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グレムリン [アメリカ映画(80s)]


Gremlins (1984)

ジョー・ダンテが描く、かわいくてちょっと怖いクリスマス・ファンタジーの秀作。

ジョー・ダンテは、子供の頃から映画ファンで、映画に関し相当な雑学を持っていました。特にホラー、SF、ファンタジー映画には詳しくマイナーな作品まで膨大な知識を貯えていました。当然この映画好きの熱意は仕事にも活かしたくなり、彼は学生を終えるとNew World Picturesという小さな映画スタジオに雇われます。New World Picturesは、ロジャー・コーマンが運営する映画会社で、低予算映画を沢山製作していました。ここで彼が行った仕事は映画予告編の編集マンでした。彼は映画の知識を活かし、どんな映画も面白く見えるよう予告編を工夫します。そんな彼の仕事ぶりをみたスタッフは、ダンテを予告編の編集だけでなく映画本編の編集もしてみないかと新しい仕事を持ちかけます。そして後に「アメリカングラフィティ」で主演を演じ、映画監督になるロン・ハワードのデビュー作「Grand Theft Auto」の編集を手がけました。

ロジャー・コーマンは50000ドルで映画を撮るようダンテに指示し、遂に映画監督としての仕事を行います。この 「Hollywood Boulevard」(1976)は、ヒットはしませんでしたが、ダンテを監督の道に進める道標となりました。

そして、運命のときがやってきます。ロジャー・コーマンがさらに新しい企画を監督するよう指示してきたのです。これが「ピラニア」(1976)です。ロジャーは、とにかく低予算で確実に儲かるエンターテイメント映画を粗製濫造するプロデューサーです。でも絶対に損はしません。そんなロジャーが目を付けたのは当時大ヒットした「ジョーズ」です。この映画の亜流を作ればきっと客は劇場に来るはずです。そこで、早急に「ピラニア」を作らせたのです。

ロジャーは、「ピラニア」というタイトル、動物パニック映画であることさえ守ってくれれば、どんな駄作でもビジネス的には勝算があると思っていました。しかしダンテはロジャーの要求を遥かに上回る名作を世に送り出したのでした。
「ピラニア」は当時、大量に作られた「ジョーズ」の亜流の中ではずば抜けて面白く良く出来ていました。
「ジョーズ」の監督をしたスティーブン・スピルバーグは、亜流のおおさに呆れながら、「ピラニア」には監督の才能を感じ、映画を見た後絶賛したと言われています。

「ピラニア」のヒットのおかげで、New World以外から仕事の依頼がくるようになったダンテは「ハウリング」(1981)で狼男を題材に映画を作り、続いて「トワイライト・ゾーン」(1983)で映画監督として認められるようになりました。

そして、意外な人から映画監督のアプローチがやってきます。「ジョーズ」の監督スティーブン・スピルバーグです。
ジョー・ダンテは企画をパクった相手から演出力を認められビッグ・バジェット映画を監督することになったのです。

スピルバーグが依頼した企画「グレムリン」は、「トワイライト・ゾーン」にあるひとつのエピソードが元になっています。ある男が飛行機に乗ると窓から邪悪なクリーチャーが飛行機の羽を壊している姿を見るという怖いエピソードです。このクリーチャーをグレムリンと呼んでいました。映画では、怖さを出さずに、まずはグレムリンのかわいさとクリスマスのムードを前面に出し、その幸せなイメージの裏に怖さを隠しました。このレイヤー構造はなかなか見事で、一見暖かく見える人々の心の裏側を見事に表現しています。この映画の演出を行えるのはジョー・ダンテの他にいなかったでしょう。プロデューサーであるスピルバーグは、「ピラニア」で彼の才能を見抜いていたのです。

「グレムリン」には、ダンテらしい過去の映画へのオマージュが沢山散りばめられています。これは是非皆さん自身が探してほしいのですが、1つだけお話すると、ギズモがテレビで見ている映画は「素晴らしき哉、人生」です。アメリカでは今でもクリスマスイブには必ずテレビでOAされる名作です。他にもニヤリとさせられるダンテらしいギミックが満載です。

脚本は、まだ学生だったクリス・コロンバスです。まだ経験のなかった彼の脚本は、あまりに良く出来ていたので、実はクリス・コロンバスという人はいなくて、スピルバーグの偽名ではないかという憶測もながれましたが、実在の人物で、その後監督業に進出します。

出演は、当時人気絶頂だったフィービー・ケイツと当時つきあっていたザック・ギャリガンという青年です。

この映画は宣伝も大規模でヒットに結びつけています。グレムリンの姿を見せずに映画に出てくる決まり事を宣伝しました。1、光に当てては行けない。2、水を与えてはいけない。3、夜中の12時以降は絶対に食事を与えてはいけない。この宣伝にあおられ、観客は映画館に足を運びました。

映画は大ヒットし、後に続編が作られましたが、出来は今ひとつでした。

ジョー・ダンテはその後、「トワイライト・ゾーン」のTVシリーズや「アメージング・ストーリー」などオムニバス映画の1編を監督し、彼の得意なホラーとコメディが混じっていて映画に対する愛が一杯詰まった作品を作りました。「マチネー」(1993)は、彼の映画人生の集大成的な作品です。しかしそれ以降、ヒット作がでずにハリウッド・ジェイルに入ってしまいました。

クリス・コロンバスは、「ハリー・ポッター」シリーズを監督してトップ監督の仲間入りをしてしまいました。
主演の二人はこの後、ほとんど仕事がなくなっていきました。

通常、映画のセットは撮影が終わると壊されるのですが、「グレムリン」のセットは使い回されています。ちょうど同じタイミングで撮影されていたスピルバーグ監督作「インディー・ジョーンズ魔宮の伝説」のオープニングの中国のシーンは、「グレムリン」のチャイナタウンのセットでした。

このように1つの映画が様々な映画と繋がっているのです。

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コメント 7

TaekoLovesParis

ギズモのグレムリンですね!
ずいぶん昔に見たけれど、ちゃあんと覚えています。
凶暴になるとき眼がすごかった。
あの頃、フィービーケーツは東洋的な顔立ちで人気だったけど、ほんと、今は名前きかなくなってしまいましたね。
こういう制作裏話を読むと、また見たくなります。
by TaekoLovesParis (2006-01-05 16:57) 

DSilberling

Taekoさん、niceありがとうございます。懐かしい映画ですが、今でも楽しいですよね。この映画の音楽はジェリー・ゴールドスミス。彼が亡くなる前年に初来日した時、コンサート&パーティに参加しました。「グレムリン」のあの音楽を彼の指揮で聞けたのは今となっては貴重な体験でした。
by DSilberling (2006-01-05 18:12) 

blanc27

はじめまして、blanc27と申します。
グレムリンは小学生のころに見ました。ストーリーはほとんど忘れてしまったのですが、「グレムリン、かわいい、かわいい♪」と喜んでたら、すごい豹変ぶりで、子供心にショックだったのを思い出しました。
その年の夏休みの自由研究に、兄と紙粘土でギズモを作って(笑)なつかしいです。
子供のころには分からなかったこの映画のアイロニーを、もう一度さぐってみたくなりました。
by blanc27 (2006-01-06 11:28) 

coco030705

あけましておめでとうございます。
グレムリンはあの変身ぶりがおもしろかったですね。
「トワイライトゾーン」のあの不思議なクリーチャーが、グレムリンの原型とは。
面白いお話ですね。
「ピラニア」も見たくなりました。
今年も楽しい記事を期待しています。
by coco030705 (2006-01-06 12:46) 

クロロ

まさか「グレムリン」と「魔宮の伝説」が“スピルバーグ”だけでなく“セット”
でもつながっていたとは! 今度はそういう目で見てみます(笑)
そういえばフィービー・ケイツ…”Bright Lights, Big City”の彼女が、
一番印象的です→マイケル・J・フォックス→“Back to the Future”
あらら、やっぱりスピルバーグつながりだ!(笑)
by クロロ (2006-01-06 17:32) 

DSilberling

blanc27さん、こんにちは。この映画は今見てもギズモのかわいらしさが十分感じられますよ。CGじゃないのが良いのかもしれません。

cocoさん、「ピラニア」見てください。結構面白いです。

クロロさん、スピルバーグは観客の気持ちを捉えるキャスティングうまいですよね。フィービー・ケイツは私がとても好きな女優さんでした。懐かしいです。

ジョー・ダンテは年末にオムニバスの1編を撮影しました。やはり才能のある監督は仕事も素晴らしいそうで、とてもスムースに仕事をこなしたようです。公開が楽しみですね。
by DSilberling (2006-01-07 10:33) 

안전놀이터

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by 안전놀이터 (2023-07-22 14:46) 

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