と3D映画が撮影されています。

日本では、きちんとした3D映画として「3丁目の夕日3」が撮影中です。この作品は期待できます。「怪物くん」は残念ながら2D撮影を後で3D変換する疑似3Dです。今後は、映画が、きちんと3Dで制作されているのかを確認して、疑似だったら2D版で見ることをお勧めします。

あまり知られていませんが、世界初の3D連続ドラマが日本で作られました。地上波テレビでは3D番組が解禁されていないのでスカパー!でのみの放送ですが、このドラマは「アバター」チームから技術や知識を学んだスタッフが制作している本物の3D作品です。
タイトルは「TOKYOコントロール」24時間日本の空を守る航空管制官達を描いたドラマです。

「アバター」から始まった3Dブームは、過去のブームと異なり一過性ではないような感じがしています。今後は、制作者がいかにクオリティを維持してお客さんを満足させるのかにかかっています。

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アバター
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nomame

すっごい勉強になりました!
ありがとうございます!
by nomame (2011-01-26 21:20) 

tomoart

久しぶりの更新で、またやられました(笑)。素晴らしいお話、ありがとうございます!「アバター」はそういう意味でもスゴい作品だったんですね。そして「アバター」続編を作るって言う事は、映像用の3Dデータの再活用であるとともに、自分たちの働きで設置された劇場装置の再活用でもあるって事なんだなぁ。
by tomoart (2011-01-27 01:09) 

naonao

今から「3丁目の夕日3」が楽しみです。
ジェームズ・キャメロンの偉業、素晴らしいんですね。
by naonao (2011-01-27 20:57) 

jedioki

もう20年ほど前になりますが、フロリダのユニバーサルスタジオのヒッチコックをテーマにしたアトラクションで、「ダイヤルMを廻せ!」の3D版のフッテージを見た事があります。
ダイヤルMの3D映像を見ているうちに、スクリーンが歪み始めたのです。どうやら無数の何かが裏からスクリーンをつついているようです。あ、もしかして、と思った瞬間に、スクリーンが切り裂かれ、無数の「鳥」が観客席に飛び出して来ました(笑)
もちろんこれは3D映像を使った演出だったんですが、何ともはや、粋なことしてくれるよ、って感じでしたね。

by jedioki (2011-01-30 16:36) 

DSilberling

nomameさん、こんにちは。
こういう裏事情を知って映画を見ると、別の角度から楽しめると思います。
by DSilberling (2011-01-31 16:27) 

DSilberling

tomoartさん、こんにちは。
気ままに書いているブログなので、しばらく更新が滞っていました。
3Dドラマ「TOKYOコントロール」おすすめです。
by DSilberling (2011-01-31 16:28) 

DSilberling

naonaoさん、こんにちは。
ジェームス・キャメロンは、監督としてではなく業界を変化させるほどのビジネスマンでもあります。
by DSilberling (2011-01-31 16:29) 

DSilberling

jediokiさん、こんにちh。
私も見ました。あれ、面白かったですね。
by DSilberling (2011-01-31 16:30) 

non_0101

こんにちは。
勉強になるお話でした!やっぱりIMAXは別格なのですね。
「3丁目の夕日3」楽しみです。
機会がありましたら、IMAXでチャレンジしてみたいです☆
by non_0101 (2011-02-02 12:50) 

TaekoLovesParis

新宿、品川のIMAXシアター、とってもよかったのに、閉鎖になって
残念に思っていました。新宿では、ディズニーの「ファンタジア」、品川では、「ポーラエクスプレス」を見ました。吸いこまれそうな臨場感がすごかったです。「アバター」は、3Dのない映画館で見たので、今、考えると、
残念。3丁目の夕日3を楽しみにしています。
by TaekoLovesParis (2011-02-04 01:21) 

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