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ピクサー  3/3 [映画会社]

Pixar Animation Studios

ディズニーとピクサーは、劇場映画の制作について、劇場用アニメ5本という契約をしたといわれています。「ルクソーJr.」でCGアニメの未来を開いたピクサーにディズニーがアプローチしたのは、ある種当然だったのではないでしょうか。当時ディズニーは、伝統的なディズニーアニメがヒットせず苦しんでいました。そこで、ピクサーに目をつけたのです。

この2社が、うまく行かなくなったのは、「トイストーリー2」の製作中です。当初「トイストーリー2」は、ビデオ販売用に作られていました。しかし、映画のクオリティが良いので劇場用映画として、アップグレードされました。ピクサーは、この作品を、5本のうちの2本目という位置づけで考えていました。劇場で公開される映画5本という契約の1本としたのです。しかしディズニーは、この作品をカウントしなかったのです。結果として劇場公開されることになったおですが、元々は、ビデオ作品なので、契約の5本には含めないということです。さらに「トイストーリー2」は続編なので、そもそも「トイストーリー」に含まれるとしたのです。

2社は、2004年に契約を改定します。この頃は、既にピクサーはハリウッドでも優良な制作会社として高利益をあげていました。ディズニーはピクサーを手放したくありませんでした。新しい契約では、今後、ピクサー映画はディズニーを通して配給されることになりますが、クリエイティビティには口を出させないということになりました。要は「トイストーリー」より後に制作される作品は、全てピクサーが独自に企画し独自に制作することができるという画期的な契約です。さらに、制作費もピクサーが自分たちで拠出します。ディズニーは制作出資もできないのです。

これは、ピクサーにとって素晴らしい契約です。ハリウッドでは、メジャースタジオが映画に対し、出資を行い、勿論口も出します。このため、制作者は、自分の意図とはあわない編集や宣伝を強いられます。そして映画がヒットすると、利益は当然出資者に還元されてしまうのです。この呪縛から解き放たれたのは、かなりレアなケースです。このような有利な契約はハリウッドでは通常認められず、今でもクリエイティブフリーダムを勝ち取っているのは、ルーカスフィルムとピクサーの2社だけです。

「トイストーリー」より後の作品は、利益がでたら100%ピクサーに入ります。ディズニーは配給手数料の10〜15%を手にする事しかできないのです。それでもディズニーはピクサー作品が欲しかったのです。

一旦、拾集したかのようにみえたディズニーとピクサーの関係ですが、2004年後半には、不協和音が聞こえてきます。ディズニーのCEOだったマイケル・アイズナーとピクサーのオーナーであるスティーブ・ジョブスの不仲説です。アイズナーは、かなり横暴な経営者だったようで、自分の好き勝手にディズ二ーを変えてしまいました。それまでウォルト・ディズニーの末裔が守ってきた夢の国「ディズニー」は、アイズナーによってただの映画会社に成り下がってしまいました。アイズナーが好んだアメリカ以外が舞台のアニメは不評でした。映画がヒットしなくなると、「ピーターパン」などの名作の続編を作り始めます。これら続編はつまらなく退屈なものばかりでした。当然、ディズニーは会社経営がおかしくなってしまいました。一方、Appleに復帰し、iMACやiPODで大成功を収めたジョブスは、ピクサーをラセターにまかせ、彼は会社の経営のみに邁進していました。一時期は荒れていたピクサーは、すっかり健全経営をしていたのです。この2人、そりが合うはずがなく、ジョブスは、遂にピクサーはディズニー以外のパートナーを捜していると宣言してしまいました。

ディズニー社内では、大騒ぎとなり、役員たちが事態を収拾しようと試みましたが、アイズナーは、相変わらず身勝手な判断を断行し、親ピクサー派だった、ロイ・ディズニーは遂に辞表を提出してしまいます。これには、アイズナー以外の全社員、そしてディズニーファンから怒りの声が上がります。そして遂にアイズナーはディズニーのトップから引きずりおろされてしまうのでした。

2006年1月24日 ディズニーは、ピクサーを$7.4 billion という巨額で買収することを発表します。ピクサーはディズニーが100%所有する子会社になるということです。このニュースに世の中は驚きました。アイズナーなきディズニーは、ピクサーと関係を修復したがっていました。ロイは、勿論ディズニーに戻ってきました。ジョブスは、巨額な利益を手に入れピクサーを売り払ってしまったのか?今後のピクサーはどうなってしまうのか!

実は、この結末は実に用意周到に計画されたものだったのです。新生ディズニーのクリエイティブのトップに就任したのはジョン・ラセターです。今後は、彼はCG、セル問わずあらゆるディズニーアニメを統括します。これにより、ディズニーにいるアニメスタッフはピクサーと同様、素晴らしい仕事環境を手にする事ができました。分けわからないアニメ企画を手伝わされる事もなくなりました。ピクサーの50.1%の株式を所有していたジョブスは、株式交換によりディズニーの約7%の株を取得し、筆頭株主となり、ディズニーの役員に就任します。ロイ・ディズニーは、アイズナーのいたCEOのポジションにつきました。

ディズニーは、ピクサーという世界でトップクラスのクリエイティブ集団を傘下に今後、かつてウォルト・ディズニーが夢見ていた「ディズニー」を復興するでしょう。ラセターは、エンターテイメント部門のトップにも任命されたので、これから世界中のディズニーランドには彼が考えた新しいアトラクションが登場してくるはずです。

ディズニーは、アップルとくむ事により、iTUNESで作品を販売したりiPODやDVDと連携した宣伝や販売戦略を練ってくるはずです。アイズナー以外の全ての関係者とファンが全てHAPPYになるこの結末に私は感心させられました。
今後のディズニーがどう生まれ変わるのか、とても楽しみです。


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サダー

>クリエイティブフリーダム・・・・・ルーカスフィルムとピクサーの2社だけ
ええ!
そうなんですか!!
やはり莫大な投資が元になるビジネスなんですね。
コケたら痛いし。そうならざるを得ないんでしょうか。

ディズニーの今後も楽しみですね。
ニホンのアニメやコミックとピクサーのコラボレーションなんてあったらいいのに・・・です。    あ、ニホンの資本の方がケチかも。(T_T;
by サダー (2006-06-18 01:06) 

non_0101

こんばんは。第3弾のお話も面白かったです。
ディズニーアニメもピクサーアニメも、みんなが期待して新作を待ってます!
ぜひ、すばらしい作品を作っていって欲しいです!!!
ところで年末に公開予定の「ライアンをさがせ」はどうなのでしょう…
予告編では、なんだか良く分からなかったです。
by non_0101 (2006-06-18 01:08) 

DSilberling

ピクサーは、自社社内での完全オリジナルにこだわっています。よって、外部企画は難しいかもしれません。

原作者、出資者など外部の人が絡むと、宣伝や映画以外の展開に制限が出ます。そういう意味では、ルーカスとピクサーは、全てを自社でハンドリングできて理想的な環境ですね。

スピルバーグさえも自由がないとは、いかに映画産業がリスキーで巨大かがわかるお話です。

ちなみに日本では、ジブリとフジテレビがクリエイティブ・フリーダムを握っています。
by DSilberling (2006-06-18 01:10) 

堀越ヨッシー

今回のシリーズはなかなか読み応えがあり、楽しませて頂きました。知らないこともたくさんあって勉強になりました。ピクサー作品はどれも好きですが、唯一個人的にダメだったのは「モンスターズ・インク」です。キャラは魅力的なのに、どうしてエンディングがあのスタイルになったのか..?一説には9・11も微妙に関係しているのではと聞いたことがありますが。成長する=別れを経験する..ってことだと思うんですけどネ..。
今回の「カーズ」は久々にラセター自身の監督作品なので、個人的にはすごく期待している作品です。早く見たいですね!。
by 堀越ヨッシー (2006-06-18 07:57) 

DSilberling

ヨッシーさん、こんにちは。「モンスターズ・インク」は、もともとあのストーリーでした。子供向けにするためにベタなストーリーにすることなく、大人も感動できるストーリー展開は素晴らしいですね。某国のアニメのようにキャラクターグッズを売るためにスポンサーにこびる制作体制とは180度姿勢が異なります。
「カ−ズ」は、男性には好評です。女性は賛否両論のようです。楽しみですね。
by DSilberling (2006-06-18 08:58) 

maron02

nice!ありがとうございました^^
えー驚きです!複雑な事情があったのですね!
ディズニーがどう変わっていくのか楽しみです!
by maron02 (2006-06-18 10:07) 

クロロ

「2強・他弱」…出る杭は打たれるが、出すぎた杭は打てないとか
そこまでになるのが、とても大変なのでしょうね…莫大なお金が動く世界なので、ゆとりを得ながらも油断はできないと思いますが、いい作品を作り続けていただきたいです
>スピルバーグでさえ自由が無い
昔プレスリーは保険会社から「車を運転してはいけない」と言われ、庭で乗っていたそうですが…あまり関係無いですね(笑;)
by クロロ (2006-06-18 10:49) 

莫大な投資。
これからどうなっていくのか楽しみです。
どんな作品が出てくるんだろう。
by (2006-06-18 10:56) 

TaekoLovesParis

どうなていくのか、ちょっとハラハラしながら読みましたが、最高の結末で
よかったです。ロイ・ディズニーもCEOで大政奉還のような(笑)
クリエイティブフリーダム、、こういう言葉があるんですね。
「カーズ」最近、広告を見かけるようになりました。公開が楽しみです。
by TaekoLovesParis (2006-06-18 11:45) 

DSilberling

まろんさん、こんにちは。ディズニーが、私たちの思う夢を提供する会社になってほしいですね。
これからも宜しくお願いします。
by DSilberling (2006-06-18 12:14) 

DSilberling

クロロさん、こんにちは。

アップルもピクサーも、ジョブスが関わるところは波乱が起こります。この事件は後で伝説になっていくのでしょね。
by DSilberling (2006-06-18 12:15) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。ピクサーは、既に数本制作に入っているので、今までより作品数が増えるのではないでしょうか。ちなみに、私がピクサーに行ったとき、あるスタッフが、そろそろセルアニメを作ろうかと思っていると話していました。本当か冗談かわかりませんが、今、世界中で製作中のCGアニメは100本を超えています。ディズニーと合併したので、次はどんな手を打つのか楽しみですね。
by DSilberling (2006-06-18 12:18) 

DSilberling

Teekoさん、いつもありがとうございます。

「カーズ」楽しみですね。
by DSilberling (2006-06-18 12:19) 

coco030705

こんばんは。
「事実は小説よりもおもしろい!」ですね。
こんな逆転劇があったなんて、裏話としては最高ですね。
今後、「ウォルト・ディズニーが夢見ていた『ディズニー』」が復興されるのを
楽しみに待っています。
by coco030705 (2006-06-18 22:08) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。私もウォルトのファンとして、ラセターに新しい夢を見せてもらいたいです。
by DSilberling (2006-06-18 23:56) 

ゆきぶ

ディズニー復興の「希望」を、リアルに感じました。
また、ジョブス氏のコンピュータから離れた一面をはじめてしって、
「人に歴史あり」ということも痛感しました。。
「カーズ」は非常に楽しみにしてます。
大人も「夢」を恥かしげなく語れる「ディズニーワールド」。
期待してます。
by ゆきぶ (2006-06-21 22:13) 

DSilberling

ゆきぶさん、こんにちは。
そうですね。私は、会社経営も人の心だと思います。数字で経営していては「夢」を産業にしているディズニーは経営できません。社員だけでなくお客さんも着いてこないでしょう。
そいういった意味では、自分が夢を描く力を持っているラセターと、人に夢を与える力を持つジョブスがデョズニーをどう立て直すのか、注目しています。
by DSilberling (2006-06-21 22:31) 

苺

先日はniceありがとうございました☆
こーゆー世界はあまり、詳しくないのでちょっと難しかったおバカな苺ですが、これからディズニーがどうなっていくのか、楽しみにしてみようとおもいます!
by (2006-06-25 12:34) 

DSilberling

苺 さん、こんにちは。これからも宜しくお願いします。
by DSilberling (2006-06-25 15:18) 

KANAchanMaMa

とても読み応えがあり、勉強に なりました!今頃 何ですが。。。^^;
「カーズ」の当方記事、TBさせて下さいマセ!m(__)m
「楽天ブログ」で更新している記事ですが…。
また、お邪魔させて下さいマセ!(^_^)/ こういった話題、大好きなもので…。
by KANAchanMaMa (2006-08-12 13:02) 

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