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セブン [アメリカ映画(90s)]


Se7en (1995)

デヴッド・フィンチャーは、1962年にコロラドで生まれ、サンフランシスコ郊外のマリン郡で育ちました。このマリン郡は、アメリカでも屈指の高所所得者層が住む町として有名ですが、もうひとつ有名なことがあります。それは「スターウォーズ」を作ったジョージ・ルーカスが会社を構えているということです。

フィンチャーは、子供の頃から映像制作に興味を示し、家の近くにあるILMに就職します。ILMとは、ルーカスフィルムの1部署で、「スターウォーズ」などのVFXを担当している会社です。フィンチャーは1981年から3年までここで働き、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」のマット画を作ったり、「スターウォーズ ジェダイの復讐」ではミニチュア撮影や光学合成を担当しました。

彼は、撮影を通し映像にこだわりを持つようになります。そしてILMを辞め、ロサンゼルスに移りCMを作る仕事を始めます。彼のセンスはすぐにCM業界で注目され、ナイキ、コカコーラ、リーバイス、シャネルなど大手クライアントのCMを次々に監督し評価されました。

このCM監督としての評価はすぐに世界中の映像関係者に広がり、彼はCMとともに音楽業界でも成功していきます。当時、MTVが成長期にあり、大手アーティストは自分の楽曲に会う美しい映像を要望していました。シャネルのCMに魅了されたアーティストは、早速フィンチャーにアプローチしたのです。そして、彼は、マドンナ、スティング、ローリング・ストーンズ、マイケル・ジャクソン、エアロスミス、ジョージ・マイケルなどのプロモーションビデオを制作します。これらは全て大ヒットし、フィンチャーの地位は完全に確立したのです。
当時、私のいた映画学校では、皆が撮影時にレンズにストッキングをかぶせていました。誰もがフィンチャーのような映像を作りたかったのです。

そして、遂に、映画界からアプローチがあります。それは「エイリアン」シリーズの新作を監督しないか、というオファーでした。彼は、すぐに制作に入ります。しかし、CMやプロモーションビデオとは違い、映画は映像の上映時間が長く、いくら美しい映像をつないでも映画が面白くならないことがわかってきます。フィンチャーは、ここで苦しみます。彼は必死で「エイリアン3」を完成させますが、お客さんからの評価は芳しくありませんでした。確かに映像は美しいのですが、ストーリーが単調で、リドリー・スコットが描いた「静」の恐怖を描いた美しい第1作、ジェームス・キャメロンが描いた畳み掛けるアクションとダイナミックなストーリーが印象的だった第2作と比べると、なんとも中途半端な作品になっていたのです。

フィンチャーは、この失敗でいくつかのことを得ました。まず、映画は美しい映像だけでは成功しないことを痛感しました。撮影前にしっかりと「面白い」ストーリーを作らなければならないことを学んだのです。そして、スタジオから持ち込まれた企画ではなく、自分自身が面白いと思う企画を監督すべきだということも学びました。

丁度その頃、フィンチャーは、ニューヨークのタワーレコード店員が書いたある企画に注目します。これこそが自分の見たい映画だ。これを映画化しよう。そう決意したフィンチャーは、この企画を脚本にします。そして、小さな映画会社に企画を持ち込み、低予算で制作を開始します。これが「セブン」です。

CMとプロモーションビデオで仕事をしていたので、ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンという豪華キャストが参加します。そして、音楽はデビッド・ボウイです。そして、丁寧に作られた絵コンテに従い、フィンチャーらしい美しい映像に、恐ろしいストーリーが展開するこの映画は、完成後、話題を呼びました。

制作したスタジオ、ニューライン・シネマは、それまで「エルム街の悪夢」など低予算ホラーを制作していましたが、そのつもりだった「セブン」は、A級映画として仕上がり、世界中で公開が決まりビジネス的に成功します。

衝撃的なラストシーンと共に話題となったのは、オープニングとエンディングクレジットのかっこいい映像です。実はこの部分はフィンチャーが作った訳ではありません。クレジットは、カイル・クーパーという若者が作ったのです。クーパーは映画のクレジット専門のクリエイターで、セブンのためにいくつかのクレジットデザインをフィンチャーに提示しました。フィンチャーの世界感に沿った、素晴らしい映像を見事に作り、さらに、犯人ジョン・ドーの性癖を見事に表現したクレジットは、今でも高い評価を受けています。

「セブン」は、世界中で大ヒットします。そして、フィンチャーは映画監督としても評価されました。彼は、このあと、「ゲーム」「ファイトクラブ」「パニックルーム」と、独自の美しい映像と、ちょっと怖いストーリーテリングで人気を維持しています。ニューラインは、小さなスタジオではなく、ミニ・メジャーと呼ばれる大手映画会社に成長しました。そしてピットの人気はうなぎのぼり。クーパーは、現代のソウル・バスと呼ばれ、幅広い分野でデザイナーとして活躍しています。

「セブン」に参加したこの若いスタッフ&キャストは、今では、皆、映画界の中心でがんばっています。

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コメント 12

eiga-robo

「セブン」の結末は途中から薄々分かってしまうのだけれど、そこからラストまで、これほど自分の予想が外れることを祈り、エンディングの到来を心の中で拒否し続けた映画は初めてでした。結末を思い出すと今でもドキドキしますw。なので、私の中では「大好きだけど二度と見たくない映画」ナンバー1で、もう見ることはないかもしれません(他にはジュリー・テイモア監督の「タイタス」など)。
こういった作品は天才にしか作ることはできない上に、理解され難くもあります。そういった意味で「セブン」は成功した希な存在ですが、「エイリアン3」の失敗の上に「セブン」の成功があるのかと思うと、「失敗だが必要だった」的な作品は世の中にたくさんあるのでしょうね。
by eiga-robo (2006-06-03 16:05) 

失敗作があるから成功する。そのような作品はいくつもあるんでしょうね。
映画ビジネスの難しさ・・・
by (2006-06-03 16:43) 

coco030705

「セブン」は残念ながらまだ見てませんでした。なんか怖そうな感じがしたからです。でも、DSilberling さんの記事を読むとおもしろそうですね。ブラッド・ピットがグウィネス・パルトローと出逢った映画でもありますよね。機会があったら見てみます。「パニック・ルーム」も見たいです。ジョディー・フォスターのファンなので・・・。
by coco030705 (2006-06-03 18:07) 

DSilberling

ノポリスさん、こんにちは。実は「セブン」には別エンディングがあるんです。これは、LDのコレクターズ版に絵コンテが収録されていて、7人目は、モーガン・フリーマンが犯人となります。
このエンディングも良いのですが、はやり映画版のほうが衝撃的です。
by DSilberling (2006-06-03 18:42) 

DSilberling

nekoさん、こんにちは。そうですね。下積みなしに立派な人はあまりいないように思います。ルーカスもスイルバーグも辛い思いの反動で名作を作り出しているんですね。だから、つまらない映画も線で見ると意味があるんですね。
by DSilberling (2006-06-03 18:43) 

DSilberling

cocoさん、こんにちは。フィンチャーの映画はストーリーだけでなく、映像が凝っていて感心させられます。このショットはどうやって撮影したのか?と不思議な映像が次々と登場します。パニックルームは、一番驚き映像がおおいですよ。
by DSilberling (2006-06-03 18:45) 

堀越ヨッシー

はじめまして、堀越ヨッシーと申します。大好きな映画「セブン」の記事だったので思わず足が止まりました。D・フィンチャーがILMで働いていたなんて知りませんでした。初監督作品「エイリアン3」ももっと彼に決定権があれば面白くなったのにと残念です(あれは主演でプロヂュースもやってたシガニー・ウィーバーが製作になんやかんやと口を出したもんだから変になっちゃいましたよね。それでも彼らしい映像が随所に垣間見えてオイラは結構好きな映画です)。
by 堀越ヨッシー (2006-06-03 19:35) 

DSilberling

ヨッシーさん、こんにちは。「エイリアン3」は、確かにシガニー・ウィーバーの意向が強く働いています。フィンチャーは、それなりにがんばったのですが、やはり大変だったようです。最近発売された監督版のDVDを見ると、結構面白いですよ。
by DSilberling (2006-06-04 00:12) 

ryuta

タイトルバックの衝撃は忘れられないですね。
あの頃僕は映像の仕事をしていませんでしたが、映画館で衝撃を受けた事をはっきりと覚えています。
雨の続くイライラさせる演出や人間の深層心理を突くストーリーに引き込まれます。ILMでの経験が後に役にたつあたりやはり映像は美術ですね。
by ryuta (2006-06-04 07:10) 

DSilberling

あの、上から下がるエンドクレジットは、驚きでした。
映画美術ですが、実は全部映画オリジナルのものなんですよ。アメリカのどこかの町という設定なので、パトカーのデザインは、NYやLAなどのパトカーのものではありません。
あの、どこにでもある町という設定が一層怖さを引き出していますね。
by DSilberling (2006-06-04 09:29) 

TaekoLovesParis

セブンが心に残る映画だっただけに、これを読みながら、「そうだったのね~」
と感心。ストーリーはタワレコの店員さんからだったんですか。それに、セブンはブラピならでの良さが、あいまいさ、怖さを盛り上げていたけれど、配役の抜擢も知りあいだったからこそ、なんですね。
パニックルームは、スクリーンが動くのでは、、、、と思えるほどの迫力で、追い詰められた恐さだったけど、これもフィンチャー監督だったんですね。
独特の才能を持った監督ですね。
おもしろく読みました。
by TaekoLovesParis (2006-06-04 14:49) 

DSilberling

Taekoさん、こんにちは。パニックルームは、オープニングクレジットがヒッチコック映画の様でいて、CGIでした。コーヒーカップの取っ手を中をカメラが通り抜けたり、結構驚く撮影方法のオンパレードでしたね。
by DSilberling (2006-06-04 20:54) 

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