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周防正行 [スタッフ&キャスト]

周防正行

今回は11年ぶりに映画監督として復活した周防正行監督について記します。

「Shall we ダンス?」で、世界的に有名となった周防正行について、皆さんはどのくらいご存じでしょうか?彼はアメリカでは一番成功した日本人監督です。アメリカ人のほとんどは彼を知っています。まずは、彼の過去に遡りましょう。

周防は、1956年東京の生まれです。父親は国鉄の運転手で、天皇が乗るお召し列車の運転手を務めた優秀な方だったようです。そんな父親に育てられ、立教大学に入学します。そこで彼に転機が訪れます。在学中に蓮實重彦の映画論の講義に出席し映画について大きな影響を受けるのです。そして、映画にのめり込んでいきます。

周防は学生時代、特に映画サークルに入ることもなく、ある小劇団のスタッフをすることに情熱を傾けていました。彼は、劇団の団員にある情報を聞きます。その劇団員が出入りしている新宿ゴールデン街にあるバーに映画監督である高橋伴明が出入りしていることを知るのです。早速そのバーに出向き、高橋監督に自分をスタッフとして雇って欲しいと直訴します。

丁度、高橋プロを設立したばかりの高橋監督はすぐにその申し出を受諾します。そして周防にとっての映画人生が始まりました。当時は、ピンク映画を中心に活躍していた高橋、当然周防もピンク映画の助監督という立場で現場に参加していきました。初めての仕事は、カットがかかったら、女優にタオルを掛ける係だったそうです。そんな彼は低予算映画の制作を通じ、様々な仕事を覚えていきます。いかにフィルムを無駄にせず映画とるのか、スタッフの動かし方、キャストとのつきあい方など基本的な現場の仕事や立ち振る舞いは高橋組で実地体験をしながら学習していったそうです。中でも完成台本を作るのが得意だったようで、映画完成後、撮影したレンズまでもが書き込まれている完成台本の完成度は当時も驚かされたようです。しかし高橋監督自身は完成した映画にそれほど執着心がなかったようで、周防の作った完成台本は、そのまま倉庫に眠っていたようです。

その後、高橋監督はディレクターズ・カンパニー設立と共に高橋プロを解散します。ディレカンに誘われた周防は、それに加わらず、フリーのディレクターとして独立します。そして、ピンク映画時代に周防の面倒を見てくれた磯村一路監督が後押しして「変態家族兄貴の嫁さん」で監督ビューを果たします。この映画、徹底的に小津安二郎の映画を模倣しています。小津安二郎を敬愛している周防は、小津の映画をそっくり真似てみたいと思い立ち、このような作風になりました。よく小津のパロディやオマージュだと書かれている記事を見かけますが、そうではなく、これは完全なる模倣です。周防自身、一度だけの挑戦と心に決めていたと明言しており、事実、その後の周防の作品には小津の赤裸様なかつ直接的な影響も色合いもなく周防独自の映画表現ととなっています。
「変態家族」の初号試写の前、周防は彼の映画業界に入るきっかけとなった恩師蓮實に手紙を書きました。生徒であった自分が初めて監督として完成させた映画の初号試写への招待状です。初号当日、恩師は試写会場に足を運んでくれました。上映後に会話はできなかったそうですが、後に素晴らしい評価を雑誌に書いてくれていたそうです。この評価が人生で一番嬉しいものだったと周防は後で語っています。

「変態家族」以降は、大きな仕事になかなかありつけませんでしたが、彼は監督業以外の仕事は断り続けます。今後は「監督」と名のつく仕事以外やらないと決めたそうです。そして当時はやっていたカラオケビデオやテレビドラマの監督などをしながら生活を続けていきました。

1987年、ある制作会社から映画のメイキング番組制作の依頼がやってきます。それは伊丹十三監督の「マルサの女」という映画の密着でした。このメイキング番組の監督をいう仕事を引き受けた周防は伊丹組の現場に入り、メジャー映画の制作現場を見続けます。このとき、周防は伊丹監督から映画作りに関する様々なことを勉強させられました。そして「マルサの女」と共にメイキング番組「マルサの女をマルサする」も高い評価を得ることになりました。

この頃、大映(現角川映画)にいたプロデューサーから周防に声がかかります。桝井と名乗るプロデューサーは、自分の企画の監督をやらないかとアプローチしてきましたが、この企画は成立しませんでした。そこで、なにか新しい企画をできないかと探していたところ、ピンク映画時代の先輩である磯村の妻から「ファンシイダンス」という面白いマンガがあると提案されます。二人はこの企画を映画化することに決めました。「ファンシイダンス」(1989)は、大ヒットこそしませんでしたが、映画業界で大評判となります。そして、桝井プロデューサーと周防監督の二人組は、続いて「シコふんじゃった」(1991)を制作します。この大学の弱小相撲部を舞台にしたコメディは大反響となります。

その後、周防監督は、配給会社の東宝から宝塚歌劇団に関する映画企画の以来を受けました。東宝としては同社のもうひとつの柱である宝塚をテーマにしたコメディを作ることで相乗効果をねらったのです。周防はしばらく宝塚をリサーチします。しかし、どうしても面白いストーリーラインが描けずにいました。そんなとき、周防は、ミュージカルではなくボールルームダンスに出会ってしまいます。いい大人が変な格好をしてまじめに踊る様はとても滑稽に思え、周防はこの社交ダンスを映画にしてみようと思います。

綿密なリサーチの後、完成した台本はとても面白く、エンターテインメント映画として成立しそうでした。その頃、桝井は大映を退社し、映画制作会社を起こします。その会社設立には磯村監督、周防監督も参加し、アルタミラピクチャーズという小さな会社が設立されました。この会社の社運をかけた作品がこの周防作品だったのです。

映画は、なんとか完成し、公開直前に「Shall we ダンス?」というタイトルが決定し、公開されます。しかし、配給の東宝は、この映画がそれほどヒットするとは思わず、公開は期間限定で劇場看板すら作りませんでした。さらに公開日は、1年でもっとも客が入らない2月。これでは、ヒットする映画もヒットしない環境でした。

宣伝費も潤沢ではなく、なんとなく公開されなんとなく上映が終了してしまうと思われたのですが、「Shall we ダンス?」は大ヒットします。公開館数は増え、映画はロングラン興行になりました。これは、誰も予想していなかった事態でした。

そして、その年の日本アカデミー賞ではほとんどの賞を独占してしまいました。

その後、周防はフィルムを抱え海外に旅立ちます。そしてアメリカで英語字幕付きの公開を行います。字幕を嫌うといわれていたアメリカ市場ですが、実はそんなことはなく、面白ければヒットするのです。「Shall we ダンス?」は、アメリカで大ヒットとなりました。

当然、アメリカではアカデミー賞の外国映画部門にノミネートしようという機運が芽生えてきました。しかし、日本の閉鎖的な映画業界はこれを拒否してしまいます。この時の日本映画代表は某有名監督の映画でした。

周防はそんなことはものともせず、走り続けます。そしてリメイクの話がやってきます。このリメイクには、作品の内容だけでなく契約など膨大な労力が必要となりました。結果、リメイク版は2003年に世界公開されました。
「Shall we ダンス?」という映画を企画してから10年近い時間が経過してしまっていました。

周防は、この間「Shall we ダンス?」だけに没頭していたわけではありません。彼は新たに様々な企画に関しリサーチを続けていました。そして、その中の1つである痴漢えん罪事件について数年をかけ綿密なリサーチを行っていたのです。

「Shall we ダンス?」公開から11年後の2007年、遂に周防の新作が登場します。タイトルは「それでもボクはやってない」。今回は、コメディ色をなくし、社会派映画となっていますが、試写会の評判は上々です。

さて、この映画、どう評価されるのでしょうか。そして、次回作は何年後に制作されるのでしょうか。今後も楽しみな監督のひとりです。


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naonao

こんばんは。周坊監督の最新作「それでもボクはやってない」を見ました。すごい秀逸な映画になっていました。裁判というお堅いテーマをところどことに笑いを入れ、見やすくしていて、日本の裁判を考えさせられました。またDSilberling さんの記事にあったiTUNESのpostcastsにて監督の日本あっちこっちというのも見ました。監督のお人柄が見える映像でおもしろかったです。私もいつの間にかファンになってしまいました!!
by naonao (2007-01-19 21:19) 

DSilberling

naonaoさん、こんにちは。
新作、明日公開ですね。こういう映画が日本でヒットするようになるといいですね。
by DSilberling (2007-01-19 21:47) 

周防監督の情報は本日、知りました。いつもながら感謝の気持ち。
「シコふんじゃった」、「Shall we ダンス?」はとても感動した好きな映画です。映画館では見ず、DVDですが・・・
「Shall we ダンス?」はもう100回以上見ていますが見飽きません。作品としての完成度そして、登場人物の人間性がとてもコミカルでどこにでもいるような人が題材として見られますね。
そうそう、どこかに小津安二郎さんの作風が出ているように思えます。
明日から公開される「それでもボクはやってない」も期待してます。でも、映画館で観れそうにないです。
by (2007-01-19 22:38) 

かおり

前回も書いた気がしますが、「ファンシィダンス」以来のファンです^^
本当に稀にしかお撮りにならないので寂しい限りでした
先日久しぶりに「ファンシィダンス」を観ましたが、やはり面白い!
現在でも監督の作品でおなじみのキャストがずらりですものね♪
昔、うちに泊まるお客さんは必ずコレを見せられるという決まりがありました
あまり知られていなかった作品なのでね^^;
新作、楽しみです!
by かおり (2007-01-19 22:54) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。
映画は映画館で見てくださいね。というのも映画館で見ると、その数字がカウントされ、監督の評価が上がるからです。
今後も名作を監督して欲しいので、お気に入りの監督作は是非映画館で!
by DSilberling (2007-01-19 23:46) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。周防監督は、ほんとうに素晴らしい演出能力をお持ちですね。
新作もかなり凄いですよ。
by DSilberling (2007-01-19 23:47) 

花火師

今回の映画も面白そうですよね〜
痴漢えん罪の話のように聞きましたが・・・
いつも切り口が、「あるなーそういうこと」というところからものすごいところに発展して行く作品で楽しませていただいています。
by 花火師 (2007-01-20 01:53) 

!こちらからは映画を見れないのが残念です。真摯に良い映画を追求する姿に共感します。
by (2007-01-20 08:05) 

DSilberling

花火師さん、こんにちは。
監督は自分が驚いたことを映画化するそうです。
今回は日本の裁判制度に驚いたのがきっかけだとか。
知っているようで知らない日本の裁判、さて、どう描いているのか楽しみですね。
by DSilberling (2007-01-20 08:21) 

DSilberling

Ikesanさん、こんにちは。
この映画は、まさに「映画」ですね。
by DSilberling (2007-01-20 08:22) 

Labyrinth

こんばんは。深夜におじゃま虫です~
毎度お世話様になっております。 ありがとうございます。
周防 はsuo 「すお」なんだ とご本人が仰ってましたけれども(笑)
作品だけでなく 監督自身も不思議な魅力に溢れていますね~
しかし まだ 『Shall we ダンス?』しか観たことがないのです。
『それでもボクはやってない』 近々観て参りますね~
by Labyrinth (2007-01-21 01:22) 

DSilberling

Labyrinthさん、こんにちは。
新作は大ヒットしています。是非見てください。
ポッドキャスティング(無料)も面白いですよ。
by DSilberling (2007-01-21 02:53) 

ジジョ

周防監督にこんな履歴があったとは、、、
新作を観た後だったので、興味深く読ませていただきました☆
「それでもボクはやってない」は、
「イイ映画」というよりは「スゴイ映画」でした。
by ジジョ (2007-01-23 09:46) 

朱殷

こんにちは。はじめまして。
「nice!」ありがとうございました☆
『それボク』は、本当に丁寧に作られた映画で凄く良かったです!
実際に法律を学んでいる私たちが、
早期解決すべき問題として挙げているものを
周防監督は、真正面から偽りなく扱って下さいました。
裁判って、法律ってよく解らない…って思ってた人たちも、
これを観て現行司法制度に興味や問題意識をもってくれるといいなあと思いました。
by 朱殷 (2007-01-26 17:21) 

Gotton Factory

初めまして♪ そしてnice!ありがとうございます。
周防監督は好きな監督の1人で、ファンシイダンス以降観ています。
今回の映画もヒットするのではと思っています。
すごく取材を重ねられただろうなあと思いながら観ました。
今日、偶然堀江被告が「検察は最初から有罪にするつもりだ」という発言をしていて、偶然とはいえなんてタイムリーなと思いました。
この映画、たくさんの人に見ていただきたいと思います。
by Gotton Factory (2007-01-26 21:01) 

DSilberling

ジジョさん、こんにちは。
少しでもお役に立て、嬉しいです。
凄い映画は、ニューヨークとオックスフォード大学でも上映され、
どちらも高い評価を得たようです。
次回作が楽しみですね。
by DSilberling (2007-01-27 08:31) 

DSilberling

朱殷 さん、こんにちは。本当ですね。きっとこの映画がきっかけで日本が変わっていくのではないでしょうか。
形式にばかり拘る日本の裁判はちょっと変ですね。本来ならば被告人のことをもっと親身に考えるべきですね。
by DSilberling (2007-01-27 08:33) 

DSilberling

Gottonさん、こんにちは。
映画は大ヒットだそうです。200館の上映規模で興行収入15億円超えは凄いことです。
最近は、明らかに犯罪を犯している人がこの映画に乗っかってしまうことが残念です。でもそれだけ世の中に影響しているんですね。
by DSilberling (2007-01-27 08:35) 

non_0101

こんばんは。
「それでもボクはやってない」はすごい作品ですね。かなり驚きました。
周防監督という人が真実を追う目を持っているからこその内容ですね。
こういう現実を見せ付けられると、正直何を信じたらよいのかと悩むほどです。
でも、だからこそ観て良かったと思います。
前に試写会で観た時は、あまりの展開に驚きとショックで終わってしまったので
もう一度、落ち着いてチャレンジしてみようと思っています☆
by non_0101 (2007-01-28 00:27) 

DSilberling

nonさん、こんにちは。
是非冷静に「それボク」見てください。
実は、見れば見るほど様々な問題が見えてきます。
by DSilberling (2007-01-29 23:50) 

sysy_sysy

DSilberlingさん。こんにちわ。
ちょっと前(1月23日)に、わたしが書いた記事「周防監督!☆五つ! 」を読んでもらって、nice!をありがとうございました。

周防監督の映画、「シコふんじゃった」から後の3本しか観てないんですが、「なんとなく伊丹十三の雰囲気もあるなぁ」と思ったりしてたら、接点があったんだなあと、この記事でわかりました。もちろん、伊丹監督とは全然別世界、周防監督独自の世界が展開されているわけですけど。

記事のタイトル拝見してましたら、そそられるのばかりですよ。過去記事も楽しみです。それでは読ませていただきます。
by sysy_sysy (2007-02-01 14:06) 

宗博

はじめまして コメントいただきありがとうございました。

すごい色々なことをご存じですね。びっくりしました。
記事で気になったのが、周防監督の「それでもボクはやっていない」なので、お邪魔しています。

でも、まだ観ていないんです。TSUTAYA DISCASで一番に予約しているのになかなか届かないのです。

また、映画を観るときに参考にさせていただきます。
by 宗博 (2007-09-23 14:49) 

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