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スパイダーマン [アメリカ映画(00s)]


Spider-Man (2002)

日本でも大ヒットしたアメコミ・ヒーローの実写映画。

1981年に、低予算で監督した「死霊のはらわた」が、世界的に話題になり、映画界で一目置かれる存在にまでなったサム・ライミ。彼は、それ以降いくつかのホラー映画を監督しました。1作ずつスケールアップしていく監督スタイルは堅実な彼の性格を表しています。「死霊のはらわた」の後は、続編の「死霊のはらわた2」、そしてパート3の「キャプテン・スーパーマーケット」と力を付けて行きました。(これら邦題はとても酷いです。邦題を一度つけると、それがその後長く使用されるので、ちゃんと付けてほしいものです。それぞれ名作にも関わらず、このタイトルのため日本では誰も見ようとしません)

1990年には、遂にユニバーサルスタジオから声がかかりメジャーデビューを果たします。これが「ダークマン」です。主人公(リーアム・ニーソン)が開発した薬で、自らの顔の組織を破壊してしまいます。この悲劇の主人公が、悪を退治するヒーロー映画です。

ライミは、「ダークマン」以降、「ホラー映画監督」というイメージは薄らぎ、いくつかの大作の監督を引き受けるようになります。「クイック&デッド」(1995)では、西部劇、「シンプルプラン」(1998)ではサスペンス、「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」(1999)では人間ドラマを丁寧に演出しています。これらのメジャー映画は、残念ながら大ヒットしたわけではありませんが、それぞれかなり綿密に脚本が作られ、手を抜くことなくしっかりと映画として成立していることがわかります。

ライミは、映画を監督しながらメジャー監督として必要なハリウッドシステムを勉強していきました。それは、かつて自分で好きなように撮っていた映画とは違い、大金が動き、有名俳優が勝手にアタッチされ、自分の意見は曲げられてしまうといったことでした。マイナーからメジャーに引っ張り上げられた監督のおおくは、この時点で牙を抜かれ、ハリウッドのエクゼクティブの言いなりになるか、野に下るのです。しかし、ライミは、独自の方法でこの壁を乗り越えます。ホラー映画を監督していたとは思えない温厚な性格と協調性を全面に醸し出し、自分のクリエイティビティを出さなかったのです。でも実はスタッフを納得させ自分の意見をさりげなく通すという技を身につけたのです。

そんなライミに、SONYは、大きなプロジェクトを依頼してきました。それが「スパイダーマン」です。ライミは、そもそも「スパイダーマン」のファンでした。よって、映像化するには明確なビジョンがあったのです。彼は、脚本を作りながら自分の作りたい映画をいかに実現化するか考えました。そこでまだ無名だったトビー・マクガイアをスパイダーマン役に起用しました。これは主人公をスーパーヒーローとして描くのではなく、どこにでもいる普通の青年に設定することで観客の共感を得るという作戦です。ライミ自身も子供の頃、ピーター・パーカーに感情移入した漫画おたくでした。ストーリーは、なぜピーターがスパイダーマンになるかを描かなくてはいけませんので、スパイダーマンになった以降のストーリーはわかりやすくないと2時間の映画として収まらないためグリーン・ゴブリンの話を織り込みました。

「スパイダーマン」の全体のコンセプト、ストーリー、キャラ設定、構造は、実は「ダークマン」と同じです。ライミは、スパイダーマンという絶対ヒットさせなければならない大バジェット作品を作るにあたり、一度検証している作品を再構築したにすぎません。そして、「ダークマン」のアップグレード版として「スパイダーマン」を成功に導こうとしたのです。

ハリウッドで、自分のやりたいことをやり抜く処世術、そしてヒットさせるために新しい演出を行わないという安全策を取り作られた「スパーダーマン」は、とても面白い映画となり、ラッシュの段階から話題になりました。当然 SONY PICTURESの宣伝チームも宣伝費を大量につぎ込む方針を決定しました。劇場では、強盗をしてヘリで逃げる犯人がニューヨークのワールド・トレード・センターのビルの間を通り抜けようとすると、ビルとビルの間に張られた蜘蛛の巣に捉えられるという予告編が流れました。観客は映画を楽しみにしていました。

しかし世の中何が起こるかわかりません。ここまで、ヒットさせるために努力していても、うまくいかないことがあるのです。公開直前の秋にあの「9.11」が起こってしまったのです。映画のクライマックスに登場するワールド・トレード・センターは、跡形もなく崩落してしまいました。当然映画の公開も無期延期になってしまいます。

ライミ以下、「スパイダーマン」スタッフはすぐに集まり、脚本の手直しに入ります。そして、舞台をクイーンズボロ・ブリッジに変更して再撮影を敢行。すぐに公開となりました。

落ち込んでいたアメリカ国民、特に子供達にとって「スパイダーマン」は、とても身近に感じられるヒーローでした。そして、かつて子供の頃漫画を読みふけっていた大人達も映画館に足を運びました。映画は大ヒットします。そして、アメコミをベースにした映画は当たらないといわれていた日本でも大ヒットしました。

「スパイダーマン」が公開された直後、すぐに続編の制作が決定します。主役はトビー・マクガイア。漫画版は、映画と同じストーリーのバージョンや9.11直後にテロにあった人々を救出するスパイダーマンなどが作られベストセラーとなりました。

サム・ライミは、自らで克服できる問題だけでなく、予想外の問題にも冷静に対応し、映画を正しい方向に導きました。監督を英語ではDirectorといいます。The Man who direct something。そうある方向にものを導く人という意味です。ライミこそ、真の監督なのです。

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coco030705

こんばんは。
なるほど、ハリウッドシステムをdirectできるものだけが、ほんとうに
成功するのですね。
「スパイダーマン」は、ⅠもⅡも、とってもおもしろかったです。
悪役に一流のバイプレイヤーをもってきているところが、成功の一因ですよね。
 
今年は色々楽しい記事をありがとうございました。来年も期待しています。
良いお年を☆
by coco030705 (2005-12-28 20:36) 

DSilberling

cocoさん、いつもコメント&niceありがとうございます。スパイダーマンは確かに面白かったですね。文化・宗教を問わず誰もがパーカーに感情移入できたのが成功の要因ですね。
良いお年を!
by DSilberling (2005-12-28 22:44) 

Naka

メジャーになっても、ライミ監督の映画作りへの姿勢は、
「死霊のはらわた」から根本的に変わっていない気がしますね。
監督の映画への情熱が現れたエピソード、嬉しく拝読しました。
私からも、良いお年を!
by Naka (2005-12-29 00:50) 

RYUTA

監督として何が必要なのかを考える。当然演出。
でもその他の事がその監督の本当の技量、器、にかかってゆくようなきがしますね。
一人では出来ない事を力を合わせてやる事の意味。完成して公開した後やって良かったと思えるスタッフがいてまたその監督のもとに集まる。そこには監督の人柄や先を読む力そして信頼が必要ですね。
by RYUTA (2005-12-29 02:21) 

DSilberling

Nakaさん、RYUTAさん、さすが演出がわかっていますね。映画は、脚本と演出が一番重要ですが、ハリウッド大作のようにハイバジェットになると、人間性や様々なノウハウも必要になるんですね。
よいお年を。
by DSilberling (2005-12-29 10:16) 

クロロ

「ダークマン」は期待せずになんとなく見始めて、すぐにグイグイ引きこまれた記憶があります
ワールド・トレード・センターの事件さえなければ、どういう映像が見られたのかなぁ…という気持もありますが、まだまだ現実としてはそういう空気にはならないのでしょうね
映画について語ることができる幸せをふと感謝した次第です
また来年もいろいろと教えてください
よいお年を
by クロロ (2005-12-29 18:18) 

TaekoLovesParis

Waiting for the airplane I read this at the airport in Paris.
I enjoyed it very much!
by TaekoLovesParis (2005-12-30 04:43) 

DSilberling

クロロさん、こんにちは。いつもniceありがとうございます。「スパイダーマン」は現在パート3のプロダクションに入っていますね。新作が楽しみです。
良いお年を!
by DSilberling (2005-12-30 21:14) 

DSilberling

Tekoさん、海外からアクセスありがとうございます。来年もよろしくお願いします。
by DSilberling (2005-12-30 21:15) 

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