SSブログ

サイコ [アメリカ映画(~1979)]


Psycho

アルフレッド・ヒッチコックによるサスペンスの傑作。

ヒッチコックは、映画の神様と言われるほど現在の映画に影響を与えています。彼手腕は、脚本作りから、撮影、編集、そして宣伝に至るまで、斬新で革命的だったからです。戯曲が全てシェークスピアのアレンジだと言われるように、現在の映画はほとんどがヒッチコックのアレンジだと言っても過言ではないと思います。

そんなヒッチコックが、映画監督として不動の地位を築いた後に作ったのが「サイコ」です。

「サイコ」 は、ロバート・ブロックがエド・ゲインによる実際の犯罪をヒントに書いた小説を基に作られました。
この事件とは、母親オーガスタ・ゲインの信仰に由来すると思われる倒錯的な性教育を受けて育ったエド・ケインが引き起こした事件です。エドは、1940年に父親を、1944年に兄を、また1945年に母親を亡くしています。孤独となり、絶対的な影響力を持つ母親が死んでから、エドは次第にオカルトや解剖、屍体への性的執着、カニバリズム(人肉嗜好)を現していったのです。
1957年11月16日に近くに住む女性を殺害した容疑で逮捕され、その家宅捜索では全部で15人の女性の死体が見つかりました(どれも十分に解体されており、一部はベスト(チョッキ)や食器・家具に加工され、また一部は食用として保存されていた)。しかし、エドは裁判で死体は8人分で、すべて墓場から掘り起こしたものだと主張しました。
裁判は、慢性的な精神障害(性的サイコパス)として無罪になりましたが、エドは、ミネソタ州立精神病院に収監されました。その後は精神病院で過ごしました。

アルフレッド・ヒッチコック監督は、この奇妙な事件を取り上げ映画にしようと試みました。ヒッチコックが企画・製作を兼ね、資金はたった80万ドルでした。
何故ヒッチコックが、こんな映画を手がけるのか首をかしげる人もおおくいたようです。しかし、できあがった脚本は素晴らしいサスペンスになっていました。ジョセフ・ステファノによって書かれた脚本は非常にユーモラスなものになっていました。エド・ケイン事件をベースにしているものの、ほぼオリジナルのストーリーは傑出した出来で、スタジオは制作にGOサインを出します。

本映画の途中までは、ひとりの女性が会社の金を盗んで逃亡するという物語です。ところが、彼女は宿泊したモーテルで突然刺殺されてしまいます。モーテルの経営者はマザー・コンプレックスの強いものの、一見好青年です。彼が班員とは思えません。そして調査に訪れたアベックにも魔の手が迫ります。この一連の事件を追うのは、刺殺された女性の妹です。彼女は犯人を見つけることができるのか.....

この頃、ヒッチコックは、ハリウッドのメジャースタジオの手がける映画は余計な費用がかかりすぎると懸念していました。映画スタッフには、強いユニオンがあり、休息時間や労働時間に関する取り決めがあり、撮影は時間がかかるばかりで非効率的でした。ヒッチコックはテレビで「ヒッチコック劇場」を手がけていたので、「サイコ」では、テレビスタッフで簡単に撮影してしまおうと決めました。

映画はスピーディに撮影され、あっという間に完成してしまいました。しかし、ヒッチコックは手を抜いたわけではありませんでした。後世に語り継がれるシャワーシーンはあまりにも有名です。ソウル・バスによるオープニングやバーナード・ハーマンによる音楽も誰もが覚えている出来映えです。

映画は世界的に大ヒットします。そしてヒッチコックの名はさらに大きくなっていきました。ヒッチコックは、後年フランソワ・トリフォーに語っています。
「きみも、こういう映画を作るべきだ。世界中で大ヒットして何百万ドルという収益をあげる映画をね!シナリオよりもテクニックに喜びを見いだす映画作りの分野があることがわかるだろう。その種の映画で重要なのはカメラだ。映像だ。当然ながら批評家の評価は得られないだろう。しかし、映画というのはシェイクスピアの芝居のように、観客のために作られるべきなんだよ。」

ヒッチコックは、晩年までこの「観客を喜ばす」というテーマを貫き通しました。そして、「サイコ」はあらゆるサスペンス映画、ホラー映画のお手本となったのです。

同じエド・ケイン事件を元にして、もう1本傑作が誕生しています。「悪魔のいけにえ」(1974年)です。こちらはホラー映画で、ケイン事件をよりリアルに再現しています。 「サイコ」は、その後、パート4まで続編が作られました。これら続編は、「サイコ」と直接関係がありません。

「サイコ」のヒット以降、旅行者が、田舎で襲われ、そこから逃げ延びるというストーリーの亜流が数百本作られています。

<リメイク>
「サイコ」は1998年にリメイクされています。リメイク版の監督はガス・ヴァン・サント。撮影はクリストファー・ドイル。このリメイク版はヒッチコックによる白黒映画版『サイコ』と全く同じカット割りで作らました。もちろん俳優は前作と異なり、なによりこちらはカラー映画として制作されましが、題名のロゴも含めて、意図的に全く同じになるように制作されました。しかし完成版は駄作で、ゴールデンラズベリー賞の最低リメイク・最低監督・最低助演女優賞に選ばれる結果となりました。

この試みは映画史に残る実験でした。ヒッチコックと全く同じように作られたのにもかかわらず、ヒッチコック版は映画史に残る傑作で、ガス・ヴァン・サント版は、駄作なのです。違いは役者だけです。映画というのは、関わったスタッフの魂が込められています。全く同じに作ってもここまで差が出てしまうという結果に当時私は大変驚かされました。巨額を費やした壮大な実験は、今後行われることはないでしょう。

<サイコ関連の作品を購入>
サイコ スペシャル・エディション

サイコ (1960) ― コレクターズ・エディション

サイコ(1998)

サイコ2

サイコ3 / 怨霊の囁き

サイコ・コレクション 1~4

悪魔のいけにえ


nice!(7)  コメント(15)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

nice! 7

コメント 15

toshi-jp

こんばんは。私のblogへのご訪問とnice!ありがとうございました。
ヒッチコックの影響を受けたブライアン・デ・パルマの「殺しのドレス」は
「サイコ」を思い起こさせる映画でしたね。彼の最新作「ブラック・ダリア」、
評判はあまり良くないですが見ておきたいです。
by toshi-jp (2006-10-15 23:53) 

DSilberling

toshiさん、こんにちは。ブライアン・デ・パルマは、自身が認めるヒッチコキアンですね。彼の作品にはヒッチコックへのオマージュが埋め込まれています。
「ブラックダリア」もきっとヒッチコックぽいのでしょう。
ロバート・ゼメキスもヒッチコキアンです。
by DSilberling (2006-10-16 08:57) 

naonao

昔、昔にサイコ見てますが、あのおどろおどろしいシャワーシーンが今でも脳裏に焼きついてます。実際の犯罪が小説となり、それを題材にした映画だったとは!!今見てもまたぞくぞくしそうです。
by naonao (2006-10-16 10:39) 

ラブ

サイコ系のサスペンスって、突然襲って来たりするでしょ。
シャワーシーンみたいに…。
心臓止まりそうになるので、怖いですよね。ビクビクです。
「ブラック・ダリア」のCM見ているだけで、ビクついている
私は、映画館に行けそうもありません。
by ラブ (2006-10-16 11:20) 

DSilberling

naonaoさん、こんにちは。確かにシャワーシーンは怖いですが、これはヒッチコックの緻密な演出なんです。詳しくはトリフォーがヒッチコックにインタビューした「映画術」に詳しく書かれています。
by DSilberling (2006-10-16 14:28) 

DSilberling

ラブさん、こんにちは。
ヒッチコックの映画はホラーではないので、安心してご覧ください。
逆にアッと驚かせないのがヒッチコックの優秀なところです。
by DSilberling (2006-10-16 14:29) 

かおり

ヒッチコックといえば初めて観たのは「鳥」でしたが、観終わった後
当分の間、リアルの鳥が襲ってきそうな気がしていました(笑)
ヒッチコック自身についてはTVシリーズのせいか”出たがりのオジサン”
という印象も無くはないですね^^
でも、大好きです♪緻密に計算された心理的な恐怖・・・
こけおどしのホラーには興味が無いので全く観ませんけど。
最後の「リメイク」のお話、面白いですね!
by かおり (2006-10-16 16:08) 

サイコを最初見たとき、サスペンスの面白さが伝わり、その後サスペンス映画はよく見ました。そして、これが、きっかけでヒッチコック作品はよく見ました。
単純なストーリなのにヒッチコックが作ると、何かが違います。
サイコのリメイクなどは見ていません。やはり最初のサイコが傑作です。
by (2006-10-16 16:33) 

DSilberling

青い花さん、こんにちは。
ヒッチコックは、初めて自分の作品に出演したスタッフです。その後、沢山の人が映画出演をしたため、そういう印象になってしまうのでしょう。
リメイク版は見る価値があります。だって数十億をかけた実験を見ることができるのですから。
by DSilberling (2006-10-16 23:43) 

plot

サイコでは、テレビスタッフが起用されたんですね。アンソニー・パーキンスの演技も印象的でしたが何と言ってもカメラワークが新鮮でした。
ヒチコックの才能はずば抜けていますね。
by plot (2006-11-05 04:34) 

DSilberling

plotさん、こんにちは。
「サイコ」は、タイトルデザインと音楽も良いですよね。
by DSilberling (2006-11-06 08:25) 

TaekoLovesParis

Silberlingさん、遅いコメントですが。。
TVと映画の違いはカメラワークにあるかもしれませんね。ここを読んでいて
そう思いました。リメイク版はあまり話題にならなかったけど、王家衛監督
映画のカメラで評判になったクリストファー・ドイルだったんですか。長まわし
でじーっと心理描写をする、あたりうまそうですが、監督のさじ加減っていう
ところですか?
私はヒッチコックの「鳥」は鳥に襲われるシーンがこわかったけど、全体と
して、あまりよくわからず、「裏窓」はよくわかりました。
by TaekoLovesParis (2006-11-12 00:14) 

u_yasu

こんばんは、お邪魔します。
『サイコ』は、傑作ですよね。もう何度観たか分からないですし、何度観ても凄いなと思います。トリフォーがヒッチコックにインタビューした「映画術」も学生時代に購入し、その後、また『サイコ』を観ると、やっぱり凄い!・・・と。
また観たくなりました!
by u_yasu (2006-11-14 23:29) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。
映画とテレビは似ていてかなり違います。カメラワークもそのひとつですね。
by DSilberling (2006-11-15 10:17) 

DSilberling

u_yasuさん、こんにちは。
私は「映画術」読んでヒッチコック映画を見返すのは、習慣と化しています。
これで人生がリセットされるように心が洗われます。
by DSilberling (2006-11-15 10:19) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2

ユニバーサル・スタジオE.T. ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。